561 / 767
連載
試練の結果、そして新しい人との出会い
そして試験官による試食タイム。しかしその最中、守護者さんが試験官の事を睨む睨む。まるでまずいなんて口にしたらどうなるか分かってんだろうな? と言わんばかりの圧をめちゃくちゃ掛けている。しかし、試験官もその圧に屈してなる物かとばかりに必死の形相を浮かべながら試食を続けている。
(変に口を出せば、矛先がこっちに向いてきそうなんだよなぁ。うーん、自分の作った料理を不味いと言われたくないという気持ちも分からんでもないが、流石にやり過ぎだよなぁ……あの圧の掛け方は。そうは思うんだけど、上手い止め方が思いつかない)
そんな感じで、結局試食が終わるまでの間守護者の圧を掛けるのを止めることが出来ないまま時間だけが過ぎた。それでも何とか試験官は食事全てを食べ終わり、しばし顔をテーブルに向けた状態で考え込む。合格にするか、失格にするかの答えを出すために、食べた料理の味、見た目、香織などからくる評価を纏めているのだろう。そして。
「合格です。全体的に味が良い事はもちろん、見た目も香りも上々。ここを突破させるのにふさわしいと判断するに値する料理でした。特に驚いたのは十品目のおぞうに、とおっしゃられていた料理です。あそこに置いておいたお米は、他の米と混ぜてより美味しくなるようにする料理人向けに配置した物だったのですが……まさかそれを主役に持ってくるとは思いませんでした」
合格か、よかった。これでもし失格となったら守護者さんがどれだけ暴れたか想像もしたくない。それにしても、置かれていたもち米がブレンド用に想定されたものだったとは。確かに普段焚くお米に多少のもち米を入れておいしさを増すと言う手段は知っている。そして、試験官もそのために置いておいたが故に、メインに持ってくるのは想定外だったか。
だが、言っては何だがパワーあふれる守護者さんに料理の手伝いと言うか一品作る為の手段はこれしか思いつかなかった。無論うどんやラーメンと言った作るのにパワーが必要となる料理はあるけど、とっさに目に入ったもち米を見て、お雑煮を作ろうって思考に完全に入っちゃったんだよね。試験が終わって緊張がほぐれた今でこそこうやって思いつくんだけどさ……
「まあね、当然よね? 何せ『私』が! ちゃんと『主役』を作ったんだから!」
一方で守護者さんは、まあ、その、一般的な言い方で言うドヤ顔って奴をなさっている。額縁に入れて、題名を『これがドヤ顔という物です』と付けて飾ってもいい位だ……うん、SS取っておこう。守護者さんに断りを入れた後に、角度まで決めてもらって記念の一枚。うん、いい絵が取れたんじゃないかな。後でPCの方にデータを移動させて記録用として取っておこう。もちろん額縁に入れるとかのちょっとした加工をつけ足した上で。
「──なんにせよ、これで貴方様はこの階層をクリアし先に進む資格を手に入れました。こちらで記録を行われた後、先にお進みください。それとも、本日はここまでにしておきますか? 私としては、あと五階でいいので先に進んで欲しいのですが」
記録用の水晶体を出しながら、試験官がそんな事を口にする。最後の一言は紛れもなく本心だろうなぁ。この階で終わりにしたら、守護者さんは明日までこの階層に居座る事になるのだろう。そうなると……うん、試験官さんの胃が心配になるな。人を模した水のような存在なので、実際にあるかどうかは分からないけど。
時計を確認すると……あと十階ぐらいは大丈夫かな。あと十階まで登ったら今日はおしまいにしよう。その方針を守護者さんにも告げると、試験官さんは心の底からほっとした表情を浮かべていた。もうちょっと隠した方が良いんじゃないかな? ほら、守護者さんの目に怒気が混じりだしたし。
「どうしてそこまでほっとしているのかしら?」「心当たりがないなら、教えて差し上げましょうか」
守護者さんの言葉に、すかさずそう返す試験官さん。そして始まるにらみ合い……昭和の不良じゃないんだからさ……なんでそうも至近距離までお互いに近づいてにらみ合ってるんだよ。なので、そうやってるなら今日はここまでにするよと自分が告げると……「そうしてくれると助かるわ、こいつとは一度しっかりとした話し合いが必要らしいから」と言う守護者さんの返答が帰ってくる始末。
(よし、後はもう放置しよう。守護者さんが同行している関係上、一〇階の差なんてあってないようなものだ。むしろ巻き込まれたくないからさっさと退散しよう)
そう判断し、お疲れさまでしたと告げて即座に退散。この後この場がどうなったのかなんて興味を持たない方が良い。ほら、言葉にもあるでしょう? 知らぬが華、と。そして塔の外に出て葵をらを見ながら体をひと伸びさせる。さて、このペースだと九九五階までは遅くても二日ぐらいだろう。ぶっ飛んだペースだけど、全体的に見れば攻略が遅いパーティと同じぐらいのぺーすになるんだよ。七五〇階で時間をそれだけ使わされたと言う事でもある。
(ログアウトまであと二〇分ぐらいの時間はあるけど、やる事も特にないしさっさとログアウトして寝てもいいかな?)
