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第九章 勇者と保護者
6.【それぞれの想い】決闘の始まり
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(ソフィネ/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルド総本山。
その中央部にある訓練用の広場。
今2人の天才少年戦士が向き合っていた。
2人の傍らには、数年前までこの世界最強の戦士と呼ばれていたレルス=フライマント。
これから行なわれるのは、アレルとライトの決闘。レルスは審判役だ。
ソフィネの横でショートがブツブツ言う。
「何がどうしてこうなったんだ……」
頭を抱えながら言う彼だが、どう考えても原因はショートである。
ショートの代わりに、ライトはアレルの想いを受け止めようとしているのだろう。
(……だとして)
正直なところ、ライトとアレルの実力差はいかんともしがたいと、ソフィネは思う。
ライトは強くなった。
もう、おねしょをして泣いていた幼馴染の面影はない。
今ならレルス=フライマントにも勝てるかもしれない。
だが。
アレルの実力はそんな次元を大きく凌駕している。
(勝てるわけない)
それはこの決闘を一目見ようと集まってきた総本山の人々の殆どが共有する思いで。
おそらくはショートやフロルもそう思っているだろう。
(それでも……やるなら全力で戦いなさい、ライト。あなたはアレルの横でずっと戦ってきた戦士なんだから)
ソフィネは右手をそっと自分のお腹に当てて、2人の少年戦士の無事を祈ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(フロル/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こんな決闘に何の意味があるのか。
そう考えれば、きっと意味なんて無いのだろう。
それでもフロルは、ライトがアレルの想いを受け止めてくれようとしているのが嬉しかった。
傍らのショートを見る。
彼はこの展開に頭を抱えている様子だ。
「何がどうしてこうなったんだ」
ブツブツ言うショートの右手を、フロルは握る。
「フロル?」
「大丈夫です。ショート様。ライトに任せましょう」
思えばショートと自分たち双子の関係は複雑だ。
最初は奴隷とご主人様だった。
一方で、ショートは自分たちを暗い世界から明るい世界に連れ出してくれた。
それから、ずっと仲間だった。
一方で、ショートは自分たちの保護者でもあった。
フロルもアレルも、ショートにたっぷり甘えた。親でもない異世界人の彼は、身寄りの無い双子にずっと優しかった。
神様が自分たちのために異世界から招き寄せた保護者。
それがショートだ。
別れの時のことを、彼がずっと言えなかったのは、フロル達が彼に甘えすぎていたからでもあるのだろう。
「だけどさぁ……」
「大丈夫。アレルもライトも戦士ですから」
かつて。
アレルがミリスから初めて剣を習った頃。
2人の戦いをフロルとショートは見ている。
それは決闘なんかじゃなくて、木刀を使った訓練に過ぎなかったけれど。
それでも2人の実力は相当なものだと思った。
今、2人は再び剣をぶつけようとしている。
2人の実力はあの頃とは比べものにならない。
いつぞやの、アレルとレルスの戦いか、それ以上の力のぶつかり合いになるだろう。
現に、アレル達3人の周囲にはダルネス=ゴッドウェイが予め結界を張っている。
そうしなければ周囲にどんな被害があるか分からないからだ。
(2人とも、死なないでね)
フロルは仲間としてそう思う。
そして。
(アレル、負けちゃだめよ)
双子の勇者の片割れとして、そう願った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(アレル/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分が我儘を言っているという自覚はあった。
アレルだって、もう5歳の幼児ではない。
ショートがこの世界から去るというならば、勇者として『それでも大丈夫だ』と胸を張ってみせるのが正しい姿なのだということくらいわかる。
それでも。
それでも、素直になれなかった。
ショート。
自分たちのご主人様で保護者で仲間。
アレルにとって、フロルと同じくらい大切な人。
だから、我儘だと分かっていながら、アレルはショートとの別れを受け入れられなかった。
今。
アレルの前に立っているのはライト。
ライトが決闘などと言い出したのは、アレルの気持ちを受け止める方法が他になかったからだろう。
「ライト、本当にいいんだね?」
「なにが?」
「アレルに勝てると思っているの?」
かつて。
初めてライトと戦ったとき。
ミリスの前で木刀を打ち合わせたとき。
