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五章
55.心配だから
しおりを挟む二人が寝付いた頃、俺はベッドの中でさっき冬真が言ってた事を思い出しながらワタルの事を考えていた。
俺の知るワタルはあのままで、いつも明るくて誰からも好かれるような男だ。俺の前ではかなり甘えん坊になるけど、冬真の前では違うのかもな。
俺には言わない事を話してるって知って改めてワタルの事を知っているようで知らなかった自分に少しショックを受けていた。
ふとベッドから出て隣の二人がいる部屋の前に立つ。当たり前だけど中からは物音はしない。
俺、何してるんだろ。
そっとドアノブに手を掛けて、音を立てないようにゆっくり開けて中を覗くと、ベッドには冬真。床に敷いた布団にワタルが寝ていた。
そのまま中に入って布団にいるワタルの隣にしゃがんで寝顔を見てみる。スヤスヤと眠るその顔に俺はホッとしていた。
思ったよりも顔色がいいな。
掛け布団から肩が出てたから掛け直してあげて部屋から出ようとすると、ワタルが寝返りを打った。
「……ゆっきー?」
起こしちゃったか。
俺は「ごめん」と小声で言ってワタルの頭を撫でる。するとワタルは「へへ」と嬉しそうに笑った。
まるであの頃のようで懐かしくて心地良かった。
「どうしたの?眠れないの?」
「ワタルが心配だったんだ」
俺達は寝ている冬真を起こさないように極限まで声を小さくしてコソコソ話した。
ワタルは体を起こして俺を見た。暗がりで見えるワタルの表情はさっきよりも大分良いものに見える。
このまま少しでも休ませようと、俺は部屋から出て行こうとした。
「待って」
ワタルに呼び止められて、ワタルを見ると今度は泣きそうな顔をしていた。
俺は黙って抱き締めてあげた。
「ゆっきー……僕……」
「ゆっくり休みなよ。明日も前半は忙しいよ」
「うん……」
「ワタル」
「……ゆっきー」
ワタルと至近距離で目と目を合わせて向き合う。
そしてそのまま吸い込まれるようにお互い近付いて……
「ってダメだからっ!もー、危ない危ない」
唇が触れるかどうかの所で我に返り、ワタルから離れる。後ろのベッドで眠る冬真の事を思い出して俺は間一髪だったと少し焦った。
そんな俺にワタルはクスクス笑っていた。
「もう少しでしちゃう所だったね~♪」
「ワタルさ、俺の部屋で寝ろよ。ベッド使っていいから」
「え、一緒に寝てくれるの?」
「違う。俺がこっちで寝るの。今日はゆっくり寝た方がいいよ」
「ゆっきーいないならここでいいよ~」
「正直この布団薄くないか?ほぼ床で寝てるのと変わらないじゃん」
ワタルが寝ていた布団を触りながら言うと、笑っていた。せめて体だけでも休めて欲しかったんだ。俺がワタルに出来る事はこれぐらいしかないと思ったから。
俺は冬真と付き合ってるから、抱き締める事がギリギリ出来る限界だ。恋人だったならもっとくっ付いて甘い言葉を掛けたりして心まで癒せただろうけど、今の俺にはそれは出来ないんだ。
それでもワタルの事が心配だったから、俺は自分のベッドを譲ろうと思った。
「ゆっきーは優しいのか優しくないのか分からない時があるよね」
「…………」
「僕はそんなゆっきーも好きだけどね」
「ワタル……」
ワタルは笑顔だったけど、少しだけ寂しそうな顔をしているようにも見えた。
これ以上ワタルにしてやれる事はないし、ずっと側にいたら甘やかしてしまうと思って俺は何も言わずに、部屋から出た。
自分の部屋に戻って一度目を閉じて息を整える。
ごめんなワタル。
冬真も、ごめん……
俺は二人に謝って、自分のベッドから枕を持ち出し再び隣の部屋へ向かう。
俺が戻って来た事にまだ体を起こして起きていたワタルはビクッとして顔を上げた。
暗くて良く分からなかったけど、側に行ってようやく分かった。
あのワタルが泣いていた。
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