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322 / 783
21巻
21-2
「すぐに打って出る! 案内を!」
「私も行くわ、ある程度魔法もいけるから役に立てると思う」
剣を抜きに来ていたローブ姿の女性も協力を申し出てくれたので、特に苦戦している場所へと案内してもらう。その途中で大剣を背負った男性を見つけ、彼にも協力してもらう形になった。
そうして自分が見たものは――いかにも山賊!といった髭面で腹の出張った男が振り回す大きな斧を、半分ぐらいに折れた剣を手に防ぐ犬の獣人さんの姿だった。
山賊風の男の周囲には賊の集団がいて、怪我を負って動けない人達を必死で庇っている犬の獣人さんに向かって、さっさとやられちまいな、などと罵声を投げかけている。
その状況を覆すべく、自分は【円花】を伸ばして山賊風の男が持つ斧の横っ面をひっぱたくが、びくともしなかった。あの斧が、魔剣の一種か。
そして、この場にいる人々の視線が一斉に自分へと向く。特に横槍を入れられた山賊風の男は、不愉快そうな表情をはっきりと浮かべていた。
「援軍か⁉ あの斧には気をつけろ! 鋼の剣が紙のように容易く断ち切られるほどの切れ味を持っている! 街の門も、こいつの斧でぶった切られちまったんだ!」
自分の横槍でひと呼吸の休息を取れた犬の獣人さんが、そう教えてくれた。だが、これを聞いた山賊風の男は下品な笑い声を上げる。
「ぎゃっはっは、この斧は当たれば一撃で相手を殺せるだけじゃねえ。こいつはいくら振り回したって疲れ知らずだ! 俺様にとって最高の相棒よ。こいつの前では、どんな奴でもいつかは疲れ果てる。そこを美味しく捕まえて真っ二つってわけだ! おめえもこの斧で血まみれの肉塊にしてやるぜ! ああ、金目の物は全部俺様達が頂いてやるから、安心してあの世に逝け!」
言うが早いか、犬の獣人さんを仲間に任せ、自分目がけて突進してくる山賊風の男。
でもねえ……それって、あくまで近接戦闘で真っ向勝負の人に限った話でしょ? こっちにはお前のような奴と真正面から戦うつもりは微塵もない。
「――【円花】」
するするっと蛇の如く地面を這って切っ先が進む、スネークソードのアーツ《ポイズンスネーク》を発動。山賊風の男は正面にいる自分の事ばかり見ているようで、それに一切気がついていない。
なので遠慮なく、その左膝に【円花】を深く食らいつかせた。
「うがあああ⁉」
突如訪れた痛みにあっさり斧を手放し、もんどり打つように倒れる山賊風の男。
やっぱりな、こいつは良すぎる武器の性能で勝ってきただけだから、戦士としての能力は下の下だと予想していた。あの斧がなければ、きっと犬の獣人さんは余裕を持って勝ってただろうってのは、最初に見たときから思ってた事だ。
というのも、自分が到着したときの戦いでのこいつは、明らかに大振りで無駄な動きが多すぎな、初心者の動きってやつだった。それでも犬の獣人さんが踏み込めなかったのは、後ろに怪我をした人達がいたのと、どんな物でも断ち切られる一撃の怖さを最大限に警戒していたからだろう。
でも、今の自分と山賊風の男の間合いであれば、どうあがいても斧の攻撃は届かない。もちろん斧をトマホークみたいに投げてこられれば別だけど、そうなったらそうなったで得物を失ったあいつを倒すのは容易い。
「うがああ、抜けねえ、抜けねえ!」
【円花】が食いついた左膝を抱えながら転げ回る、山賊風の男。必死で切っ先を抜こうとしているが、上手くいかないようだ。ま、そうなるようにしているんだけどさ。
そして、隙だらけと言っていいその姿を、犬の獣人さんが見逃す事はあり得ないんだよね。
「あの斧さえなければ、貴様など手こずる相手ではないのだ!」
と、半分になっている剣を山賊風の男の脳天に突き立てる。その一撃がトドメとなって、山賊風の男は二度と声を上げる事のない骸になった。
すると途端に他の賊連中は逃げ出した。ちょっとでも不利になったり不安要素が入ったりしたら逃げの一手か。まあ、賊の繋がりなんてそんなもんなのかね。
それから、【アンコモン・ポーション】を取り出して怪我をした人に振りかけていく。これで命の危機からは脱するはずだ。
「すまん、援護に感謝する。それに怪我人の手当てまで……その上で心苦しいのだが、残りの賊共の討伐にも共闘を頼めないだろうか? ああいう連中はしっかりと始末しておかないときりがない」
もっともな話だ。なのでこのまま、他の門から街に押し寄せてきていた賊共を、獣人さん達と協力しながら殲滅。賊の戦力はさっき倒した斧持ちにかなり依存していたようで、大した時間はかからなかった。
今回は一人も生け捕りにせず、襲ってきた賊全員が屍を晒す事になった。これは因果応報なので別に何とも思わない。こうなるのが嫌なら、初めからそれなりの身の振り方を考えろとしか言いようがない。
「終わったな、賊以外に死者が出なかったのは何よりだ」
「もしあそこで魔剣を手に入れた男が暴れていたら、このぐらいの被害じゃ済まなかったわ……そうなっていたらと思うと、ぞっとするわね」
大剣を背負った男性とローブ姿の女性もかなり活躍したようだ。二人に感謝を伝える獣人さんも多い――実際は、そのぞっとする展開が正しい歴史なんだけど。
まあなんにせよ、これでやるべき事は全て終わったな。失礼する事にしよう。
街の出口へと歩き出した自分に、背後から声がかかる。
「ちょっと、どこへ行くのよ? って、貴方⁉ 体が透けてきてるわよ⁉ いったいどうしたのよ!」
ローブ姿の女性に言われて、自分の手を見ると、確かに地面が透けて見える。どうやら時間切れらしい。主目的であったこの時代の【円花】の破壊を早々に済ませたから、時間切れが知らぬ間に近づいていたんだろう。
「自分の役目は終わりって事かな。それでは失礼するよ」
そう言い終えた直後、自分の視界が暗転する――ああ、本来の世界に帰る感覚だ。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 《百里眼》Lv40
〈技量の指〉Lv78 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18 〈円花の真なる担い手〉Lv3
〈義賊頭〉Lv68 〈隠蔽・改〉Lv7
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈上級薬剤〉Lv49 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP30
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者
魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》
4
目を覚ますと、ログアウトした宿屋の天井が目に入ってきた。無事円花の世界から帰還できたか。
三回ほど瞬きをしてから体を起こす。近くのテーブルの上でまどろんでいた妖精アクアも目を覚まして、「ぴゅ!」と挨拶をくれた。
装備を身に纏い、部屋から出ようとしたとき、天井から僅かに叩く音が聞こえた。これは義賊小人のリーダーだな、何があった?
