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「えっ!? 今なんて!?」

 ある日、サブリナは婚約者である子爵令息のグレイから衝撃の告白を受けた。

「いやだからね、僕は君の妹のコリンナと付き合うことにしたって言ったんだよ。ついては君との婚約を破棄したい」

 約束も無く急に訪ねて来たと思ったら、いきなりなにを言い出すんだコイツは? サブリナは頭が痛くなって来た。

「あなた本気、いや正気で言ってんの!?」

「もちろん、本気だし正気だよ。済まないね、サブリナ。僕はコリンナを愛してしまったんだ」

「ハァ...」

 サブリナはため息を吐くしかなかった。

「後悔しないのね?」

「無論だ」

 まるで自分に酔っているかのようなグレイの表情を見て、これはもうなにを言っても無駄だとサブリナは判断した。

「あなたのお家は認めているの?」

「いや、まだ言ってない。これから言うつもりだ。でも説得できる自信はあるよ」

 グレイはこう言ってるが、恐らく難しいだろうとサブリナは思っている。なぜならグレイの子爵家は厳格なことで有名な一族だからだ。

 こんな義理を欠いた行為を到底認めるはず無いと思う。だがそのことをグレイに伝えるつもりは無い。裏切ったのはそっちだ。せいぜい痛い目見るがいい。

「話は良く分かったわ。婚約破棄を受け入れましょう。妹にも確認しておきたいんだけど、ウチのおバカな妹は今日どっかに出掛けているのよね」

「ありがとう、サブリナ。あぁ、コリンナの居場所は知ってるよ。ハリーの家だ。僕と同じように婚約破棄を告げに行ったんだ」

「そうなのね...」

 ハリーとは妹コリンナの婚約者だ。グレイと同じ子爵家の令息である。ハリーは我が儘放題で育ったコリンナにホトホト手を焼いていた。

 そんな妹を押し付けるような形になってしまったハリーに申し訳無くて、サブリナは事ある毎にハリーの愚痴を聞いてあげたりしていた。だから正直なところ、サブリナは婚約者、いや既に元婚約者となったグレイよりもハリーと会っている方が多かったりした。

 後で私からもちゃんと謝っておかないと...サブリナは、まだなにやら熱っぽくコリンナのことを「心から愛してる」だの「世界で一番好き」だの語っているグレイそっちのけで、そんなことを心の中で考えていた。

 しかしこの二人、結婚してどうするつもりなんだろうか? グレイは子爵家の次男坊だから当然家は継げない。だから私の家に婿養子として入る予定だったのに。

 コリンナも次女だから当然家は継げない。二人して家を出て働くつもりなんだろうか? グレイもコリンナも働いたことなんか無いはずなのに。

 まぁ、コイツらなんかどうなろうと知ったことじゃないな。そんなこと気にするだけ無駄だろうし。放っとこう。

 サブリナは諦観の境地に達していた。
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