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紅
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赤と白のおぱんつに手をかける。じっとりと濡れそぼった秘部が糸を引き、僕の指に赤い斑点を残した。
ドロリ、と赤黒い液体が垂れる。強い鉄の匂いと臭気がむわっと立ち込めた。
どうやら、非常に間が悪いことに始まってしまったようだ。
「ケ、イさん? どうしたんですか。……あ。……あ、あぁ、そんな……」
シャールちゃんはフリーズする僕を不審がって、彼女自身も違和感に気付いたようだ。顔がみるみるうちに強張り蒼白くなっていく。
「わ、わたし、こ、こんな」
「大丈夫大丈夫」
動揺するシャールちゃんの頭を抱きしめて撫でつつ、内心焦る。こういう時ってどうすればええんや。
「ご、ごめんなさい。わたし、いつも、大事な時に……」
とめどなく溢れる血と涙をそのままに顔を押さえるシャールちゃん。
「ひっ、せ、せっかく、ケイさんと、繋がれると思ったのに、ずっと、ずっと、そう思ってたのに、わた、わたしの意志じゃないんです、ひっ、き、きらいにならないでください、ごめんなさい」
「嫌いになんてなるもんか。好きだよ。大丈夫。好きだからねをびっくりしたよね。よしよし」
腕の中で小さく蹲って自分を責め続ける。こういう経験は無いからあってるかわからないけど、とにかく落ち着かせよう。血は……拭ってあげるべきだろうか。でもこういう時の女性器っていつもよりもずっと繊細そうで、勝手に分からない僕が触っていいのかわからない。
……ほんとにやばかったら自発的に拭うだろうから、まずはメンタル面を優先しよう。彼女は今、心細くて自分を責めている。だから嫌いにならないこと、離れないこと、そういったことを伝えよう。気遣いだ。でも、念の為清潔なタオルは出しておこう。鞄から未使用の布を取り出してふわりと身体にかける。
「綺麗な手拭いあるから使っていいからね。大丈夫。気にしてないよ。ほら、ずっとこうやって一緒にいるから。どこにも行かないよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、いつも大事なところで、台無しにしちゃうんです。むかし、から、そうで、それで友達とか、離れていって、家族も、だめな子だって」
「よしよし。大丈夫大丈夫。僕もいつも大事なところで間違えるんだ。それで色んな人に怒られたよ。だからシャールちゃんの気持ちは分かる。むしろ君のことをもっと好きなったよ。僕と同じだって思える。シャールちゃんのこと、よく分かるから、嫌いにもならないし、離れもしないよ。一緒にいるから、落ち着くまでこうしていようね」
肩を震わせてさめざめと慟哭する彼女。ふむ、こういう時はそうだな、歌だな。歌を歌おう。何を歌おうかな。落ち着く曲がいいだろう。ゆったりしていて、音程が一定なやつ……。
『何かが邪魔をしてる……君のことを……』
僕は憂鬱だけど優しいメロディーで静かに歌う。静かなハミングとともに。
『何かが邪魔をしてる……ずっと……邪魔なまま……』
僕はこの世界には無いであろうフレーズとメロディーをそっと口にする。前の世界で好きだった曲なんだよね。でも、もうそのアーティスト名を思い出せなくなっていた。おかしいな、大好きなはずだったのに。
「う、うぇっ、うぐっ、ふうぅ……」
なかなか泣き止まない。すんません、ダメ野郎で。こんな時、スマートに最適解を選ぶことのできるイケメンだったらよかったんだけどな。
それでもシャールちゃんを抱きしめ、抑揚に合わせて背中やら頭を軽く叩いたりさすっていると、少しずつ彼女の震えは収まってきた。
「……それ、不思議なメロディーですね」
まだ声は震えているけど、いくらか落ち着きを取り戻したようだ。ぎゅうっと、僕の背中に手を回す。
「いいよね。僕も好きなんだ」
「なんていう曲なんですか?」
「それが思い出せないんだよな……確かサムシン……なんとかだったはず」
「さむしん……? 聞いたことのない言葉です」
「遠い外国の言葉だからね。歌詞が好きなんだ。ぜんぜん、慰めになって無くてさ。『何かが僕を邪魔してる』って、歌ってるだけなのに。安心するんだ。下手に寄り添おうとしてこないところが、聞いていて心地良いんだ」
「……そうですね。そうかも、しれません」
彼女の頭を掻き抱いて、安心させるためのキスをする。すると彼女も少しだけ笑ってキスし返してくれた。
「すみません、着替えてきますね。シーツも取り替えないと。その後に、その歌、教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。僕はここにいるからね。ゆっくり着替えておいで」
「はい。ありがとうございます」
いそいそとシャールちゃんが立ち上がり、洗面所へと向かっていった。
……ふぅ、とりあえず大丈夫そうかな。いやあ焦ったよ。こういうのって経験ないからテンパった。ダイオークの群れに囲まれた時よりもビビったかもしれない。
そう言えば亜人たちとはもうけっこう繁ったけど、そういうの来たことないな。やっぱ人間とは違うんだろうか。そもそもベステルタ以外って哺乳類として見ていいのか? まあおっぱいあるんだけど。鳥、百足、蛇、樹だぞ。常識で言ったら卵生の可能性が高い。ふむ、股間が熱くなるな。つーか樹ってどうやって殖えるんだ……? 植樹?
