とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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8巻

8-1

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  1


 山道ダンジョンで起こる不幸な事故オーガとのキス対策として、自分アースお手製マスクを完成させた翌日。
「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインして露店情報を調べると、展示しておいたマスクは完売していた。ちなみに、露店を出すには実際に現場へ行かなければならないが、売り上げの回収はどこからでもできる。これは先日のバージョンアップでひっそりと実装された機能である。
 この手ごたえなら、また二〇個ほど作って出品するか。でもあんまり騒がれたくはないから、露店の場所は人通りが少なめの場所に変更しよう……
 そうと決まれば、今日も今日とてガツーンカツーンと鉱石を掘り出し、ぎーこぎーこと木材を切り出す。ネクシアの街周辺の木材は枯渇こかつしたままのようだが、もうしばらくの我慢だろう……と思いたい。
 それからファストの街にある作業場で、木材を肌に触れる部品に加工。その上で革と布の裏張りをして、できる限り着け心地をよくする。革と布は素材のお店で買ったものだ。
 次に、鉱石から作った合金をマスクの表部分に仕立てていく。この作業で〈上級鍛冶〉のスキルがLv50になったので、ExPを消費して〈鍛冶の経験者〉へと進化させた。ランクダウンしたような印象を受けるスキルネームだが、進化したのは間違いない。Wikiでも確認済みだ。
 そうして出来上がったのは、金属部分を減らして守備力Defこそ+1になってしまったが軽量化した魔法使い向けマスクと、従来のマスクが一〇個ずつ。
 あとはファストのあまり目立たないところに露店を設置すれば、作業完了となる。あ、そうだ。いちいちお客の質問に答えるつもりはないから、製作に関する質問は受け付けません、との書き置きをくっつけておこう。どうせこの装備品の噂が広まったら、専門の職人さんがはるかに質のいいものを量産する。わざわざ自分がこと細かに情報を流す必要はないだろう。
 露店を設置し終わって時間を確認すると、ログインから既に一時間が経過していた。今日遊べるのはあと一時間といったところか。新たに解放されたサーズの街に向かおうにも二〇分はかかるし……
 ということでファストの露店巡りをしてみる。各種装備品や食べ物を見回るだけでもなかなかに楽しいものだ。
 せっかくなので、焼き鳥を買って食べてみた。どうも慣れ親しんだシーフバードの肉ではないようなので、新しい鳥系統のモンスターが出没しているのかもしれない。タレも美味しい……うーん、お酒が好きな人ならビールを注文したくなりそうな味だ。自分は下戸げこだから単品で満足してしまうが。
 使えそうな弓がないかも見たところ、手頃な値段だと攻撃力Atk+30台、値段の高さを無視すれば優良品と言えるAtk+60台の弓があった。優良品の弓は「アスライガ材製」だそうで、これがサーズ付近で採れる木材なのだろう。よくよく観察すれば、部分部分に灰色ドラゴンのうろこも使われていた。値段が高いのは、その性能に加えて素材が貴重品だからか、と納得する。
 それにしても、やはり革鎧だけはほとんど見かけない。重鎧、軽鎧、ローブやおしゃれ装備の布防具は数多く売られていたのだが……より強力な防具のマスタリーを取ることが強く推奨すいしょうされている今日こんにち、恩恵が一番薄い革鎧は絶滅しても無理はないか。軽く、行動時に音を立てない点は魅力的とはいえ、肝心のDefはぺらっぺら。同じくぺらぺらでも布装備なら魔法関連にボーナスがつくし、Defが欲しいなら軽鎧を選択する。完全暗殺スタイルを取るために、軽さを重視するごく一部の人以外にはまったく需要のない革鎧の状況は、以前からまったく変わっていなかった。
 一方で、ったデザインをちらほら見かけるのが盾。特にサイズが大きいラージシールドは、戦神や女神、はたまたドラゴンを描いてみたりと、絵心のある職人の作品が目立つ。もちろん肝心の性能も優れていた。そのうち、痛車いたしゃならぬ痛盾いたたてとかも普及するんだろうか? ──え絵でガードする光景を想像して、いやそれは何かおかしいと首を振り、そんな考えを振り払う。
 ギルドマークを身に帯びて一体感を持たせよう、というギルドのご用達ようたし装備がマントだ。現実のマントは背後からの攻撃を防ぐためのものでかなり重いそうだが、仕様の融通は結構利く。あくまでギルドマークを背負うためと限定して軽めの素材を使えば、魔法使いにも負担にならない。
 こうしてじっくりと露店を見て回るのも久々だけれど、アップデートで新しい素材が取れるようになったためか、性能のいい装備を入荷している様子がちらほらうかがえた。それに見合ったお値段が付いてはいたが、それは需要と供給の関係から生じる宿命なので、職人さんが強欲というわけではない。新しいものを一つ作り上げるために、それ相応の素材がちりになってるのだ。
 そんな感じで露店巡りを終えた頃、そろそろいいかなとロナにウィスパーチャットで連絡を入れる。

