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三章
38.大人になって分かる事
しおりを挟むリビングに行くと、毛布。体に巻き付けたワタルがソファにちょこんと座っていた。俺を見てニコッとしていた。部屋の電気は消えていて、何だか寂しく見えた。
「寒くないの?暖房付ければいいのに」
「毛布があるから平気~♪」
俺はソファには座らずにキッチン側の壁にもたれてワタルに声を掛ける。ワタルの話を聞いたらすぐに部屋に戻るつもりだ。
「話って何?」
「ゆっきーと僕の話」
「何度も言うけどもう戻らないよ。今の俺には冬真がいるんだ」
「冬真くんって良い子だね!同い年なんだろ?しっかりしていて凄いな~」
「ワタルがガキっぽいだけじゃん」
まぁ、冬真も子供っぽいところはあるけどな。
てかそんな話なら今じゃなくても良くないか?あまり話してると冬真を起こしてしまわないか不安になる。
「ゆっきーはさ、僕がここにいるのは反対?」
「うん。部屋も埋まってるし、ワタルがいる意味が分からないからな」
「ゆっきーの事が好きだからだよ。冬真くんと一緒~」
「はぁ、もう寝るぞ」
「ゆっきー……」
「何だよっ」
ダラダラと大した事ない話をされて俺は少しキツく返すと、毛布から上半身を出したワタルの表情は暗がりだけど薄っすらと見えて、それは寂しそうに見えた。
必死で笑顔を作ろうとしているけど、目を潤ませて今にも泣きそうなワタル。こんなワタル見た事がない……
何でそんな顔してるんだよ。俺は動揺した。
「ちょ、ワタル、何だよ?」
「ゆっきーに冷たくされるのは仕方ないって思うんだ。僕があの時親の言う事を選んでゆっきーを傷付けたから……だからゆっきーが怒ってるのも分かるし、仕方ないって思うんだ……でも、僕がゆっきーを好きな気持ちはあの頃から一つも変わってないんだよ。だからとても後悔している。僕はとても大切なものを失くしたんだって」
「……もう遅いんだよ」
「そうだね。せめて冬真くんが現れる前に行動するべきだったな~。そしたらゆっきーは僕を見てくれたでしょ?」
真っ直ぐに俺の目を見て聞いてくるワタル。
そんなの当たり前だろ。俺だってずっとワタルの事が忘れられなかったんだ。だからずっと怒っていたし、誰とも付き合わずにいたんだ。
でももう遅いんだよ……
「それは分からない。俺もあの頃と変わったんだ。冬真の事は初めは絶対認めないって思ってたけど、今では誰よりも側にいて欲しい人になった。まだほんの数週間しか過ごしてないのにね」
「ゆっきー……」
「…………」
基本的に弟である空と光ちゃんぐらいにしか心から話せる人なんていなかったし、いらないと思っていたけど、実際冬真はその二人とはまた別の意味で大切な人になった。
俺はそう思ったら面白くなって少し笑えた。
そんな俺を見てワタルは泣きそうな顔で言った。電気が点いてないから本当にそうかは分からないけど、薄っすらと見えるワタルの顔は悲しそうだった。
「ゆっきー、本当にごめんね。もうまた付き合ってなんて欲はかかないよ。せめて許して欲しい。ゆっきーとはまた仲良くしたいんだ」
「もういいよ。お互い大人になったんだし、子供の頃の事だからね」
「許してくれるの?」
「許すよ。俺も一方的に決め付けないでもっとワタルの話を聞いていれば良かったかなって思うよ。あの時光ちゃんに叱られたのを思い出した。確か自分の気持ちを押し付けてるって言われたな。今思えばその通りだったよ」
ずっと一緒だって約束したのに、勝手に離れて行くワタルが許せなくて、俺とちゃんと話し合おうとしていたワタルを一方的に突き離していた自分を思い出す。
今でもそういう自分が出る時はあるけど、あの頃よりは柔軟に対応出来てると思うんだ。
俺が思った事を素直に打ち明けると、ワタルは首を横に振っていた。そして声を聞いて泣いてるのがハッキリと分かった。
「本当にゆっきー変わったね……出来る事なら今のままあの頃に戻りたいや……」
あのワタルが泣いている。俺でも初めて見るかも知れない。いつも笑顔で何事にもポジティブな男が、静かに泣いていた。
俺は元恋人であるワタルのそんな姿に、居た堪れなくなりそっと近付く。
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