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上手くいかないお茶会
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……落ち込んでいた時に優しい言葉をかけてくれて、なおかつこんなにも紳士な対応をされたら、しばらく彼のことで頭がいっぱいになってしまうのも、無理はないと思うの。
でも、彼は私より十歳も年上で、公爵家と家柄も良く、近衛騎士団のエリートで、背も私よりずっと高くて大人な、社交界で引く手あまたの花婿候補だ。
今はまだ婚約者はいないらしいけれど、それは時間の問題だろう。
そしてその相手は、きっと大人っぽくて綺麗な、見た目も中身も釣り合う素晴らしい令嬢に違いない。
……社交界デビューしたばかりの、しかも普通の人よりずっと幼く見える、中身もようやく大人への第一歩を踏み出したばかりというような小娘である私が、彼の恋愛対象になんてなるはずがないわよね。
芽生えかけた分不相応な恋心は封印するべきだと考えていたのだが、すぐに事態は思わぬ方向へ動いた。
なんとお父様が、カイン様との婚約を取り付けてきたのである。
なんでも、家同士の求める条件がピッタリ当てはまったので、すぐさま婚約をまとめてきたとかなんとか。
貴族の結婚は当主が決めるものとはいえ、通常は事前に本人の意向を確認するものだ。
普通ならば怒るべきところだけれど、私にとってこの婚約は、驚くのと同時に、舞い上がるほど嬉しいものだった。
お父様はそんな私の様子を見て、してやったりというように笑っていた。どうやら、デビュタントパーティーから帰ったあとの態度や言動から、私のささやかな恋心は家族にすっかりバレてしまっていたらしい。
もしかしたら、私に甘いお父様が暴走した結果なのではと思ったけれど、家格は向こうの方が上なので、お父様が無理を通したわけではないはずだ。
……もしかしたら、彼も私のことを、ほんの少しでも気に入ってくれたということかしら?
そんな淡い期待は、婚約後初めての顔合わせで、粉々に砕け散ったのである。
◇
「……」
「…………」
今日は、待ちに待った月に一度の逢瀬の日だ。彼は婚約者の義務だからと、こうして毎月必ず、短い時間とはいえ我が家を訪ねてくれる。
けれどカイン様と交わしたのは、まだ最初の挨拶と、お茶を勧めた際のやりとりのみ。
彼は事務的なこと以外はほとんど何も話してくれないし、初めて会った時のように、手を差し出して席までエスコートしてくれることもない。あの時と違って婚約者になったのだから、エスコートするのが当然であるにもかかわらずだ。
極力私に近づかないよう、間違っても触れないよう、彼は常に私と一定の距離を置いている。物理的にも、心理的にも。
まず、目を合わせてくれない。
話しかけても、「そうだな」とか「ああ」などの相槌ばかりで、会話に発展しない。いつも、ただ少しの間、一緒にお茶を飲んでいるだけだ。散歩や観劇に誘っても、忙しいからと断られてしまう。
お仕事が忙しいのは仕方がないけれど、外で会うことを拒否されていると感じるのは、気のせいではないと思う。
唯一会えるこの時間も、いつものように、私から会話を切り出さなければお茶を飲むだけで終わってしまう。
私はとりあえずとばかりに、無難な話題を投げかけた。
「最近は暑くなって参りましたね」
「ああ」
「毎日の訓練がお辛いのではないでしょうか?」
「いや、この程度なら問題ない」
「……そうですか。それはよかったです」
すぐさま会話が終了してしまった。
……いやいや、これくらい想定内よ。めげるな、私。あ、そうだ。あの話題なら!