そう考えながら宿屋に向かっていると、妙に人が集まっている所があった。聞こえてくる声からして、問題が発生しているという訳ではなくPvPを行っているのだろう。かなり盛り上がっている事から、かなりの猛者同士がPvPを行っていると予想される。なので、折角だから見ていく事にした。
(どれどれ……観戦制限は無制限になっているから見られるな。一対一のベーシックなPvPで決着のルールは相手のHPを全部削る事ね。さて誰が戦っているのか……ありゃ、あれはオサカゲさんじゃないか。もう一人の男性は着流しの浪人みたいな外見だな。ただ、内側にチェインメイルを着込んでいるようだが……)
オサカゲさんともう一人の戦いは、すでに佳境に入っている様だった。大太刀を振るオサカゲさんに対し、ぼさぼさ髪に無精ひげを生やした着流しの浪人のような外見の男性はかなり刀身が細いロングソードの二刀流で戦っていた。うーん、外見と武器のちぐはぐさが気になるなぁ。と言ってもワンモアでは刀は大太刀しかないからどうしようもなかったのだろう。
オサカゲさんの重い一撃を受け流しつつ、手数で反撃を行っている浪人風の男性。お互いに一進一退であり、残り体力も互いにいい攻撃が一発入ればゼロになって決着がつくというぐらいの残量しかない。二人の間に火花が何度も舞い、激しい打ち合いが行われる。お互い一歩も引く気なしと言う事が誰にでも分かろうという物だ。
「いけー! 押し切れー!」「負けるなよー! 賭けてるんだからなー!」「この二人の戦いはいっつもこうなるからな、見ごたえがあるぜ!」
周囲の感染者からもそんな声が飛んでいる。しかし、金かものかは分からないか賭け事をしている奴はいるんだな……まあ、本人が困らない程度にやるならいいけどね。っと、戦いはそろそろ決着がつくかな? オサカゲさんの大太刀の一撃を受け流そうとした浪人風の男性だが……このタイミングで受け流し損ねたようだ。直撃は避けたが、それでも無理な動きをしたために動きが止まった。それを見逃してくれるようなオサカゲさんではない。
オサカゲさんが振るった返しの一太刀で、浪人風の男性の胸辺りが見事に切り裂かれた。浪人風の男性は、まるで時代劇のようにゆっくりと二、三歩後ろに後ずさった後に崩れ落ちた。これで決着がつき、オサカゲさんにWINの勝利文字が浮かび上がっている。うーん、最初から見たかったな、この戦い。
「今日はオサカゲの勝利か」「ま、ヘイロクの方はやっぱりあの受け流しのミスをやった時点でアウトだったよな」「お互い実力伯仲してるんだけどねぇ……今日はオサカゲに軍配が上がったか」「くっそー、ヘイロクはあそこであんなミスするなよ……七万グローがパーだぜ」
PvPが終わった事で、様々なプレイヤーはあれこれ言いながらこの場を離れていく。が、自分はオサカゲさんとちょっと話をしたかったので、プレイヤー達が散るのを待つ。数分が経過し、自分はオサカゲさんに声をかけた。
「オサカゲさん、最後辺りしか見れませんでしたが素晴らしい一太刀でした」「おお、これはアース殿。ご覧になられていたか」
会釈の後に自分がそう口にすると、オサカゲさんも会釈をした後に返答を返したくれた。一方で浪人風の男性は自分と言う人間がどんな奴なのかを見定めるような目を向けてきていた。
「アース殿はヘイロクとお会いするのは始めてだったかな? この者はヘイロク、現実では別の道場の師範であり、好敵手と言った所か」
ああ、どおりであれだけのアーツに頼らない立ち回りが出来るわけだ。最後の方しか見れなかったが、それでもオサカゲさんの大太刀をアーツに頼らず受け流せる技量は素晴らしいものだったが、それだけの技量を持っている理由が分かった。
「アース殿と言うのか。我はヘイロク、オサカゲの言った通り別の道場にて剣術、柔術を中心とした武術を伝えている。この世界にはオサカゲに誘われてやってきた……そして時々、先ほどのように己の技量だけで戦うのだ。惜しむらくは、刀が無い事だな。ロングソードも悪くはないのだが、やはり手になじむとはいいがたい。この凝った外見にも木に竹を接ぐ様な形になってしまっているからな」
