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三章
34.ヤケ酒
しおりを挟む俺が出て行けと二人に言ったのにも関わらず、二人は睨み合ってまだそこにいた。
先に目を逸らしたのは冬真だった。俺の方を向いてニコッとして俺の手を握った。
「雪さん、俺言いましたよね?出て行けって言われても出て行かないって♪ずっと一緒ですよ♪」
「冬真、本当ごめん。今一人になりたいんだ」
「ゆっきー、俺家追い出されちゃって行く所ないんだよ~」
「そう、それなら光ちゃんの所にでも行けよ」
「それが光ちゃんに電話繋がらないんだよ~。ねぇお願い!今日だけでも泊めてくれない?」
ワタルは両手を合わせてそんな事を言って来た。光ちゃんが何をしているのかは俺も分からない。今日俺には話してくれない事もあるって分かったばかりだしな。
俺は二人の言う事があまり頭に入って来なかった。一度流れた涙ももう乾いていて、どうでもいいと思っていた。
「今日だけだぞ。寝床はリビングのソファ。そこ以外を使ったらすぐに出てってもらうからな」
「やったー♪お邪魔しまーす♪」
「雪さん!」
俺がワタルが泊まるのを許可すると、冬真に強く名前を呼ばれた。俺はまだ冬真の目を見れずにいた。
「どうして俺の目を見てくれないんですか?雪さん、さっきの事をまだ怒ってるんですか?それなら謝りますっ雪さんの言う事聞きますっだから俺の目を見てくださいっ!」
「ごめん。冬真、お風呂入れよ」
俺は目を合わせる事が出来ずにその場から逃げるようにキッチンへ向かう。ワタルも付いて来た。
冬真に冷たくしたい訳じゃないのに、素直になれないのはワタルがいるせいだ。
本当ならワタルをこの家に上げるべきじゃないんだ。だけど俺は嬉しそうに笑ってこの家にいるワタルを、強く追い出す事が出来なかった。
きっと冬真がいなかったら俺はあの場でワタルに泣きながら抱き付いてたかも知れない。そのままキスしてワタルを求めていたかも知れない。
そんな自分が嫌で冬真の目を見れなかった。
俺とワタルがキッチンにたどり着くと、バスルームの扉が閉まる音が聞こえてしばらくしてシャワーの音も聞こえて来た。
俺はワタルには声を掛けずにワインセラーから赤ワインのボトルを出して、それをグラスに注いだ。
「うえ!?ゆっきーてばワインセラーなんか持ってるの!?僕の知らない間にいろいろ変わってるな~」
「うるさい。話し掛けるな」
部屋の中をキョロキョロして見て回るワタルに冷たく言って、ワインをグイッと飲み干す。本当はこんな風にして飲みたくなかった。
一人で飲む時でもつまみを用意してゆっくり飲むのに。
でも今はそんなのどうでも良かった。俺はもう一杯注いで、それをテーブルに置き、ボトルも横に置いて椅子に座った。
ワタルはニコニコしたまま俺の横の椅子に座って来た。
「ゆっきー♡甘えていいー?」
「ふざけんな。指一本でも触れたら追い出す」
「だってさ~、やっとこうして結ばれるんだよ?ちょっと時間掛かっちゃったけどさ、僕嬉しくて♡」
「なんか勘違いしてるみたいだけど、俺はお前の事許してなんかないからな?今日泊めるのも玄関の前にずっと居座られそうで近所迷惑だと思ったからだからな?」
「じゃあゆっきーは僕の事嫌いになっちゃったの?」
俺が二杯目のワインに口を付けた所でワタルに聞かれて考えてしまった。嫌いって言えば良かったのに、その言葉が出て来なかった。
どうしてワタルの事を突き放せないんだろう。
やっぱりまだワタルの事を好きだからなのかな……
「ゆっきー?」
「ワタル……」
隣にいるワタルを見ると、少し寂しそうな顔をして見ていた。
そんなワタルを見たら昔ここでワタルと過ごした事を思い出してしまった。
ああ、あの頃は楽しかったな。光ちゃんが用意してくれたこの家に俺とワタルの二人きりで、いつも一緒にくっ付いて過ごしたな。
ここで二人で約束したんだ。ずっと一緒だよって。
「……それなのに、お前はいなくなった。俺を捨てたんだ」
「……あはっ♪何言ってるの、ゆっきーが出て行けって言ったんじゃない?僕はずっと好きでいたし、家を継ぐってなってたけど、それでもゆっきーとは付き合っていくつもりだったよ?あの頃は婚約者とか出て来なかったからね~。でも、ゆっきーはそんな僕が許せなかったんでしょ?」
「そうだよっ!家継ぐって、そんなの俺といられる訳ないじゃんっ」
「そうかな?僕は早かれ遅かれ父さんには言うつもりでいたよ。ただあの頃はまだ高校生だったし、逆らえなかったんだ。いつか言おうと思ってたんだけど、その前にゆっきーに振られちゃったぁ」
「何で今それを言うんだよっ……それに振られたのは俺だっ」
「僕がゆっきーを振る訳ないじゃない。こんなにも愛してるのに♡」
俺は目を潤ませていた。泣くもんかと堪えていたから酷い顔してると思う。
そしたらワタルが俺に腕を伸ばして来て優しく抱き締めた。ダメなのに、振り解かなきゃいけないのに、俺はワタルの腕の中が心地良くてそのまま目を閉じて何年振りかのワタルの温もりを感じていた。
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