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四章
42.バイトなんかいらない
しおりを挟む俺の反応に冬真は優しく笑って答えた。
「はい♪自分の彼氏が人気あると嬉しいです♪あ、俺は仕事とプライベートは別だと思っているんですが、雪さんは違いましたか?それならこれからは気を付けます」
「いや、冬真が正しいでしょ」
「プライベートでモテるのはやきもち妬いちゃいますけどね」
「はぁ、今日の俺ラストまで保つかなぁ」
「あの、体調良くないなら光児さんに言って早めに上がらせて貰った方がいいですよ。俺が雪さんの分まで頑張りますから」
体調は寝不足なだけで問題ないんだよ。問題は冬真が可愛い過ぎて保つかなってだけ。
俺はその事を教えずにニコッと笑ってホールに戻った。
ホールでは、光ちゃんがカウンターの顔馴染みの男性客と笑いながら話している姿があった。
俺が見てると目があって普通に呼ばれた。
「どうしたんだよ雪~?怖ぇ顔して~」
「そんな顔してないけど」
「雪くんは相変わらずサッパリしてるね~」
「こうじゃなきゃ光ちゃんの相方は務まりませんから♪」
「さすが夫婦だね~。俺も二人が仲良いの見るのが楽しみの一つなんだよな~」
俺が笑顔で言うと、男はひゅーと口笛を鳴らして茶化してきた。
「夫婦なんかじゃありませんって」
「雪ってば照れてんのかぁ?まだ若いな~」
「光ちゃんに茶化されるのは腹立つ!」
「何でだよっ!可愛くねぇなぁ」
「光児さん、嫁さんはご機嫌ナナメのようだな?」
「ってもいつもの雪っちゃ雪だけどな♪」
俺が嫌な態度を取ってもガハハと笑って客を笑顔にさせる光ちゃん。
本当に光ちゃんのこう言うところは凄いと思うよ。冬真は仕事とプライベートを分けてるように言ってたけど、光ちゃんは逆だ。仕事でもプライベートでも変わらない。こんな風にいつも笑っていて相手を楽しい気持ちにさせてくれる、そんな男なんだ。
そんな光ちゃんが俺は好きでずっと付いて来たけど、最近俺に隠すような言動をするから可愛くない事を言ってしまうんだ。まるで兄に誤魔化されて拗ねる弟みたいな。そんな感じ。
二人が笑うのを見て俺も笑ったけど、完全に営業スマイルになっていた。
「そうだ雪、今日バイトの面接希望の奴来るから」
「は!?何それ!?」
「いきなり連絡あってよ。とりあえず面接だけでもってなった。店閉めた後に俺が対応するからお前と冬真は片付け進めてくれ」
「また新しい子が入るのかい?glowも賑やかになってますます楽しくなるね~」
「いやいや、バイトとかいらないでしょ!光ちゃん何でオーケーしたの!今からでも断りなよ」
「明るそうな奴だったから面接だけでもしてみようかと思ってな♪同じ若い男だから新人の冬真にも良い刺激になるんじゃねぇかと思ってよ~」
別に求人を出してる訳でもないのに、何でこうも立て続けに働きたいって人が現れるの!それにうちの待遇ってそこまで良くないよ!?
もー、ワタルの事も断ったばかりなのに光ちゃんてばなんて事してくれるんだよ。
「冬真に刺激なんていらないだろ。頑張ってるしいろいろ優秀だと思ってる」
「まぁまぁ雪くん、マスターがこう言ってるんだしいいじゃない♪冬真くんも同僚が出来た方がやる気が出るんじゃないの?欲を言えば可愛いお姉ちゃんが良かったけどねぇ」
「何言ってるんですか、男でも女でももう従業員はいりませんっ」
「まだ雇うと決まった訳じゃねぇんだから、そんな怒るなって」
「俺は反対だからな!」
「まったくお前は……」
「はは、雪くんはお店の事を良く考えてるんだね~」
俺が言い切ると、光ちゃんも男の客もやれやれと言った顔をして笑っていた。
やれやれなのはこっちだよ!どう考えてもバイトとかいらないだろ!
勝手過ぎる光ちゃんに怒った後俺は食器やグラスを片付ける為にバックヤードへ戻った。
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