ドアノブから手を離し、ベッドに腰かけてから「いいぞ、入れ」と呟く。
「親分、申し訳ありやせん。少々お耳に入れたい事がありやして」
小人リーダーが、無駄なおしゃべりに来たとは思えない。だから「構わん、話せ」と短く告げる。
「実はここ最近、世を騒がせる義賊集団が現れたようで……それだけなら別に親分にまで話を持ってこないんですがね……問題がありやして」
そうして話を聞いていくうちに、自分は少々しかめっ面をせざるを得なくなった。どうもそいつらは自己顕示欲が非常に強いようで、小さな悪党を潰すにしてもいちいち見栄えのする大立ち回りを演じて大掛かりにするらしい。そいつら、本当に義賊なのか?
「親分の考える事は分かりやす。確かに奴らは悪党しか叩いておりやせん。ですが、親分のお考えのように目立ち過ぎという点は弁解しようがありやせん。あっしらは義によって動いているとはいえ、賊は賊。影に紛れて行動し、陰で事を済ませ、翳の晴れぬうちに去るのが鉄則でありやす。あっしらのような者は基本的に存在しないように立ち回らなければ、お天道様の下で汗を流す皆様方にいらぬ恐怖心を与えかねませんや」
そう、義賊と名乗れど所詮は賊。無断で他人の家に入った事も何度もあるし、色々とやってきているからな。『正義のためだ』なーんて言ったって、法に照らし合わせればそれらが罪である事に変わりはない。あくまで、成果を出したから『見逃してもらっている』だけだ。それを、目立っている連中は理解していない可能性が高い。
厄介な事にならねばいいが、ならないわけがない。そんな連中は、為政者からしてみれば捕縛するのが当然だし、悪党からは真っ先に潰すべきターゲットとみなされる。
「更に困った事に、そいつらはあっしらができる限り静かに片を付けたいくつかの問題を、自分達が解決したなどと文をばら撒いて宣伝までしておりやす。この事に対して、部下からかなりの不満が上がってきてやして……ずいぶん骨を折って穏便に片を付けた苦労を台無しにされた、と。手柄なんてのはどうでも構いやせんがね、喧伝される事で、静かに暮らせていた人達の周囲が騒がしくなってしまっておりやす」
――それは、看過できないな。こっちの仕事の成果を奪った云々は二の次三の次でいい。だが、静かに過ごしている人の生活を妨害したとなれば話は別だ。そこに義はない。
「命令だ。そいつらの行動から目的、今までの仕事、全てひっくるめて洗い出せ。その結果次第では、直接話をつけに行く必要が出てくるからな。その備えも忘れるなよ?」
自分の指示に頷くと、小人リーダーは姿を消した。
それにしても面倒な仕事を増やしてくれたものだ。目立ちたいなら、どこかの国の警備関連にでも協力して成果を上げればいいだろうに、よりによって義賊を名乗って大立ち回りか。
そしてもし、その義賊団がプレイヤーを中心としたメンバーで固められていたら、余計厄介だ。小人リーダー達の能力は優秀だが、プレイヤーに対してはあまり効果がない。おまけにプレイヤー同士の話となれば、拗れる可能性がより高くなる……人のプレイスタイルにケチをつけるのか、と反論されるのが容易に予想できる。
嘆いても仕方がないか。とりあえず今日はどうしよう。小人リーダーの調べ物が終わるまでは、この街から離れないほうがいいだろうな……ただし行動は情報が集まってからで十分だ。そうなると、街中でできる仕事を見つけるか。
調合関係はイマイチ閃きの神が下りてこないし、料理関連もまだ食べてない料理がアイテムボックスの中に結構残っているから、それを消化した後でいい。鍛冶は、もうちょっとアイディアがしっかり固まってから取りかかりたい。
街中をぶらぶらと見て回り、何か困っている人はいないかなと思ったが、特にこれといった仕事のネタはなさそうだった。
途中で休憩し、適当な料理をアクアと一緒に食べたぐらいで、やる事が見つからない。でも平和なのは良い事だ。今日はスリなどもいないようで、街のあちこちから談笑が聞こえてくる。
(そうだ、せっかくここまで来たのだから、前に世話になった道具屋を覗きに行こうか。今どうなっているか様子を見てみよう)
『痛風の洞窟』攻略で助けてもらい、その後には娘さんの件でひと騒ぎがあった、あの道具屋へと足を向ける。到着すると、まずまず人の出入りがあって、それなりには繁盛しているみたいだな。
他のお客に紛れて中に入ってみる。品揃えは、以前より少し良くなったような気がするな。冷気対策の品は相変わらずだが、一般の人が買う物……食べ物や飲み物、それにちょっとしたお菓子などが増えたようだ。以前よりも手を広げているんだな。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」
店を見て回っていると、中学一年生ぐらいの子から声をかけられた。この子はマリアちゃん、だったかな? 親から名前を呼んでもらえなくなった悲しさから、家出をして騒ぎになったあの子だ。それで自分は、ここの道具屋の主人である父親に、説教をかましてしまったんだっけ。
あのときはずいぶんと偉そうな事をしてしまったな、とつい苦笑が漏れる。
「日持ちのする携帯食を探しているんだが、お勧めはどのあたりかな?」
何も買わないというのも不自然なので、携帯食を買う事にした。携帯食は腐りにくいからいくらあっても困らないし、他の料理にプラスできるものが多くて便利だ。例えば燻製肉は、スープに入れれば出汁をとれる。
道具屋の今を見られて安心したし、買い物を済ませたら立ち去ろう。
「それではこちらでどうでしょうか、お兄ちゃん」
――しかし、そんな考えはあっさりと破綻した。どうやら、マリアちゃんは自分の正体を見破っていたらしい。あれからしばらく顔も合わせていなかったというのに……それに当時とは装備が色々と違う。特に外套は大きく変わったから、見ただけでは自分だと分からないはずだが。
