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第29話 ちみっこと夏休み その9

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 認定試験のダンジョンをクリアした。


 スケルトンキングが消滅したことで、スケルトン兵士も同時に消え失せた。すると玉座に転移魔法陣が現れる。ホッとした様子のシルベスターが近付こうとする。でもそうはさせじとアタシはシルベスターの襟首を掴んで止める。

「誰が転移で戻るって言った?」

「えっ? だ、だってクリアしたんだし...」

「せっかくだし、苦手を克服しようか」

 アタシはニッコリと微笑んだ。多分、悪い顔してたと思う。

「帰りはシルベスターとアリシアが前衛ね」

「「ヒィィィッッッ」」

 二人の悲鳴がキレイに重なった。


「ほらスライ、ちゃんと前見て!」

「無理無理無理~!」

「アリシア、さっさと行け!」

「気持ち悪いよ~! 触りたくないよ~!」

 二人のケツを叩きながら進む。

「ミナって案外スパルタだったんだな...」

 二人の撃ち漏らした敵を燃やしながら殿下が言う。

「そりゃそうですよ。みんなの命に関わることですからね。とっとと克服して貰わないと」

「克服する前にトラウマにならないといいが...」

「ミナさんのスパルタの方がトラウマになりそうですわよね...」

 そこの二人、五月蝿いよ! アタシだって好きで鬼軍曹やってんじゃないんだから! 二人の為、ひいてはみんなの為なんだよ!


 その後の二人は、少しずつではあるけど、アタシが叱咤激励しなくても敵に相対するようになっていった。少しは効果があったかな。まぁ、ダンジョン出る頃には二人とも疲労困憊の様子だったけど。

「お疲れ様でした。ダンジョンをクリアしたとのことで、こちらが認定証になります。ギルドに戻ったら受付に提出して下さい。それで晴れてCランクの仲間入りです」

 ダンジョンを出た所で先程のギルド職員さんが認定証を手渡してくれた。

「あぁ、ありがとう。では帰るか。みんなお疲れ様。まあなんだその...帰ったら反省会だな」

 殿下の言葉に問題児二名がブルッと震えた。当然だ。ミッチリと反省会するよ!


◇◇◇


 ギルドに戻るとヒルダさんが出迎えてくれた。

「お帰りなさい。結構時間が掛かったみたいだけど大丈夫だった?」

「あぁ、問題無い。これが認定証だ」

「確かに。これであなた達はCランク...と言いたい所だけど...」

 ヒルダさんが言い淀む。

「何か問題でも?」

「いえ、そうじゃなくて、ギルマスとも相談したんだけどね、あなた達は特例としてBランクからスタートさせることにしたわ」

「え? いいのか? 特別扱いはしないんじゃなかったか?」

「だから特例よ。他の冒険者には内緒にしてね?」

「あぁ、分かった。そっちがそれでいいなら」

「ドラゴンを倒す程の実力者なんだもの。もうAランクからのスタートでもいいんじゃないか? って声も上がったくらいだったのよ。まぁ、さすがにそれはマズいだろって話になったんだけどね。という訳で、はいこれ、Bランクの冒険者カードよ。失くさないよう大事にしてね」 

 アタシ達全員にシルバーのカードが配られた。ちなみに色付きになるのCランクからで、それまでは無地らしい。Cランクがブロンズ、Bランクがシルバー、Aランクがゴールドとランクが上がる毎に色が変わる。Sランクになると虹色なんだとか。ナニソレ見てみたい。

「それと預かった魔石の鑑定なんだけどね...リザードマンの魔石は一個50万ペイル、ミノタウロスが一個100万ペイル、ここまではいいんだけど...まぁ、市場価格っていうか、珍しい魔石だけど過去に流通したことはあるっていうか、ただ問題はね...」