あの時は確かにアレルはライトに負けた。
だけど、あの時と今とでは違う。
確かに、ライトも強くなったが、アレルはもっと強くなった。
自慢とか慢心とかじゃない。
戦士として、自分と相手の実力を冷静に分析してみれば、ライトが自分に勝てる要素はないと思えたのだ。
「泣き虫アレルが何言っているんだよ」
ライトはニヤっと笑いながらそう言った。
もちろん、ライトだってアレルとの実力差が分かっていないわけじゃないだろう。
それでも、ライトはアレルと戦ってくれるという。
ならば。
「わかった」
アレルは頷き、レルスを横目で見た。
レルスは「ふぅ」っと溜息を一つ。
そして。
「では、はじめ!」
レルスの言葉と共に、ライトがアレルとの距離を一気に詰めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(レルス=フライマント/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ライトがアレルとの決闘の審判をしてほしいとレルスに頼んできた。
「何故?」
「あんた以外には無理だろ」
言われ、レルスは苦笑する。
(確かに、な)
かつて、アレルと自分が決闘をしたとき、審判ができるのはライトしかいなかった。
もしも今、アレルとライトが決闘をするというならば、審判ができるのは自分しかいないだろう。
(もっとも、私でも力不足かもしれないが)
今のアレルはレルスよりも遙かに強い。
ライトも、おそらくはレルスより強いだろう。
それでも、2人の次に強い戦士というならば、それはやはり自分ということになる。
だが、先ほどの『何故』という言葉の意味は、そうではない。
「何故、君達が決闘をするのかと聞いているのだが?」
「アレルを立ち直らせてやりたい」
「意味が分からんな」
そういいつつも、レルスは納得していた。
理屈とは別の部分で、戦士とはそう言うものだと理解していたからだ。
「俺もアレルも戦士だから。あんたもそうだろう?」
ライトの言葉を否定することが出来ず、レルスは苦笑いと共に引き受けるしかなかった。
そして。
翌朝のこと。
レルスの目の前で、ライトとアレルがにらみ合っていた。
2人はいくつか言葉を交わし。
そして、それが終わったとき。
レルスは叫んだ。
「始め!」
ライトが一気にアレルに接近。
そのスピードは、レルスすら目で追えないほどのものだった。
「やっぱり、そう来るよねっ!」
アレルが叫んでライトの剣を自らの剣で受け止めた。
こうして、2人の決闘は幕を開けたのだった。
(ソフィネ/三人称)
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ギルド総本山。
その中央部にある訓練用の広場。
今2人の天才少年戦士が向き合っていた。
2人の傍らには、数年前までこの世界最強の戦士と呼ばれていたレルス=フライマント。
これから行なわれるのは、アレルとライトの決闘。レルスは審判役だ。
ソフィネの横でショートがブツブツ言う。
「何がどうしてこうなったんだ……」
頭を抱えながら言う彼だが、どう考えても原因はショートである。
ショートの代わりに、ライトはアレルの想いを受け止めようとしているのだろう。
(……だとして)
正直なところ、ライトとアレルの実力差はいかんともしがたいと、ソフィネは思う。
ライトは強くなった。
もう、おねしょをして泣いていた幼馴染の面影はない。
今ならレルス=フライマントにも勝てるかもしれない。
だが。
アレルの実力はそんな次元を大きく凌駕している。
(勝てるわけない)
それはこの決闘を一目見ようと集まってきた総本山の人々の殆どが共有する思いで。
おそらくはショートやフロルもそう思っているだろう。
(それでも……やるなら全力で戦いなさい、ライト。あなたはアレルの横でずっと戦ってきた戦士なんだから)
ソフィネは右手をそっと自分のお腹に当てて、2人の少年戦士の無事を祈ったのだった。
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(フロル/三人称)
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こんな決闘に何の意味があるのか。
そう考えれば、きっと意味なんて無いのだろう。
それでもフロルは、ライトがアレルの想いを受け止めてくれようとしているのが嬉しかった。
傍らのショートを見る。
彼はこの展開に頭を抱えている様子だ。
「何がどうしてこうなったんだ」
ブツブツ言うショートの右手を、フロルは握る。
「フロル?」
「大丈夫です。ショート様。ライトに任せましょう」
思えばショートと自分たち双子の関係は複雑だ。
最初は奴隷とご主人様だった。
一方で、ショートは自分たちを暗い世界から明るい世界に連れ出してくれた。
それから、ずっと仲間だった。
一方で、ショートは自分たちの保護者でもあった。