「ちょっと見に寄っただけで、すぐ帰るつもりだったんだが……ばれちゃった以上は仕方ないか。どうして分かったのかな? お久しぶり、マリアちゃん。でもここじゃ他のお客さんの迷惑になっちゃうから、話をするならば場所を変えたいな」
ドラゴンスケイルヘルムとフードを脱いで、素顔をマリアちゃんに見せる。
「お兄ちゃんの声を忘れるなんて絶対にありえないよ! お兄ちゃんはおんじんだもの! じゃ、こっちに来て」
うーん、マリアちゃんが自分の事をお兄ちゃんと呼ぶたびに、お店にいる何人かが自分に威圧というか殺気というか、とにかくそういった類のものをぶつけてきた。
マリアちゃんの案内を受けながらちらりちらりとその発信元を見て、どれも大体マリアちゃんと同じ歳ぐらいの獣人の男の子だった事に納得する。彼らにとって、マリアちゃんは片思いの相手なんだろう。で、お互いが牽制していたところに知らない人族がやってきて、親しげにお兄ちゃんと呼ばれていたら、心穏やかではいられないよな。
(人の恋路を邪魔するつもりはなかったんだけどねえ。彼らが買い物に来るのは、マリアちゃんと話をするチャンスを得るためか……涙ぐましい努力だな)
その行動を笑うつもりは決してない。微笑ましい気持ちにはなるけど。頑張れよーと言ってあげたいが、それは難しいか。そんな視線を浴びながら、お店の裏に移動する。
マリアちゃんからは、ここで待っててね!と言われたので、大人しく待つ事に。おそらくご両親のうち、すぐに動ける方を呼んでくるのだろう。
やがて、パタパタという足音と共に、マリアちゃんのお母さんがやってきた。
「まあまあまあ、いらっしゃると分かっていれば、もっとしっかりお出迎えができましたのに!」
そんな事を言いながら自分に頭を下げてくるマリアちゃんのお母さん。
「いえ、こちらもふらりと近くに来たから様子を見ようと思っただけでして。逆にお時間を取らせてしまって申し訳ない」
そんなやり取りから始まったが、この日ログアウトするまで色々な話をした。ご両親はマリアちゃんの事をちゃんと名前で呼ぶようになり、彼女も色々とお店の手伝いをするようになったとか。特に、お菓子をお店に置くようになったのはマリアちゃんの考えらしい。
時々喧嘩はあるようだけど、以前に比べればずっと親子仲は良くなったようでひと安心。あのとき自分が取った行動は間違っていなかった。この家族には、これからも幸せでいてほしいものだな。
◆ ◆ ◆
そしてそれから数日、自分は宿屋の中で、変装用の偽顔作りなどや新たな道具を生み出すべく調合を繰り返していた。宿の外に出る時間はほとんどなかった。
そんな事をやっていたのは、新しく出てきた義賊達の一件が予想以上に大きくなっていたからだ。
あれから小人リーダーに情報を集めてもらったところ……奴らは夜でも平然と爆発物を使う事が判明。遅い時間に突然響き渡る爆発音は、もはや安眠妨害なんてレベルではなく強いストレスを感じさせ、実際に具合を悪くする獣人さんが多数出てきていた。
それに、他の義賊が密かに片を付けた事件を掘り返して自分の手柄だと喧伝する事の被害が、予想以上に大きかったのも頭が痛い。当事者が引っ越しを余儀なくされるなんてのは可愛いほうで、婚約の解消や契約の取り消しなど、金銭から人生にまで関わる被害も多数ある事が確認された。
そして、当の義賊団はその事に一切気がつく様子が見られないというのだ。
これらの状況を鑑みて、もう放置しておく事はできないと自分は結論付けた。そして、彼らを一網打尽にすべく情報を更に集めていたところ、他の義賊団や以前共闘した獣人連合の影達から接触があった。
目的は同じなのだから、共闘して事に当たろう。ひと言で言えばこういう話だ。
断る理由はないので、彼らと直接会って意見交換後、共闘への同意と契約を交わした。
奴らの捕縛は、「ワンモア」世界の明日の夜に決行すると決まっているので、それまでに必要となる物を仕込んでおく必要がある。
調合の途中で、スキル〈上級薬剤〉のレベルが50に到達した。なのでExP5と引き換えにスキル進化を行って〈薬剤の経験者〉へと上げておいた。この進化で調合が安定して成功するようになり、非常に助かった。
今回は夜の街中での行動となるので、爆発物である【強化オイル】は使えない。その代わりとして、義賊小人達が集めてきてくれた様々な毒草の中でも使いやすそうな【昏睡草】を用いた、新しい妨害用ポーションの製作に全力を挙げている。
そして試作品を義賊小人に渡し、色々なテストをモンスター相手に行ってきた。
最初は単純に、【昏睡草】から抽出できた睡眠毒のみを扱っていた。だが、報告によるとこっちに気がついていないモンスターには有効であったが、気がついて興奮状態のモンスターには一切効かなかったそうだ。
なので、少し他の毒を混ぜる事で、より睡眠毒が体に染み込むような調合を色々と探してみた。HPにじわじわとダメージを与えるベーシックな毒をはじめ、手当たり次第に試した結果――一番良い報告が上がってきたのは、昏睡毒七、麻痺毒二、そして上手くいかないので半分自棄でぶち込んだ【快復草】一の割合で調合を行った物であった。
おそらく、麻痺毒がほんの少し体をマヒさせたところに昏睡毒が潜り込む、という流れになっているんだろう。【快復草】は、両者の毒効果を高めていると思われる。
【昏睡ポーション・改】
このポーションの水煙を体に取り込んだ者は、戦闘中であっても強制的に眠らされてしまう。
ただし、睡眠の状態異常に耐性があると十全に効果が発揮されない。
また、何度も使うと耐性が出来る。
そのため、永続的に眠らせる事はできないし、効果の発現に必要な時間と摂取量も増える。
無差別に眠らせるので、自爆や誤爆に注意が必要。
製作評価:6
「親分、例の新型昏睡水薬の効果は上々でさ。怒り狂った魔物ですら一分とかからず寝込みやすよ。連続して使うと効果が薄れてきやすが、初回の不意打ちで使うには十分過ぎる性能でしょうな」