とても気になったのでプデュエラに連絡を入れてみた。
『しもしも? プテュエラ?』
『おお、ケイか。どうした。キョン肉、とてもうまかったぞ』
『それは何よりだよ。あれ焼くとすごいおいしいから、今度は料理して食べてみようね』
『ああ! 楽しみだ!』
『ところでプテュエラってさ、卵から産まれたの?』
『そうだぞ?』
そ、そうなのか。ちょっとノンデリな質問かな、と思ったけどふつーに返されてこっちが気まずくなったわ。
『じゃあサンドリアやラミアルカ、シュレアはどうなのか知ってる?』
『詳しくは知らんが……。ラミアルカは卵だったな。サンドリアは、厳密には卵じゃないらしいが、似たようなものだとラミアルカから聞いたことがある。シュレアは樹の股から産まれるらしいぞ。詳しくは知らん』
『ぶほおっ』
な、なにそれ。どういうこと?
『そ、そうなんだ。ありがとうね。ちょっと気になっちゃってさ』
『うむ。ケイが私たちの将来について考えていてくれて嬉しいぞ。何でも答えるから何でも訊いてくれ』
プっさんの嬉しそうな羽音がバッサバッサと聞こえてくる。よくわからんところで好感度あがったな。いいことだ。
『ああ、そう言えばシルビアとあの新しく入ってきた奴隷のことだが』
『アルフィンのこと?』
元商業ギルド副ギルドマスターであり、今は生意気ユニセックス奴隷のアルフィンだ。プテュエラが自分から彼女らに言及するのは珍しいな。なんだろう。イヤな予感する。
『そんな名前だったか。そいつのせいで、教会がおかしなことになってたぞ』
うわぁ……さっそく問題起こしたか。
『問題ってどんな?』
『言葉は分からんから推測になるが、まずジオス教への改宗を拒否していたと思う。カリンの申し出を馬鹿にしたような目で、首を振っていたからな』
あ、あいつ……何やってんだよ。
反省したんじゃなかったのか? 何が目的だ?
『最初はシルビアが苦笑しつつ気を遣って宥めていたが、何かを言われて激昂していたな。そのあと口論になってシルビアが掴みかかったんだが、アルフィン? の身のこなしが思いの外よくて、ことごとく避けられていたぞ。その間にもいろいろ挑発されていたから、シルビアはいまぐったりして横になっている。世話はマイアがしているな』
『……誰か止めたりはしなかった?』
『ルーナやニステル、バステンが凄んでいたけど効き目はなかったようだ。不遜な態度を取り続けていたぞ。まあ、戦闘奴隷三人を目の前にして引かずに小馬鹿にした笑みを浮かべているんだから肝っ玉は太いな。ちょっと面白かった』
プテュエラは面白い劇を観たような声色で楽しそうに話す。
『そっか……。なんとなくでいいんだけど、なんでアルフィンはそんな態度を取り続けていられたのか分かる?』
『うーむ。まあなんとなくだが、アルフィンはケイの名前を口に出していたからな。お前から重要な仕事を任されているとでも言ったんじゃないか? 実際は分からんが、あいつは身のこなしはよかったが、戦えるほどではない。戦闘ではなく頭脳面での役割を期待しているんだろう? そこら辺の話を持ち出されたら戦闘奴隷たちも強くは言えないんじゃないか?』
あ、あー……なるほどね。そうか。そうなるか。
はぁ。これは僕のミスだ。もっとアルフィンに言い聞かせるべきだったし、シルビアとも話を詰めておくべきだった。一度教会に戻って、みんなに紹介するのが筋だったな。それをやらずに迷宮とデートを優先した僕がマヌケだったんだ。そのせいでみんなに迷惑をかけてしまったようだ。
なんか最近はうまくいってるように思ってたけど、やっぱり僕はダメだな。みんなに迷惑をかけてばかりだ。
『ありがとう、プテュエラ。訊いてよかったよ。ごめんね、僕が無能なばかりに』
『いや、私は別に迷惑は被っていないから謝る必要はないぞ。だがそう思うなら謝っておいた方がいいんじゃないか? 奴隷たちはまだしも、シルビアやカリンには』
『そうだね、そうするよ』
『ケイ、そんなに落ち込むことはない。お前はよくやってるよ。誰もがみんな賢く完璧やれはしない。ケイ以外に、今の役割を果たせる人間なんていないと思うぞ』
プテュエラが珍しく僕を慰めてくれる。優しい声色が染みる。
