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 最奥の間で初代の執念の塊、全ての始まりである祭壇を一人眺める。
 ハワードは言いたいことを言って帰った。あのような内容ならリカルドで十分だったろうに。

 ここに居ると人の業と言うのだろうか、何か制御し難い強い感情が無ければ、これほどの物を作り上げることは無理なのだろうか?と思う。
 感情を制限し、野望を持たず平坦でいる人間が大きな世界で成し遂げられることは何もないのだと。
 だがそこまでの激情に流されてみたいとは思わない。

 執務室に戻れば、先ほどより書類が増えている。正直に言えば、王国の資格を得た魔導師に任せれば良い内容の方が多いのだが嫌がらせのようにこちらに任せてくる。
 各領地のことはそっちで魔導師でもなんでも雇えと思う。
 金は出したくないが最新の魔法具や防御陣を施せと、何を言っているのかわからいない。

 リカルドが来てから多少無茶な要求が減って来たが、そもそもプラムローズは国にとっての便利屋では無い。いつの間に勘違いされ始めたのか。

 高位貴族たちはうちに無茶を言うことはないが、中位からは何かと「国のためにやってくれますよね?」などと要求が多い。当然突っ撥ねているが理解できないようだ。

 ラインハルトに取り入ってプラムローズをいい様に使いたい連中もいるがそもそも後継はまだ決めていないんだが。

「はぁ、くだらないな」

 思わず出た本音に執事がそっと茶を出してくれた。

 
 リカルドは相変わらず胡散臭い笑顔で過ごしている。素でいるのはラインハルトといるときだけのようだ。
 エドワードに似ているから気が抜けるのかもしれない。

 毎日の同衾も慣れて来てリカルドの欲求が落ち着いたのか多少手加減されるようになった頃、夜明け前にふと目覚めた私はリカルドが魘されていることに気がついた。

「・・・やめろ・・・」
「近づ、く・な・・・っ」
「っ父上っ!お願い・・・お願いですから・・・」
「いやだ・・・」

 苦悶し冷や汗を掻き、必死に腕を振り払うように動かす。
 記憶の奥に隣国で過ごした日々が残っているのだろうか?

 精神の障害には医療魔法も意味を成さない。催眠や洗脳に成りかねない魔法は禁忌として、術式も封印され表向きだが使えるものはいない。
 
 汗を拭ってやり、
「大丈夫だ」
と声をかけて手を握ってやれば少し落ち着いた。

 陽が差してきてリカルドが目を覚ました。私を抱き枕にしているのはいつもの事で特に違和感もなく起きたようだ。
 私の額に唇を落として起き出して行った。



 本人は記憶を無くしたままでも良いようだが心に問題を抱えている状態の人間は放置できない。
 幼馴染であるリカルドを心配すること以上に、プラムローズの人間が何かのきっかけで悪心を抱く可能性がある事を放置して置けない。

 ハワードがリカルドの状態を知っていて王命を使ったのならプラムローズは国と王族を切り捨てねばならなくなる。

 リカルドが私を望んだ心は真実だとしても、私は彼をただ心配してやれる妻にはなれぬ。あれほど苦しんで魘されている幼馴染に対して、あくまでもこの家を守ることを優先する考えの自分が本当に正しいのかわからない。

 父は母のことも私のことも愛してくれていたように思う。でもきっと何かあれば全てきっちりと排除できる覚悟は持っていた。
 私もその覚悟を持っているはずだ。


 執事を呼び、昼に我が家の専属医師のもとに向かう旨を告げた。
 
 
 

 

 

 
 
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