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五章
62.また繰り返す
しおりを挟む『俺が悪かった。戻って来て欲しい』
『今どこにいるんだ?心配だから返信してくれ』
『冬真がいなくなって気付いた。俺には君が必要なんだ』
『連絡をくれ』
『冬真に会いたい』
『また君を抱き締めて愛し合いたいよ』
暴力クズ野郎改め、「マナト」からのメッセージはこんな感じのが、ひたすらズラッと並んでいた。
遡ると冬真が店に来て、俺と会った次の日から毎日のように来てたみたいで、俺はうんざりした気持ちになった。
どうしてもっと早く教えてくれなかったんだよ……
「はぁ、吐きそう……」
「雪……」
「本当は冬真を責めて追い出したいんだ。今すぐにね」
「…………」
俺の言う事に表情を強張らせて言葉を失っている冬真。
本当はって言うか、いつもの俺ならそうしてるから。自分が気に入らなければ、相手の意見も聞かずに捲し立ててそのまま自分の中から追い出していた。
でも今は我慢する。
今度はちゃんと向き合ってみようと思っている。
「まずさー、元彼って何だよ?こっち来て頼れる人いないから世話になっただけじゃねぇのかよ?」
もう俺に嘘は吐かないと約束をした冬真だ。
ちゃんと納得いく説明をしなければサヨナラだぞ。
「俺は付き合っていると思ってたんだ。だけど、途中から利用されてるだけだって分かって、それで……」
「全然納得出来ない」
「結果的に付き合ってはいなかった。だけど、俺は一度でも愛していたから元彼って言ったんだ……初めに言わなくてごめん……」
「冬真の片想いだったって訳ね。それなら今からでも戻れば?読んだ限りではマナトさんも心入れ替えたみたいじゃん?失ってから気付くなんてよっぽどの間抜けだと思うけど、必要としてくれてるみたいだし」
「戻らない!俺はずっと雪といる!」
「だったら何でブロックしないんだよ!既読だけ付けて、マナトだって期待するだろ!」
「……ごめん」
「謝るしか出来ないなら話は終わり。俺仕事行く準備するから。ご馳走様」
俺が大きな声を出すと、俯いて黙ったから朝食をほとんど残して俺は席を立つ。
やっぱり俺は気が短いみたいだ。このまま話していたら冷静に聞いてられないよ。
まだ時間に余裕があるけど、今日は早めに家を出よう。そして光ちゃんに愚痴でも聞いてもらおう。
自分の部屋へ向かおうと廊下に出ると、二人の部屋から寝癖を付けたワタルが顔を出して俺の方を見ていた。
「ゆっきー」
「何だよ」
「また繰り返すのー?」
「はぁ?」
「僕の時みたいに、冬真くんを追い出すの?」
「お前に関係ないだろ」
「そうだけど、もしまたあの時みたいに冬真くんを追い出したらゆっきーは泣くと思うから、僕は泣いてるゆっきーを見たくないんだ」
「泣くかよっあの時みたいに子供じゃないんだからっ」
「うーん、大切な人がいなくなって悲しくなるのは子供も大人も同じなんじゃないかな?」
「うるさい!お前も一緒に追い出すからな!」
「えー!とばっちりやめてよ~!もー僕は口出ししませんよ~!」
慌てて部屋に入ってバタンッとドアを閉めるワタル。
ワタルの言う事は正しいよ。一度俺もワタルも後悔しているからこそ、ああやって言ってくれたんだと思うんだ。
だから俺が悪いんだ。
冬真の話をちゃんと聞いてやれない俺が悪いんだ。
いつも自分の意見を押し付けてばかりで、本当に大切なものを傷付けてばかりいる。
ワタルの時も、しっかり話を聞いていれば別れずに、今でも二人で笑っていたのかも知れない。
弟の時も、俺が置いて出て行かずに向き合っていれば、グレずに済んだのかも知れない。
母親の時も、無かった事にするんじゃなくて、俺が説得していれば少しはマシな関係になっていたかも知れない。
光ちゃんの時も、もっと大人になって店の事、好きな人の事を認めていれば光ちゃんを困らせずに済んだのかも知れない。
そして冬真の事も……
ずっと分かっていたんだ、だけど相手を傷付ける事でしか自分を守れない。そんな弱い自分を認めたくなくて強がりばかりを言っていた。
そうでもしなきゃ俺は俺でなくなるから。
弱い所を見せないように。
嫌いな物とは関わらないように。
全てから目を背けていた俺を、それでも好きだと言ってくれた大切な人をこれ以上傷付けたくない。
本当に出て行かなくちゃいけないのは冬真でもワタルでもない。
俺だ。
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