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五章
57.俺の不安を取り去る君
しおりを挟む店長である光ちゃん不在の営業日、俺は一人いつもより早めに出勤して、気を引き締めて開店作業を始めていた。
まだお昼前だけど、仕込みやグラス食器類の確認、店内、厨房、バックヤードのクリーンチェック。在庫チェックなど、普段よりも念入りに作業していた。
光ちゃんからは朝イチでメッセージが来ていた。
『本日は休みいただきます。すみませんが、よろしくお願いします。何かあれば連絡下さい』
と、光ちゃんらしくない丁寧な物だった。
多分、自分無しでもやっていけるように光ちゃんなりの配慮だと思う。
俺はなんだかんだ昔馴染みの光ちゃんに甘えてしまっていたから、それを無くす為だと解釈した。
「……光ちゃんの好きな人ってどんな人なんだろ」
ふと気になった。定休日に会う予定になってるけど、俺はいつになく緊張していた。
光ちゃんの事は友達って言うよりも本当の兄として見ていたからかも知れない。
実の弟である空の好きな人に会う時はこんな気持ちじゃなかったかな。むしろ早く会わせろって感じだった。ああ、あの時は別れさせたくて緊張よりも怒りが多かったからだ。
今回は怒りよりも戸惑いの方が大きいかな。少し時間が経って認めて来ているのもあるけど、あの光ちゃんが好きって言うんだから本気なんだろう。ホストって点が気になるけど、とりあえず会ってから見極めようと思っていた。
弟の時もそうだった。初めは弟を傷付けた事に怒りしかなく、ただただ別れさせたい。そう思っていた相手だったけど、話してみたら言う程酷い子じゃなかったんだ。思ったよりもしっかりしていた、いや、あの時たまたまだったのかな?何にせよ今では弟をよろしくと言える相手になったんだ。
きっと光ちゃんの好きな人にもそんな風に思えるかな。そう思いたい、じゃなきゃ2号店が出来た時に笑顔でいられるかは分からないから。
俺が入口近くにあるコーヒーマシーンで淹れたコーヒーをチェックしてると、ドアが開いてカランカランという音と共に二人の男が入って来た。
その二人を見て頬が綻ぶ。
仕事用のワイシャツ姿の冬真とワタルの出勤だった。
「ゆっきーおはよ~♪」
「おはようございます……」
「二人共おはよ♪」
いつも通り元気いっぱいなワタルに対して冬真の表情は暗く、声も元気が無かった。
さっさとバックヤードに入って行くワタルだったけど、冬真はそのまま立ち尽くして俺をジーッと見ているだけだった。
冬真とワタルには家の事をやってから来るように言ってあったんだ。だけど、冬真は朝から不機嫌だった。それは俺がワタルと同じ布団で寝ていたからなんだ。
俺も冬真は嫌な思いするって分かってたけど、あのまま眠り続け、朝ワタルに抱き締められながら目覚めたんだ。
「冬真、ごめんって」
「別に怒ってません」
そうは言うけど、顔は見て分かるぐらいに怒ってるじゃん。既に仕事モードらしく敬語だし。
俺はコーヒーマシーンのチェックをした後に、冬真に一杯用意したあげた。冬真はブラックだ。
「これでも飲んでリラックスして♪」
「…………」
「冬真~」
「本当に何も無かったんですよね?」
「無いってば~。冬真も昨日言ってただろ?俺達の事を見ていてって。ワタルは相当疲れてるみたいだったから様子見てただけ」
「……信じます。あと、ワタルくんが辛い時は添い寝までなら許します。添い寝までなら」
最後にニコッと笑ってくれたけど、あの言い方だとワタルにキスされたのバレたか?
それとも俺の考え過ぎで、ただ俺に釘を刺しただけか。今はそう思う事にしておこう。
嫌がりながらも俺がワタルを甘やかす事は許してくれたみたいだからな。
俺が淹れたコーヒーを一気に飲み干した後、「ご馳走様です」とバックヤードに向かおうとする冬真の腕を引いて、俺は頬にキスをする。
「冬真、ありがとう♡」
「雪……ワタルくんより俺の方が雪を好きだからっそれだけは忘れないでっ」
「うん♡俺も冬真が大好き♡」
照れる冬真が愛おしくて自然と笑顔になれた。
この時まで俺は、今日一日が不安でいっぱいだったけど、多分大丈夫だと妙な自信が出て来て、その後も機嫌良く開店準備に取り掛かる事が出来た。
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