『うぅ、プテュエラは優しいねぇありがとうねぇ』
『はは。なんてことはない。私はお前の契約者だからな。ふむ、なんだか段々腹が立ってきたな。ケイを困らせる奴隷なんて必要ないんじゃないか? スパッと殺ってしまおうか?』
ギュオオォォォ……と風が渦巻く剣呑な音が音が聞こえる。
『い、いや。そこまではしなくていいよ。人を殺すと血に酔うんでしょ?』
『む、ベステルタから聞いたのか。まあそうだ。だがまあ、一人くらいなら大丈夫だろう……殺るか?』
『やらんでいいやらんでいい。気持ちだけで充分だよ』
『ケイがそう言うなら……この風は散らしておこう。だが、やつにはちゃんと躾をしたほうがいいだろうな。立場というものを分からせてやる必要がある』
わからせ……そうだな。その通りだ。彼女には分かってもらう必要がある。自分が誰の奴隷なのか、楯突いたらどうなるのか。その身体にきっちりとね。
『分かった。すぐにでも分からせるよ。まだみんな起きてる?』
『ちょっと待て……。
うむ。シルビア、カリン、マイアはまだ起きてるな。シルビアは仕事をしているようだ。ただ、アルフィンがその仕事を邪魔? している、のかこれは。いや違うか。ダメ出しをしているみたいだな。それに対してマイアが文句を言うがすぐに言い返されて涙目になっている。カリンも困ったようにしているな。
戦闘奴隷組は寝ているようだが、ルーナだけはまだ起きている。ああ、アルフィンの態度がかなり頭に来ているみたいだぞ。澄ましているが、今にも殴りかかりそうだ。ベステルタは少し修行した後に孤児たちと一緒に寝たようだ』
詳細レポートのおかげで、教会の現状をよく把握できた。うん、これはあかんな。
『状況がとてもよく理解できたよ。ありがとうプテュエラ』
『礼には及ばないさ。ケイはこれから帰ってくるのか? なんか人間の雌と繁るかもってベステルタが言ってたぞ』
『その予定だったけど……まあこっちでもトラブルがあってね、繁りはまた今度かな。彼女、ちょっと取り乱しちゃってさ。今落ち着いたところ。本当は傍にいてあげたかったけど、教会がそんな風になってるならすぐに帰るよ』
『……そうか。なら止めはすまい。だがやはり、ケイに迷惑をかける奴隷には良い気持ちは湧かんな。いいのかほんとに殺らなくて。サクッとすぐに処分できるぞ。ほんの瞬きする間もない。やつがこの世にいた証拠をすべて塵にすることができる。我が殲風なら造作もないことだ』
物騒な気配を漂わせる怖い鷲さん。でも、僕のためにプリプリ怒ってくれてるんだと思うと心が暖かくなる。
『殺らないかわりに激しくヤるよ。サンドリアやラミアルカにも応援に来てもらうつもり』
『ほお! それはいいな。彼女たちの責めにニンゲンがどこまで耐えられるか見物だ。だがラミアルカのタガが外れないようにしっかり手綱を握っておく必要があるな。たぶん、うっかり力加減を誤れば快楽死するか発狂して死ぬぞ』
『善処するよ。もうちょいしたら戻るね。そう言えばプテュエラは何してるの?』
『ん? この辺の空を散策していたよ。またケイと空デートできたらいいなと思ってな』
なんていい子なんだろうプテュエラは。心が純粋だ。まあ亜人はみんな純粋なんだけど、その限りなく透明に近い心の有り様が、濁りきった心の僕には申しわけなく思える。
『いいね。楽しみにしてるよ』
『ああ! 任せておけ! 私はケイの契約者だからな!』
そこでパスを切り、亜人通信を終わらせる。ちょうどシャールちゃんも身支度を終えたみたいだ。
可愛らしいパジャマを来て所在なさげに立っている。
「あの……あっ」
そんな彼女を何も言わずにハグする。
「すみません、取り乱してしまって……」
「いいんだよ。よしよし。君は何も悪くない。そのままでいい。無理せず君らしく生きてくれるだけで僕は嬉しい」
「……ありがとう、ありがとうございます」
嬉しそうに笑ってハグし返してくれる。熱と愛情がこもっているように感じる。僕ら二人の心臓の音が重なり合って共鳴しているようだ。信頼を感じる。今回は肉体的には繋がれなかったけど、心は……繋がり合えたように思えた。
そのままベッドに行ってシャールちゃんに布団をかける。本番を省略した上でのピロートーク兼言い訳だ。
