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第46話 ちみっこと水竜の卵 その2

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 学園では間近に迫った学園祭の話題で持ち切りだった。


 ウチのクラスは模擬店をやるらしい。いつ決まったのかと思ったら、アタシ達が放課後に魔法訓練をしてる時だとか。酷いな。そういうのは普通HRで決めるだろ。しかもアニマル喫茶だそうな。いくら乙女ゲームの世界とは言え、日本観を出し過ぎだろう。誰だ? こんな案を出したヤツは?

「それは私達よ~」

「やっぱり時代はアニマルだよ~」

「ケモ耳娘いいよね~」

「萌え萌えだよね~」

 久し振りに出やがったな、スットコ四人組め。校外学習以来か? どうでもいいが人の心読むな! まぁ、二度と呼ぶことは無いだろうけど、せっかくだから名前で呼んでやる。

 上から、アン、ドゥ、トロワ、クワトロ、お前らはこれで十分だ。異論は認めん!

「ミナちゃんの衣装、今から楽しみだね~」

「衣装班、気合い入ってたよ~」

「猫がいい~」

「犬がいい~」

「うぉいっ! 私も着るのかよっ!」

 聞いてねぇよ!

「そりゃ当然でしょ~」

「寧ろミナちゃんの為の企画だし~」 

「看板猫だね~」

「看板犬だよ~」

「絶対着ないからなぁ~!」

 冗談じゃ無い。これ以上属性を増やしてなるもんか!


◇◇◇


 その日、ヒルダさんから呼び出しがあった。また指名依頼だろうか? 放課後になってからアタシ達はギルドに向かった。

「良く来てくれたわね...座って頂戴...」

 なんだかヒルダさん、疲れてるようだ。なんかあったのかな?

「また指名依頼か?」

「いえ、そうじゃないんだけど...ギルドとして断り辛い依頼っていうか...貴族が絡んでるのよ」

 全員が「あぁ...」と納得した。いくらギルドが国家という枠組みから外れた独立機関であるとは言っても、その国に根を下ろす以上、どうしたって柵からは逃れられないだろう。相手が高位貴族だったりしたら尚更だ。

「貴族の名前は?」

「デリンジャー公爵...」

「チッ! よりによってあの家かよ...」

 殿下が舌打ちし、シャロン様、エリオット、シルベスターが揃って渋い顔をする。アタシとアリシアだけが蚊帳の外だ。それに気付いた殿下が説明してくれる。

「デリンジャー家ってのは元々、王族が臣籍降下する為の受け皿として興された家でな。歴代の王弟、王女が婿入りしたり嫁入りしたりしてる。今の当主は俺の伯父貴にあたる。要は名門中の名門で発言力も高いって訳だ」

「なるほど、聞けば聞く程凄い家なんだってのは良く分かりましたが、何故舌打ち?」

「厄介事しか持ち込んで来ないからだ」

 それは...確かに舌打ちしたくなるわな...

「まさにその通り。そのデリンジャー家のバカ息子...もとい子息が消息不明になったのよ。それを探して欲しいって依頼が来てね..」

 今ヒルダさん、バカって言った。よっぽど腹に据えかねてるんだね。

「あぁ、あれか。バカ息子で合ってるぞ。あんなヤツ放っといていいんじゃないか? 居なくなった方が世の為人の為だぞ?」

 殿下にとっては従兄弟にあたるはずの人なのにこの言い様。よっぽど嫌なヤツなんだね。

「そう出来ればいいんだけどね...どうもウチのギルマスに圧力掛けて来たみたいなのよ。それで断り切れなくて...」

「全く...ロクなことしねぇな...それでどんな内容なんだ?」

「引き受けてくれるの!?」

「話を聞いてからだ」

「そ、そうよね、ゴメンなさい...」

 ヒルダさん、相当焦ってるみたいだ。無理もないが。

「デリンジャー家の子息、ハイド氏が消息を絶ったのは大湿原『アルデバラン』目的は水竜の卵を探すこと。消息を絶ったのが三日前だそうよ」

「もしかして、ギルドの依頼ボードを見たのか?」

「えぇ、彼、一応冒険者登録はしてるから。Fランクだけどね」

「それじゃそもそも依頼を受けられないだろ? あの依頼はBランク以上を指名したはずだ」

 そう、昨日アタシらが見てたのは、Bランク以上を指名したボードだった。

「そう言ったんだけど...依頼書を強引に持って行っちゃったのよ『こういう依頼こそ俺様に相応しい』とかなんとか言って...」

「...やっぱり放置でいいんじゃないか?」

 うん、アタシもそう思うよ...




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