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三章
33.誰もいらない
しおりを挟む冬真の登場でワタルは笑顔のまま俺から冬真へ視線を移してニコッとした。
「こんばんは、新人くん。君、ゆっきーの事好きなの?」
「おい勝手に冬真に話掛けるな!」
「好きだけどそれが何?」
ワタルの質問に答える冬真の声はいつもより低く、俺の知らない冬真だった。
「へー、僕もゆっきーの事好きなの♪ライバルだね~」
「はぁ!?いい加減にしろよ!ふざけた事言ってないで帰れよ!」
「ふざけてなんかないよ。ゆっきー、もう一度僕と付き合って欲しい。今度は二度と離れないから」
「何言ってるんだよっだってワタルには婚約者がいるじゃないかっ」
ワタルのどこまでもふざけた発言に怒りが抑え切れない所まで来ていた。それなのにも関わらず俺はワタルに答えを求めていた。
どうしてそんな事を言うのか、どうしてまた俺の前に現れたのか。ずっと気になっていたからだ。
ワタルはヘラヘラ笑うのをやめて優しく微笑んで真っ直ぐに俺を見て言った。
「婚約は破棄になった。正確に言うと僕とじゃなくて弟がその女性と代わりに婚約する事になって家も継ぐ事になったんだ」
「何でそんな事になったんだよ?」
「僕が父さんにカミングアウトしたからだ。他に好きな人がいて、その人は男性だってね。そしたら出て行けって追い出されちゃった。車も没収、大学も辞める事になりそう」
困ったように笑うワタルの言う事が信じられなかった。もし本当だったとしたらどうして今更親にカミングアウトするんだよ。もっと言うタイミングあったんじゃないか?
どうして今、それを俺に言うんだよ……
「何勝手な事ばかり言ってんだよっ俺がどんな思いで今までやって来たと思ってるんだよっ」
「うん、だからごめんね?僕もまだ子供だったから自分の言いたい事が言えなかったんだ」
「もう遅いよ……どうしてあの時言ってくれなかったんだよっ」
「雪さん!」
俺がワタルに近寄ろうとした時、ずっと黙って聞いていた冬真が俺の体を押さえて止めた。
冬真と目が合って、咄嗟に逸らしてしまった。
「雪さん、俺を見てください!」
「冬真……ごめん。今余裕無いっ」
「雪さんっ」
「僕はずっとゆっきーの事を好きでいたよ。婚約者がいても、それは形だけだったし、ゆっきーも僕の事を好きでいてくれたんでしょ?」
「雪さんはアンタの事なんかもう忘れてたんだ!もう関わるなよ!」
「えっとー、冬真くん?君に僕とゆっきーの事が分かるとは思えないんだよね。だから少し外してくれないかな?」
冬真が一生懸命に俺を取られまいとしているのが分かった。冬真を傷付けたくない。でも、ワタルの言う事にも惹かれている自分がいた。
「やめろ……二人ともやめろ……」
「雪さんの今の恋人は俺だ!帰ってくれ!」
「ねぇゆっきー、遅い事なんてないよ?だって僕達ずっと一緒だって約束したじゃない♡どんなに離れていても心はずっと一緒でしょ?」
俺は二人に言うけど、まるで聞いてくれない。
ポロッと涙が流れるのが分かった。
「やめてくれ!二人とも出て行け!俺はっ……俺はもう誰も信じないっ!」
二人の言う事に俺の頭は今度こそおかしくなった。ワタルの事は正直まだ好きだった。もちろん冬真の事も好きだ。
ワタルが目の前に現れる度に俺の心は揺れていた。怒りと喜びが入り混じり、側にいると喜びが勝ち、ワタルが立ち去ると怒りだけが残った。
そんな中冬真が現れて側にいてくれて、俺の中のワタルに対する怒りも喜びもなくなっていた。
冬真が俺を救ってくれたんだ。
分かっているんだ。冬真の大切さ、冬真を大事にしなくちゃいけないって分かっているんだけど……
それでも俺はワタルにまた「好き」だと言われて涙が出る程嬉しかったんだ。
だから俺は二人とも切り離す事にした。
もう恋なんかしない。
そうすればこんな思いしなくて済むんだ。
もう誰もいらないんだ。
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