――どうやら、最終チェックも上手くいったようだ。間に合ってよかった……これで切った張ったの状況を最小限に抑えられる。今回の捕縛は街のど真ん中でやるので、できる限り音を立てずに全てを終わらせたい。何せ連中の次の狙いは、こちらの頼みに快く囮役を引き受けてくれた街の中にある商人の家という事が分かっている。
で、そこの商人が脱税などの悪事を働いている、という嘘情報を連中の耳に入るように流した。そうしたらあっさり釣れたんだよな……一切裏を取らないで決めてる時点でダメだな、と思った。
うちの義賊団は必ず小人リーダーらが裏を取って、間違いなく黒だって判明しない限り、仕事を始める事はない。
「そうか、それは何よりだ。できるだけ静かに無力化せんとならんからな……あの連中に爆発物を使わせたら最悪、大火事が発生する。連中はそういう事を考慮に入れないのかと首をかしげてしまうが、そこのところは分からないか?」
自分の疑問に、小人リーダーは「一応調べやした」と返答。優秀だなぁ。
「連中は、爆発はするが発火はしないものを使っているようで……と言っても、あくまで爆発物が積極的に発火しないだけで、火花などの火種となりうるものは出ておりやした。今まで火事にならなかったのは、単純に運が良かっただけでしかありやせん。そして、そんな運が切れた時が大火事の発生する時となりやす。あっしから見ても、あの連中は義賊を名乗るだけの単なる悪党になる寸前といったところで。今回で全員逃がさず捕縛しないと、多くの人命と財産が失われる不安の火種を消せませんや」
この報告を聞いてゾッとした。そんな危険物を、あいつらは平然と街の中で使ってるのか⁉ やっぱりあの連中は危険すぎる。
「それでも一応、捕縛前にそういう危険性を伝えて、今後はちゃんと義賊らしい振る舞いをするか、あるいは足を洗うか、問いただす事にしよう。無論、一回だけだ。それで素直に行いを改めるなら良し、足を洗うでも良し。それ以外なら、やはり捕縛するしかないだろう。あいつらの考えと街の人達の命を天秤にかけるような真似はできん」
まあ、九九%聞きやしないんだろうけどな。俺達のプレイスタイルを否定するな、って言ってくる姿が今から目に浮かぶ……そう、例の義賊の一団は、プレイヤーが五人、こちらの世界の住人が一二人の構成である事が判明している。
この場合、PKができない「ワンモア」のルールを抜けるために自分はこっちの世界の人達を捕縛、偽義賊をやっているプレイヤーは「ワンモア」の世界の人達に捕縛を頼む形になる。当然、【昏睡ポーション・改】を投げるのも、小人リーダーをはじめとしたこちらの世界の存在に任せる。今回製作した薬は敵味方を無差別に眠らせてしまうけど、近寄らずに投げれば問題あるまい。
「他の連中はどうだ? 準備はもう整っているのか?」
協力者達との連絡は、小人リーダーとその周囲を固める精鋭に頼んでいる。リーダーは仕事が多くて一人では手が足りないので、彼が優秀だと認める六名に補佐をやらせているのだ。
「へい、今回の捕縛に参加する三つの義賊団全てから、準備を終えたとの連絡が入っておりやす。お上のほうも、滞りなく作戦を始められる状態にあると知らせてきやした。親分の薬も完成しやしたので、これで今回の準備は全て整った事になりやす」
と、小人リーダーが報告。よし、準備万端で迎えられるなら、油断さえしなければ捕縛は成功させられるはずだ。この捕縛に失敗すれば街の人達を危険に晒す事になる可能性が高いだけに、失敗は許されない。きっちり仕事を済ませて、手を組んだ皆で成功を祝いたいものだな。
「よし、決行はついに明日だ。小さな事でも異常があれば必ず報告しろ。小さな見落としで全てを台無しにしてしまったら、取り返しがつかん。あんな連中にこれ以上義賊の名を汚させるわけにはいかない。終わるまで気を抜くなと、皆に伝えておけ」
小人リーダーはいつものように頷き、姿を消す。
自分も調合作業が一段落したので、ログアウトする事にした。明日は、大捕り物だな。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 《百里眼》Lv40
〈技量の指〉Lv78 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18 〈円花の真なる担い手〉Lv3
〈義賊頭〉Lv68 〈薬剤の経験者〉Lv9
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈隠蔽・改〉Lv7 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP28
「私も行くわ、ある程度魔法もいけるから役に立てると思う」
剣を抜きに来ていたローブ姿の女性も協力を申し出てくれたので、特に苦戦している場所へと案内してもらう。その途中で大剣を背負った男性を見つけ、彼にも協力してもらう形になった。
そうして自分が見たものは――いかにも山賊!といった髭面で腹の出張った男が振り回す大きな斧を、半分ぐらいに折れた剣を手に防ぐ犬の獣人さんの姿だった。
山賊風の男の周囲には賊の集団がいて、怪我を負って動けない人達を必死で庇っている犬の獣人さんに向かって、さっさとやられちまいな、などと罵声を投げかけている。
その状況を覆すべく、自分は【円花】を伸ばして山賊風の男が持つ斧の横っ面をひっぱたくが、びくともしなかった。あの斧が、魔剣の一種か。
そして、この場にいる人々の視線が一斉に自分へと向く。特に横槍を入れられた山賊風の男は、不愉快そうな表情をはっきりと浮かべていた。
「援軍か⁉ あの斧には気をつけろ! 鋼の剣が紙のように容易く断ち切られるほどの切れ味を持っている! 街の門も、こいつの斧でぶった切られちまったんだ!」
自分の横槍でひと呼吸の休息を取れた犬の獣人さんが、そう教えてくれた。だが、これを聞いた山賊風の男は下品な笑い声を上げる。
「ぎゃっはっは、この斧は当たれば一撃で相手を殺せるだけじゃねえ。こいつはいくら振り回したって疲れ知らずだ! 俺様にとって最高の相棒よ。こいつの前では、どんな奴でもいつかは疲れ果てる。そこを美味しく捕まえて真っ二つってわけだ! おめえもこの斧で血まみれの肉塊にしてやるぜ! ああ、金目の物は全部俺様達が頂いてやるから、安心してあの世に逝け!」
言うが早いか、犬の獣人さんを仲間に任せ、自分目がけて突進してくる山賊風の男。
でもねえ……それって、あくまで近接戦闘で真っ向勝負の人に限った話でしょ? こっちにはお前のような奴と真正面から戦うつもりは微塵もない。
「――【円花】」
するするっと蛇の如く地面を這って切っ先が進む、スネークソードのアーツ《ポイズンスネーク》を発動。山賊風の男は正面にいる自分の事ばかり見ているようで、それに一切気がついていない。
なので遠慮なく、その左膝に【円花】を深く食らいつかせた。
「うがあああ⁉」
突如訪れた痛みにあっさり斧を手放し、もんどり打つように倒れる山賊風の男。
やっぱりな、こいつは良すぎる武器の性能で勝ってきただけだから、戦士としての能力は下の下だと予想していた。あの斧がなければ、きっと犬の獣人さんは余裕を持って勝ってただろうってのは、最初に見たときから思ってた事だ。
というのも、自分が到着したときの戦いでのこいつは、明らかに大振りで無駄な動きが多すぎな、初心者の動きってやつだった。それでも犬の獣人さんが踏み込めなかったのは、後ろに怪我をした人達がいたのと、どんな物でも断ち切られる一撃の怖さを最大限に警戒していたからだろう。
でも、今の自分と山賊風の男の間合いであれば、どうあがいても斧の攻撃は届かない。もちろん斧をトマホークみたいに投げてこられれば別だけど、そうなったらそうなったで得物を失ったあいつを倒すのは容易い。
「うがああ、抜けねえ、抜けねえ!」
【円花】が食いついた左膝を抱えながら転げ回る、山賊風の男。必死で切っ先を抜こうとしているが、上手くいかないようだ。ま、そうなるようにしているんだけどさ。
そして、隙だらけと言っていいその姿を、犬の獣人さんが見逃す事はあり得ないんだよね。
「あの斧さえなければ、貴様など手こずる相手ではないのだ!」
と、半分になっている剣を山賊風の男の脳天に突き立てる。その一撃がトドメとなって、山賊風の男は二度と声を上げる事のない骸になった。
すると途端に他の賊連中は逃げ出した。ちょっとでも不利になったり不安要素が入ったりしたら逃げの一手か。まあ、賊の繋がりなんてそんなもんなのかね。
それから、【アンコモン・ポーション】を取り出して怪我をした人に振りかけていく。これで命の危機からは脱するはずだ。
「すまん、援護に感謝する。それに怪我人の手当てまで……その上で心苦しいのだが、残りの賊共の討伐にも共闘を頼めないだろうか? ああいう連中はしっかりと始末しておかないときりがない」
もっともな話だ。なのでこのまま、他の門から街に押し寄せてきていた賊共を、獣人さん達と協力しながら殲滅。賊の戦力はさっき倒した斧持ちにかなり依存していたようで、大した時間はかからなかった。
今回は一人も生け捕りにせず、襲ってきた賊全員が屍を晒す事になった。これは因果応報なので別に何とも思わない。こうなるのが嫌なら、初めからそれなりの身の振り方を考えろとしか言いようがない。
「終わったな、賊以外に死者が出なかったのは何よりだ」
「もしあそこで魔剣を手に入れた男が暴れていたら、このぐらいの被害じゃ済まなかったわ……そうなっていたらと思うと、ぞっとするわね」
大剣を背負った男性とローブ姿の女性もかなり活躍したようだ。二人に感謝を伝える獣人さんも多い――実際は、そのぞっとする展開が正しい歴史なんだけど。
まあなんにせよ、これでやるべき事は全て終わったな。失礼する事にしよう。
街の出口へと歩き出した自分に、背後から声がかかる。
「ちょっと、どこへ行くのよ? って、貴方⁉ 体が透けてきてるわよ⁉ いったいどうしたのよ!」
ローブ姿の女性に言われて、自分の手を見ると、確かに地面が透けて見える。どうやら時間切れらしい。主目的であったこの時代の【円花】の破壊を早々に済ませたから、時間切れが知らぬ間に近づいていたんだろう。
「自分の役目は終わりって事かな。それでは失礼するよ」
そう言い終えた直後、自分の視界が暗転する――ああ、本来の世界に帰る感覚だ。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 《百里眼》Lv40
〈技量の指〉Lv78 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18 〈円花の真なる担い手〉Lv3
〈義賊頭〉Lv68 〈隠蔽・改〉Lv7
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈上級薬剤〉Lv49 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP30
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者
魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》
4
目を覚ますと、ログアウトした宿屋の天井が目に入ってきた。無事円花の世界から帰還できたか。
三回ほど瞬きをしてから体を起こす。近くのテーブルの上でまどろんでいた妖精アクアも目を覚まして、「ぴゅ!」と挨拶をくれた。
装備を身に纏い、部屋から出ようとしたとき、天井から僅かに叩く音が聞こえた。これは義賊小人のリーダーだな、何があった?
