35 / 76
三章
34.ヤケ酒
しおりを挟む俺が出て行けと二人に言ったのにも関わらず、二人は睨み合ってまだそこにいた。
先に目を逸らしたのは冬真だった。俺の方を向いてニコッとして俺の手を握った。
「雪さん、俺言いましたよね?出て行けって言われても出て行かないって♪ずっと一緒ですよ♪」
「冬真、本当ごめん。今一人になりたいんだ」
「ゆっきー、俺家追い出されちゃって行く所ないんだよ~」
「そう、それなら光ちゃんの所にでも行けよ」
「それが光ちゃんに電話繋がらないんだよ~。ねぇお願い!今日だけでも泊めてくれない?」
ワタルは両手を合わせてそんな事を言って来た。光ちゃんが何をしているのかは俺も分からない。今日俺には話してくれない事もあるって分かったばかりだしな。
俺は二人の言う事があまり頭に入って来なかった。一度流れた涙ももう乾いていて、どうでもいいと思っていた。
「今日だけだぞ。寝床はリビングのソファ。そこ以外を使ったらすぐに出てってもらうからな」
「やったー♪お邪魔しまーす♪」
「雪さん!」
俺がワタルが泊まるのを許可すると、冬真に強く名前を呼ばれた。俺はまだ冬真の目を見れずにいた。
「どうして俺の目を見てくれないんですか?雪さん、さっきの事をまだ怒ってるんですか?それなら謝りますっ雪さんの言う事聞きますっだから俺の目を見てくださいっ!」
「ごめん。冬真、お風呂入れよ」
俺は目を合わせる事が出来ずにその場から逃げるようにキッチンへ向かう。ワタルも付いて来た。
冬真に冷たくしたい訳じゃないのに、素直になれないのはワタルがいるせいだ。
本当ならワタルをこの家に上げるべきじゃないんだ。だけど俺は嬉しそうに笑ってこの家にいるワタルを、強く追い出す事が出来なかった。
きっと冬真がいなかったら俺はあの場でワタルに泣きながら抱き付いてたかも知れない。そのままキスしてワタルを求めていたかも知れない。
そんな自分が嫌で冬真の目を見れなかった。
俺とワタルがキッチンにたどり着くと、バスルームの扉が閉まる音が聞こえてしばらくしてシャワーの音も聞こえて来た。
俺はワタルには声を掛けずにワインセラーから赤ワインのボトルを出して、それをグラスに注いだ。
「うえ!?ゆっきーてばワインセラーなんか持ってるの!?僕の知らない間にいろいろ変わってるな~」
「うるさい。話し掛けるな」
部屋の中をキョロキョロして見て回るワタルに冷たく言って、ワインをグイッと飲み干す。本当はこんな風にして飲みたくなかった。
一人で飲む時でもつまみを用意してゆっくり飲むのに。
でも今はそんなのどうでも良かった。俺はもう一杯注いで、それをテーブルに置き、ボトルも横に置いて椅子に座った。
ワタルはニコニコしたまま俺の横の椅子に座って来た。
「ゆっきー♡甘えていいー?」
「ふざけんな。指一本でも触れたら追い出す」
「だってさ~、やっとこうして結ばれるんだよ?ちょっと時間掛かっちゃったけどさ、僕嬉しくて♡」
「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺はお前の事許してなんかないからな?今日泊めるのも玄関の前にずっと居座られそうで近所迷惑だと思ったからだからな?」
「じゃあゆっきーは僕の事嫌いになっちゃったの?」
俺が二杯目のワインに口を付けた所でワタルに聞かれて考えてしまった。嫌いって言えば良かったのに、その言葉が出て来なかった。
どうしてワタルの事を突き放せないんだろう。
やっぱりまだワタルの事を好きだからなのかな……
「ゆっきー?」
「ワタル……」
隣にいるワタルを見ると、少し寂しそうな顔をして見ていた。
そんなワタルを見たら昔ここでワタルと過ごした事を思い出してしまった。
ああ、あの頃は楽しかったな。光ちゃんが用意してくれたこの家に俺とワタルの二人きりで、いつも一緒にくっ付いて過ごしたな。
ここで二人で約束したんだ。ずっと一緒だよって。
「……それなのに、お前はいなくなった。俺を捨てたんだ」
「……あはっ♪何言ってるの、ゆっきーが出て行けって言ったんじゃない?僕はずっと好きでいたし、家を継ぐってなってたけど、それでもゆっきーとは付き合っていくつもりだったよ?あの頃は婚約者とか出て来なかったからね~。でも、ゆっきーはそんな僕が許せなかったんでしょ?」
「そうだよっ!家継ぐって、そんなの俺といられる訳ないじゃんっ」
「そうかな?僕は早かれ遅かれ父さんには言うつもりでいたよ。ただあの頃はまだ高校生だったし、逆らえなかったんだ。いつか言おうと思ってたんだけど、その前にゆっきーに振られちゃったぁ」
「何で今それを言うんだよっ……それに振られたのは俺だっ」
「僕がゆっきーを振る訳ないじゃない。こんなにも愛してるのに♡」
俺は目を潤ませていた。泣くもんかと堪えていたから酷い顔してると思う。
そしたらワタルが俺に腕を伸ばして来て優しく抱き締めた。ダメなのに、振り解かなきゃいけないのに、俺はワタルの腕の中が心地良くてそのまま目を閉じて何年振りかのワタルの温もりを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる