文字の大きさ
大
中
小
3 / 783
1巻
1-3
4
ゲームの中は夜を迎え、多くのプレイヤー達が次々と街に帰還してくる。先に進めるようになったとはいえ、まだ明かりが安定しないからか、もしくは単に夜を休憩するタイミングにしているからなのかもしれない。やっぱり殺意を持って襲い掛かってくるモンスターというのはなかなか怖い。そんな相手との戦いで疲れた心を休めるために、一息つくタイミングが必要なのだろう。
ポーションや食料の補充を兼ねている人も多いだろう。
さて、人は人として、自分は自分の行動をせねば。そう思いつつNPCから買ったパンを食べている……のであるが。
【パン】
空腹を満たすパン。餓死を防ぐための必需品。
種類:食事アイテム
製作評価:3
正直に言う。あまり美味しくない。それでもまあ、問題は無いのではあるが……
「ゲームの中でも美味い飯を食いたい!」
そんな欲求が膨らんできてしまう。
β組はとにかく先に進む、スキルを上げるなどの攻略メインの人が多いようだが、正式リリースから始めた組はそういう人ばかりではない。のんびりペースで攻略する人もいるし、生産や商売をメインにする人もかなり見かける。β組でも生産者として行動してる人は、そういう人にアドバイスをすることもあるようだ。
しかし、そんな中でも〈料理〉はあまり手をつけられていない。
NPC売りのパンも極端にマズいわけではないし、腹に入れば何でもいいという考えの人も多い。それが間違っているわけではないし、他のゲームだったら自分もそれぐらいの気分だっただろう。
だが、この世界ではきちんと食ったものの味が感じられる。それなら美味い飯が必要だろう! 魔改造大好き(代表例はカレー)日本人なら!
材料はラビットホーンのお肉があるので、コレを焼いて食う、という方針で決定。
〈料理〉スキルはLv1だし、手の込んだ品なんか出来るわけがない。とりあえず作ってみて、それから考えよう。
何にしても、調味料が必要だ。早速NPCの食材店に出向き、購入。
【塩】
すべての味付けの基本にして頂点。全ては塩に始まり塩に終わる。
種類:調理用補助アイテム
【胡椒】
肉料理の味を引き立たせる。
種類:調理用補助アイテム
【ハーブ】
その香りは安らぎをもたらす。調理に使ってもいいが、直接食べると短時間ながらMPを
自動回復(微少)。料理に入れると料理内容によってはMP回復効果は消える。
種類:調理用補助アイテム
これら三点の調味料を用いて、ステーキ風に焼いてみよう。
大通りで料理をすると通行人や露商達の邪魔になるので、脇道に入ってから初心者調理セットを展開。取り出したのはフライパン、携帯コンロ、携帯テーブル。こんなものが小さくまとまってるのはさすがゲームだ。ちなみに調理セットは、鍋、ナイフ、まな板、フライパン、コンロ、テーブルの六つでワンセットである。
フライパンに油を引き、少しなじませたらラビットホーンのお肉を投入。ほどよく焼き、ジュージューといういい音がしてきたら塩と胡椒を満遍なく振りかける。焼き色を見て皿に移し、完成。アイテムボックスに入れれば、持ち運ぶ手間はまったく無い。
【ラビットステーキ】
ラビットホーンの肉を単純に焼いたもの。
製作評価:2
評価がたったの2! NPCのパンより美味しくないってことか……とりあえず食えばわかるだろう。
……硬い、硬すぎる。肉の味はしたが、こんなに硬いんじゃ肉の美味しさなんて伝わりっこない。しかもやや臭みがある。塩や胡椒の味もいまいちだ。こんな物では評価2なのも納得だ。
硬いってことは結構筋が入ってるってことか……ならば筋きりをすればいいのだろうか。そう思って、次は焼く前に調理ナイフで軽く肉に切れ目を入れていく。こうすれば塩や胡椒の味もうまくのってくれるだろう。あとは臭みを消すためにハーブも入れてみようか。
そうしてもう一回焼いてみた結果……
【ラビットのハーブステーキ】
臭み消しにハーブを使って焼いたラビットホーンの肉。
下処理が入れられたので柔らかくなっている。
製作評価:5
評価5か……評価がぐっと良くなったということは、考え方は間違っていなかったようだ。早速試食だ。うん……肉は柔らかくなり、ハーブの匂いも悪くない。塩や胡椒もほどよく効いて、そこそこ満足できる。
だが、製作評価は10段階である。つまりまだ半分。〈料理〉スキルのLvが低いから10は作れないとしても、せめてあと1か2ぐらいは評価を上げてみたいところだ。幸い材料はまだまだあるし、いろいろ試す価値はある。
そして三〇分ぐらいあれこれ考えて、試して、作って食い続けて、ようやく現時点で作れる最高のラビットステーキが完成した。
【ラビットステーキ温水ハーブ仕立て】
肉を茹でてから焼くという手間を掛けたラビットホーンの肉。
茹でる際に使用したお湯にもハーブが入れられているために臭みが抜け、ラビットホーンの
肉とは思えない味に仕上がっている。
製作評価:7
ついに、7の評価がついた。焼く前に肉を茹でるなんて普通はありえないが、ラビットホーンの肉に関しては逆にそれが正解だったという、意地の悪すぎる結果となった。
苦労の甲斐あって、目の前にあるステーキは最弱モンスターからとった肉とは思えないほど、美味しそうな匂いをあたりに撒き散らしている。
ああ、満足だ、満足のいく料理が作れた。あとはゆっくり味わって食べるのみ。それでは、いただきま――
「ちょっと待ったぁ!」
ゑ……? 周りを見渡すと、なぜか男女問わずかなりの数のプレイヤーが、自分の周りに集まっていた。料理に熱中しててぜんぜん気が付かなかった。皆の目がぎらぎらしていて、軽くホラー映画を見ているような気分になったのは秘密である。
「な、何事でしょうか?」
かろうじて声は出せた。しかし、そこにいるプレイヤーは誰も自分を見ていなかった。
皆の視線は、自分が今まさに食べようとしていたラビットホーンのステーキに注がれていたのである。
その目が語っていた。
「「「「「「「「「食いたい」」」」」」」」」と。
本気で身の危険を感じた自分は、静かに調理セットをアイテムボックスの中に収納。ついでにラビットステーキも。
「し、失礼しました……」
無駄な抵抗だと知りながら、そう言い残してそそくさと退散しようとした。そしてそれは本当に無駄な抵抗であった……
その後の状況はあまり語りたくない。なんでも、肉の焼ける音と香ばしい匂いが大通りの方まで漂い、その近辺にいた多くのプレイヤーの食欲を掻き立ててしまったようだ。
やがて、大通りから外れた道でこそこそ肉を焼いているプレイヤーが見つかった(言うまでもないが、自分のことである)。そして皆無言でアイコンタクトし合って、それを見守っていたらしい。
「邪魔するな、出来上がったら食わせてもらおう」と。
どうやったら美味しくなるか考えるのに必死だった自分は、いつの間にかその包囲網の中に捕らえられていたのである。
「材料がもう無いんです」と言えば材料を人海戦術で調達。「で、出来上がるまで時間が」と言いわけすると「待つ」の一言。
逃げ場は無く、その後自分を取り囲んでいた全員が満足するまでラビットステーキを焼き続けるハメになったのであった。おかげでリアルの就寝時間が大幅に遅れ、次の日の仕事が非常に辛かったと、蛇足ながら付け加えておこう……
【スキル一覧】
〈弓〉Lv10 〈蹴り〉Lv9 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv7 〈製作の指先〉Lv9
〈料理〉Lv14 〈木工〉Lv1 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv3 〈身体能力向上〉Lv11
ExP3
5
それから数日が経過した。
「右良し、左良し、前進前進……」
なんでのっけから自分は、某M○Sの蛇さんのような行動をしているのか。
「はい、シェフ確保」
そんな声とともに後ろから肩をがっちり確保される。一人ではなく数人がかりで、だ。
「GYAAAAAAAAAAA!」
ホラー映画のような叫び声を上げる自分。周りの人達は「ああ。捕まってる捕まってる」と納得。コレが日常になってしまっているのだ……
ことの始まりはもちろんあのステーキ事件だ。人間はいったん上に上がってしまうと下に下りることは出来ない、などという至言を誰が言ったかは知らないが、自分がいろいろ工夫して作ったラビットの温水ハーブステーキを食った人が皆、次から次へと注文をプレゼントしてくれるのである、文字通り逃げ出したくなるほどの数を。
注文する人曰く、「あんなもの食べた後に、NPCのぱさぱさしたパンなんか……」ということらしい。
そして更に、〈料理〉スキルがLv15に到達し、製作評価8の料理が出来始めた頃に新たな問題が持ち上がってしまっていた。
その問題とは、製作評価8の料理には「ステータス強化効果」が付くようになってしまったことである。いや、それ自体は良い、とても良いことなんだけど。
ゲームの最前線を行く人達は完全に戦闘系スキルをメインにしており、ExPポイントも攻撃や補助など戦闘用のスキルにしか使わない。生産が苦手という人もいるだろうし、最前線以外の人も、自分なりの目標を崩してまで〈料理〉を取るかは微妙なところ。サブアカウントをとって新たにキャラメイクしようにも、二人目からはかなり高い追加料金が発生するため、その手段も難しい。そういった理由が組み合わさって、自分のもとに注文が山ほど来るのである。
やけになって、「ステーキは一つ一〇〇グローだ!」と、NPCパンの二〇倍もの値段を吹っかけたが、それでいいから作ってくれと、値引き交渉すら無かった。
どうも、前線の人達は既に武器系スキルがLv30に到達しているとか。するとたとえば今までは「剣」というスキルだったものを、「片手剣」「両手剣」「片手斧」「両手斧」などに「特化進化」させられる。そうして汎用性を削ることで、強力なアーツが獲得出来るのだ。
しかしこうしたより強力なスキルのアーツが使われるようになってから、あることが判明した。
「満腹度の減りが激しくなった」のである。
食わなきゃ餓死してしまうので当然パンを食べる、が。アーツをガンガン使って戦うとすぐにまた満腹度が減ってしまい、パンぐらいでは追いつかない。アーツを使うのにはMPも消費するのだが、こっちは回復を促進するスキルがあるからまだ何とかなった。しかし満腹度は食べ物を食うしか回復手段が無い。
特に体を使ったアーツ、剣技やら格闘やらを使う人は満腹度の減りが激しいようで、パンをたくさん買い込むハメになった。一つ一つは安いとはいえ、あまり美味しくはないし、いちいち食うのもなかなか手間。
そこに登場してしまったのが、ラビットホーンのステーキである。
味がいいのはもちろんだが、特に注目されたポイントは肉ゆえの回復量。更に一回食えばパンの十数倍は腹持ちが良く、また製作評価が8ならAtk小増加(長時間)のバフがつくので、結果的に一〇〇グローというお金を払っても得だったのである。一〇〇グローは自分にとってはそこそこの額でも、前線組にとっては既にはした金になってしまっているし。
