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五章
52.不安で仕方ない
しおりを挟む「ゆっきーさーん、グラス置いておきまーす」
「ああ」
「あ、グラタン出来ます?ついでに持って行きまーす♪」
「ああ……」
「あれれ?ゆっきーさん、怒ってます?何でですかぁ?」
いや、確かにさん付けしてるし、敬語にはなってるよ。でもさ、ワタルに敬語とか使われるとなんか痒くなるって言うか、てか喋り方はそのまんまワタルだから敬語使われてる感じしないって言うか……とにかく、そうしろと命令した俺が慣れないんだ。
「はぁ、怒ってない。ワタル、やっぱ普通に喋っていいよ。なんか痒い」
「あはは!痒いって何ー?お風呂入ってちゃんと洗えてないんじゃなーい?」
「ふざけんな!さっさとグラタン運べ!絶対席間違えんなよ!」
「はーい♪」
はぁ、まだ2日目だし、ちょうど忙しい週末ってのもあるから多めには見たいけど、やっぱり気持ちが焦ってしまうんだ。
光ちゃんがいなくてもやっていかなくちゃ……
早くワタルにもいろいろ覚えてもらわなきゃ冬真の負担が重くなるし、俺だって全て完璧にこなせる訳じゃないんだから。
今までは光ちゃんがいたから、やってこれたんだ。一見光ちゃんは何もしてなさそうだけど、そう思わせるのが上手いだけで俺が困ったりしたらいつもの陽気な感じでサラッとカバーしちゃうんだもん。
俺にはそれは出来ない。
ワタルを叱るように、ただ怒鳴るだけでワタルの為にも店の為にもなってないんだ。
「雪、休憩入れよ」
「光ちゃん……」
俺がキッチンでどうしようかと悩んでいると、光ちゃんが顔を出して言った。
光ちゃんの顔を見たら何だか泣きたくなった。
「おいおい、なんて顔してんだよ」
「だって……思うようにいかなくて……」
つい本音が出てしまい俯くと、光ちゃんがキッチンに入って来てシンクにもたれて俺の横に並んだ。フワッとタバコの匂いがして光ちゃんだと思って涙がポロッと溢れた。
「ワタルにはまだ2日目だって言うのにキツく当たっちゃうし、ミスを上手くカバーしてやる事も出来ないし、こんなんで光ちゃんがいなくなったら本当にやっていけるのかなって……光ちゃんが作り上げたこのglowを守っていけるのかなって、とても不安だよ」
「お前そんな事考えてたのかぁ?馬鹿だなぁ。別に無理に守っていかなくてもいいって。そもそもこの店は俺だけが作り上げたものじゃねぇだろ。雪、お前もいてくれたからここまでやってこれたんだぞ。俺一人でやって来たみてぇな寂しい事言うんじゃねぇよ」
「光ちゃんっ」
俺は堪えきれずに光ちゃんにしがみ付いて泣いた。とても光ちゃんらしい言葉で嬉しい事を言ってくれたからだ。
ああ、光ちゃんいなくならないでよ。
これからもずっと俺とこの店にいてよ。
光ちゃんがいないと俺、嫌だよ。
「雪、何度も言うけどglowはお前にしか任せられねぇよ。冬真でもワタルでもダメだ。ましてやこれから仲間になる奴でもダメ。お前がいないならこの店は畳むつもりだ」
「光ちゃん……それはダメ。俺、glowが好きだから」
「そう言うと思ってたよ。俺も同じだからな」
光ちゃんは冷蔵庫から商品の手作りのチーズケーキを取り出して、生クリームを乗せた後にブルーベリーソースを掛けて、俺に渡して来た。
「ワタルの世話で疲れたんだろ?甘い物でも食って元気出せよ♪」
「美味しそう……」
「このケーキだって元々はうちの店には無かった物だ。お前が女子受けを狙って出したらまさかの人気商品だ。本当にお前は凄いよ。俺だけならバーにケーキなんて考えもしなかったな。今頃客はおっさん達でしんみりした雰囲気だったろうな」
「…………」
「それがお前のアイディアで女子や若者も来てくれるようになった。俺はいろんな世代と話せてとても楽しい思いをさせてもらってるよ。雪、いつもありがとうな♪これからもお前のアイディア楽しみにしてるぞ♪」
俺の頭をガシガシと撫でていつものニカッとした笑顔を向ける光ちゃんは、本当に楽しそうだった。
俺でも光ちゃんの役に立ててたって事なのかな。
光ちゃんは優し過ぎるから、ついその優しい言葉に甘えたくなってしまうよ。
俺はその後、涙を拭いて貰ったチーズケーキを持って机に座る。
一口食べると、ブルーベリーの甘酸っぱい味が口いっぱいに広がって、後からチーズケーキの酸味と濃厚な甘さが来て、思わず笑顔になれた。
うん。我ながら美味い♪
ふふ、今度冬真にも作り方教えてあげよう。
俺は光ちゃんのおかげで元気を取り戻せたから、この後ラストまでワタルの世話をやり遂げる事が出来た。
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