「~ということなんだ。ごめん。ホントはこのまま一緒に寝ていたかったんだけど、奴隷がやらかしたみたいでさ」
「え、えっと。ケイさんは遠くの人と、話すことができるんですか?」
「うん。魔法の一種だね。便利なんだ」
「それは……凄いですね」
彼女は口元を抑えて驚く。
「そういう魔道具って無いの?」
「ありますが、かなり希少です。あったとしても国が厳重に管理します」
「そうだよね……。重いことを打ち明けてごめんね。秘密にしておいてくれる?」
「はい、もちろん。大変な秘密を私に打ち明けてくださって、とても嬉しいです」
彼女は腕の中でパァっと晴れやかな笑みを見せてくれた。あまりにも愛おしくてその額や鼻、唇に軽くキスをする。
「あ、くすぐったいです」
「さっきの歌、教えるよ」
「はい。お願いします。私、ケイさんの歌声好きです」
そう言うと、少し躊躇ってからちゅ、と接吻してくれた。うれしくなってやり返すと、彼女も笑ってまたしてくる。布団の中は暖かい。なんだか、小さな巣の中で精一杯愛を育む小鳥みたいになった気分だ。
そのあと僕の知ってる歌をいくつか教えた。どれもこれも、幸せでハッピーな歌じゃない。何かがずっと邪魔をしている歌、休日なんて来るわけ無いと遊園地で歌う歌、死んだほうがマシさと開き直る歌、生活していけるかなって漠然とした不安を歌う歌。
でも全部僕の好きな歌だ。無能で仕事の出来なき僕にとって、支えになった歌たちだ。本当に辛い時、僕を支えてくれたのは幸福を歌う歌ではなく、僕のダメさを肯定してくれる曲だったから。
「……素敵な曲」
シャールちゃんは静かに聴いていた。目を閉じて、噛みしめるように、たまに口ずさんでいた。
「いいよね。好きな曲なんだ。シャールちゃんも気に入ってくれたみたいで、すごいうれしいよ」
「とても、とても、気に入りました。歌詞は今までに無いくらい暗かったけど、それなのに、なんだか明るくて、前向きになれそうな曲でした」
「うれしいなあ……一緒のものを好きになるって、うれしいよ」
「……えへへ、はい。あの、もっと、ケイさんのこと好きになりました」
布団と一緒に僕の腕の中でくるまる彼女。もはやズギュウゥゥーンとはならない。ただ、じんわりとした巨大でささやかな幸福感が胸の内に、無限に広がっていく。これが多幸感ってやつか。
「……ごめん、そろそろ行かなくちゃ」
「はい。もう私は大丈夫です。素敵な曲も教えてもらいましたし、さみしくありません。あ、でもまだ覚えていないところもあるので、また教えてくれますか?」
「もちろんさ」
そうして身支度を始める。布団から出るとすごく寒く感じるな。
シャールちゃんはカーディガンを引っ掛けて、僕を玄関まで送ってくれた。
「また、会おう。すぐにでも」
「はい。楽しみにしています。わたし、今日はもらってばかりで何か、お返しできたらいいんですけど」
そんなことか。気にしないで。気持ちだけで有り難いからさ。
「じゃあさっき脱いだぱんつください」
「……え?」
ん? おかしいな。変なこと言ったかな。気にしないでって言ったと思うんだけど。
「今日の思い出にぱんつください」
「え、え、あの、それって、さっき汚してしまったやつですか?」
「うん。汚れていても大丈夫だよ。浄火するから。綺麗にするから。君のぬくもりを感じたいんだ」
今日は思い出になったよ。ありがとうシャールちゃん。
「え、え……?」
……しまった。こ、心の声とリアルの声が無意識のうちに逆転してしまったようだ。
これは、ダメだろ。今まで積み上げたものぶっ壊した気がする。いよいよ本格的に下半身が脳と精神を侵食してきたか。ほな、もちろん僕は抵抗するで。理性で。
「そ、そんなのでよければ……ちょっと待っていてください」
しかしシャールちゃんは困惑しながらも、奥へとパタパタかけていって、例のおぱんつを持ってきてくれた。
「あ……ごめんなさい。何かに包んだほうがいいですよね」
そこを気にしてくれるのか。僕が言うのもアレだけど、この子もだいぶ天然だな。
「いや、いいよ。そのままで。僕の方で保管するから」
綺麗に折りたたまれたそれを懐にしまう。ん、なんか少し重いぞ?