一回捕まると、いつもログアウトする午後十一時半ぐらいまでひたすら料理を作るハメになる。もちろん逃げられない。〈料理〉のスキルLv? もうとっくに20を超えてしまった。レンジャー稼業が目標のはずなのに、やってることは料理人。頭を抱えたい気持ちを押し殺しつつ毎日料理作りに明け暮れるのだった。
なんとか少ない自由時間の合間をぬって〈木工〉スキルも上げている。弓を使おうにも木工職人はたいてい盾や杖を作るばかりなので、自分で弓を作るしかないからだ。木を切って、切った木から落ちてくる鳥の巣から鳥の羽を集めて木の矢を作りつつ、弓の基となる材料も作って〈木工〉スキルを上げる。少しはLvも上がったのでそろそろ弓を作る予定なのだが……料理が忙しくてなかなか取り掛かれない。
戦闘もしているが、さすがにもう最初のフィールドではスキルが上がりにくくなっており、そろそろ次のエリアに向かうべき頃合である。そのためにもいい加減武器と防具を初期装備から変更したい。弓は自作するとして、防具は他の職人プレイヤーから買う予定である。
〈料理〉を作りまくっているため、資金だけはガンガン増えている。だからこそそれなりにいいものを職人プレイヤーに注文しようと決心した。
一方で、料理のレパートリーがステーキだけなのはあまりにさびしい。そこで、食材店から、ニンジン、タマネギ、ピーマン、キャベツを購入し、他のプレイヤーが持ち込んできたドレッドウルフの肉を使って肉入り野菜炒めを製作。こちらは知性小増加が付いた。
更にただの水では口もさびしかろうと、薬草、ハーブを細かく砕き、少し渋みのある擬似ハーブティーを製作した。追加効果はMP五%回復+自然回復小。
ところがこれらが両方とも魔法使い向けの料理になってしまったため、コレを知った魔法使いプレイヤーから注文が殺到。MP回復のポーションがまだ出回っていなかったこともこの事態に拍車をかけ、注文が止むことはなくなってしまった。ああ、どんどん当初の目的から離れていく……
捕まると料理製作地獄になるので、いやでも危険察知能力が上がっていく。これには苦笑せざるを得ない。自分の腕を買ってくれるのはうれしいが、さすがに量が厳しい。プレイ時間が丸々料理で潰されてしまうので、逃げるのにも必死である。
だが、いまや必死になっても無駄な状態になってきている。自分が毎日ログインする時間がバレつつあるためだ。
一人の子を多数の鬼が人海戦術で探す逆転鬼ごっこが自然発生するという、完全に笑えない環境である。もちろんフレンド勧誘、ギルド勧誘だって来るが、全部断っている。受けたら本当の意味でアウトであるからして……数少ないフレンドのミリーやツヴァイからも毎回イジられてしまう。本当にどうしてこうなったの……か。
いつしか「食材店の脇にあるやや細い道はコックへの注文小道」なんて言われ方までされるようになっており、それを掲示板で見つけたときには本当に頭を抱えた。早く、早く他の料理人が出てきて注文を受けるようになって欲しいと、心の底から願うのであった。
【スキル一覧】
〈弓〉Lv11 〈蹴り〉Lv12 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv9 〈製作の指先〉Lv15
〈料理〉Lv23 〈木工〉Lv4 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv7 〈身体能力向上〉Lv14
ExP5
6
〈料理〉の合間にこつこつとやってきた〈木工〉だったが、ようやくじっくり取り掛かれる日が来た。〈料理〉スキルLv20で覚えることが出来たアーツ《料理促進》のお陰である。
このアーツの効果は、焼く煮るといった火を通すのにかかる時間を大幅に短縮するというもの。油断するとすぐにコゲて失敗してしまうが、〈料理〉地獄で培った集中力を全力で無駄に発揮。注文の〈料理〉をハイスピードで仕上げられるようになったのだ。もちろん品質を維持しながら。
ある意味リアルの仕事よりはるかに集中していたと思うよ。
さて、やっと取り掛かれる〈木工〉。目標はもちろん、出来る範囲で最高の弓を作ること。次のエリアに攻撃力2の初心者用弓ではさすがに無謀だし。
材料は今までこつこつと仕上げておいたため、すぐに製作に取り掛かれる。まず作るのは素材の板材から切り出して仕上げるという、最も単純な造りの弓。全然弱いが、〈木工〉スキルが低いのにいきなり複合弓なんかに手を出すのはバカでしかない。
弓の形を切り出し、細かい手入れをし、滑り止めなどを付けて持ち手部分を作り、弦を張って完成。この簡単な作業ですら、用意しておいた材料を大量に無駄にしてしまった。
そしてとりあえず一つ目の弓が完成。
【初心者木工職人の弓】
木工職人になるべく訓練しているものが作った弓。モンスター相手に使うには力不足。
効果:Atk+4
製作評価:3
初心者の弓よりはマシ、ぐらいの弱々しい性能である。それでも、初めて作ったにしては上出来だろう。〈木工〉スキルが低くても、〈製作の指先〉スキルが高いために補整が効いていると見るべきか。
その後は〈木工〉スキルを上げるためにとにかく量産する。その中で一番出来のいいものをメインウェポンとして使えばいいのだが……最初のものと大して変わらないのが現実。
ふとここで、料理しているときに思い付いた、「常識に捕らわれすぎず、少しいじると上手くいく」という考えを思い出す。
あのときは焼くだけじゃなく、煮たりハーブを使ったりと、色々いじったことが結果として良かった。それは〈木工〉にも通じるのではないだろうか?