ドアノブから手を離し、ベッドに腰かけてから「いいぞ、入れ」と呟く。
「親分、申し訳ありやせん。少々お耳に入れたい事がありやして」
小人リーダーが、無駄なおしゃべりに来たとは思えない。だから「構わん、話せ」と短く告げる。
「実はここ最近、世を騒がせる義賊集団が現れたようで……それだけなら別に親分にまで話を持ってこないんですがね……問題がありやして」
そうして話を聞いていくうちに、自分は少々しかめっ面をせざるを得なくなった。どうもそいつらは自己顕示欲が非常に強いようで、小さな悪党を潰すにしてもいちいち見栄えのする大立ち回りを演じて大掛かりにするらしい。そいつら、本当に義賊なのか?
「親分の考える事は分かりやす。確かに奴らは悪党しか叩いておりやせん。ですが、親分のお考えのように目立ち過ぎという点は弁解しようがありやせん。あっしらは義によって動いているとはいえ、賊は賊。影に紛れて行動し、陰で事を済ませ、翳の晴れぬうちに去るのが鉄則でありやす。あっしらのような者は基本的に存在しないように立ち回らなければ、お天道様の下で汗を流す皆様方にいらぬ恐怖心を与えかねませんや」
そう、義賊と名乗れど所詮は賊。無断で他人の家に入った事も何度もあるし、色々とやってきているからな。『正義のためだ』なーんて言ったって、法に照らし合わせればそれらが罪である事に変わりはない。あくまで、成果を出したから『見逃してもらっている』だけだ。それを、目立っている連中は理解していない可能性が高い。
厄介な事にならねばいいが、ならないわけがない。そんな連中は、為政者からしてみれば捕縛するのが当然だし、悪党からは真っ先に潰すべきターゲットとみなされる。
「更に困った事に、そいつらはあっしらができる限り静かに片を付けたいくつかの問題を、自分達が解決したなどと文をばら撒いて宣伝までしておりやす。この事に対して、部下からかなりの不満が上がってきてやして……ずいぶん骨を折って穏便に片を付けた苦労を台無しにされた、と。手柄なんてのはどうでも構いやせんがね、喧伝される事で、静かに暮らせていた人達の周囲が騒がしくなってしまっておりやす」
――それは、看過できないな。こっちの仕事の成果を奪った云々は二の次三の次でいい。だが、静かに過ごしている人の生活を妨害したとなれば話は別だ。そこに義はない。
「命令だ。そいつらの行動から目的、今までの仕事、全てひっくるめて洗い出せ。その結果次第では、直接話をつけに行く必要が出てくるからな。その備えも忘れるなよ?」
自分の指示に頷くと、小人リーダーは姿を消した。
それにしても面倒な仕事を増やしてくれたものだ。目立ちたいなら、どこかの国の警備関連にでも協力して成果を上げればいいだろうに、よりによって義賊を名乗って大立ち回りか。
そしてもし、その義賊団がプレイヤーを中心としたメンバーで固められていたら、余計厄介だ。小人リーダー達の能力は優秀だが、プレイヤーに対してはあまり効果がない。おまけにプレイヤー同士の話となれば、拗れる可能性がより高くなる……人のプレイスタイルにケチをつけるのか、と反論されるのが容易に予想できる。
嘆いても仕方がないか。とりあえず今日はどうしよう。小人リーダーの調べ物が終わるまでは、この街から離れないほうがいいだろうな……ただし行動は情報が集まってからで十分だ。そうなると、街中でできる仕事を見つけるか。
調合関係はイマイチ閃きの神が下りてこないし、料理関連もまだ食べてない料理がアイテムボックスの中に結構残っているから、それを消化した後でいい。鍛冶は、もうちょっとアイディアがしっかり固まってから取りかかりたい。
街中をぶらぶらと見て回り、何か困っている人はいないかなと思ったが、特にこれといった仕事のネタはなさそうだった。
途中で休憩し、適当な料理をアクアと一緒に食べたぐらいで、やる事が見つからない。でも平和なのは良い事だ。今日はスリなどもいないようで、街のあちこちから談笑が聞こえてくる。
(そうだ、せっかくここまで来たのだから、前に世話になった道具屋を覗きに行こうか。今どうなっているか様子を見てみよう)
『痛風の洞窟』攻略で助けてもらい、その後には娘さんの件でひと騒ぎがあった、あの道具屋へと足を向ける。到着すると、まずまず人の出入りがあって、それなりには繁盛しているみたいだな。
他のお客に紛れて中に入ってみる。品揃えは、以前より少し良くなったような気がするな。冷気対策の品は相変わらずだが、一般の人が買う物……食べ物や飲み物、それにちょっとしたお菓子などが増えたようだ。以前よりも手を広げているんだな。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」
店を見て回っていると、中学一年生ぐらいの子から声をかけられた。この子はマリアちゃん、だったかな? 親から名前を呼んでもらえなくなった悲しさから、家出をして騒ぎになったあの子だ。それで自分は、ここの道具屋の主人である父親に、説教をかましてしまったんだっけ。
あのときはずいぶんと偉そうな事をしてしまったな、とつい苦笑が漏れる。
「日持ちのする携帯食を探しているんだが、お勧めはどのあたりかな?」
何も買わないというのも不自然なので、携帯食を買う事にした。携帯食は腐りにくいからいくらあっても困らないし、他の料理にプラスできるものが多くて便利だ。例えば燻製肉は、スープに入れれば出汁をとれる。
道具屋の今を見られて安心したし、買い物を済ませたら立ち去ろう。
「それではこちらでどうでしょうか、お兄ちゃん」
