恋に臆病なままではいられない

pino

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五章

54.二人と違う自分

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 お風呂から上がると二人がリビングのテーブルに本やノートを広げて熱心に勉強をしていた。他にも家にあるお酒の瓶や缶などが出されていた。


「二人共やってるね~♪」

「ゆっきー!冬真くんがね、明日から僕に仕事の事教えてくれるって♪」


 俺がワタルが書いていたノートの中を覗いて見てると、ワタルは嬉しそうに報告して来た。
 俺はニッコリ笑って頷いてやった。


「そうみたいだな♪ちゃんと言う事聞くんだぞ?」

「うん♪冬真くんて教えるの上手なんだよ♪僕、お酒の事全く分からないけど、話聞いてたら楽しくなっちゃった♪」

「あ、そう。俺教えるの下手だもんねー」

「ゆ、雪っ!そうじゃないからっただ俺とワタルくんは新人同士だから分かり合えるだけで……」

「そこなんだよな~。ゆっきーって上から物を言うじゃん?冬真くんは優しく教えてくれるから好きー♪」

「悪かったな!これが俺だ!」

「あ、ワタルくん、お風呂入って来たら?続きは明日にしよう」

「はーい♪行ってくる!」


 元気に返事をするワタルは、ノートとかを片付け始めた。ここで俺はワタルの異変に気付く。
 多分、相当疲れてるんじゃないか?


「ワタル、大丈夫か?」

「え?何が?」


 リビングを出ようとしていたワタルを俺が呼び止めると、振り返って二コーッと笑って見せた。
 いつも通り明るくしてるけど、俺には分かる。
 ワタルに近付いて頬を軽くつねると顔を歪ませた。


「お前体調悪いんだろ?」

「ゆっきー……」


 無理も無いか。ワタルはつい最近まで普通の大学生だったんだ。それが急に家を出て来て、慣れない場所で生活をして、いきなり深夜遅くまで働く事になり、挙げ句の果てに頼って来た筈の俺にはキツく指導されたなんて……
 ワタルもワタルで疲れが溜まってるんだろうな。


「ワタルくん、大丈夫?全然気付かなくてごめん……」

「やだな~。少し疲れてるだけだよ?でもかなり眠いかも。お風呂入ったらすぐに寝るね~」

「…………」


 冬真に心配されたワタルはいつものように笑ってバスルームへ向かった。
 俺はテーブルの上にあった缶チューハイを開けてそのまま口を付ける。

 これは迂闊だったな。あいつはいつもヘラヘラしてるから分かりづらいけど、結構自分の事は後回しにして溜め込む所があるんだ。

 俺と別れた時だってそうだ。あの時もあいつなりに考えて出した答えだったのに、それに納得出来なかった俺が一方的にキレて、ワタルの言いたい事も聞かずに終わったんだ。

 俺もワタルと離れ過ぎたせいで異変に気付くのに遅れちゃったな。
 今度からはキチンと見てやらないとな。

 俺はふと心配そうな顔をしている冬真を見る。
 二人で話して決めたらしいけど、部屋は新人同士の冬真とワタルの二人で使うらしい。つまり二人は同じ部屋で寝る事になる。


「冬真、悪いんだけど、アイツの事良く見ててあげてくれるか?」

「うん」

「アイツはああ見えて繊細な奴なんだよ。俺なんかよりも遥かにか細くて脆い所があるんだ。優しくて自分の事は二の次にする癖があるから」

「……ワタルくんは、雪の足手まといになるのを恐れているみたいだよ。まずは失った信用を取り戻すって、雪が光児さんの家に行った時に話してくれたんだ」

「足手まといって……はぁ、他の事はうるさいぐらいに主張する癖に肝心な事は言わないんだから」

「俺は、ワタルくんと二人で話をして彼は悪い人じゃないって思ったんだ。だから、雪の元彼でもこうして一緒に暮らせるし、ワタルくんを受け入れられたんだ」

「ありがとう冬真」

「きっとワタルくんは今自分でもどうしたらいいのか分からないんだよね。家族にカミングアウトするって気持ち、俺には良く分かるから」

「…………」

「カミングアウトする前は不安で仕方ないんだ。でも、これ以上隠し続けて生きていくのはもっと不安で辛い。だから大切な家族に打ち明けるんだ。打ち明けた後は更に不安になって震えが止まらないんだ。拒絶された時は、俺は普通じゃないって再確認させられたようで、この先どう生きていけばいいのか分からなくなったよ」

「冬真……」


 冬真の話を聞きながら俺は胸が締め付けられる思いになり、そっと近付いて抱き締めていた。
 冬真のしっかりした体に、俺はホッと安心していた。痣や傷も大分消えてきて、少しずつだけど、俺の前で裸を見せてくれるようにもなっていた。


「きっとワタルくんも同じなんじゃないかって、勝手だけど自分と重ねていたりもするんだ。とてもワタルくんに失礼な事だとは思うけど、どうしても他人事じゃなく感じてしまって」

「うん、そうだね。二人は違う人間だけど、思うものは一緒だね。きっと神様が巡り合わせてくれたのかも。この先もワタルと仲良くしてあげてよ」

「うん。雪はこの先も俺達の事を見ていてね。ずっと側で見てて」


 冬真の話は確かに胸が締め付けられた。
 だけど、冬真には言えないけど羨ましいとも思ったんだ。
 俺にはカミングアウトするような親なんていないから……
 父親は幼い頃に離婚して出てって、母親とは絶縁状態。

 だから、冬真やワタルのように、大切に想って心のどこかで自分を理解してもらいたいと思えるその気持ちがとても羨ましかったんだ。


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