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第八章 旅立ちの時
3.勇者と魔王
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俺は双子とライト、ソフィネを連れてダルネス達の元へと戻った。
そして、語る。
これまで黙っていたことを。
俺の話を聞き終えた後、アレルとフロル、それにライトは押し黙ってしまった。
俺が異世界から来た人間で、アレルとフロルは未来の勇者。
そのことを知った彼らが何を考えているのか、俺にはなんともいえない。
押し黙った3人に変わって、開き直ったように話し出したのはソフィネだった。
「なるほどねぇ。そりゃあね、私もちょ~っとおかしいかなぁって思ってはいたのよね。
アレルもフロルもいろんな意味で6歳児だとは思えないしさぁ。ショートもなんか浮いているっていうか、妙なところで世間知らずだったりするしね」
ソフィネはいつも通りのかんじで……あるいは、意識的にいつも通りの口調で……そう言った。
それで、少しだけ、場の緊張した空気が緩んだ。
彼女は空気が読めないようでいて、緊迫した空気を和ませる力を持っている。
ソフィネに続いて、ライトが苦笑する。
「まあ、俺もある意味納得ではあるわな。そりゃあ、アレルに勝てないわけだ」
ライトは何かを納得したように、ウンウン頷いている。
「ごめんな、皆を欺したような形になっちゃって」
俺がそう言うと、ライトとソフィネが言い合う。
「まったくだ。ずっと一緒に冒険してきたのに黙っているなんてひでーよ」
「でも、黙っていた気持ちも分からないわけじゃないわ。あなたもそうでしょう? ライト」
「まーな。確かにおいそれと言えることじゃねーな」
その間も、アレルとフロルはジッと何かを考えている。
やがて、フロルが口を開いた。
「私たちが勇者……正直、実感がわきません。いえ、アレルはわかるんです。でも私は正直そこまで自分が凄いなんて思えません」
まあそうかもしれない。
彼女が使える魔法は、今のところ中級まで。
MPの総量はすでにブライアンよりも多いようだが、それだけだ。
そんなフロルに、ダルネスが言う。
「さてな。フロル、君がまだ強い魔法を覚えられていないのは、環境が整っていなかっただけではないのかな?」
「そうかもしれません。でも、それでも……私は自分が特別な人間だなんて思えないんです」
「そうじゃろうな。そして、そうであってほしいと思っていたから、今までショートくんは黙っていたのじゃよ」
フロルはハッとなって俺を見る。
そして、アレルが口を開く。
「ねぇねぇ、アレルとフロルが勇者様なの?」
俺は頷く。
「そういうことだよ。今まで黙っていたけど」
「でも、アレルはアレルだし、フロルはフロルだよ? それなのに、勇者様なの?」
いや、そりゃあそうなんだけど。
うーん、なんと説明したらいいんだろう。
ダルネスがあらためて、アレルに言う。
「勇者とは生まれながらに天才的な能力を持つ、300年に一度生まれる戦士であり、魔法使いでもある者のことじゃ。今回は双子に能力が分かれたようじゃがな」
アレルは『うーん』と悩んで。
それから。
「そっかぁ……じゃあ、アレルはやっぱりアレルで、フロルはやっぱりフロルなんだね。勇者様っているのは能力のことで、人のことじゃないんだ」
いや、その理解はどうだろうと思うんだが。
でも正しいのかな。『戦士』とか『魔法使い』と同じく、『勇者』もこの世界でいうところの職業の1つと考えれば。
いずれにせよ。
双子はそれぞれの言葉で、自分は自分だと言ってくれたのだと思う。
それは、俺にとってすごくホッとすることだった。
ところで、アレルの言葉遣い、舌っ足らずじゃなくなったなぁ。やっぱりレルスに総評で言われたことが気になっているのだろうか。自分なりに頑張って治そうとしているようだ。
フロルは俺やダルネスを見て尋ねる。
「それで、私たちが勇者だとして、これからどうしたらいいんでしょうか?」
ダルネスは難しい顔を浮かべる。
「勇者は魔王と対になる存在。いずれ、君達は魔王と戦うことになる……やもしれん」
「魔王……」
フロルは何事かを考えている。