【ロナ、時間はある?】
【大丈夫だよ。いま狩りから戻ってきたところだから】

 自分の予想はうまい具合に当たったらしい。

【あと、そこにカザミネはいるかな?】
【あ、うん】

 ちょうどいい、今日は注文を受けていたお二人にマスクを渡してしまおう。前金を貰っている以上、さっさと渡してしまいたい。

【じゃあすまないが、今居る場所を教えてくれないか。昨日注文を受けたマスクが出来たんだ】
【あ、おっけー! カザミネ君にも伝えておくね。うちのギルドエリアに居るから、入室許可を出しておくね】
【じゃあ今から行くから】
【りょーかい。待ってるね】

 幸いそんな遠い場所に居たわけでもなく、五分ぐらい歩くと入り口に到着し、彼ら『ブルーカラー』のギルドエリアに入った。

「お待たせ」
「あ、来ましたね」

 出迎えてくれたのはカザミネだった。なので早速マスクを渡す。

「カザミネのはこれだ……さむらいを目指していると聞いていたから、戦国時代の武将が着けていたような鬼面風にしてみたんだが、どうだろう?」

 許可を得ずに注文を曲げたわけなので、嫌がられたら普通のマスクを渡すつもりで準備してある。

「ふうむ……なるほど。これは面白いですね。防具としての性能も十分のようですし、ありがたく頂戴しますよ」

 どうやら気に入ってもらえたらしく、ほっとひと息つく。

「へー、それがカザミネ君のマスクか~」

 そこにロナもやってきた。どうやらギルドエリアの個室に居たらしい。

「こっちがロナの分だ」
「あれ? ボクのほうは普通なんだ?」
「カザミネのはちょっと重くなってるんでね……格闘家であるロナは、あんまり顔が重くなるとまずいだろうと思ってシンプルな形状にしてある」

 他にイメージ……というかネタが浮かばなかったせいでもあるが。

「なるほど、そういう理由なら分かったよ。ありがとね」

 ロナは別段疑問を呈するでもなく、素直にマスクを受け取ってくれた。

「そういえばアース君、掲示板を見た?」
「うーん、時々は見ているが……何のやつかな」
「山道のトラウマのスレッドだよ」

 ちょうど昨日見たあれか……悲劇の発表会になってたな。

「それは見た。被害者が予想以上に多かったなぁ」
「初日は特にたくさんの人が詰めかけていたから、避けるに避けられなくてみんなバカスカ岩で落とされちゃったんだよね。更にそのせいでオーガもよく岩に巻き込まれてね……ボクが掲示板を見たのはついさっきなんだけど、マスクを注文しておいて本当によかったよ……あそこには今後も行くことになってるからね」

 あ、注文と言えば……

「そういえばノーラは今どこに? ノーラは注文してこなかったけど……」
「ノーラさんは今、ツヴァイさんと一緒に山道ダンジョンに行っているはずです。レイジさんやミリーさんも同行しているはずですね」

 自分はふむ、とあごに手を当ててしばし考えた。

「フラグが立ったと言うわけじゃないんだが、まさかそのうちの誰かが岩で事故って落下して、被害者数に+1される、なんてことにはならないよな……?」

 自分の呟きに、カザミネもロナも難しい顔をして黙り込む。

「否定しにくいですね」
「山道は、本当に何があるか分からないから……あ、ツヴァイ君からウィスパー」

 ロナがふんふん、ええー!? と声を出したので、しばらく様子を窺う。

「で、ツヴァイは何だって?」

 自分の質問に、ロナはゆっくりとこう答えた。

「『ノーラが岩を避けたところで巨人系統モンスターのエティンにラリアット攻撃をもらって、その道連れにされたからもう山を降りる』って……」
「──いくらなんでも、こんなに早くフラグを回収しなくてもよいと思うのですが」