物は試しでやるのが、この世界における製作の面白さ。
まずは弓の型を良くしなる板材から一つ、しなりがやや硬く丈夫な板材から二つとり、良くしなる板材を中心にすえて、しなりが硬い木材で左右から挟む。二つの木材の特性が支え合えば性能が上がるのでは? と考えたのである。
三つの型を重ねて、一本の弓とすべく調整する。ばらばらにならないように結合させ、更に木で作った留め具を上、中央よりやや下、下の三つに配置。持ちやすいようにバランスを考えつつ表面を削り、曲げていく。
何度も構えて感触を確かめ、持ち手部分を作り、弦を張る。
また、何度も引くことで強度、バランス、結合の強さを確認していく。もし戦闘途中で分解なんてしたら笑い話にもならない。
板材の違いで、黒っぽい左右の板に中央の白い型が目立つ弓が完成した。何本か製作した中で一番良い出来だったものがコレ。
【試作型木材結合弓】
複数の木材を一つにするという考えから生まれた弓。性能はそれなりだが、手入れが難しい。
効果:Atk+12
製作評価:5
【駆け出しの弓】が+2だったことからすると、大幅な強化になった。当分はコレを使っていくか。耐久力回復のために使用する木材が二種類必要だから、「手入れが難しい」のだろう。ただ、それを差し引いても心強い相棒であるのは間違いないな。
武器が出来ればお次は防具である。その相談のため、防具職人プレイヤーのもとへ向かった。武器防具職人のよく居るエリアへと歩を進めると、少年のような外見の女性プレイヤーがいた。
「防具販売、製作受けるよ~」との看板もある。それなりに出来る職人か? と観察していたら、先に声を掛けられた。
「あ、いらっしゃい。料理人さんどうしたの?」
初対面でコレである。すっかり料理人という肩書きが一人歩きしている。
気を取り直して、防具を探しに来たと告げた。
「何が欲しいの? マスタリーは持ってるのかな?」
「その点を含めて相談したい。マスタリーは無いから革か布で」
マスタリーを持っていないことは素直に伝えておく。本当なら手札を見せるのはあまりよくないのだが、この際仕方が無い。合わない防具を装備するなんて、自殺行為でしかない。
「じゃあ、革鎧しかないね。魔法使い系じゃないんでしょ?」
防具屋さんからはあっさりと結論を下された。これまで同じやり取りを何回もしてきたのだろうな。
「その通りだな。〈弓〉を使うから布装備は邪魔になりかねないし……」
布系はローブが主流だ。もちろん服もあるのだが、現時点で服は装飾的な意味合いが強い。街中でなら愛用するプレイヤーは多いが、防具としては考えられない。
「もしかして、初日に柄の悪いプレイヤーに絡まれた弓使いって……」
「……自分だ。まああの日以降は出会ってないけどな」
あの言いがかりは本当に面倒だった。次やられたら問答無用でゲームマスターに通報するつもりだ。度が過ぎた悪口は十分妨害行為に当たるし、いちいちガキの相手をする理由も無いし……な。
「ともかく、それなりの革鎧一式を見積もって欲しいんだが、良いか?」
そろそろ商談に入っておこう。世間話もいいが、ここに来た目的は果たさないと。
「そうだね、じゃあこれはどうかな。作りたてだけどワーウルフのレザー製。かなり丈夫だし、重くないからマスタリー無くてもお勧め」
ワーウルフは結構先にいるモンスターのはずだな。攻略した人が換金目的で持ち込んだのを使ったって所か。今の自分が使うには上等すぎる装備だが……
「肝心の値段は? もちろん一式フルセットで」
手持ちは八万六〇〇〇グローほどある。伊達に料理を作りまくってきたわけではない。調味料や各種食材の仕入れである程度は減っているが、まだ最初のエリアしか入っていない自分が持つには大金過ぎるくらいだ。
「そーだね、まだこのレベルの革はあまり流通してないから、一揃いのフルセットで六万八〇〇〇グローは欲しいな、どう?」
まあ、値が張るのは当然か。それに良い防具は命を守る。ここでケチる必要は無いな。
「了解した。フルセット、言い値で買わせてもらうよ」
「りょーかい、商談成立だね、ありがと~」
こうして武器も防具も調え、自分にもいよいよ次のエリアを目指す道すじが出来たのである。ちなみに防具の性能は、以下の通り。
【ワーウルフレザーセット】
効果:ヘッドDef+5 ボディDef+15 ズボンDef+13
アームDef+8 ブーツDef+6
(フルセット装備時、Atk小上昇)
【スキル一覧】
〈弓〉Lv11 〈蹴り〉Lv12 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv9 〈製作の指先〉Lv17
〈料理〉Lv25 〈木工〉Lv9 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv7 〈身体能力向上〉Lv15
ExP5
◆ ◆ ◆
ゲームの中は夜を迎え、多くのプレイヤー達が次々と街に帰還してくる。先に進めるようになったとはいえ、まだ明かりが安定しないからか、もしくは単に夜を休憩するタイミングにしているからなのかもしれない。やっぱり殺意を持って襲い掛かってくるモンスターというのはなかなか怖い。そんな相手との戦いで疲れた心を休めるために、一息つくタイミングが必要なのだろう。
ポーションや食料の補充を兼ねている人も多いだろう。
さて、人は人として、自分は自分の行動をせねば。そう思いつつNPCから買ったパンを食べている……のであるが。
【パン】
空腹を満たすパン。餓死を防ぐための必需品。
種類:食事アイテム
製作評価:3
正直に言う。あまり美味しくない。それでもまあ、問題は無いのではあるが……
「ゲームの中でも美味い飯を食いたい!」
そんな欲求が膨らんできてしまう。
β組はとにかく先に進む、スキルを上げるなどの攻略メインの人が多いようだが、正式リリースから始めた組はそういう人ばかりではない。のんびりペースで攻略する人もいるし、生産や商売をメインにする人もかなり見かける。β組でも生産者として行動してる人は、そういう人にアドバイスをすることもあるようだ。
しかし、そんな中でも〈料理〉はあまり手をつけられていない。
NPC売りのパンも極端にマズいわけではないし、腹に入れば何でもいいという考えの人も多い。それが間違っているわけではないし、他のゲームだったら自分もそれぐらいの気分だっただろう。
だが、この世界ではきちんと食ったものの味が感じられる。それなら美味い飯が必要だろう! 魔改造大好き(代表例はカレー)日本人なら!
材料はラビットホーンのお肉があるので、コレを焼いて食う、という方針で決定。
〈料理〉スキルはLv1だし、手の込んだ品なんか出来るわけがない。とりあえず作ってみて、それから考えよう。
何にしても、調味料が必要だ。早速NPCの食材店に出向き、購入。
【塩】
すべての味付けの基本にして頂点。全ては塩に始まり塩に終わる。
種類:調理用補助アイテム
【胡椒】
肉料理の味を引き立たせる。
種類:調理用補助アイテム
【ハーブ】
その香りは安らぎをもたらす。調理に使ってもいいが、直接食べると短時間ながらMPを
自動回復(微少)。料理に入れると料理内容によってはMP回復効果は消える。
種類:調理用補助アイテム
これら三点の調味料を用いて、ステーキ風に焼いてみよう。
大通りで料理をすると通行人や露商達の邪魔になるので、脇道に入ってから初心者調理セットを展開。取り出したのはフライパン、携帯コンロ、携帯テーブル。こんなものが小さくまとまってるのはさすがゲームだ。ちなみに調理セットは、鍋、ナイフ、まな板、フライパン、コンロ、テーブルの六つでワンセットである。
フライパンに油を引き、少しなじませたらラビットホーンのお肉を投入。ほどよく焼き、ジュージューといういい音がしてきたら塩と胡椒を満遍なく振りかける。焼き色を見て皿に移し、完成。アイテムボックスに入れれば、持ち運ぶ手間はまったく無い。
【ラビットステーキ】
ラビットホーンの肉を単純に焼いたもの。
製作評価:2
評価がたったの2! NPCのパンより美味しくないってことか……とりあえず食えばわかるだろう。
……硬い、硬すぎる。肉の味はしたが、こんなに硬いんじゃ肉の美味しさなんて伝わりっこない。しかもやや臭みがある。塩や胡椒の味もいまいちだ。こんな物では評価2なのも納得だ。
硬いってことは結構筋が入ってるってことか……ならば筋きりをすればいいのだろうか。そう思って、次は焼く前に調理ナイフで軽く肉に切れ目を入れていく。こうすれば塩や胡椒の味もうまくのってくれるだろう。あとは臭みを消すためにハーブも入れてみようか。
そうしてもう一回焼いてみた結果……
【ラビットのハーブステーキ】
臭み消しにハーブを使って焼いたラビットホーンの肉。
下処理が入れられたので柔らかくなっている。
製作評価:5
評価5か……評価がぐっと良くなったということは、考え方は間違っていなかったようだ。早速試食だ。うん……肉は柔らかくなり、ハーブの匂いも悪くない。塩や胡椒もほどよく効いて、そこそこ満足できる。
だが、製作評価は10段階である。つまりまだ半分。〈料理〉スキルのLvが低いから10は作れないとしても、せめてあと1か2ぐらいは評価を上げてみたいところだ。幸い材料はまだまだあるし、いろいろ試す価値はある。
そして三〇分ぐらいあれこれ考えて、試して、作って食い続けて、ようやく現時点で作れる最高のラビットステーキが完成した。
【ラビットステーキ温水ハーブ仕立て】
肉を茹でてから焼くという手間を掛けたラビットホーンの肉。
茹でる際に使用したお湯にもハーブが入れられているために臭みが抜け、ラビットホーンの
肉とは思えない味に仕上がっている。
製作評価:7
ついに、7の評価がついた。焼く前に肉を茹でるなんて普通はありえないが、ラビットホーンの肉に関しては逆にそれが正解だったという、意地の悪すぎる結果となった。
苦労の甲斐あって、目の前にあるステーキは最弱モンスターからとった肉とは思えないほど、美味しそうな匂いをあたりに撒き散らしている。
ああ、満足だ、満足のいく料理が作れた。あとはゆっくり味わって食べるのみ。それでは、いただきま――
「ちょっと待ったぁ!」
ゑ……? 周りを見渡すと、なぜか男女問わずかなりの数のプレイヤーが、自分の周りに集まっていた。料理に熱中しててぜんぜん気が付かなかった。皆の目がぎらぎらしていて、軽くホラー映画を見ているような気分になったのは秘密である。
「な、何事でしょうか?」
かろうじて声は出せた。しかし、そこにいるプレイヤーは誰も自分を見ていなかった。
皆の視線は、自分が今まさに食べようとしていたラビットホーンのステーキに注がれていたのである。
その目が語っていた。
「「「「「「「「「食いたい」」」」」」」」」と。
本気で身の危険を感じた自分は、静かに調理セットをアイテムボックスの中に収納。ついでにラビットステーキも。
「し、失礼しました……」
無駄な抵抗だと知りながら、そう言い残してそそくさと退散しようとした。そしてそれは本当に無駄な抵抗であった……
その後の状況はあまり語りたくない。なんでも、肉の焼ける音と香ばしい匂いが大通りの方まで漂い、その近辺にいた多くのプレイヤーの食欲を掻き立ててしまったようだ。
やがて、大通りから外れた道でこそこそ肉を焼いているプレイヤーが見つかった(言うまでもないが、自分のことである)。そして皆無言でアイコンタクトし合って、それを見守っていたらしい。
「邪魔するな、出来上がったら食わせてもらおう」と。
どうやったら美味しくなるか考えるのに必死だった自分は、いつの間にかその包囲網の中に捕らえられていたのである。
「材料がもう無いんです」と言えば材料を人海戦術で調達。「で、出来上がるまで時間が」と言いわけすると「待つ」の一言。
逃げ場は無く、その後自分を取り囲んでいた全員が満足するまでラビットステーキを焼き続けるハメになったのであった。おかげでリアルの就寝時間が大幅に遅れ、次の日の仕事が非常に辛かったと、蛇足ながら付け加えておこう……
【スキル一覧】
〈弓〉Lv10 〈蹴り〉Lv9 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv7 〈製作の指先〉Lv9
〈料理〉Lv14 〈木工〉Lv1 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv3 〈身体能力向上〉Lv11
ExP3
5
それから数日が経過した。
「右良し、左良し、前進前進……」