――しかし、そんな考えはあっさりと破綻した。どうやら、マリアちゃんは自分の正体を見破っていたらしい。あれからしばらく顔も合わせていなかったというのに……それに当時とは装備が色々と違う。特に外套は大きく変わったから、見ただけでは自分だと分からないはずだが。
「ちょっと見に寄っただけで、すぐ帰るつもりだったんだが……ばれちゃった以上は仕方ないか。どうして分かったのかな? お久しぶり、マリアちゃん。でもここじゃ他のお客さんの迷惑になっちゃうから、話をするならば場所を変えたいな」
ドラゴンスケイルヘルムとフードを脱いで、素顔をマリアちゃんに見せる。
「お兄ちゃんの声を忘れるなんて絶対にありえないよ! お兄ちゃんはおんじんだもの! じゃ、こっちに来て」
うーん、マリアちゃんが自分の事をお兄ちゃんと呼ぶたびに、お店にいる何人かが自分に威圧というか殺気というか、とにかくそういった類のものをぶつけてきた。
マリアちゃんの案内を受けながらちらりちらりとその発信元を見て、どれも大体マリアちゃんと同じ歳ぐらいの獣人の男の子だった事に納得する。彼らにとって、マリアちゃんは片思いの相手なんだろう。で、お互いが牽制していたところに知らない人族がやってきて、親しげにお兄ちゃんと呼ばれていたら、心穏やかではいられないよな。
(人の恋路を邪魔するつもりはなかったんだけどねえ。彼らが買い物に来るのは、マリアちゃんと話をするチャンスを得るためか……涙ぐましい努力だな)
その行動を笑うつもりは決してない。微笑ましい気持ちにはなるけど。頑張れよーと言ってあげたいが、それは難しいか。そんな視線を浴びながら、お店の裏に移動する。
マリアちゃんからは、ここで待っててね!と言われたので、大人しく待つ事に。おそらくご両親のうち、すぐに動ける方を呼んでくるのだろう。
やがて、パタパタという足音と共に、マリアちゃんのお母さんがやってきた。
「まあまあまあ、いらっしゃると分かっていれば、もっとしっかりお出迎えができましたのに!」
そんな事を言いながら自分に頭を下げてくるマリアちゃんのお母さん。
「いえ、こちらもふらりと近くに来たから様子を見ようと思っただけでして。逆にお時間を取らせてしまって申し訳ない」
そんなやり取りから始まったが、この日ログアウトするまで色々な話をした。ご両親はマリアちゃんの事をちゃんと名前で呼ぶようになり、彼女も色々とお店の手伝いをするようになったとか。特に、お菓子をお店に置くようになったのはマリアちゃんの考えらしい。
時々喧嘩はあるようだけど、以前に比べればずっと親子仲は良くなったようでひと安心。あのとき自分が取った行動は間違っていなかった。この家族には、これからも幸せでいてほしいものだな。
◆ ◆ ◆
そしてそれから数日、自分は宿屋の中で、変装用の偽顔作りなどや新たな道具を生み出すべく調合を繰り返していた。宿の外に出る時間はほとんどなかった。
そんな事をやっていたのは、新しく出てきた義賊達の一件が予想以上に大きくなっていたからだ。
あれから小人リーダーに情報を集めてもらったところ……奴らは夜でも平然と爆発物を使う事が判明。遅い時間に突然響き渡る爆発音は、もはや安眠妨害なんてレベルではなく強いストレスを感じさせ、実際に具合を悪くする獣人さんが多数出てきていた。
それに、他の義賊が密かに片を付けた事件を掘り返して自分の手柄だと喧伝する事の被害が、予想以上に大きかったのも頭が痛い。当事者が引っ越しを余儀なくされるなんてのは可愛いほうで、婚約の解消や契約の取り消しなど、金銭から人生にまで関わる被害も多数ある事が確認された。
そして、当の義賊団はその事に一切気がつく様子が見られないというのだ。
これらの状況を鑑みて、もう放置しておく事はできないと自分は結論付けた。そして、彼らを一網打尽にすべく情報を更に集めていたところ、他の義賊団や以前共闘した獣人連合の影達から接触があった。
目的は同じなのだから、共闘して事に当たろう。ひと言で言えばこういう話だ。
断る理由はないので、彼らと直接会って意見交換後、共闘への同意と契約を交わした。
奴らの捕縛は、「ワンモア」世界の明日の夜に決行すると決まっているので、それまでに必要となる物を仕込んでおく必要がある。
調合の途中で、スキル〈上級薬剤〉のレベルが50に到達した。なのでExP5と引き換えにスキル進化を行って〈薬剤の経験者〉へと上げておいた。この進化で調合が安定して成功するようになり、非常に助かった。
今回は夜の街中での行動となるので、爆発物である【強化オイル】は使えない。その代わりとして、義賊小人達が集めてきてくれた様々な毒草の中でも使いやすそうな【昏睡草】を用いた、新しい妨害用ポーションの製作に全力を挙げている。
そして試作品を義賊小人に渡し、色々なテストをモンスター相手に行ってきた。
最初は単純に、【昏睡草】から抽出できた睡眠毒のみを扱っていた。だが、報告によるとこっちに気がついていないモンスターには有効であったが、気がついて興奮状態のモンスターには一切効かなかったそうだ。
なので、少し他の毒を混ぜる事で、より睡眠毒が体に染み込むような調合を色々と探してみた。HPにじわじわとダメージを与えるベーシックな毒をはじめ、手当たり次第に試した結果――一番良い報告が上がってきたのは、昏睡毒七、麻痺毒二、そして上手くいかないので半分自棄でぶち込んだ【快復草】一の割合で調合を行った物であった。
おそらく、麻痺毒がほんの少し体をマヒさせたところに昏睡毒が潜り込む、という流れになっているんだろう。【快復草】は、両者の毒効果を高めていると思われる。