 そう言ってロナとカザミネは自分に視線を向けてくる。

「え? 自分の責任になるのかこれは……?」


     ◆ ◆ ◆


 翌日。自分はノーラから呼び出されて八つ当たりを受けていた。そうなると分かっていても素直に呼び出しに応じた理由はたった一つ。そうしないと後が色々と怖いからだ。

「──ってことで、何で教えてくれなかったのよ! ツヴァイからの話も聞いていたんなら、忠告ぐらいくれても!」

 エティンと熱いベーゼを交わしてしまうまでの経緯を説明され、半泣き状態で襲いかからんばかりの勢いのノーラに、自分はたじたじである。だが――

「そう言われてもなぁ……内容が内容であったし、ツヴァイは本当に落ち込んでいたようだった。そういう秘密をぽんぽん他人に話しては色々とだめだろう……違うか?」

 そう反論しておく。自分がもう少し早く掲示板を見ていれば忠告のしようもあったのだが……後悔じゃなくても先に立たないことは、世の中に多すぎる。

「う、それはそうだけど……」
「それにさすがに、エティンにラリアットされて同時に山道からリングアウトの末、落下中にキッスなんて展開をどう予想しろと言うんだ……」

 そんな攻撃をしてくるなんて事前情報もなかったから、こちらとしてもかなりびっくりさせられたぐらいだ。

「うう、と、とにかくみんなのようなマスクを作ってちょうだい……ちゃんとお金も払うからぁ」

 態度を一転させ、涙目エフェクト付きで要請してくるノーラ。まあ、あまりに不憫ふびんだから作ることは作るが。

「一回同じ目に遭えば、アース君だってあたしの心情を理解するわよ!」
生憎あいにくだが、自分はもうマスクを持っているんでね……」

 自分は外套がいとうのフード部分をどかして、妖精国のフェンリル親子の毛皮で作られた頬当てを見せた。

「と、いうわけだ。すまないね」

 そうしてフードを戻そうとするが、ノーラに阻止される。

「そのマスク、どこで買ったの? どうやって手に入れたの!? すごく奇麗きれい!」

 純白の毛皮に覆われた美しいマスクの外見は、ノーラの興味を強く引いてしまったらしい。

「これはある方からの贈り物だよ。言っとくけど、絶対に手放すわけにはいかない……贈ってくれた人への裏切りになるからね」

 自分はノーラにそう告げる。たとえより強い装備が手に入ったとしても、これを外すつもりはない。彼女達は文字通り体の一部をくれたのだから。
 しかしノーラの食いつきは止まらず、フードを戻そうとすると「もうちょっと見せて」と言われる始末。

「そんなモノを贈り物って、もしかしてこっちの世界の人から? ……どうやったらそんなイベントが発生するのよ?」
「イベントとか攻略とかってつもりで手に入れたものじゃないからな~……アドバイスなんてこれといって……ないな」

 こちらの世界の人と仲良くしていれば可能性はあるとアドバイスできなくもないのだが、それを聞いたからといって無理に仲良くされるようでは困る。自然にそうなるとか、困っているところを偶然助けるとか、そういう流れの上であってほしい。回り道のように思えても、結果的にそっちが最短距離となる可能性が高いのだから。ならば余計な知識は邪魔になる。ここは何も言わないほうがよいだろう。

「ともかくマスクは作ろう。受け渡しは明日でいいね?」
「お願い。正直今のところどこの狩場にも行く気がしないし……街でのんびりしてると思うわ」

 ノーラはかなりのショックを受けているが、それでもツヴァイよりはましに見える。ツヴァイは本気で落ち込んでいたからな……きっとノーラは「初めて」ではなかったんだろう。

「ところで、アース君って最近なにやってるの? ぜんぜんサーズで見かけないから、ログインしていないのかと思ってたし」
「今は生産関連のスキルを上げてる。特におろそかにしていた木工系を……」
「アップデートのこととか完全に無視ね……そのマイペースさがうらやましいわ。あたしもそうだけど、大半の人が新しい場所に詰めかけてるのに……まさか変身スキルもまだ取ってない、とか言わないわよね?」