なんでのっけから自分は、某M○Sの蛇さんのような行動をしているのか。
「はい、シェフ確保」
そんな声とともに後ろから肩をがっちり確保される。一人ではなく数人がかりで、だ。
「GYAAAAAAAAAAA!」
ホラー映画のような叫び声を上げる自分。周りの人達は「ああ。捕まってる捕まってる」と納得。コレが日常になってしまっているのだ……
ことの始まりはもちろんあのステーキ事件だ。人間はいったん上に上がってしまうと下に下りることは出来ない、などという至言を誰が言ったかは知らないが、自分がいろいろ工夫して作ったラビットの温水ハーブステーキを食った人が皆、次から次へと注文をプレゼントしてくれるのである、文字通り逃げ出したくなるほどの数を。
注文する人曰く、「あんなもの食べた後に、NPCのぱさぱさしたパンなんか……」ということらしい。
そして更に、〈料理〉スキルがLv15に到達し、製作評価8の料理が出来始めた頃に新たな問題が持ち上がってしまっていた。
その問題とは、製作評価8の料理には「ステータス強化効果」が付くようになってしまったことである。いや、それ自体は良い、とても良いことなんだけど。
ゲームの最前線を行く人達は完全に戦闘系スキルをメインにしており、ExPポイントも攻撃や補助など戦闘用のスキルにしか使わない。生産が苦手という人もいるだろうし、最前線以外の人も、自分なりの目標を崩してまで〈料理〉を取るかは微妙なところ。サブアカウントをとって新たにキャラメイクしようにも、二人目からはかなり高い追加料金が発生するため、その手段も難しい。そういった理由が組み合わさって、自分のもとに注文が山ほど来るのである。
やけになって、「ステーキは一つ一〇〇グローだ!」と、NPCパンの二〇倍もの値段を吹っかけたが、それでいいから作ってくれと、値引き交渉すら無かった。
どうも、前線の人達は既に武器系スキルがLv30に到達しているとか。するとたとえば今までは「剣」というスキルだったものを、「片手剣」「両手剣」「片手斧」「両手斧」などに「特化進化」させられる。そうして汎用性を削ることで、強力なアーツが獲得出来るのだ。
しかしこうしたより強力なスキルのアーツが使われるようになってから、あることが判明した。
「満腹度の減りが激しくなった」のである。
食わなきゃ餓死してしまうので当然パンを食べる、が。アーツをガンガン使って戦うとすぐにまた満腹度が減ってしまい、パンぐらいでは追いつかない。アーツを使うのにはMPも消費するのだが、こっちは回復を促進するスキルがあるからまだ何とかなった。しかし満腹度は食べ物を食うしか回復手段が無い。
特に体を使ったアーツ、剣技やら格闘やらを使う人は満腹度の減りが激しいようで、パンをたくさん買い込むハメになった。一つ一つは安いとはいえ、あまり美味しくはないし、いちいち食うのもなかなか手間。
そこに登場してしまったのが、ラビットホーンのステーキである。
味がいいのはもちろんだが、特に注目されたポイントは肉ゆえの回復量。更に一回食えばパンの十数倍は腹持ちが良く、また製作評価が8ならAtk小増加(長時間)のバフがつくので、結果的に一〇〇グローというお金を払っても得だったのである。一〇〇グローは自分にとってはそこそこの額でも、前線組にとっては既にはした金になってしまっているし。
一回捕まると、いつもログアウトする午後十一時半ぐらいまでひたすら料理を作るハメになる。もちろん逃げられない。〈料理〉のスキルLv? もうとっくに20を超えてしまった。レンジャー稼業が目標のはずなのに、やってることは料理人。頭を抱えたい気持ちを押し殺しつつ毎日料理作りに明け暮れるのだった。
なんとか少ない自由時間の合間をぬって〈木工〉スキルも上げている。弓を使おうにも木工職人はたいてい盾や杖を作るばかりなので、自分で弓を作るしかないからだ。木を切って、切った木から落ちてくる鳥の巣から鳥の羽を集めて木の矢を作りつつ、弓の基となる材料も作って〈木工〉スキルを上げる。少しはLvも上がったのでそろそろ弓を作る予定なのだが……料理が忙しくてなかなか取り掛かれない。
戦闘もしているが、さすがにもう最初のフィールドではスキルが上がりにくくなっており、そろそろ次のエリアに向かうべき頃合である。そのためにもいい加減武器と防具を初期装備から変更したい。弓は自作するとして、防具は他の職人プレイヤーから買う予定である。
〈料理〉を作りまくっているため、資金だけはガンガン増えている。だからこそそれなりにいいものを職人プレイヤーに注文しようと決心した。
一方で、料理のレパートリーがステーキだけなのはあまりにさびしい。そこで、食材店から、ニンジン、タマネギ、ピーマン、キャベツを購入し、他のプレイヤーが持ち込んできたドレッドウルフの肉を使って肉入り野菜炒めを製作。こちらは知性小増加が付いた。
更にただの水では口もさびしかろうと、薬草、ハーブを細かく砕き、少し渋みのある擬似ハーブティーを製作した。追加効果はMP五%回復+自然回復小。
ところがこれらが両方とも魔法使い向けの料理になってしまったため、コレを知った魔法使いプレイヤーから注文が殺到。MP回復のポーションがまだ出回っていなかったこともこの事態に拍車をかけ、注文が止むことはなくなってしまった。ああ、どんどん当初の目的から離れていく……
捕まると料理製作地獄になるので、いやでも危険察知能力が上がっていく。これには苦笑せざるを得ない。自分の腕を買ってくれるのはうれしいが、さすがに量が厳しい。プレイ時間が丸々料理で潰されてしまうので、逃げるのにも必死である。
だが、いまや必死になっても無駄な状態になってきている。自分が毎日ログインする時間がバレつつあるためだ。
一人の子を多数の鬼が人海戦術で探す逆転鬼ごっこが自然発生するという、完全に笑えない環境である。もちろんフレンド勧誘、ギルド勧誘だって来るが、全部断っている。受けたら本当の意味でアウトであるからして……数少ないフレンドのミリーやツヴァイからも毎回イジられてしまう。本当にどうしてこうなったの……か。
