18 / 76
二章
17.調子の良い金曜日
しおりを挟む仕事中、冬真と上手く連携を取りながら混み合う店を回していた。金曜日はいつもより早めの開店でランチからそのままディナーに切り替わるんだけど、夜遅くになるにつれてお酒を求めてやってくる客が多くなる。フードメニュー増えてから新規の客も増えたし、やっぱり人を増やして正解だったのかもな。
「冬真~、これ持って行ったら先に休憩入って~」
「はい。雪さんテーブル席に生ハムサラダ入りました」
「オーケー」
「雪さん、体大丈夫ですか?」
「平気だよ~♪金曜日はいつもこんな感じだからね。今日は冬真いるから楽な方」
「そうですか。お役に立ててるなら嬉しいです♪」
「冬真こそ平気?ダメって言っても帰らせないけどな」
「全然平気です♪楽しいです」
仕事を楽しいと言えるなんて凄いじゃないか。俺も美味しいと言って貰えると嬉しいけど、楽しいかと聞かれたら仕事は仕事だからまた別って感じがするんだ。俺にとって仕事が大半を占めていたから当たり前の様にこなしていたけど、今冬真に楽しいと言われて、俺は改めて考えてしまった。
「楽しいか」
「あれ、もしかしてふざけてるとか思っちゃいました?仕事に対しては真面目に向き合ってますよ。でも、雪さんといられるから楽しいんですよ♡」
「冬真ぁ♡それなら俺も冬真がいると楽しいよ♡でも仕事は仕事!私情の持ち込みはダメだぞ」
「はい!私情は帰ったらにしますね♡」
「お前ってやつは~♡」
俺も冬真が来てから、監視の意味でも冬真を目で追っていたけど、今日は店に慣れた冬真とスムーズな連携も出来ているし、目が合った時にお互い通じ合うような何かがあって、それにはソワソワしたりもした。接客をしている冬真を見て、やっぱりお酒の入った人への対応は慣れてるなぁとか思ったり、手が空いた時も細かい所の片付けや掃除をしている姿を見ると出来る男!とか思ったりして良く考えたら冬真の事ばかり見ちゃってるかも知れない。
俺達が裏のキッチンのとこでそんなやり取りをしてると、カウンター側のホールから光ちゃんがひょこっと顔を出してニヤニヤと笑っていた。
ハッ!俺とした事が!
「副店長~、イチャイチャするのも帰ってからにしてもらえます?ホール回らないんで早く戻って下さいな」
「イチャイチャなんてしてないし!ほら冬真さっさと休憩入れ!」
「はーい♪」
光ちゃんに茶化されて俺は慌てて生ハムサラダの準備に取り掛かる。くそー、光ちゃんてばすっかり俺の事からかうようになったな。
でも、冬真の言う楽しいが今なら分かる気がする。きっと今のこの気持ちがそうなんだろうな。
忙しかった金曜日が終わり、冬真と片付けをしていると、光ちゃんが賄いを用意してくれた。
今日はエビのグラタン、それを冬真とカウンターに並んで座り食べていた。
「本当に光児さんの料理は美味しいですね♪」
「光ちゃんの見た目では想像付かないような優しい味出すよね」
「料理は心が大事なんだよ♪」
「冬真は料理出来るの?」
「出来ません」
「問題ねぇよ。雪が休みの日は俺がフード入るから」
光ちゃんの考えでは月、火、水は俺と冬真1人ずつの出勤にするらしいけど、そうなると俺がいない時にフードに入れるのが光ちゃんだけになる。俺の不安を読むかの様にカウンターの向こう側に立ち、タバコに火を付けながら光ちゃんが喋り始めた。
「それだとお酒提供する人がいなくなるじゃん。バーの意味無くなるでしょ」
「もちろん俺が両方やる。ドリンクは冬真にもやってもらうつもりだ」
「冬真がバーテン……」
俺は隣にいる冬真をチラッと見て、カウンターの中に立ちバーテンダー姿を想像する。
良い!スラッとした立ち姿に、誰にでも通じるような愛嬌のある顔立ち。元ホストなだけあって接客においては俺より上だ。こんな好青年からお酒を作って出されたら誰でも美味しく飲めるだろうな。
「良いじゃん。そんじゃまずは俺に作ってもらおうか」
「あはは!今冬真のバーテン姿想像したろ?お前ムッツリだな!」
「や、雇う側としてどうなのかなって想像しただけだ!光ちゃんはいちいち変な目で俺達を見て来るなよ!」
「なんでもいいけどよ、冬真~、それ食ったら俺達に一杯作ってくんね?」
「はい!分かりました♪」
ケラケラ笑う光ちゃんに言われて冬真はグラタンを綺麗に平らげてお皿を流しに持って行き、そのままカウンターの内側へ回る。代わりに光ちゃんが俺の隣に座る。まだ笑ってるし!
「なんだかんだ仲良くやってるみてぇで良かったわ」
「業務命令なんでね」
「業務命令ね~。今までそんなの無視するようなお前が俺の言う事聞くかね?」
「聞くよ!店長は光ちゃんなんだからっ」
「形はな。何かあったら責任取れるように店長って名前背負ってるだけだ。俺は雪になら全部任せられると思ってるよ」
「何それ、俺は隠居するから後は任せたみたいな言い方」
「お前はすぐに捻くれた捉え方するな~。もう少し素直な心で受け取ってくれや」
「20年間これで来たんでもう手遅れですね~」
「ほんと、お前は変わらねぇや。ま、そこが良いとこでもあるんだけどな」
「光ちゃんこそ。変わらないのは一緒でしょ」
いつも通りの光ちゃんに俺は楽しくなり笑いながら返していた。
すると、カウンターの中に立つ冬真が俺達を見てニッコリ笑った。
0
あなたにおすすめの小説
定時後、指先が覚えている
こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。
それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。
触れるはずのなかった指先。
逸らさなかった視線。
何も始まっていないのに、
もう偶然とは呼べなくなった距離。
静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、
等身大の社会人BL。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる