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第九章 勇者と保護者

7.【アレルとライト】決闘の行方

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(アレル/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 決闘開始直後。
 ライトは積極的に接近戦を仕掛けてきた。
 アレルにとっては予想通り。

 遠距離戦ではライトに勝ち目などない。
 いくらライトも『風の太刀』や『光の太刀』、『炎の太刀』などを使えるようになったとはいえ、アレルの遠距離攻撃ラインナップには敵わない。

 一方、接近戦ならばまだライトにも分がある。
 剣を使わない蹴りなどの格闘技を含めた戦い方ならば、ライトがアレルを上回れる可能性があった。
 実際『正拳』や『蹴攻』などの武闘家系スキルはライトの方が得意だ。
 また、すでに少年ではなく青年の肉体に成長しているライトは、アレルよりも単純にリーチが長い。

 だが、それ以上に。

(あの時もそうだったもんね)

 アレルは思う。
 ライトと初めて剣を交えた日。
『風の太刀』に拘りすぎた自分は、接近戦をしかけてきたライトに対して後手後手に回った。
 その結果、アレルはライトに負けた。

 あの時は『ずるい』と思ったが、今ならば分かる。
 ライトが卑怯だったのではなく、自分が甘かっただけだ。

 今もライトは凄まじいスピードで剣を繰り出してくる。
 アレルはその全てを自らの剣で受け止める。
 一見すれば、あの時と同じように後手後手に回っているようにも見える。

「うらぁぁぁぁ!」

 ライトが叫び、剣を振りかぶる。
 わざとスキを見せるかのようなその動き。

 昔のアレルならば油断したかも知れない。
 だが、今のアレルは看破する。
 剣はおとりだ。

 ライトは剣を振り下ろすそぶりを見せながら、同時に強烈な蹴りを放つ。
 初めてライトと剣を交えたときはこれに引っかかった。

「だけどさぁ!」

 アレルは叫び、後ろに跳ぶ。
 ライトの足はくうを舞った。

「ちっ」

 ライトは舌打ちして追撃してくる。
 だが。
 アレルは剣を素早く動かす。
 アレルの剣から『光の太刀』が放たれ、ライトの腹を薙ぐ。

 手加減はした。
 本気で撃てば殺してしまうから。
 だが、それなりのダメージにはなっているはず。

 ライトは勢いよく吹き飛び、地面を転がる。

 アレルはライトに剣を向けたまま、しかし決着を確信していた。
 ただでさえ実力差は大きい。
 そして、ライトに今与えたダメージが自然回復するには時間がかかるはずだ。

 ライトはゆっくりと立ち上がる。
 その口から血液が流れ出す。
 口の中を切った程度の量ではない。内蔵が傷ついたからこその血だ。

「もうやめよう、ライト。フロルかご主人様の回復魔法なら治せるから……」

 ライトは立っているのも辛い様子だ。
 それはそうである。臓器の一部が出血するほどに傷ついているのだ。
 アレルがここまでの攻撃を繰り出せたのは、フロルやショートの回復魔法があるからだ。
 即死でなければ治せると知っているからこそ、重傷を負わせた。

 ライトだって、今の状況は分かっているはず。
 だから、アレルはライトが降参すると思った。

 だが。

「ざけんなよ。まだこれからだろうがっ!」

 ライトはそう叫んだのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(ライト/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 一流の戦士にとって戦闘中の痛みというのは、肉体の危機を知らせるためのメッセージに過ぎない。
 痛みがあるから泣いて蹲るなんていうのはありえないことだ。

 だから、ライトは自分が重傷を負っていると自覚しながらも、立ち上がり、剣を構えることができた。

「もうやめよう、ライト。フロルかご主人様の回復魔法なら治せるから……」

 アレルのその言葉は決闘相手に対するモノとしては優しすぎる。侮辱的とすらいえるほどに。
 ライトは怒りを持って叫ぶ。

「ざけんなよ。まだこれからだろうがっ!」

 叫び声と共に、自分の口元からどす黒い血液が流れる。

「ライトっ!」

 アレルが泣きそうな声で言う。
 ライトは構わず剣を振るう。
 ライトの剣が燃え上がり、アレルに向かって炎が突き進む。
『炎の太刀』だ。あの一年の旅の最中に、アレルに追いつくために必死に覚えたスキル。

「くっ、ライト!」

 だが、その炎もアレルの『風の太刀』の前にあっさりと霧散する。

「もうやめてよっ!」

 アレルはほとんど半泣き状態。

(まったく、お前は……)

 思いつつもライトは叫ぶ。

「まだ決着はついてないだろ!」
「これ以上やったらライトが死んじゃう」
「決闘なんだ。殺せばいいだろ!」

 ライトの言葉にアレルは悲壮な表情。

「ショートと別れたくないんだろ。勇者になりたくないんだろ。そんな我儘を通そうとするなら、俺を殺すくらいしてみせろよ」

 自分の言葉が理屈になっていないことは理解していた。
 それでも。
 ライトにできることは他になかったから。

「何を馬鹿なことを……」

 困惑するアレル。

「お前は優しすぎるんだ。そして同時に甘えん坊すぎる。何も失わず、誰も死なず、そんなことが叶うと、本当に思っているのか。そんな覚悟で魔王と対峙できるのかよっ!」

 魔王と戦う道を選ぶにせよ、和平の道を選ぶにせよ、アレルは覚悟を決めなくちゃいけない。

 アレル。
 わずか9歳の優しくて純粋で泣き虫な勇者様。
 俺の大切な友達。大切な仲間。

「さあ、俺を殺せばショートと別れないですむぞ、どうするんだ、アレル!?」

 アレルは歯を食いしばる。
 食いしばって食いしばって、ジッと考えている。

「……そんなこと、できるわけないだろ」

 アレルはポツリとそう言った。
 そして。
 アレルは審判役のレルスに言う。

「レルスさん、アレルの負けだよ。アレルは勇者になる。本当の勇者になって、この世界を救う」

(そう、それでいい)

 そしてレルスが宣言する。

「勝者、ライト!」

(別に勝っちゃいねーよ)

 内心思いつつ、ライトもまた決意する。

(アレル。俺はお前を支える。何があっもて勇者の一番近くにいる存在になる)

 自分にアレルやフロルほどの力があるとは思わない。
 だが、もう迷わない。
 アレルとフロル、幼い2人の勇者の苦しみを、少しでも多く肩代わりしてみせる。
 それがこれからのライトの生き様だ。
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