いつしか「食材店の脇にあるやや細い道はコックへの注文小道」なんて言われ方までされるようになっており、それを掲示板で見つけたときには本当に頭を抱えた。早く、早く他の料理人が出てきて注文を受けるようになって欲しいと、心の底から願うのであった。
【スキル一覧】
〈弓〉Lv11 〈蹴り〉Lv12 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv9 〈製作の指先〉Lv15
〈料理〉Lv23 〈木工〉Lv4 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv7 〈身体能力向上〉Lv14
ExP5
6
〈料理〉の合間にこつこつとやってきた〈木工〉だったが、ようやくじっくり取り掛かれる日が来た。〈料理〉スキルLv20で覚えることが出来たアーツ《料理促進》のお陰である。
このアーツの効果は、焼く煮るといった火を通すのにかかる時間を大幅に短縮するというもの。油断するとすぐにコゲて失敗してしまうが、〈料理〉地獄で培った集中力を全力で無駄に発揮。注文の〈料理〉をハイスピードで仕上げられるようになったのだ。もちろん品質を維持しながら。
ある意味リアルの仕事よりはるかに集中していたと思うよ。
さて、やっと取り掛かれる〈木工〉。目標はもちろん、出来る範囲で最高の弓を作ること。次のエリアに攻撃力2の初心者用弓ではさすがに無謀だし。
材料は今までこつこつと仕上げておいたため、すぐに製作に取り掛かれる。まず作るのは素材の板材から切り出して仕上げるという、最も単純な造りの弓。全然弱いが、〈木工〉スキルが低いのにいきなり複合弓なんかに手を出すのはバカでしかない。
弓の形を切り出し、細かい手入れをし、滑り止めなどを付けて持ち手部分を作り、弦を張って完成。この簡単な作業ですら、用意しておいた材料を大量に無駄にしてしまった。
そしてとりあえず一つ目の弓が完成。
【初心者木工職人の弓】
木工職人になるべく訓練しているものが作った弓。モンスター相手に使うには力不足。
効果:Atk+4
製作評価:3
初心者の弓よりはマシ、ぐらいの弱々しい性能である。それでも、初めて作ったにしては上出来だろう。〈木工〉スキルが低くても、〈製作の指先〉スキルが高いために補整が効いていると見るべきか。
その後は〈木工〉スキルを上げるためにとにかく量産する。その中で一番出来のいいものをメインウェポンとして使えばいいのだが……最初のものと大して変わらないのが現実。
ふとここで、料理しているときに思い付いた、「常識に捕らわれすぎず、少しいじると上手くいく」という考えを思い出す。
あのときは焼くだけじゃなく、煮たりハーブを使ったりと、色々いじったことが結果として良かった。それは〈木工〉にも通じるのではないだろうか?
物は試しでやるのが、この世界における製作の面白さ。
まずは弓の型を良くしなる板材から一つ、しなりがやや硬く丈夫な板材から二つとり、良くしなる板材を中心にすえて、しなりが硬い木材で左右から挟む。二つの木材の特性が支え合えば性能が上がるのでは? と考えたのである。
三つの型を重ねて、一本の弓とすべく調整する。ばらばらにならないように結合させ、更に木で作った留め具を上、中央よりやや下、下の三つに配置。持ちやすいようにバランスを考えつつ表面を削り、曲げていく。
何度も構えて感触を確かめ、持ち手部分を作り、弦を張る。
また、何度も引くことで強度、バランス、結合の強さを確認していく。もし戦闘途中で分解なんてしたら笑い話にもならない。
板材の違いで、黒っぽい左右の板に中央の白い型が目立つ弓が完成した。何本か製作した中で一番良い出来だったものがコレ。
【試作型木材結合弓】
複数の木材を一つにするという考えから生まれた弓。性能はそれなりだが、手入れが難しい。
効果:Atk+12
製作評価:5
【駆け出しの弓】が+2だったことからすると、大幅な強化になった。当分はコレを使っていくか。耐久力回復のために使用する木材が二種類必要だから、「手入れが難しい」のだろう。ただ、それを差し引いても心強い相棒であるのは間違いないな。
武器が出来ればお次は防具である。その相談のため、防具職人プレイヤーのもとへ向かった。武器防具職人のよく居るエリアへと歩を進めると、少年のような外見の女性プレイヤーがいた。
「防具販売、製作受けるよ~」との看板もある。それなりに出来る職人か? と観察していたら、先に声を掛けられた。
「あ、いらっしゃい。料理人さんどうしたの?」
初対面でコレである。すっかり料理人という肩書きが一人歩きしている。
気を取り直して、防具を探しに来たと告げた。
「何が欲しいの? マスタリーは持ってるのかな?」
「その点を含めて相談したい。マスタリーは無いから革か布で」
マスタリーを持っていないことは素直に伝えておく。本当なら手札を見せるのはあまりよくないのだが、この際仕方が無い。合わない防具を装備するなんて、自殺行為でしかない。
「じゃあ、革鎧しかないね。魔法使い系じゃないんでしょ?」
防具屋さんからはあっさりと結論を下された。これまで同じやり取りを何回もしてきたのだろうな。
「その通りだな。〈弓〉を使うから布装備は邪魔になりかねないし……」
布系はローブが主流だ。もちろん服もあるのだが、現時点で服は装飾的な意味合いが強い。街中でなら愛用するプレイヤーは多いが、防具としては考えられない。
「もしかして、初日に柄の悪いプレイヤーに絡まれた弓使いって……」
「……自分だ。まああの日以降は出会ってないけどな」
あの言いがかりは本当に面倒だった。次やられたら問答無用でゲームマスターに通報するつもりだ。度が過ぎた悪口は十分妨害行為に当たるし、いちいちガキの相手をする理由も無いし……な。
「ともかく、それなりの革鎧一式を見積もって欲しいんだが、良いか?」
そろそろ商談に入っておこう。世間話もいいが、ここに来た目的は果たさないと。
「そうだね、じゃあこれはどうかな。作りたてだけどワーウルフのレザー製。かなり丈夫だし、重くないからマスタリー無くてもお勧め」
