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第5章*恋人の通る道
59・アニエス伯爵家
しおりを挟むアニエス伯爵家の屋敷は、街の奥にひっそりと立っていた。
周囲は木々に囲まれており、さながら森の洋館といった感じだ。
「はぁ……」
重厚な木の扉の前で、マクシミリアンは盛大にため息をつく。
ルーナは心配になってマクシミリアンを見上げた。
「……どうしたの?」
「いえ……。姉さんに会わないといけないと思ったら、少し気が重いだけです」
(そんなに苦手なのか……)
いつもの無表情に、どことなく哀愁が漂っている……。
マクシミリアンはもう一度ため息をつくと覚悟を決めたのか、入口の扉を押し開けた。
「おかえりなさいませ。マクシミリアン様」
マクシミリアンが屋敷の中に入ると、アニエス家の使用人たちがマクシミリアンの帰りを出迎えた。
いつもはメイドとして出迎えをする側だから、いざ出迎えられる側になるとルーナは身構えてしまう。
「すごい……」
(普段王子の侍従長としての姿しか見ないからすっかり忘れてしまうけど、マクシミリアンって伯爵家のお坊ちゃんなんだよなぁ……)
貴族の子息が王族に仕えるのはよくある話だ。
そういう使用人たちは、家に戻れば自分が仕えられる立場となる。
ルーナは改めてマクシミリアンとの身分の差を感じて、気後れしてしまった。
「? 普段の我々が勤めている王城の方がよほどすごいですよ」
「それはそうなんだけど……」
ルーナが言いかけたそのとき、エントランスの中央にある広い階段から、3歳くらいの小さな子どもの手を引いて女性が降りてきた。
「あら、やっと帰ってきたのね」
緑がかった長い黒髪に、黒い瞳のスレンダーな女性だ。とても美人。クールビューティといった感じだ。
その女性は、マクシミリアンにとてもよく似ていた。
(この人って……)
「ただいま戻りました。姉さん」
マクシミリアンはいつも通りの無表情のまま、挨拶を返した。
どうやらこの女性が、マクシミリアンの姉らしい。ルーナが『似ている』と感じたのは正解だったようだ。
「おかえりなさい。5年ぶりね。あなたが全く帰ってこないうちに息子が生まれてこんなに大きくなったわ」
「嫌味を言わないでくださいよ……。こちらだって仕事が忙しかったんです」
「もう、仕事仕事って。うちの旦那と同じことを言わないでちょうだい」
「義兄さんはどちらに?」
「あの人ならまーた旅に出ているわ。地方の珍しい薬草が欲しいんですって。薬師だからって分かってるけど嫌になっちゃう」
マクシミリアンの姉は、はぁと肩を竦め……、ようやくルーナの存在に気がついた。
「あら? この子はだあれ?」
女性は黒い瞳で興味深そうにルーナを見てくる。足元にいる小さな子どもにもじっと視線を注がれ、ルーナはどきりとした。
「こちらは私とともに城で従事している方で、ルーナさんと言います。私の……恋人です」
マクシミリアンが早口でルーナのことを説明してくれる。少し照れくさそうだ。
ルーナも慌てて名前を名乗った。
「は、初めまして。ルーナ・ディローザと申します」
「なるほどねぇ……。なるほどなるほど」
女性はにまにまとして、口元に手を当てている。とても嬉しそうだ。
「あなたにもようやく恋人ができたのねぇ……」
感慨深そうに言うと、女性はルーナに握手を求めるように手を差し出してきた。
「私はメアリー・ロッド・アニエス。マクシミリアンの姉よ。うちのデリカシーに欠ける弟を貰ってくれてありがとう」
「は、はぁ……。こちらこそ……?」
なんだか、妙なことにお礼を言われている気がする。
ルーナはメアリーの言葉になんと返したらいいかわからないまま、とりあえず手を握り返した。
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