恋に臆病なままではいられない

pino

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二章

17.調子の良い金曜日

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 仕事中、冬真と上手く連携を取りながら混み合う店を回していた。金曜日はいつもより早めの開店でランチからそのままディナーに切り替わるんだけど、夜遅くになるにつれてお酒を求めてやってくる客が多くなる。フードメニュー増えてから新規の客も増えたし、やっぱり人を増やして正解だったのかもな。


「冬真~、これ持って行ったら先に休憩入って~」

「はい。雪さんテーブル席に生ハムサラダ入りました」

「オーケー」

「雪さん、体大丈夫ですか?」

「平気だよ~♪金曜日はいつもこんな感じだからね。今日は冬真いるから楽な方」

「そうですか。お役に立ててるなら嬉しいです♪」

「冬真こそ平気?ダメって言っても帰らせないけどな」

「全然平気です♪楽しいです」


 仕事を楽しいと言えるなんて凄いじゃないか。俺も美味しいと言って貰えると嬉しいけど、楽しいかと聞かれたら仕事は仕事だからまた別って感じがするんだ。俺にとって仕事が大半を占めていたから当たり前の様にこなしていたけど、今冬真に楽しいと言われて、俺は改めて考えてしまった。


「楽しいか」

「あれ、もしかしてふざけてるとか思っちゃいました?仕事に対しては真面目に向き合ってますよ。でも、雪さんといられるから楽しいんですよ♡」

「冬真ぁ♡それなら俺も冬真がいると楽しいよ♡でも仕事は仕事!私情の持ち込みはダメだぞ」

「はい!私情は帰ったらにしますね♡」

「お前ってやつは~♡」


 俺も冬真が来てから、監視の意味でも冬真を目で追っていたけど、今日は店に慣れた冬真とスムーズな連携も出来ているし、目が合った時にお互い通じ合うような何かがあって、それにはソワソワしたりもした。接客をしている冬真を見て、やっぱりお酒の入った人への対応は慣れてるなぁとか思ったり、手が空いた時も細かい所の片付けや掃除をしている姿を見ると出来る男!とか思ったりして良く考えたら冬真の事ばかり見ちゃってるかも知れない。

 俺達が裏のキッチンのとこでそんなやり取りをしてると、カウンター側のホールから光ちゃんがひょこっと顔を出してニヤニヤと笑っていた。
 ハッ!俺とした事が!


「副店長~、イチャイチャするのも帰ってからにしてもらえます?ホール回らないんで早く戻って下さいな」

「イチャイチャなんてしてないし!ほら冬真さっさと休憩入れ!」

「はーい♪」


 光ちゃんに茶化されて俺は慌てて生ハムサラダの準備に取り掛かる。くそー、光ちゃんてばすっかり俺の事からかうようになったな。
 でも、冬真の言う楽しいが今なら分かる気がする。きっと今のこの気持ちがそうなんだろうな。


 忙しかった金曜日が終わり、冬真と片付けをしていると、光ちゃんが賄いを用意してくれた。
 今日はエビのグラタン、それを冬真とカウンターに並んで座り食べていた。


「本当に光児さんの料理は美味しいですね♪」

「光ちゃんの見た目では想像付かないような優しい味出すよね」

「料理は心が大事なんだよ♪」

「冬真は料理出来るの?」

「出来ません」

「問題ねぇよ。雪が休みの日は俺がフード入るから」


 光ちゃんの考えでは月、火、水は俺と冬真1人ずつの出勤にするらしいけど、そうなると俺がいない時にフードに入れるのが光ちゃんだけになる。俺の不安を読むかの様にカウンターの向こう側に立ち、タバコに火を付けながら光ちゃんが喋り始めた。


「それだとお酒提供する人がいなくなるじゃん。バーの意味無くなるでしょ」

「もちろん俺が両方やる。ドリンクは冬真にもやってもらうつもりだ」

「冬真がバーテン……」


 俺は隣にいる冬真をチラッと見て、カウンターの中に立ちバーテンダー姿を想像する。
 良い!スラッとした立ち姿に、誰にでも通じるような愛嬌のある顔立ち。元ホストなだけあって接客においては俺より上だ。こんな好青年からお酒を作って出されたら誰でも美味しく飲めるだろうな。


「良いじゃん。そんじゃまずは俺に作ってもらおうか」

「あはは!今冬真のバーテン姿想像したろ?お前ムッツリだな!」

「や、雇う側としてどうなのかなって想像しただけだ!光ちゃんはいちいち変な目で俺達を見て来るなよ!」

「なんでもいいけどよ、冬真~、それ食ったら俺達に一杯作ってくんね?」

「はい!分かりました♪」


 ケラケラ笑う光ちゃんに言われて冬真はグラタンを綺麗に平らげてお皿を流しに持って行き、そのままカウンターの内側へ回る。代わりに光ちゃんが俺の隣に座る。まだ笑ってるし!


「なんだかんだ仲良くやってるみてぇで良かったわ」

「業務命令なんでね」

「業務命令ね~。今までそんなの無視するようなお前が俺の言う事聞くかね?」

「聞くよ!店長は光ちゃんなんだからっ」

「形はな。何かあったら責任取れるように店長って名前背負ってるだけだ。俺は雪になら全部任せられると思ってるよ」

「何それ、俺は隠居するから後は任せたみたいな言い方」

「お前はすぐに捻くれた捉え方するな~。もう少し素直な心で受け取ってくれや」

「20年間これで来たんでもう手遅れですね~」

「ほんと、お前は変わらねぇや。ま、そこが良いとこでもあるんだけどな」

「光ちゃんこそ。変わらないのは一緒でしょ」


 いつも通りの光ちゃんに俺は楽しくなり笑いながら返していた。
 すると、カウンターの中に立つ冬真が俺達を見てニッコリ笑った。
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