するとシャールちゃんが最後にハグをして耳元で囁いた。
「……合鍵も、いっしょに折りたたんであります。また、いつでも来てください」
そして今日一番の笑顔。
もう何も言うまい。僕は最後に舌を函れるねっとり濃厚なキスをして、背を向ける。シャールちゃんの視線を感じながら彼女のお家を後にした。
しばし、夜風を感じながら歩く。
心にふつふつと今日の光景が浮かんでは消える。おいしい食事、シャールちゃんの笑顔、お乳首、紅、わからせ……。
本当はいっしょに寝るはずだったベッド、至福の時間。
アルフィン……あいつ、ただではおかん。
歩いて……歩いて……走り出す。
「練喚功!」
僕は猛スピードで夜街を駆ける。そして、勢いに乗って壁を蹴り、建物を駆け上がり、屋根伝いに疾走する。
懐に手をやり少し暖かくて湿る聖布をに触れる。
躊躇わずにそれを頭に被った。
「浄火!」
僕の頭が神聖な炎に包まれる。
「……紅だああああぁぁぁぁ!!!」
月に吠える。
今宵の月は赤い。
さあ、分からせの時間だ。
ドロリ、と赤黒い液体が垂れる。強い鉄の匂いと臭気がむわっと立ち込めた。
どうやら、非常に間が悪いことに始まってしまったようだ。
「ケ、イさん? どうしたんですか。……あ。……あ、あぁ、そんな……」
シャールちゃんはフリーズする僕を不審がって、彼女自身も違和感に気付いたようだ。顔がみるみるうちに強張り蒼白くなっていく。
「わ、わたし、こ、こんな」
「大丈夫大丈夫」
動揺するシャールちゃんの頭を抱きしめて撫でつつ、内心焦る。こういう時ってどうすればええんや。
「ご、ごめんなさい。わたし、いつも、大事な時に……」
とめどなく溢れる血と涙をそのままに顔を押さえるシャールちゃん。
「ひっ、せ、せっかく、ケイさんと、繋がれると思ったのに、ずっと、ずっと、そう思ってたのに、わた、わたしの意志じゃないんです、ひっ、き、きらいにならないでください、ごめんなさい」
「嫌いになんてなるもんか。好きだよ。大丈夫。好きだからねをびっくりしたよね。よしよし」
腕の中で小さく蹲って自分を責め続ける。こういう経験は無いからあってるかわからないけど、とにかく落ち着かせよう。血は……拭ってあげるべきだろうか。でもこういう時の女性器っていつもよりもずっと繊細そうで、勝手に分からない僕が触っていいのかわからない。
……ほんとにやばかったら自発的に拭うだろうから、まずはメンタル面を優先しよう。彼女は今、心細くて自分を責めている。だから嫌いにならないこと、離れないこと、そういったことを伝えよう。気遣いだ。でも、念の為清潔なタオルは出しておこう。鞄から未使用の布を取り出してふわりと身体にかける。
「綺麗な手拭いあるから使っていいからね。大丈夫。気にしてないよ。ほら、ずっとこうやって一緒にいるから。どこにも行かないよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、いつも大事なところで、台無しにしちゃうんです。むかし、から、そうで、それで友達とか、離れていって、家族も、だめな子だって」
「よしよし。大丈夫大丈夫。僕もいつも大事なところで間違えるんだ。それで色んな人に怒られたよ。だからシャールちゃんの気持ちは分かる。むしろ君のことをもっと好きなったよ。僕と同じだって思える。シャールちゃんのこと、よく分かるから、嫌いにもならないし、離れもしないよ。一緒にいるから、落ち着くまでこうしていようね」
肩を震わせてさめざめと慟哭する彼女。ふむ、こういう時はそうだな、歌だな。歌を歌おう。何を歌おうかな。落ち着く曲がいいだろう。ゆったりしていて、音程が一定なやつ……。
『何かが邪魔をしてる……君のことを……』
僕は憂鬱だけど優しいメロディーで静かに歌う。静かなハミングとともに。
『何かが邪魔をしてる……ずっと……邪魔なまま……』
僕はこの世界には無いであろうフレーズとメロディーをそっと口にする。前の世界で好きだった曲なんだよね。でも、もうそのアーティスト名を思い出せなくなっていた。おかしいな、大好きなはずだったのに。
「う、うぇっ、うぐっ、ふうぅ……」
なかなか泣き止まない。すんません、ダメ野郎で。こんな時、スマートに最適解を選ぶことのできるイケメンだったらよかったんだけどな。
それでもシャールちゃんを抱きしめ、抑揚に合わせて背中やら頭を軽く叩いたりさすっていると、少しずつ彼女の震えは収まってきた。
「……それ、不思議なメロディーですね」
まだ声は震えているけど、いくらか落ち着きを取り戻したようだ。ぎゅうっと、僕の背中に手を回す。
「いいよね。僕も好きなんだ」
「なんていう曲なんですか?」
「それが思い出せないんだよな……確かサムシン……なんとかだったはず」
「さむしん……? 聞いたことのない言葉です」
「遠い外国の言葉だからね。歌詞が好きなんだ。ぜんぜん、慰めになって無くてさ。『何かが僕を邪魔してる』って、歌ってるだけなのに。安心するんだ。下手に寄り添おうとしてこないところが、聞いていて心地良いんだ」
「……そうですね。そうかも、しれません」
彼女の頭を掻き抱いて、安心させるためのキスをする。すると彼女も少しだけ笑ってキスし返してくれた。
「すみません、着替えてきますね。シーツも取り替えないと。その後に、その歌、教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。僕はここにいるからね。ゆっくり着替えておいで」
「はい。ありがとうございます」
いそいそとシャールちゃんが立ち上がり、洗面所へと向かっていった。
……ふぅ、とりあえず大丈夫そうかな。いやあ焦ったよ。こういうのって経験ないからテンパった。ダイオークの群れに囲まれた時よりもビビったかもしれない。
そう言えば亜人たちとはもうけっこう繁ったけど、そういうの来たことないな。やっぱ人間とは違うんだろうか。そもそもベステルタ以外って哺乳類として見ていいのか? まあおっぱいあるんだけど。鳥、百足、蛇、樹だぞ。常識で言ったら卵生の可能性が高い。ふむ、股間が熱くなるな。つーか樹ってどうやって殖えるんだ……? 植樹?
