恋に臆病なままではいられない

pino

文字の大きさ
58 / 76
五章

57.俺の不安を取り去る君

しおりを挟む

 店長である光ちゃん不在の営業日、俺は一人いつもより早めに出勤して、気を引き締めて開店作業を始めていた。
 まだお昼前だけど、仕込みやグラス食器類の確認、店内、厨房、バックヤードのクリーンチェック。在庫チェックなど、普段よりも念入りに作業していた。
 光ちゃんからは朝イチでメッセージが来ていた。
『本日は休みいただきます。すみませんが、よろしくお願いします。何かあれば連絡下さい』
 と、光ちゃんらしくない丁寧な物だった。
 多分、自分無しでもやっていけるように光ちゃんなりの配慮だと思う。
 俺はなんだかんだ昔馴染みの光ちゃんに甘えてしまっていたから、それを無くす為だと解釈した。


「……光ちゃんの好きな人ってどんな人なんだろ」


 ふと気になった。定休日に会う予定になってるけど、俺はいつになく緊張していた。
 光ちゃんの事は友達って言うよりも本当の兄として見ていたからかも知れない。

 実の弟である空の好きな人に会う時はこんな気持ちじゃなかったかな。むしろ早く会わせろって感じだった。ああ、あの時は別れさせたくて緊張よりも怒りが多かったからだ。

 今回は怒りよりも戸惑いの方が大きいかな。少し時間が経って認めて来ているのもあるけど、あの光ちゃんが好きって言うんだから本気なんだろう。ホストって点が気になるけど、とりあえず会ってから見極めようと思っていた。

 弟の時もそうだった。初めは弟を傷付けた事に怒りしかなく、ただただ別れさせたい。そう思っていた相手だったけど、話してみたら言う程酷い子じゃなかったんだ。思ったよりもしっかりしていた、いや、あの時たまたまだったのかな?何にせよ今では弟をよろしくと言える相手になったんだ。

 きっと光ちゃんの好きな人にもそんな風に思えるかな。そう思いたい、じゃなきゃ2号店が出来た時に笑顔でいられるかは分からないから。

 俺が入口近くにあるコーヒーマシーンで淹れたコーヒーをチェックしてると、ドアが開いてカランカランという音と共に二人の男が入って来た。
 その二人を見て頬が綻ぶ。

 仕事用のワイシャツ姿の冬真とワタルの出勤だった。


「ゆっきーおはよ~♪」

「おはようございます……」

「二人共おはよ♪」


 いつも通り元気いっぱいなワタルに対して冬真の表情は暗く、声も元気が無かった。
 さっさとバックヤードに入って行くワタルだったけど、冬真はそのまま立ち尽くして俺をジーッと見ているだけだった。

 冬真とワタルには家の事をやってから来るように言ってあったんだ。だけど、冬真は朝から不機嫌だった。それは俺がワタルと同じ布団で寝ていたからなんだ。
 俺も冬真は嫌な思いするって分かってたけど、あのまま眠り続け、朝ワタルに抱き締められながら目覚めたんだ。


「冬真、ごめんって」

「別に怒ってません」


 そうは言うけど、顔は見て分かるぐらいに怒ってるじゃん。既に仕事モードらしく敬語だし。
 俺はコーヒーマシーンのチェックをした後に、冬真に一杯用意したあげた。冬真はブラックだ。


「これでも飲んでリラックスして♪」

「…………」

「冬真~」

「本当に何も無かったんですよね?」

「無いってば~。冬真も昨日言ってただろ?俺達の事を見ていてって。ワタルは相当疲れてるみたいだったから様子見てただけ」

「……信じます。あと、ワタルくんが辛い時はなら許します。なら」


 最後にニコッと笑ってくれたけど、あの言い方だとワタルにキスされたのバレたか?
 それとも俺の考え過ぎで、ただ俺に釘を刺しただけか。今はそう思う事にしておこう。

 嫌がりながらも俺がワタルを甘やかす事は許してくれたみたいだからな。

 俺が淹れたコーヒーを一気に飲み干した後、「ご馳走様です」とバックヤードに向かおうとする冬真の腕を引いて、俺は頬にキスをする。


「冬真、ありがとう♡」

「雪……ワタルくんより俺の方が雪を好きだからっそれだけは忘れないでっ」

「うん♡俺も冬真が大好き♡」


 照れる冬真が愛おしくて自然と笑顔になれた。
 
 この時まで俺は、今日一日が不安でいっぱいだったけど、多分大丈夫だと妙な自信が出て来て、その後も機嫌良く開店準備に取り掛かる事が出来た。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...