「うーんとね。絵本に書いてあったよ。勇者様は魔王を倒して世界を平和にしましたって。アレルが魔王を倒せばいいの? でも、魔王ってどこにいるんだろう?」
「そもそも、魔王とはどんな存在なんでしょうか? 私たちには絵本の知識しかありません。絵本の中では魔王は魔物の親玉みたいに描かれていましたけど、そういう認識でいいんですか?」
その問いには、ダルネスが答えた。
「そうじゃな。魔王とは……」
そして、ダルネスは語り出す。
魔王が何者なのかを。
魔王とは、300年に一度生まれる魔族の王である。
魔族とは南西の大陸に住む亜人の一種である。
そして、魔王が復活することによって、魔族は力を増し、さらに強力な魔物が世界各地に出現するようになる。
ゆえに、魔王復活がなされるたびに、魔族は魔王と共に他の人種を支配しようとし、人を含む他の亜人種達と大きな戦争になる。
勇者とは、魔王を倒し世界を救う者のことである。
ダルネスの説明を要約するとそういう内容だった。
魔王と魔族……双子はやがてそれらと戦うのか。
だが、そうだとして、その時俺はすでに2人の前から……
実はまだ、話していないことが1つある。
俺がこの世界いられる期限のことだ。
それだけは、どうしても誰にも言えなかった。
と。
アレルが唐突なことを言い出した。
「うーん、魔王とお話ってできないの? 魔物みたいにしゃべれないのかな?」
「いや、そういうわけではない。魔王は言葉を理解する、もちろん魔族もな」
「ふーん。じゃあさ、魔王さんとお話ししよーよ。だって、戦うよりも仲良くした方がいいでしょう?」
アレルは無邪気に。本当に無邪気に、おそらく誰もがそう願い、しかし一番難しい道だと理解していることを言ってのけた。
ソフィネとライトが困惑した声を上げる。
「いや、魔王とお話って……」
「そりゃ、そうできれば理想だとは思うけどさぁ」
俺だってそう思う。
魔物相手ならば、それは害虫駆除とか狩猟とかと同じだと思える。だからこれまでも魔物を退治してきた。
だが、言葉を話す相手――魔王や魔族と戦うとなれば、それは戦争だ。
双子を先頭に立たせて戦争をさせるなんて、できれば――いや、絶対に避けたい。
そう思う。思うのだが……
「ふぉふぉふぉ、アレルくんはそう思うか。フロルくん、君はどう思う?」
ダルネスに尋ねられ、フロルは慎重な口調で話す。
「できるなら、私もその方がいいと思います。でも、そのためにどうしたらいいのか……」
そう。
その通りなのだ。
先ほどの話を聞けば、魔王と人は――そして、魔族と人は利害が対立している。
利害が対立する者が、戦うのではなく話しあって解決する。
それは崇高な理想であり、同時にとても難しいことだ。
地球から来た俺はそのことをよく知っている。
『皆で仲良くくらしましょう』という幼児向けの理想論が通じるならば、俺達の世界で戦争は起きていないし、銃もミサイルも作られていない。
「ふむ、レルス、どう思う?」
「もしもその道を目指すのであれば、勇者と魔王が話し合うしかありますまい。ですが、その為には力が必要です」
そう。そうなのだ。
話し合うためには力が必要。
矛盾するようだが、片方の国が核兵器を持っていて、片方の国が剣と槍しかもっていなければ話し合いにはならない。
俺はレルスに尋ねる。
「アレルは強くなりました。フロルも魔法を覚えればきっと。それでは足りませんか?」
「勇者が勇者として目覚めるためには3つの試練を乗り越える必要がある。まずはそれを目指すのが肝要だろう」
3つの試練か。
そうだよな。その試練を乗り越えてこそ、2人は本当の意味で勇者になる。
そして、勇者になった2人だからこそ、魔王と戦うにしろ話し合うにしろできるのだ。
2人に試練を乗り越えさせる。それが今後やるべきこと。
だが。
2人が試練を乗り越えたら。
その後は。
俺は、双子といっしょにいてやれなくなる。
シルシルは言ったのだ。
俺の役割は『双子が3つの試練を乗り越えるまで』だと。
「わかったー、じゃあ、アレル試練がんばる。それで、フロルやライトやご主人様やソフィネと一緒に魔王と話し合う」
「ええ。私も、アレルやショート様達といっしょなら、きっとできると思います」
2人はそう言った。
ああそうだな。
きっとできる。
だけど。
その時俺は、もうお前達のそばにはいられないんだ。