とても気になったのでプデュエラに連絡を入れてみた。
『しもしも? プテュエラ?』
『おお、ケイか。どうした。キョン肉、とてもうまかったぞ』
『それは何よりだよ。あれ焼くとすごいおいしいから、今度は料理して食べてみようね』
『ああ! 楽しみだ!』
『ところでプテュエラってさ、卵から産まれたの?』
『そうだぞ?』
そ、そうなのか。ちょっとノンデリな質問かな、と思ったけどふつーに返されてこっちが気まずくなったわ。
『じゃあサンドリアやラミアルカ、シュレアはどうなのか知ってる?』
『詳しくは知らんが……。ラミアルカは卵だったな。サンドリアは、厳密には卵じゃないらしいが、似たようなものだとラミアルカから聞いたことがある。シュレアは樹の股から産まれるらしいぞ。詳しくは知らん』
『ぶほおっ』
な、なにそれ。どういうこと?
『そ、そうなんだ。ありがとうね。ちょっと気になっちゃってさ』
『うむ。ケイが私たちの将来について考えていてくれて嬉しいぞ。何でも答えるから何でも訊いてくれ』
プっさんの嬉しそうな羽音がバッサバッサと聞こえてくる。よくわからんところで好感度あがったな。いいことだ。
『ああ、そう言えばシルビアとあの新しく入ってきた奴隷のことだが』
『アルフィンのこと?』
元商業ギルド副ギルドマスターであり、今は生意気ユニセックス奴隷のアルフィンだ。プテュエラが自分から彼女らに言及するのは珍しいな。なんだろう。イヤな予感する。
『そんな名前だったか。そいつのせいで、教会がおかしなことになってたぞ』
うわぁ……さっそく問題起こしたか。
『問題ってどんな?』
『言葉は分からんから推測になるが、まずジオス教への改宗を拒否していたと思う。カリンの申し出を馬鹿にしたような目で、首を振っていたからな』
あ、あいつ……何やってんだよ。
反省したんじゃなかったのか? 何が目的だ?
『最初はシルビアが苦笑しつつ気を遣って宥めていたが、何かを言われて激昂していたな。そのあと口論になってシルビアが掴みかかったんだが、アルフィン? の身のこなしが思いの外よくて、ことごとく避けられていたぞ。その間にもいろいろ挑発されていたから、シルビアはいまぐったりして横になっている。世話はマイアがしているな』
『……誰か止めたりはしなかった?』
『ルーナやニステル、バステンが凄んでいたけど効き目はなかったようだ。不遜な態度を取り続けていたぞ。まあ、戦闘奴隷三人を目の前にして引かずに小馬鹿にした笑みを浮かべているんだから肝っ玉は太いな。ちょっと面白かった』
プテュエラは面白い劇を観たような声色で楽しそうに話す。
『そっか……。なんとなくでいいんだけど、なんでアルフィンはそんな態度を取り続けていられたのか分かる?』
『うーむ。まあなんとなくだが、アルフィンはケイの名前を口に出していたからな。お前から重要な仕事を任されているとでも言ったんじゃないか? 実際は分からんが、あいつは身のこなしはよかったが、戦えるほどではない。戦闘ではなく頭脳面での役割を期待しているんだろう? そこら辺の話を持ち出されたら戦闘奴隷たちも強くは言えないんじゃないか?』
あ、あー……なるほどね。そうか。そうなるか。
はぁ。これは僕のミスだ。もっとアルフィンに言い聞かせるべきだったし、シルビアとも話を詰めておくべきだった。一度教会に戻って、みんなに紹介するのが筋だったな。それをやらずに迷宮とデートを優先した僕がマヌケだったんだ。そのせいでみんなに迷惑をかけてしまったようだ。
なんか最近はうまくいってるように思ってたけど、やっぱり僕はダメだな。みんなに迷惑をかけてばかりだ。
『ありがとう、プテュエラ。訊いてよかったよ。ごめんね、僕が無能なばかりに』
『いや、私は別に迷惑は被っていないから謝る必要はないぞ。だがそう思うなら謝っておいた方がいいんじゃないか? 奴隷たちはまだしも、シルビアやカリンには』
『そうだね、そうするよ』
『ケイ、そんなに落ち込むことはない。お前はよくやってるよ。誰もがみんな賢く完璧やれはしない。ケイ以外に、今の役割を果たせる人間なんていないと思うぞ』
プテュエラが珍しく僕を慰めてくれる。優しい声色が染みる。
『うぅ、プテュエラは優しいねぇありがとうねぇ』
『はは。なんてことはない。私はお前の契約者だからな。ふむ、なんだか段々腹が立ってきたな。ケイを困らせる奴隷なんて必要ないんじゃないか? スパッと殺ってしまおうか?』
ギュオオォォォ……と風が渦巻く剣呑な音が音が聞こえる。
『い、いや。そこまではしなくていいよ。人を殺すと血に酔うんでしょ?』
