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第4章*想いの糸は絡まり合う
51・持つべきものは(マクシミリアン視点)
しおりを挟むルーナが檻の中で絶賛放置プレイを受けているちょうどその頃、マクシミリアンはルーナを探して城内を走り回っていた。
(あの得体の知れない魔法使いめ……!)
苛立ちと焦りが抑えられない。
マクシミリアンはぎりと奥歯を噛み締めた。
あてもなく城中の部屋を探し回っても意味が無いことなど分かっている。
それでも、ほかに手段がなかった。
ただひたすらに、すれ違った使用人にルーナを見なかったかを聞き。城の中を駆け回る。
「くそ……っ」
また一つ誰も居ない室内を見渡して、マクシミリアンは珍しくも荒い手つきで扉を閉めた。
これでは埒が明かない。
廊下の先まで続く扉を見やり、マクシミリアンは一旦足を止めた。
(よく考えろ、相手は魔法使いだ。焦っても意味は無い。考えろ。考えるんだ)
焦りで鈍る頭をどうにか回転させる。
いくら胡散臭く得体がしれなくても、相手は城付きの魔法使いだ。一筋縄ではいかないだろう。
闇雲にルーナを探したところで、見つけられるわけが無い。
(アステロッド様の考えが分かりそうな人、と言えば……)
この城に、1人いる。
たった1人だけ。
マクシミリアンは心当たりの人物の元へと、急ぎ足で向かった。
****
「はぁ? お前、頭でも打ったの?」
マクシミリアンが告げた言葉に、自室で書類仕事をしていたハイリ殿下は怪訝そうに眉をひそめた。
「打っておりません。至って正常です」
「しかし、お前……。『アステロッドが何かを隠すとしたらどこか』といきなり聞かれてもね。僕と別れたこの短時間で一体何があったの」
殿下の疑問は最もだ。
先程中庭で話し、殿下を部屋へ送り届けたのはつい先程のこと。
(しかし、なんと説明したものか……)
ルーナがアステロッドに連れ去られました、などと言おうものなら、あっという間に大事になる。
それは極力避けたい。
(殿下のお手をわずらわせるようなことでは無い)
これは、自分の不始末。
アステロッドがルーナに執着していることを知っていながら、ルーナから目を離した自分が悪いのだ。
「……いえ、少々アステロッド様とゲームをしておりまして」
いつも通りの無表情で、マクシミリアンはさらりと応えた。
「ゲーム?」
マクシミリアンの発言が予想していないものだったのか、殿下が首を傾げる。
「ええ。宝探しのゲームに付き合っておりまして」
あながち嘘ではない。
焦りを心の中に押し込めて、マクシミリアンは誤魔化すようにため息をついた。
「へえ! 面白そうなことをしているね。僕も昔あいつとよくやったな」
あいつ、というのは、言うまでもなくアステロッドのことだろう。
この城にアステロッドが来たばかりの頃、殿下とアステロッドはよくつるんでいたずらばかりをしていた。
その後しばらくして、殿下は公務などで忙しくなったが、2人は時間を合わせては今もたまに遊んでいるようだった。
(だからこそ、アステロッド様がルーナさんを閉じ込めそうな場所を、殿下ならご存知なのではないかと思ったわけだが……)
「私はアステロッド様と付き合いがあまりなく……殿下ならよくご存知なのではないかと思いまして」
「なるほどね」
そういうと殿下は、楽しそうにニヤリと笑った。
「いいよ、教えてあげる。でも、簡単にはたどり着けないと思うよ」
ちょいちょい、と殿下が手招きをしてくる。
耳を貸せ、とジェスチャーで促されて、マクシミリアンは長身を殿下の方へ傾かせた。
小さな声で、秘密を打ち明けるように教えてくれる。
「……なるほど。そんな場所に隠れ家があったとは知りませんでした」
「まぁ、隠れ家だからね。ああ、そうだ」
殿下は思い出したように言うと、ごそごそと執務机の引き出しを開けた。
そこから何かを取り出す。
「これ、持っていきなよ。貸してあげる」
****
「………………」
中庭の先にある薔薇の生け垣。
美しく咲き誇る赤薔薇を前に、マクシミリアンはいた。
(この先に、アステロッド様の隠れ家があるのか?)
殿下の言葉を疑うつもりは毛頭ないが……それでも、どうしても半信半疑で生け垣を見つめてしまう。
どう見ても、行き止まりにしか見えない。
(いや……疑ってもしょうがない)
少しでも可能性があるのなら、それにかけるしかない。
もとより、ほかに宛などないのだから。
(ルーナさん、待っていてください。すぐに助けに参ります)
マクシミリアンは薔薇の棘が刺さることも厭わず、生け垣に手をかけた。
いつの間にか陽は落ち、あたりは薄暗くなり始めていた。
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