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 セナは修道院ではなく精神病院送りになった。

 恐らく一生出て来れないだろう。まだ子供だとは言え自業自得だから仕方ない。あそこまで精神が病んでしまっていてはどうしようもないだろう。

 そうなる前に周りの大人達がどうにかするべきだったのだが、親は娘を甘やかすだけ、神殿では厳しい修行を課すだけで何もしなかった。

 その結果がこれだ。私はこの事件を機に聖女としての在り方、聖女見習いの少女達の心の持ち様について考えるべきだと大司教様に提案した。

 大司教様も今回の件に関して心を痛めていたらしく、真摯に話を聞いてくれた。そして次の事柄が決定した。

 一つ、聖女見習いとして修行を続ける少女達には週に一度、心のカウンセリングを実施すること。

 日頃の不平不満を内に抱え込まず、外に発散させるように力を貸す。心を病んでしまう前に。十代の少女達を預かるのだから当然の配慮と言えよう。 
 
 また月に一度、実家に帰るか家族と面会するのを許可する。まだまだ甘えたい盛りの少女達を慮るためだ。こちらも少女達の心の平安に繋がるだろう。

 一つ、聖女見習いとして選ばれるのは平民に限ること。

 これは英断だったと思う。たまたま今回の事件で、セナの取り巻きをしていた少女達が居たたまれなくなったのか軒並み聖女見習いを辞めて行った。

 その結果、残ったのは平民の娘達ばかりになってしまったというのも後押しになったとはいえ、貴族側からの反発は当然予想される。

 それを大司教様は抑え込むと約束してくれた。大司教様は元々、選民意識の強い貴族の娘を聖女として選ぶのに不満を持っていたそうだ。

 聖女という肩書きを、貴族のステータスを上げるための道具としか思っていないマナが、聖女に選ばれなかったのは当然だったとも教えてくれた。

 もちろん、貴族の家に生まれた娘がみんなそうだという訳ではない。私だって貴族の娘だ。身分差を気にしない娘は他にも沢山居るだろう。

 だが聖女見習いの歴史を鑑みるに、ここまで酷くはないにせよ似たようなトラブルは何度もあったそうだ。

 身分差社会である以上、多少は仕方ないことだと今までは目を瞑って来たが、さすがに今回ばかりは見過ごす訳にはいかないと判断したとのこと。

 これでレイ達も安心して修行に打ち込めることだろう。私も胸を撫で下ろした。だが....やはり事はそう簡単には収まってくれないようである。

 今回の決定がまた新たなる火種を生むことになるとは、この時の私は全く思ってもいなかった。
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