【昏睡ポーション・改】
このポーションの水煙を体に取り込んだ者は、戦闘中であっても強制的に眠らされてしまう。
ただし、睡眠の状態異常に耐性があると十全に効果が発揮されない。
また、何度も使うと耐性が出来る。
そのため、永続的に眠らせる事はできないし、効果の発現に必要な時間と摂取量も増える。
無差別に眠らせるので、自爆や誤爆に注意が必要。
製作評価:6
「親分、例の新型昏睡水薬の効果は上々でさ。怒り狂った魔物ですら一分とかからず寝込みやすよ。連続して使うと効果が薄れてきやすが、初回の不意打ちで使うには十分過ぎる性能でしょうな」
――どうやら、最終チェックも上手くいったようだ。間に合ってよかった……これで切った張ったの状況を最小限に抑えられる。今回の捕縛は街のど真ん中でやるので、できる限り音を立てずに全てを終わらせたい。何せ連中の次の狙いは、こちらの頼みに快く囮役を引き受けてくれた街の中にある商人の家という事が分かっている。
で、そこの商人が脱税などの悪事を働いている、という嘘情報を連中の耳に入るように流した。そうしたらあっさり釣れたんだよな……一切裏を取らないで決めてる時点でダメだな、と思った。
うちの義賊団は必ず小人リーダーらが裏を取って、間違いなく黒だって判明しない限り、仕事を始める事はない。
「そうか、それは何よりだ。できるだけ静かに無力化せんとならんからな……あの連中に爆発物を使わせたら最悪、大火事が発生する。連中はそういう事を考慮に入れないのかと首をかしげてしまうが、そこのところは分からないか?」
自分の疑問に、小人リーダーは「一応調べやした」と返答。優秀だなぁ。
「連中は、爆発はするが発火はしないものを使っているようで……と言っても、あくまで爆発物が積極的に発火しないだけで、火花などの火種となりうるものは出ておりやした。今まで火事にならなかったのは、単純に運が良かっただけでしかありやせん。そして、そんな運が切れた時が大火事の発生する時となりやす。あっしから見ても、あの連中は義賊を名乗るだけの単なる悪党になる寸前といったところで。今回で全員逃がさず捕縛しないと、多くの人命と財産が失われる不安の火種を消せませんや」
この報告を聞いてゾッとした。そんな危険物を、あいつらは平然と街の中で使ってるのか⁉ やっぱりあの連中は危険すぎる。
「それでも一応、捕縛前にそういう危険性を伝えて、今後はちゃんと義賊らしい振る舞いをするか、あるいは足を洗うか、問いただす事にしよう。無論、一回だけだ。それで素直に行いを改めるなら良し、足を洗うでも良し。それ以外なら、やはり捕縛するしかないだろう。あいつらの考えと街の人達の命を天秤にかけるような真似はできん」
まあ、九九%聞きやしないんだろうけどな。俺達のプレイスタイルを否定するな、って言ってくる姿が今から目に浮かぶ……そう、例の義賊の一団は、プレイヤーが五人、こちらの世界の住人が一二人の構成である事が判明している。
この場合、PKができない「ワンモア」のルールを抜けるために自分はこっちの世界の人達を捕縛、偽義賊をやっているプレイヤーは「ワンモア」の世界の人達に捕縛を頼む形になる。当然、【昏睡ポーション・改】を投げるのも、小人リーダーをはじめとしたこちらの世界の存在に任せる。今回製作した薬は敵味方を無差別に眠らせてしまうけど、近寄らずに投げれば問題あるまい。
「他の連中はどうだ? 準備はもう整っているのか?」
協力者達との連絡は、小人リーダーとその周囲を固める精鋭に頼んでいる。リーダーは仕事が多くて一人では手が足りないので、彼が優秀だと認める六名に補佐をやらせているのだ。
「へい、今回の捕縛に参加する三つの義賊団全てから、準備を終えたとの連絡が入っておりやす。お上のほうも、滞りなく作戦を始められる状態にあると知らせてきやした。親分の薬も完成しやしたので、これで今回の準備は全て整った事になりやす」
と、小人リーダーが報告。よし、準備万端で迎えられるなら、油断さえしなければ捕縛は成功させられるはずだ。この捕縛に失敗すれば街の人達を危険に晒す事になる可能性が高いだけに、失敗は許されない。きっちり仕事を済ませて、手を組んだ皆で成功を祝いたいものだな。
「よし、決行はついに明日だ。小さな事でも異常があれば必ず報告しろ。小さな見落としで全てを台無しにしてしまったら、取り返しがつかん。あんな連中にこれ以上義賊の名を汚させるわけにはいかない。終わるまで気を抜くなと、皆に伝えておけ」
小人リーダーはいつものように頷き、姿を消す。
自分も調合作業が一段落したので、ログアウトする事にした。明日は、大捕り物だな。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv42 《百里眼》Lv40
〈技量の指〉Lv78 〈小盾〉Lv42 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv18 〈円花の真なる担い手〉Lv3
〈義賊頭〉Lv68 〈薬剤の経験者〉Lv9
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈隠蔽・改〉Lv7 〈釣り〉(LOST!) 〈医食同源料理人〉Lv14
〈鍛冶の経験者〉Lv31 〈人魚泳法〉Lv10
ExP28
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