言わなくちゃいけないのに。
俺はどうしてもその時、そのことだけは話すことができなかった。
そして、語る。
これまで黙っていたことを。
俺の話を聞き終えた後、アレルとフロル、それにライトは押し黙ってしまった。
俺が異世界から来た人間で、アレルとフロルは未来の勇者。
そのことを知った彼らが何を考えているのか、俺にはなんともいえない。
押し黙った3人に変わって、開き直ったように話し出したのはソフィネだった。
「なるほどねぇ。そりゃあね、私もちょ~っとおかしいかなぁって思ってはいたのよね。
アレルもフロルもいろんな意味で6歳児だとは思えないしさぁ。ショートもなんか浮いているっていうか、妙なところで世間知らずだったりするしね」
ソフィネはいつも通りのかんじで……あるいは、意識的にいつも通りの口調で……そう言った。
それで、少しだけ、場の緊張した空気が緩んだ。
彼女は空気が読めないようでいて、緊迫した空気を和ませる力を持っている。
ソフィネに続いて、ライトが苦笑する。
「まあ、俺もある意味納得ではあるわな。そりゃあ、アレルに勝てないわけだ」
ライトは何かを納得したように、ウンウン頷いている。
「ごめんな、皆を欺したような形になっちゃって」
俺がそう言うと、ライトとソフィネが言い合う。
「まったくだ。ずっと一緒に冒険してきたのに黙っているなんてひでーよ」
「でも、黙っていた気持ちも分からないわけじゃないわ。あなたもそうでしょう? ライト」
「まーな。確かにおいそれと言えることじゃねーな」
その間も、アレルとフロルはジッと何かを考えている。
やがて、フロルが口を開いた。
「私たちが勇者……正直、実感がわきません。いえ、アレルはわかるんです。でも私は正直そこまで自分が凄いなんて思えません」
まあそうかもしれない。
彼女が使える魔法は、今のところ中級まで。
MPの総量はすでにブライアンよりも多いようだが、それだけだ。
そんなフロルに、ダルネスが言う。
「さてな。フロル、君がまだ強い魔法を覚えられていないのは、環境が整っていなかっただけではないのかな?」
「そうかもしれません。でも、それでも……私は自分が特別な人間だなんて思えないんです」
「そうじゃろうな。そして、そうであってほしいと思っていたから、今までショートくんは黙っていたのじゃよ」
フロルはハッとなって俺を見る。
そして、アレルが口を開く。
「ねぇねぇ、アレルとフロルが勇者様なの?」
俺は頷く。
「そういうことだよ。今まで黙っていたけど」
「でも、アレルはアレルだし、フロルはフロルだよ? それなのに、勇者様なの?」
いや、そりゃあそうなんだけど。
うーん、なんと説明したらいいんだろう。
ダルネスがあらためて、アレルに言う。
「勇者とは生まれながらに天才的な能力を持つ、300年に一度生まれる戦士であり、魔法使いでもある者のことじゃ。今回は双子に能力が分かれたようじゃがな」
アレルは『うーん』と悩んで。
それから。
「そっかぁ……じゃあ、アレルはやっぱりアレルで、フロルはやっぱりフロルなんだね。勇者様っているのは能力のことで、人のことじゃないんだ」
いや、その理解はどうだろうと思うんだが。
でも正しいのかな。『戦士』とか『魔法使い』と同じく、『勇者』もこの世界でいうところの職業の1つと考えれば。
いずれにせよ。
双子はそれぞれの言葉で、自分は自分だと言ってくれたのだと思う。
それは、俺にとってすごくホッとすることだった。
ところで、アレルの言葉遣い、舌っ足らずじゃなくなったなぁ。やっぱりレルスに総評で言われたことが気になっているのだろうか。自分なりに頑張って治そうとしているようだ。
フロルは俺やダルネスを見て尋ねる。
「それで、私たちが勇者だとして、これからどうしたらいいんでしょうか?」
ダルネスは難しい顔を浮かべる。
「勇者は魔王と対になる存在。いずれ、君達は魔王と戦うことになる……やもしれん」
「魔王……」
フロルは何事かを考えている。
「うーんとね。絵本に書いてあったよ。勇者様は魔王を倒して世界を平和にしましたって。アレルが魔王を倒せばいいの? でも、魔王ってどこにいるんだろう?」
「そもそも、魔王とはどんな存在なんでしょうか? 私たちには絵本の知識しかありません。絵本の中では魔王は魔物の親玉みたいに描かれていましたけど、そういう認識でいいんですか?」
