恋に臆病なままではいられない

pino

文字の大きさ
63 / 76
五章

62.また繰り返す

しおりを挟む

『俺が悪かった。戻って来て欲しい』
『今どこにいるんだ?心配だから返信してくれ』
『冬真がいなくなって気付いた。俺には君が必要なんだ』
『連絡をくれ』
『冬真に会いたい』
『また君を抱き締めて愛し合いたいよ』

 暴力クズ野郎改め、「マナト」からのメッセージはこんな感じのが、ひたすらズラッと並んでいた。
 遡ると冬真が店に来て、俺と会った次の日から毎日のように来てたみたいで、俺はうんざりした気持ちになった。

 どうしてもっと早く教えてくれなかったんだよ……


「はぁ、吐きそう……」

「雪……」

「本当は冬真を責めて追い出したいんだ。今すぐにね」

「…………」


 俺の言う事に表情を強張らせて言葉を失っている冬真。
 本当はって言うか、いつもの俺ならそうしてるから。自分が気に入らなければ、相手の意見も聞かずに捲し立ててそのまま自分の中から追い出していた。

 でも今は我慢する。
 今度はちゃんと向き合ってみようと思っている。


「まずさー、元彼って何だよ?こっち来て頼れる人いないから世話になっただけじゃねぇのかよ?」


 もう俺に嘘は吐かないと約束をした冬真だ。
 ちゃんと納得いく説明をしなければサヨナラだぞ。


「俺は付き合っていると思ってたんだ。だけど、途中から利用されてるだけだって分かって、それで……」

「全然納得出来ない」

「結果的に付き合ってはいなかった。だけど、俺は一度でも愛していたから元彼って言ったんだ……初めに言わなくてごめん……」

「冬真の片想いだったって訳ね。それなら今からでも戻れば?読んだ限りではマナトさんも心入れ替えたみたいじゃん?失ってから気付くなんてよっぽどの間抜けだと思うけど、必要としてくれてるみたいだし」

「戻らない!俺はずっと雪といる!」

「だったら何でブロックしないんだよ!既読だけ付けて、マナトだって期待するだろ!」

「……ごめん」

「謝るしか出来ないなら話は終わり。俺仕事行く準備するから。ご馳走様」


 俺が大きな声を出すと、俯いて黙ったから朝食をほとんど残して俺は席を立つ。

 やっぱり俺は気が短いみたいだ。このまま話していたら冷静に聞いてられないよ。
 まだ時間に余裕があるけど、今日は早めに家を出よう。そして光ちゃんに愚痴でも聞いてもらおう。

 自分の部屋へ向かおうと廊下に出ると、二人の部屋から寝癖を付けたワタルが顔を出して俺の方を見ていた。


「ゆっきー」

「何だよ」

「また繰り返すのー?」

「はぁ?」

「僕の時みたいに、冬真くんを追い出すの?」

「お前に関係ないだろ」

「そうだけど、もしまたあの時みたいに冬真くんを追い出したらゆっきーは泣くと思うから、僕は泣いてるゆっきーを見たくないんだ」

「泣くかよっあの時みたいに子供じゃないんだからっ」

「うーん、大切な人がいなくなって悲しくなるのは子供も大人も同じなんじゃないかな?」

「うるさい!お前も一緒に追い出すからな!」

「えー!とばっちりやめてよ~!もー僕は口出ししませんよ~!」


 慌てて部屋に入ってバタンッとドアを閉めるワタル。
 ワタルの言う事は正しいよ。一度俺もワタルも後悔しているからこそ、ああやって言ってくれたんだと思うんだ。

 だから俺が悪いんだ。
 冬真の話をちゃんと聞いてやれない俺が悪いんだ。
 いつも自分の意見を押し付けてばかりで、本当に大切なものを傷付けてばかりいる。
 
 ワタルの時も、しっかり話を聞いていれば別れずに、今でも二人で笑っていたのかも知れない。
 弟の時も、俺が置いて出て行かずに向き合っていれば、グレずに済んだのかも知れない。
 母親の時も、無かった事にするんじゃなくて、俺が説得していれば少しはマシな関係になっていたかも知れない。
 光ちゃんの時も、もっと大人になって店の事、好きな人の事を認めていれば光ちゃんを困らせずに済んだのかも知れない。
 そして冬真の事も……

 ずっと分かっていたんだ、だけど相手を傷付ける事でしか自分を守れない。そんな弱い自分を認めたくなくて強がりばかりを言っていた。
 そうでもしなきゃ俺は俺でなくなるから。

 弱い所を見せないように。
 嫌いな物とは関わらないように。

 全てから目を背けていた俺を、それでも好きだと言ってくれた大切な人をこれ以上傷付けたくない。

 本当に出て行かなくちゃいけないのは冬真でもワタルでもない。

 俺だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...