『む、ベステルタから聞いたのか。まあそうだ。だがまあ、一人くらいなら大丈夫だろう……殺るか?』
『やらんでいいやらんでいい。気持ちだけで充分だよ』
『ケイがそう言うなら……この風は散らしておこう。だが、やつにはちゃんと躾をしたほうがいいだろうな。立場というものを分からせてやる必要がある』
わからせ……そうだな。その通りだ。彼女には分かってもらう必要がある。自分が誰の奴隷なのか、楯突いたらどうなるのか。その身体にきっちりとね。
『分かった。すぐにでも分からせるよ。まだみんな起きてる?』
『ちょっと待て……。
うむ。シルビア、カリン、マイアはまだ起きてるな。シルビアは仕事をしているようだ。ただ、アルフィンがその仕事を邪魔? している、のかこれは。いや違うか。ダメ出しをしているみたいだな。それに対してマイアが文句を言うがすぐに言い返されて涙目になっている。カリンも困ったようにしているな。
戦闘奴隷組は寝ているようだが、ルーナだけはまだ起きている。ああ、アルフィンの態度がかなり頭に来ているみたいだぞ。澄ましているが、今にも殴りかかりそうだ。ベステルタは少し修行した後に孤児たちと一緒に寝たようだ』
詳細レポートのおかげで、教会の現状をよく把握できた。うん、これはあかんな。
『状況がとてもよく理解できたよ。ありがとうプテュエラ』
『礼には及ばないさ。ケイはこれから帰ってくるのか? なんか人間の雌と繁るかもってベステルタが言ってたぞ』
『その予定だったけど……まあこっちでもトラブルがあってね、繁りはまた今度かな。彼女、ちょっと取り乱しちゃってさ。今落ち着いたところ。本当は傍にいてあげたかったけど、教会がそんな風になってるならすぐに帰るよ』
『……そうか。なら止めはすまい。だがやはり、ケイに迷惑をかける奴隷には良い気持ちは湧かんな。いいのかほんとに殺らなくて。サクッとすぐに処分できるぞ。ほんの瞬きする間もない。やつがこの世にいた証拠をすべて塵にすることができる。我が殲風なら造作もないことだ』
物騒な気配を漂わせる怖い鷲さん。でも、僕のためにプリプリ怒ってくれてるんだと思うと心が暖かくなる。
『殺らないかわりに激しくヤるよ。サンドリアやラミアルカにも応援に来てもらうつもり』
『ほお! それはいいな。彼女たちの責めにニンゲンがどこまで耐えられるか見物だ。だがラミアルカのタガが外れないようにしっかり手綱を握っておく必要があるな。たぶん、うっかり力加減を誤れば快楽死するか発狂して死ぬぞ』
『善処するよ。もうちょいしたら戻るね。そう言えばプテュエラは何してるの?』
『ん? この辺の空を散策していたよ。またケイと空デートできたらいいなと思ってな』
なんていい子なんだろうプテュエラは。心が純粋だ。まあ亜人はみんな純粋なんだけど、その限りなく透明に近い心の有り様が、濁りきった心の僕には申しわけなく思える。
『いいね。楽しみにしてるよ』
『ああ! 任せておけ! 私はケイの契約者だからな!』
そこでパスを切り、亜人通信を終わらせる。ちょうどシャールちゃんも身支度を終えたみたいだ。
可愛らしいパジャマを来て所在なさげに立っている。
「あの……あっ」
そんな彼女を何も言わずにハグする。
「すみません、取り乱してしまって……」
「いいんだよ。よしよし。君は何も悪くない。そのままでいい。無理せず君らしく生きてくれるだけで僕は嬉しい」
「……ありがとう、ありがとうございます」
嬉しそうに笑ってハグし返してくれる。熱と愛情がこもっているように感じる。僕ら二人の心臓の音が重なり合って共鳴しているようだ。信頼を感じる。今回は肉体的には繋がれなかったけど、心は……繋がり合えたように思えた。
そのままベッドに行ってシャールちゃんに布団をかける。本番を省略した上でのピロートーク兼言い訳だ。
「~ということなんだ。ごめん。ホントはこのまま一緒に寝ていたかったんだけど、奴隷がやらかしたみたいでさ」
「え、えっと。ケイさんは遠くの人と、話すことができるんですか?」
「うん。魔法の一種だね。便利なんだ」
「それは……凄いですね」
彼女は口元を抑えて驚く。
「そういう魔道具って無いの?」
「ありますが、かなり希少です。あったとしても国が厳重に管理します」
「そうだよね……。重いことを打ち明けてごめんね。秘密にしておいてくれる?」
「はい、もちろん。大変な秘密を私に打ち明けてくださって、とても嬉しいです」
彼女は腕の中でパァっと晴れやかな笑みを見せてくれた。あまりにも愛おしくてその額や鼻、唇に軽くキスをする。
「あ、くすぐったいです」
