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三章
36.就職希望者
しおりを挟む俺と冬真が脱衣所で真剣な話をしている時にいつでもお気楽気分のワタルが普通に入って来た。
「ねぇゆっきー?僕も何か飲みたいんだけど、冷蔵庫の中ジュースないから買いに行かない?」
「行く訳ないだろ。一人で行って来いよ」
「えー、一人とか寂しいじゃん。あ、冬真くん一緒に行こー?」
「え」
「は?」
ワタルは至っていつも通りのニコニコ笑顔で冬真を指名した。冬真は何て答えたらいいのか分からない感じで俺を見てくる。
「お前何企んでるんだ?」
「やだな~。冬真くんと仲良くして欲しいみたいな事言ったのゆっきーじゃん♪だから冬真くん一緒に買い物行こ~♪」
「マジかよ」
「あの、雪さん……俺はどうしたら?」
多分ワタルは何も企んでいない。ワタルはこういう男だ。誰にでも明るく気軽に接する事が出来て、すぐに打ち解けられる柔軟な考えの持ち主だ。
きっとワタルは冬真の事を嫌ってないのは本当だと思う。
俺はため息をついて冬真に言う。
「安心して。ワタルはふざけてないから。あとは冬真の好きにしたらいいよ」
「……じゃあ断ります!」
「えー!何でぇ?冬真くん行こうよ~!」
「雪さんがアンタの事詳しいみたいな言い方したのが嫌だ!」
怒った顔をしてワタルに強く言う冬真。
俺とワタルは一瞬固まってしまったけど、ほぼ同時に笑った。
「あはは♪冬真最高~♪」
「冬真くん面白いじゃん♪何が何でも連れ出してやるぞ~!あ、髪乾かしてあげるよ~♪」
「さ、触るなっ!雪さんも笑わないで下さいっ!」
「あー、おかし~。あ、コンビニ行くならおつまみ買って来てよ」
「かしこまり~♪」
「俺は行きませんよ!雪さんといます!」
俺とワタルは笑っていたけど、冬真だけは真剣だった。
もう二人は放っておいても大丈夫だな。むしろ二人で買い物行かせた方が一人になれて気が楽だ。
どうせ二人ともしっかり帰って来るだろうからな。
俺は冬真の事をワタルに任せて一人でキッチンへ戻って次に飲むお酒を選ぶ。ワインも良いけど、スパークリングの日本酒も好きなんだよね♪冬真にも付き合ってもらお~♪
俺は一度部屋に行きスマホを見る。
あ、光ちゃんから電話来てるじゃん。
すぐに掛け直すけど出なかった。まだ22時とかだし、寝てるって事はないと思うけど何の用だったんだろ?
よく見るとメッセージも入っていた。
「……ん?」
光ちゃんからのメッセージを読んで俺は我が目を疑った。
『急で悪いけど、日曜休み貰う。店は雪と冬真に任せる。何かあったら連絡くれ』
「いきなり新人と二人にさせるとか……」
日曜日か。冬真となら出来なくはないか?
フードは俺が担当して、冬真にドリンクと接客して貰えば回せる気がする。
にしても光ちゃんが休みを貰うなんて珍しいな。今までに予定があって休む事はあったけど、その時は店ごと休みにしてたもんな。
まぁこう言う時の為に冬真を雇ったのもあるし、やってみるか。
俺はメッセージで返事をしておいた。
『了解。なんとかやってみるよ。ところで休む理由は何?』
一応気になるし、副店長として有給取るなら理由も聞かないとな。
すぐに返事が来なくても明日会ったら聞けばいい。俺はスマホを閉じてそのまま手に持ちキッチンへ移動する。
すると、ドライヤーを終えた冬真とワタルがまだ騒いでいた。てかまだコンビニ行ってなかったのかよ。
「あ、ゆっきー!冬真くんが一緒に行ってくれないの!」
「しつこいなぁ!湯冷めするからやだってば!」
「なぁ冬真、日曜なんだけど光ちゃんが休みたいんだって」
まだ行く行かないを言い合ってる二人に俺がスマホを見せて言うと、冬真はニコッと笑った。
「そうなんですね。俺と雪さんの二人って事ですか?」
「そうなるね。冬真にならドリンクは任せても大丈夫だと思うんだけど、いいよな?」
「もちろんです♪俺、頑張りますっ♪」
張り切ってるな~。うん、可愛い♪
俺と冬真の会話を聞いていたワタルは、何かを思い付いたような顔をして入って来た。
「ねぇゆっきー!僕も雇ってよ♪」
「!?」
「何言ってんだ。もう人手は足りてるんだ、これ以上雇うつもりはないよ」
「そ、そうだそうだ!」
「お願ーい!僕大学も辞めちゃうし、仕事探してるの~!週一とか、少しの時間でもいいから!」
元々ワタルも俺と一緒にglowで働くと思っていたから、ワタルがうちのバーで働く事に違和感はなかったけど、店的にもこれ以上人を雇っても仕方ないと思うんだ。光ちゃんなら平気で良いよとか言うだろうけど、雇ったとしても本当に週に数回、もしくは週末の忙しい時間だけとかになりそうだから正直いらないよね。
「ワタル、そう言う事ならちゃんと就職先を探した方がいいよ。うち給料安いし、酔っ払いの相手もしなきゃいけないし、フード始めてから仕込みとかで早めに出勤したり、遅くまで残ったりで結構キツいとこあるよ?」
「全然平気!給料もご飯が食べられるぐらい貰えればいいから♪」
「家を追い出されたなら食費以外にも掛かるだろ。そういうの考えたらちゃんと就職するべきだ」
「え、だってここって家賃光熱費は光ちゃんが払ってるんだろ?」
「そうだけど……ちょっと待て?お前まさか!?」
「僕もこの寮に入りまーす♡三人で仲良くルームシェアしようね~♡」
「俺は反対だ!雪さん!追い出しましょう!」
「そんな事言わないで仲良くしてよ先輩~♪」
「先輩言うな!」
待てよ?何だかんだワタルも冬真も普通にしてるよな?ワタルが楽しそうなのは誰にでもこうだから普通の事なんだけど、冬真も言い返したりして素が出てるよな。俺には取らない態度してて何か新鮮だし。
もしかして二人って相性いいのか?
俺はアルコールのせいで思考回路がおかしくなったのか、ワタルがこの家に住むのも悪くないかもとか思っていた。
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