フロルもアレルも、ショートにたっぷり甘えた。親でもない異世界人の彼は、身寄りの無い双子にずっと優しかった。
神様が自分たちのために異世界から招き寄せた保護者。
それがショートだ。
別れの時のことを、彼がずっと言えなかったのは、フロル達が彼に甘えすぎていたからでもあるのだろう。
「だけどさぁ……」
「大丈夫。アレルもライトも戦士ですから」
かつて。
アレルがミリスから初めて剣を習った頃。
2人の戦いをフロルとショートは見ている。
それは決闘なんかじゃなくて、木刀を使った訓練に過ぎなかったけれど。
それでも2人の実力は相当なものだと思った。
今、2人は再び剣をぶつけようとしている。
2人の実力はあの頃とは比べものにならない。
いつぞやの、アレルとレルスの戦いか、それ以上の力のぶつかり合いになるだろう。
現に、アレル達3人の周囲にはダルネス=ゴッドウェイが予め結界を張っている。
そうしなければ周囲にどんな被害があるか分からないからだ。
(2人とも、死なないでね)
フロルは仲間としてそう思う。
そして。
(アレル、負けちゃだめよ)
双子の勇者の片割れとして、そう願った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(アレル/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分が我儘を言っているという自覚はあった。
アレルだって、もう5歳の幼児ではない。
ショートがこの世界から去るというならば、勇者として『それでも大丈夫だ』と胸を張ってみせるのが正しい姿なのだということくらいわかる。
それでも。
それでも、素直になれなかった。
ショート。
自分たちのご主人様で保護者で仲間。
アレルにとって、フロルと同じくらい大切な人。
だから、我儘だと分かっていながら、アレルはショートとの別れを受け入れられなかった。
今。
アレルの前に立っているのはライト。
ライトが決闘などと言い出したのは、アレルの気持ちを受け止める方法が他になかったからだろう。
「ライト、本当にいいんだね?」
「なにが?」
「アレルに勝てると思っているの?」
かつて。
初めてライトと戦ったとき。
ミリスの前で木刀を打ち合わせたとき。
あの時は確かにアレルはライトに負けた。
だけど、あの時と今とでは違う。
確かに、ライトも強くなったが、アレルはもっと強くなった。
自慢とか慢心とかじゃない。
戦士として、自分と相手の実力を冷静に分析してみれば、ライトが自分に勝てる要素はないと思えたのだ。
「泣き虫アレルが何言っているんだよ」
ライトはニヤっと笑いながらそう言った。
もちろん、ライトだってアレルとの実力差が分かっていないわけじゃないだろう。
それでも、ライトはアレルと戦ってくれるという。
ならば。
「わかった」
アレルは頷き、レルスを横目で見た。
レルスは「ふぅ」っと溜息を一つ。
そして。
「では、はじめ!」
レルスの言葉と共に、ライトがアレルとの距離を一気に詰めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(レルス=フライマント/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ライトがアレルとの決闘の審判をしてほしいとレルスに頼んできた。
「何故?」
「あんた以外には無理だろ」
言われ、レルスは苦笑する。
(確かに、な)
かつて、アレルと自分が決闘をしたとき、審判ができるのはライトしかいなかった。
もしも今、アレルとライトが決闘をするというならば、審判ができるのは自分しかいないだろう。
(もっとも、私でも力不足かもしれないが)
今のアレルはレルスよりも遙かに強い。
ライトも、おそらくはレルスより強いだろう。
それでも、2人の次に強い戦士というならば、それはやはり自分ということになる。
だが、先ほどの『何故』という言葉の意味は、そうではない。
「何故、君達が決闘をするのかと聞いているのだが?」
「アレルを立ち直らせてやりたい」
「意味が分からんな」
そういいつつも、レルスは納得していた。
理屈とは別の部分で、戦士とはそう言うものだと理解していたからだ。
「俺もアレルも戦士だから。あんたもそうだろう?」
ライトの言葉を否定することが出来ず、レルスは苦笑いと共に引き受けるしかなかった。
そして。
翌朝のこと。
レルスの目の前で、ライトとアレルがにらみ合っていた。
2人はいくつか言葉を交わし。
そして、それが終わったとき。
レルスは叫んだ。
「始め!」
ライトが一気にアレルに接近。
そのスピードは、レルスすら目で追えないほどのものだった。
「やっぱり、そう来るよねっ!」
アレルが叫んでライトの剣を自らの剣で受け止めた。
こうして、2人の決闘は幕を開けたのだった。
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