ワーウルフは結構先にいるモンスターのはずだな。攻略した人が換金目的で持ち込んだのを使ったって所か。今の自分が使うには上等すぎる装備だが……
「肝心の値段は? もちろん一式フルセットで」
手持ちは八万六〇〇〇グローほどある。伊達に料理を作りまくってきたわけではない。調味料や各種食材の仕入れである程度は減っているが、まだ最初のエリアしか入っていない自分が持つには大金過ぎるくらいだ。
「そーだね、まだこのレベルの革はあまり流通してないから、一揃いのフルセットで六万八〇〇〇グローは欲しいな、どう?」
まあ、値が張るのは当然か。それに良い防具は命を守る。ここでケチる必要は無いな。
「了解した。フルセット、言い値で買わせてもらうよ」
「りょーかい、商談成立だね、ありがと~」
こうして武器も防具も調え、自分にもいよいよ次のエリアを目指す道すじが出来たのである。ちなみに防具の性能は、以下の通り。
【ワーウルフレザーセット】
効果:ヘッドDef+5 ボディDef+15 ズボンDef+13
アームDef+8 ブーツDef+6
(フルセット装備時、Atk小上昇)
【スキル一覧】
〈弓〉Lv11 〈蹴り〉Lv12 〈遠視〉Lv8 〈風魔術〉Lv9 〈製作の指先〉Lv17
〈料理〉Lv25 〈木工〉Lv9 〈薬剤〉Lv9 〈隠蔽〉Lv7 〈身体能力向上〉Lv15
ExP5
◆ ◆ ◆
感想 5,013
あなたにおすすめの小説
名門御曹司の婚約者を奪ったあざといルームメイトが、三日後「助けて」と泣きついてきた
熾星 午前一時、大学近くの女性専用シェアハウスは、エアコンの低い音だけが響いていた。森下莉香から一枚の写真が送られてきた。ホテルのスイートルームらしいベッドの上で、彼女は片方の肩を露わにし、鎖骨のあたりには生々しい赤い痕が残っていた。
背後の男の顔は写っていなかった。けれど、画面の端に映った手首だけで、私は十分だった。そこに巻かれていた白檀の腕輪念珠を、私は知っていた。
あれは、私が神宮寺怜央に贈ったものだった。
東京・港区の旧財閥系一族、神宮寺家の後継者。神宮寺家は老舗の不動産開発会社を中核に、近年は医療・介護施設への投資も広げていた。怜央はその跡取りとして、著名な卒業生であり、大学の有力なスポンサーでもある人物として、たびたび私たちの大学に顔を出していた。
『嘘の病気で同情を買うな』と私を死に追いやった婚約者、私の墓標の前で額を叩きつけ、血の涙を流して号泣する大破滅!
熾星婚姻届を出す前日、久世景人はようやく、十年遅れの婚約指輪を私の指にはめた。
銀色の輪が薬指に滑り込んだ瞬間、私は照明の下で光るダイヤをぼんやり見つめた。長く続いた待ち時間が、やっと終わったような気がした。けれど次の瞬間、彼は私の手を見下ろし、まるで似合わない品物を評するように静かな声で言った。
「正直、澪の手ってあまりきれいじゃないよな」
私は言葉を失った。
景人はそのまま私の指先を取ると、さっきはめたばかりの指輪を抜き取った。十年待ち続けた指輪は、彼の手のひらの上で冷たく光っていた。
「この指輪、瑠奈の手にあったほうが似合うと思う」
私は手を引き戻し、信じられない思いで彼を見た。
「どういう意味? 瑠奈と結婚するつもりなの?」
景人は目を伏せ、指輪の縁を指先でなぞった。まるで、たいしたことではない問いを少し考えているだけのようだった。
「そこまでじゃない。ただ、会えない時間が長くなると、どうしても瑠奈のことを考えるんだ」
その瞬間、私は自分がどうやってあのタワーマンションを出たのかさえ覚えていない。
「もやし炒めかぁ」——切り忘れた本音が、世界中のお姉さんを落とした件。
冬野 結流行りのイケメンボイスが出せず、事務所の同期やマネージャーから「才能がない」とバカにされ契約解除された底辺個人VTuber。絶望しながら最後の個人配信を終えた後、マイクの切り忘れに気づかず「お姉さん達に美味しいご飯作ってあげたいな」と素朴な本音を愚痴ってしまう。その不器用なギャップがSNSで世界中に大拡散。配信画面に戻ると、赤スパチャの嵐。元事務所が泣きついてくるが、すでに億万長者になった彼は完全無視する。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
夫が私の移植用心臓を運ぶヘリを愛人の犬に回したので、目覚めた私は彼を知らないふりをした
熾星 宗一郎がシャツの三つ目のボタンを留めたときには、私はもうスマートフォンで銀行アプリを開いていた。
ベッドの脇には女物のワンピースと彼のベルトが散らばっている。神崎美月はホテルのバスローブをまとい、浴室の入り口に立っていた。鎖骨には意味ありげな赤い痕。まるで私に見せつけるために、そこに立っているようだった。
カーテンは完全には閉じられていない。朝の光が絨毯に差し込み、部屋の惨状を残酷なほど鮮明に照らしていた。
初めてこんな場面に出くわしたとき、私は部屋のグラスを叩き割り、宗一郎の胸ぐらをつかんで理由を問い詰めた。
あのときの彼はベッドヘッドにもたれて煙草を吸い、ズボンすらまともに穿かないまま、淡々と言った。
「部屋が暗くて、お前と間違えた」
その後、同じような「人違い」は二度起きた。
それをきっかけに、私たちは書面で取り決めを交わした。不貞行為が一度発覚するたび、離婚成立前の解決金として、彼は私に五百万円を支払う。
「振り込んで」
「愛していない」って言われましても
小鳥遊 れいら結婚式前夜に「お前など愛していない」と言ったフォーエル侯爵家嫡男のルーカスに嫁ぐことになったスターリング伯爵家長女のべリーチェは、驚きながらも冷静だった。所詮は、貴族同士の政略結婚なのだから愛してほしいなど願ったこともなかった。べリーチェの反応に驚きながらも恋人との時間を優先していくルーカス。
ルーカスが本当に大切なものに気づいた時には時すでに遅かった・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。