「さっきの歌、教えるよ」
「はい。お願いします。私、ケイさんの歌声好きです」
そう言うと、少し躊躇ってからちゅ、と接吻してくれた。うれしくなってやり返すと、彼女も笑ってまたしてくる。布団の中は暖かい。なんだか、小さな巣の中で精一杯愛を育む小鳥みたいになった気分だ。
そのあと僕の知ってる歌をいくつか教えた。どれもこれも、幸せでハッピーな歌じゃない。何かがずっと邪魔をしている歌、休日なんて来るわけ無いと遊園地で歌う歌、死んだほうがマシさと開き直る歌、生活していけるかなって漠然とした不安を歌う歌。
でも全部僕の好きな歌だ。無能で仕事の出来なき僕にとって、支えになった歌たちだ。本当に辛い時、僕を支えてくれたのは幸福を歌う歌ではなく、僕のダメさを肯定してくれる曲だったから。
「……素敵な曲」
シャールちゃんは静かに聴いていた。目を閉じて、噛みしめるように、たまに口ずさんでいた。
「いいよね。好きな曲なんだ。シャールちゃんも気に入ってくれたみたいで、すごいうれしいよ」
「とても、とても、気に入りました。歌詞は今までに無いくらい暗かったけど、それなのに、なんだか明るくて、前向きになれそうな曲でした」
「うれしいなあ……一緒のものを好きになるって、うれしいよ」
「……えへへ、はい。あの、もっと、ケイさんのこと好きになりました」
布団と一緒に僕の腕の中でくるまる彼女。もはやズギュウゥゥーンとはならない。ただ、じんわりとした巨大でささやかな幸福感が胸の内に、無限に広がっていく。これが多幸感ってやつか。
「……ごめん、そろそろ行かなくちゃ」
「はい。もう私は大丈夫です。素敵な曲も教えてもらいましたし、さみしくありません。あ、でもまだ覚えていないところもあるので、また教えてくれますか?」
「もちろんさ」
そうして身支度を始める。布団から出るとすごく寒く感じるな。
シャールちゃんはカーディガンを引っ掛けて、僕を玄関まで送ってくれた。
「また、会おう。すぐにでも」
「はい。楽しみにしています。わたし、今日はもらってばかりで何か、お返しできたらいいんですけど」
そんなことか。気にしないで。気持ちだけで有り難いからさ。
「じゃあさっき脱いだぱんつください」
「……え?」
ん? おかしいな。変なこと言ったかな。気にしないでって言ったと思うんだけど。
「今日の思い出にぱんつください」
「え、え、あの、それって、さっき汚してしまったやつですか?」
「うん。汚れていても大丈夫だよ。浄火するから。綺麗にするから。君のぬくもりを感じたいんだ」
今日は思い出になったよ。ありがとうシャールちゃん。
「え、え……?」
……しまった。こ、心の声とリアルの声が無意識のうちに逆転してしまったようだ。
これは、ダメだろ。今まで積み上げたものぶっ壊した気がする。いよいよ本格的に下半身が脳と精神を侵食してきたか。ほな、もちろん僕は抵抗するで。理性で。
「そ、そんなのでよければ……ちょっと待っていてください」
しかしシャールちゃんは困惑しながらも、奥へとパタパタかけていって、例のおぱんつを持ってきてくれた。
「あ……ごめんなさい。何かに包んだほうがいいですよね」
そこを気にしてくれるのか。僕が言うのもアレだけど、この子もだいぶ天然だな。
「いや、いいよ。そのままで。僕の方で保管するから」
綺麗に折りたたまれたそれを懐にしまう。ん、なんか少し重いぞ?
するとシャールちゃんが最後にハグをして耳元で囁いた。
「……合鍵も、いっしょに折りたたんであります。また、いつでも来てください」
そして今日一番の笑顔。
もう何も言うまい。僕は最後に舌を函れるねっとり濃厚なキスをして、背を向ける。シャールちゃんの視線を感じながら彼女のお家を後にした。
しばし、夜風を感じながら歩く。
心にふつふつと今日の光景が浮かんでは消える。おいしい食事、シャールちゃんの笑顔、お乳首、紅、わからせ……。
本当はいっしょに寝るはずだったベッド、至福の時間。
アルフィン……あいつ、ただではおかん。
歩いて……歩いて……走り出す。
「練喚功!」
僕は猛スピードで夜街を駆ける。そして、勢いに乗って壁を蹴り、建物を駆け上がり、屋根伝いに疾走する。
懐に手をやり少し暖かくて湿る聖布をに触れる。
躊躇わずにそれを頭に被った。
「浄火!」
僕の頭が神聖な炎に包まれる。
「……紅だああああぁぁぁぁ!!!」
月に吠える。
今宵の月は赤い。
さあ、分からせの時間だ。
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