「そういえば、パーティー用のドレスを贈ってくださり、ありがとうございます。とても綺麗で、着るのが楽しみです」
「ああ」
「少し大人っぽいデザインでしたが、わたくしに似合うでしょうか?」
「執事に任せたから、不適切なデザインではないはずだ」
「……あ……そう、なのですか」
こちらを見ることもなく発されたカイン様の言葉に、私は気持ちがみるみる萎んでいくのを感じた。
……そうよね。お忙しいカイン様が、好きでもない私のために、わざわざドレスを選んでくれるわけがなかったのに。
その後、気落ちしてしまった私はとても積極的に会話をする気になれず、いつもより交わす言葉が少ないまま、月に一度のお茶会は終わってしまった。
でも、彼は私より十歳も年上で、公爵家と家柄も良く、近衛騎士団のエリートで、背も私よりずっと高くて大人な、社交界で引く手あまたの花婿候補だ。
今はまだ婚約者はいないらしいけれど、それは時間の問題だろう。
そしてその相手は、きっと大人っぽくて綺麗な、見た目も中身も釣り合う素晴らしい令嬢に違いない。
……社交界デビューしたばかりの、しかも普通の人よりずっと幼く見える、中身もようやく大人への第一歩を踏み出したばかりというような小娘である私が、彼の恋愛対象になんてなるはずがないわよね。
芽生えかけた分不相応な恋心は封印するべきだと考えていたのだが、すぐに事態は思わぬ方向へ動いた。
なんとお父様が、カイン様との婚約を取り付けてきたのである。
なんでも、家同士の求める条件がピッタリ当てはまったので、すぐさま婚約をまとめてきたとかなんとか。
貴族の結婚は当主が決めるものとはいえ、通常は事前に本人の意向を確認するものだ。
普通ならば怒るべきところだけれど、私にとってこの婚約は、驚くのと同時に、舞い上がるほど嬉しいものだった。
お父様はそんな私の様子を見て、してやったりというように笑っていた。どうやら、デビュタントパーティーから帰ったあとの態度や言動から、私のささやかな恋心は家族にすっかりバレてしまっていたらしい。
もしかしたら、私に甘いお父様が暴走した結果なのではと思ったけれど、家格は向こうの方が上なので、お父様が無理を通したわけではないはずだ。
……もしかしたら、彼も私のことを、ほんの少しでも気に入ってくれたということかしら?
そんな淡い期待は、婚約後初めての顔合わせで、粉々に砕け散ったのである。
◇
「……」
「…………」
今日は、待ちに待った月に一度の逢瀬の日だ。彼は婚約者の義務だからと、こうして毎月必ず、短い時間とはいえ我が家を訪ねてくれる。
けれどカイン様と交わしたのは、まだ最初の挨拶と、お茶を勧めた際のやりとりのみ。
彼は事務的なこと以外はほとんど何も話してくれないし、初めて会った時のように、手を差し出して席までエスコートしてくれることもない。あの時と違って婚約者になったのだから、エスコートするのが当然であるにもかかわらずだ。
極力私に近づかないよう、間違っても触れないよう、彼は常に私と一定の距離を置いている。物理的にも、心理的にも。
まず、目を合わせてくれない。
話しかけても、「そうだな」とか「ああ」などの相槌ばかりで、会話に発展しない。いつも、ただ少しの間、一緒にお茶を飲んでいるだけだ。散歩や観劇に誘っても、忙しいからと断られてしまう。
お仕事が忙しいのは仕方がないけれど、外で会うことを拒否されていると感じるのは、気のせいではないと思う。
唯一会えるこの時間も、いつものように、私から会話を切り出さなければお茶を飲むだけで終わってしまう。
私はとりあえずとばかりに、無難な話題を投げかけた。
「最近は暑くなって参りましたね」
「ああ」
「毎日の訓練がお辛いのではないでしょうか?」
「いや、この程度なら問題ない」
「……そうですか。それはよかったです」
すぐさま会話が終了してしまった。
……いやいや、これくらい想定内よ。めげるな、私。あ、そうだ。あの話題なら!
「そういえば、パーティー用のドレスを贈ってくださり、ありがとうございます。とても綺麗で、着るのが楽しみです」
「ああ」
「少し大人っぽいデザインでしたが、わたくしに似合うでしょうか?」
「執事に任せたから、不適切なデザインではないはずだ」
「……あ……そう、なのですか」
こちらを見ることもなく発されたカイン様の言葉に、私は気持ちがみるみる萎んでいくのを感じた。
……そうよね。お忙しいカイン様が、好きでもない私のために、わざわざドレスを選んでくれるわけがなかったのに。
その後、気落ちしてしまった私はとても積極的に会話をする気になれず、いつもより交わす言葉が少ないまま、月に一度のお茶会は終わってしまった。
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