「レッドドラゴンの魔石か?」

「えぇ、過去に遡って調べてみたんだけど、ドラゴンの魔石は最低でも5000万ペイルは下らないの」

 5000万ペイル!? その数字を聞いてアタシ達は騒めく。だってそれだけありゃ王都に立派な家を1軒建てられるんじゃないかな? 良く知らんけど。

「それのなにが問題なんだ?」

「大きさよ。過去に取引されたドラゴンの魔石は、どれもあそこまで大きくなかったの。せいぜいあれの半分の大きさなのよ。だからそれを鑑み、今回は一億ペイルでどうかしら?」

 い、一億ペイル~!? 最早だんだんと現実味が薄れてきたぞ...どうかしらって言われても正直分からん! だから殿下にお任せ! 丸投げともいう。アタシ達の顔を見て色々察した殿下は、

「分かった。それでいい」

「そう、良かったわ...」

 ヒルダさんがホッと胸を撫で下ろす。

「それじゃ金額を6等分してあなた達のカードに」

「ちょっと待って下さい」

 アタシはそこで口を挟んだ。

「殿下、これは私達の活動資金の方にプールしませんか?」

 正直、そんな大金をいきなり貰っても扱いに困ると思った。だからみんなの顔を見渡しながらそう言ったんだけど、みんなも頷いているから同じ気持ちだったんだと思う。

「ミナがそう言うなら。お前達もそれでいいか?」

 全員が頷いたのを見た殿下は、懐からゴールドのカードを取り出してヒルダさんに告げた。

「このカードに全額振り込んでくれ」

「分かったわ」

 こうして冒険者ギルドでの初日は恙無く終わった。


◇◇◇


「さて、反省会です」

 今、アタシ達は冒険者ギルドの近くにあるカフェに来ている。夕食にはまだ少し早い時間なので、ケーキなど甘い物をつまみながら今日の疲れを癒してるところだ。一息入れたところで徐に切り出す。

「言うまでもありませんが、我々はアンデッド系に弱点があることを露呈してしまいました。これは今後の戦いを見据える上でも非常に由々しき事態であると言えます」
  
 アタシはそこで一旦言葉を切ってみんなを見渡す。アリシアとシルベスターが俯いている。

「もし闇の眷族がアンデッド系の攻撃を仕掛けてきたら、今のままでは苦戦することが必至でしょう。そこで今後の活動方針としては、アンデッド系の依頼を片っ端から受けて、経験値というか耐性値を上げていきたいと思いますが如何でしょうか?」

 青い顔してる二人を無視して強化案を提示する。

「う~ん...その方針に異存は無いんだが...すまん、王族としての公務を蔑ろには出来んから、全てには付き合えんかも知れん...」

「申し訳ありません。私も王子妃教育がありますので、全てに参加するのは無理かも知れませんわ...」

 殿下とシャロン様が申し訳無さそうに言う。あぁ、確かにそうだよねぇ。ウチらは夏休みでも王族のお二方はなにかと忙しいのは当然か。

「分かりました。では、依頼内容によってお二人が参加出来ない場合、マリー、申し訳ないけどまたあなたに入って貰ってもいいかしら?」

「ミナお嬢様のお心のままに」

「ありがとう。みんなも都合の悪い時は早目に言ってね?」

 全員が頷いたので今日はここで解散となった。


◇◇◇


 そして数日後、アタシ達はギルドで依頼を受け、王都から馬車で1日掛けて、とある村にやって来ていた。なんでもこの村の外れにある洞窟にアンデッドが住み着いたという。そのアンデッドを討伐して欲しいという依頼だ。

 残念ながら殿下とシャロン様は予定が合わなくて不参加だ。代わりに今日もマリーが一緒に戦ってくれる。火力に不安はあるが、そこはシルベスターに頑張って貰おう。なにせウチらが冒険者になって初の任務だからね。気合い入れないと!

 アタシ達は村に入り、依頼を出した村長さんに話を聞いた。どうやらゾンビやグールといった腐った系のモンスターが出るらしい。村人も何人か犠牲になっているとのこと。

 物理攻撃が効く相手なら何とかなるだろうと高を括ったアタシ達は、早速村の外れの洞窟に向かった。

 その見通しが甘かったことを思い知るのはすぐ後のことだった...
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