 なぜかノーラはため息をつきながらそう問いかけてきた。いいじゃないか、我先にと攻略を進めるのは、そういうのが好きな人に任せることにしてる。自分はのんびり楽しみたい。出された料理を大急ぎで平らげて矢継やつばやにおかわりを要求するより、ゆっくり食べてのんびりご馳走様と言うほうが好みなんだ。

「変身能力は一応取ってあるよ」
「へえ、どちらにしたの? ヒューマン? ワーウルフ? あたしはワーウルフにしたんだけど」

 ノーラはワーウルフ派か。元々が機動力を重視する盗賊という立場であるから、武器の使用はできなくても全体的に能力が上がるほうが好みに合うのかな。

「自分は……ヒューマンのほうかな」

 ビーストではないけどね、と心の中で付け足す。嘘は言っていない。黄龍変身こうりゅうへんしんだ、とは言わないだけで。

「アース君は弓を使う戦闘スタイルだし、確かに完全変身はちょっと使い勝手が悪そうよね」

 すみません、こっちも変身したら使えなくなります。もちろんこれも口には出さない。

「まあ、そんなところかな」

 ここは適当に切り上げた。うっかりぼろを出したら面倒だ。

「うちのギルメンも大半がヒューマンを選んだわね。ビーストは武器を扱えないのが辛いって意見が多くてね……変身しちゃえば、殴ったり引っかいたりするだけで大きなダメージになって、結構楽しめるんだけどねえ」

 ビースト相手だと、こっちも変身しなければスピードに翻弄ほんろうされて矢が当たらないだろう。でもこちらの変身は見せたくない。対人戦闘PvPはやりたくないな。要請をされても絶対に拒否しよう。

「大半ってことは、ノーラ以外にワーウルフを選んだのは?」
「ロナちゃんよ。元から体を使う格闘家だったし、ある人外格闘ゲームを参考にした影響もあるんでしょうね。実際、身のこなしはアタシより上。PvPも相当やってみたけど、勝率は六対四ってところね。もちろんあたしが四のほうよ」

 スペックはそう変わらないはずなだけに負け越しは悔しいわね~、なんてノーラはぼやいてる。しかし、投げ技なんかも併せて武器を使わずに戦う感覚は、ロナちゃんに一日いちじつちょうがあるはずだ。

「そういや、山道では変身していなかったのか?」
「もちろん変身していたわよ……でもそのときは生憎変身時間が切れちゃってて、動きが鈍ったところにラリアットが飛んできたのよね……本当に大失敗だったわ」

 ありゃ、そうだったんですか。

「ラリアットといっても、相手のほうが大きいから、首じゃなくて顔に直撃する感じだったけどね。そのままお互い落下とか……」

 その後はあんな結末になっちゃうし、とため息をつくノーラ。またそこに戻ってしまったか。話題のチョイスを間違えた。

「その繰り返しにならないようマスクを提供するから……」
「お願いね。せめて相手が美男子だったらまだよかったんだけどね~」

 ああ、俗に言う「イケメンに限る」ってやつですか。でもオーガやエティンのイケメンって想像できないんだが。

「それでは材料の調達もあるし、そろそろ自分は失礼するよ」
「あ、うん。マスクの製作、よろしくね」

 そうして自分はそそくさとノーラの前から立ち去った。こういう言い方は失礼だが、不発弾を目の前にしているような心境であったことは否めない。ともかく、爆発する前にノーラにもマスクを提供する必要があるだろう。


 この後自分は素材を集め、ノーラの分と合わせて二一個のマスクを製作し、そのうちの二〇個を露店に並べてログアウトした。
 先に露店に出していたマスクは全て売り切れていたことも、ついでに申し上げておこう。



【スキル一覧】

 〈風迅狩弓ふうじんかりゆみ〉Lv3 〈剛蹴ごうしゅう〉Lv18 〈百里眼ひゃくりがん〉Lv21 〈製作の指先〉Lv98(←1UP) 〈小盾〉Lv20
 〈隠蔽いんぺい・改〉Lv1 〈武術身体能力強化〉Lv32 〈義賊頭ぎぞくがしら〉Lv18 〈スネークソード〉Lv34
 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
 追加能力スキル
 〈黄龍変身〉Lv1
 控えスキル
 〈上級木工〉Lv16(←5UP) 〈鍛冶の経験者〉Lv3(NEW!)  〈上級薬剤〉Lv20
 〈上級料理〉Lv49
 ExP31
 称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
    妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
    託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊
 プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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