恋に臆病なままではいられない

pino

文字の大きさ
19 / 76
二章

18.ようこそglowへ

しおりを挟む

 カウンターの内側に立ってニッコリ笑う冬真はそれはそれは様になっていた。ずっと俺と光ちゃんが作った物を提供したり、接客したり掃除したりしていた冬真がこうしてお酒を自ら作り提供する側になるとまた違って見えた。光ちゃんが立つと厳つい見た目もあって初見の人は怖がる事もあるけど、冬真だと怖い印象は無くなる。フレッシュな感じで若い人達からも気軽に声を掛けられるようなそんな雰囲気だった。
 俺が冬真に対して特別な感情があってそう見えるのかも知れないけど、新しい店の雰囲気に悪くないと思っていた。
 そして冬真は笑顔のまま俺達に声を掛けて来た。


「お二人の今の気分をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 おお、入りはバッチリ~。言葉使いも敬語だし、冬真の見た目と笑顔なら距離がある感じがしないのが良いな。敬語じゃなくてフレンドリーにして欲しがる客もいるけど、それは話して行く内に変えて行けば問題ない。冬真ならそのスキルはあるだろう。
 バーテンダー冬真の質問に先に答えたのは光ちゃんだった。


「俺は仕事終わりに少し一杯やりたい気分だな」

「俺はね、冬真のおまかせで♪」

「かしこまりました♪」


 光ちゃんのオーダーは比較的難しくない。結構そういう客も多いから冬真が何を出すのかこれは見どころだ。対して俺のオーダーは純粋にどんなのを作ってくれるのか気になったからだ。おまかせでサッと飲みたいのが出て来たら100点満点でしょう。
 冬真は慣れた手つきで作業を始めた。俺と光ちゃんはそれを審査も兼ねて見てみる。元ホストなだけあってお酒には詳しいみたいだし、作り方とかも聞いてくる訳じゃないから期待出来そうだった。
 そして少ししてから目の前に出されたカクテルに、俺も光ちゃんも「おお」と声を洩らした。


「シャンディガフとキールか」


 光ちゃんの前にはビールベースのシャンディガフ、俺の前には白ワインベースのキール。シャンディガフはビールとジンジャーエールを混ぜたもので、ビールが苦手な人にも飲みやすい味になっているのが特徴。キールは白ワインとカシスリキュールを混ぜたもので、俺はキールが出て来てなるほどと思った。


「仕事終わりにはやっぱりビールが一番♪ですが、せっかくこの場に立たせていただいてるので、ただのビールではつまらないと思いシャンディガフにしてみました♪」

「面白い!洒落てるとこが冬真らしくていいじゃねぇか♪味も……美味い♪」


 光ちゃんは若い子にお酒を作ってもらえて上機嫌になって楽しんでいる。さて、俺のキールはどう説明する?


「雪さんのキールはグラタンを食べている途中だったので合う物を選ばさせていただきました。初日にワインを好んで飲んでいたので喜ぶかと♪」


 賄いのグラタンに合わせて来たのは分かったけど、まさか俺の好みを覚えていてそれを提供して来たとは。予想を超えていて俺は驚きながらも嬉しく思った。これはもうお手上げだよ。


「相手の気分を聞いてそれに近い物を選べて、尚且つ自分の色も出せて、相手の動向を良く見てさり気なく好みを取り入れる気配りの良さ♪もう冬真は合格でしょ♪」

「おー!あの冷徹で有名な雪がここまで褒めるなんてな!冬真は何より若くてイケメンだ。若い女性客の常連も増えそうで楽しみだわ」

「ありがとうございます!俺、もっともっと頑張ります!」

「改めてよろしくね冬真」

「よし!鬼の副店長からお許しも出たし、来週の木曜は歓迎会な!知り合いの居酒屋押さえとくから2人共空けとけよ~」


 普段の俺ならこんなに早く他人を認めたりはしないけどね。早くても一ヶ月は冷たくして様子見るよ。だけど、冬真だから少し甘くなっちゃうんだ。俺は冬真にこれからもこの店で働いて行ってもらいたいと思っている。
 あー、これからは冬真に料理を教えなきゃな~。光ちゃん目当てで来る常連客もいるからずっとキッチンにいさせる訳にはいかないからね。
 ふふ♪忙しくなりそうだ♪

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...