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「あ、あの...そ、それは望外の喜びですが...ほ、本当にそれでよろしいのでしょうか...」

 ファリスとしては信じられないという思いに駆られたのも無理はない。王妃候補から失格になったり、王族に危害を加えようとしたことに対する厳罰に処されたりすることもなく、全てがなかったことにしようと言われたのだ。

 これで「はい、そうですね」と言えるほどファリスは厚顔無恥でも傲岸不遜でもなかった。 

「あぁ、構わない。なぜならファリス嬢には良いヒントを貰ったからな」

「ひ、ヒントですか!?」

 ファリスは首を捻った。

「ヒントというよりアイデアかな? ファリス嬢、さっき言ってただろ? 僕と二人っきりで会う機会を作って欲しいと?」

「え、えぇ...た、確かにそう言いましたが...」

 ただそれは、媚薬を確実に飲ますために、ミハエルの気を逸らすための方便みたいなものであって、ファリスとしても特に他意があった発言という訳ではなかったのだ。

「そいつを採用してみようと思う」

「さ、採用ですか!?」

「あぁ、これもさっきファリス嬢が言っていた通り、本合宿中の新たな命題として僕との個人面談を設けようと思う」

「は、ハァ...そ、そうなんですか...」

 ファリスとしては思いもしなかった展開に驚き、ただただ曖昧に頷くことしか出来なかった。

「このアイデアを思い付いたことと引き換えに、今回の件を不問にすると言ってるんだ」

「あ、ありがとうございます?」

 動転しているファリスは無意識に疑問形になっていた。

「なんで疑問形なんだよ?」

 するとそれをすかさずミハエルに突っ込まれた。

「あっ! も、申し訳ございません! お、思わず口がポロッと!」

「まぁいい。とにかくそういうことだ。これから他の候補者達にも伝えるからそのつもりでいてくれ」

「わ、分かりました...」

 色々と腑に落ちない部分はあったにせよ、自分の方に明らかな非がある以上、ファリスとしては素直に従うしかなかった。

「あ、あの...殿下...ひ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 だがそれでも、ファリスにはどうしても聞いておきたい気になっていることがあった。

「なんだ?」

「わ、私の犯した罪はそんな程度で相殺されるほど軽いものじゃないと思うんですが...」

「あぁ、確かにそうだよな。釣り合わないよな。もっと他になにか対価が必要になるよな」

 ミハエルはあっさりと認めた。

「た、対価とは!?」

 やっぱりそうか。一体自分になにを求めて来るつもりなんだろうか? ファリスは戦慄しながらミハエルの次の言葉を待った。
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