その問いには、ダルネスが答えた。
「そうじゃな。魔王とは……」
そして、ダルネスは語り出す。
魔王が何者なのかを。
魔王とは、300年に一度生まれる魔族の王である。
魔族とは南西の大陸に住む亜人の一種である。
そして、魔王が復活することによって、魔族は力を増し、さらに強力な魔物が世界各地に出現するようになる。
ゆえに、魔王復活がなされるたびに、魔族は魔王と共に他の人種を支配しようとし、人を含む他の亜人種達と大きな戦争になる。
勇者とは、魔王を倒し世界を救う者のことである。
ダルネスの説明を要約するとそういう内容だった。
魔王と魔族……双子はやがてそれらと戦うのか。
だが、そうだとして、その時俺はすでに2人の前から……
実はまだ、話していないことが1つある。
俺がこの世界いられる期限のことだ。
それだけは、どうしても誰にも言えなかった。
と。
アレルが唐突なことを言い出した。
「うーん、魔王とお話ってできないの? 魔物みたいにしゃべれないのかな?」
「いや、そういうわけではない。魔王は言葉を理解する、もちろん魔族もな」
「ふーん。じゃあさ、魔王さんとお話ししよーよ。だって、戦うよりも仲良くした方がいいでしょう?」
アレルは無邪気に。本当に無邪気に、おそらく誰もがそう願い、しかし一番難しい道だと理解していることを言ってのけた。
ソフィネとライトが困惑した声を上げる。
「いや、魔王とお話って……」
「そりゃ、そうできれば理想だとは思うけどさぁ」
俺だってそう思う。
魔物相手ならば、それは害虫駆除とか狩猟とかと同じだと思える。だからこれまでも魔物を退治してきた。
だが、言葉を話す相手――魔王や魔族と戦うとなれば、それは戦争だ。
双子を先頭に立たせて戦争をさせるなんて、できれば――いや、絶対に避けたい。
そう思う。思うのだが……
「ふぉふぉふぉ、アレルくんはそう思うか。フロルくん、君はどう思う?」
ダルネスに尋ねられ、フロルは慎重な口調で話す。
「できるなら、私もその方がいいと思います。でも、そのためにどうしたらいいのか……」
そう。
その通りなのだ。
先ほどの話を聞けば、魔王と人は――そして、魔族と人は利害が対立している。
利害が対立する者が、戦うのではなく話しあって解決する。
それは崇高な理想であり、同時にとても難しいことだ。
地球から来た俺はそのことをよく知っている。
『皆で仲良くくらしましょう』という幼児向けの理想論が通じるならば、俺達の世界で戦争は起きていないし、銃もミサイルも作られていない。
「ふむ、レルス、どう思う?」
「もしもその道を目指すのであれば、勇者と魔王が話し合うしかありますまい。ですが、その為には力が必要です」
そう。そうなのだ。
話し合うためには力が必要。
矛盾するようだが、片方の国が核兵器を持っていて、片方の国が剣と槍しかもっていなければ話し合いにはならない。
俺はレルスに尋ねる。
「アレルは強くなりました。フロルも魔法を覚えればきっと。それでは足りませんか?」
「勇者が勇者として目覚めるためには3つの試練を乗り越える必要がある。まずはそれを目指すのが肝要だろう」
3つの試練か。
そうだよな。その試練を乗り越えてこそ、2人は本当の意味で勇者になる。
そして、勇者になった2人だからこそ、魔王と戦うにしろ話し合うにしろできるのだ。
2人に試練を乗り越えさせる。それが今後やるべきこと。
だが。
2人が試練を乗り越えたら。
その後は。
俺は、双子といっしょにいてやれなくなる。
シルシルは言ったのだ。
俺の役割は『双子が3つの試練を乗り越えるまで』だと。
「わかったー、じゃあ、アレル試練がんばる。それで、フロルやライトやご主人様やソフィネと一緒に魔王と話し合う」
「ええ。私も、アレルやショート様達といっしょなら、きっとできると思います」
2人はそう言った。
ああそうだな。
きっとできる。
だけど。
その時俺は、もうお前達のそばにはいられないんだ。
言わなくちゃいけないのに。
俺はどうしてもその時、そのことだけは話すことができなかった。
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