と、ヘイロクさんから自己紹介を受けた。やっぱりその見た目は意図的な物か。それ故に獲物がロングソードってのが悲しい所だ。やっぱりこの外見なら刀が欲しいよね。
「魔剣なる物の中には刀のような外見を持つ者もあると聞いてはいたが、残念ながら巡り合う機会を得られなかったのも悔いが残る。これだけ互いに寸止めではなく全力を持って斬り合える世界にて、獲物が合わぬというのはな……大太刀を始めとした大物もこちらは扱えぬのだ」
ヘイロクさんの道場では、そう言う大物は取り扱っていないから振るえないって事なんだろう。アーツありならまだ分からないが、無しだと技量がもろにでる。そこに不慣れな獲物では流石に仮想の体と言えど命を預ける訳にはいかないって事だろう。ワンモアは斬られればしっかり痛みを感じるから、なおさら不慣れな武器では戦いたくないと考えるのは当然だろう。
「こちらもヘイロクの獲物に関しては協力していたのだがな……どうにもならなかったのが口惜しい所よ。一縷の望みをかけてこの塔に来たが、ヘイロクの獲物にふさわしいものはついに見つからなんだ」
と、オサカゲさんも無念そうに話す。好敵手であればこそ、その実力をいかんなく発揮できる獲物を与えたい。気持ちは理解できるが、魔剣は本当に出会えるかどうかはその人次第だからな……自分も真同化以外の魔剣は他の人が使うのを見るだけだった。そうして話をしていたのだが、オサカゲさんがこんなことを口にした。
「ヘイロクよ、お前もアース殿と一戦交えてみないか? アース殿はこちらの世界の技術なしでもなかなかやるぞ?」「ほう、それは興味深い……」
一瞬で戦闘者の目になる両者。ま、こうなる事も想定内。では、一勝負とまいりましょうか。
(変に口を出せば、矛先がこっちに向いてきそうなんだよなぁ。うーん、自分の作った料理を不味いと言われたくないという気持ちも分からんでもないが、流石にやり過ぎだよなぁ……あの圧の掛け方は。そうは思うんだけど、上手い止め方が思いつかない)
そんな感じで、結局試食が終わるまでの間守護者の圧を掛けるのを止めることが出来ないまま時間だけが過ぎた。それでも何とか試験官は食事全てを食べ終わり、しばし顔をテーブルに向けた状態で考え込む。合格にするか、失格にするかの答えを出すために、食べた料理の味、見た目、香織などからくる評価を纏めているのだろう。そして。
「合格です。全体的に味が良い事はもちろん、見た目も香りも上々。ここを突破させるのにふさわしいと判断するに値する料理でした。特に驚いたのは十品目のおぞうに、とおっしゃられていた料理です。あそこに置いておいたお米は、他の米と混ぜてより美味しくなるようにする料理人向けに配置した物だったのですが……まさかそれを主役に持ってくるとは思いませんでした」
合格か、よかった。これでもし失格となったら守護者さんがどれだけ暴れたか想像もしたくない。それにしても、置かれていたもち米がブレンド用に想定されたものだったとは。確かに普段焚くお米に多少のもち米を入れておいしさを増すと言う手段は知っている。そして、試験官もそのために置いておいたが故に、メインに持ってくるのは想定外だったか。
だが、言っては何だがパワーあふれる守護者さんに料理の手伝いと言うか一品作る為の手段はこれしか思いつかなかった。無論うどんやラーメンと言った作るのにパワーが必要となる料理はあるけど、とっさに目に入ったもち米を見て、お雑煮を作ろうって思考に完全に入っちゃったんだよね。試験が終わって緊張がほぐれた今でこそこうやって思いつくんだけどさ……
「まあね、当然よね? 何せ『私』が! ちゃんと『主役』を作ったんだから!」
一方で守護者さんは、まあ、その、一般的な言い方で言うドヤ顔って奴をなさっている。額縁に入れて、題名を『これがドヤ顔という物です』と付けて飾ってもいい位だ……うん、SS取っておこう。守護者さんに断りを入れた後に、角度まで決めてもらって記念の一枚。うん、いい絵が取れたんじゃないかな。後でPCの方にデータを移動させて記録用として取っておこう。もちろん額縁に入れるとかのちょっとした加工をつけ足した上で。
「──なんにせよ、これで貴方様はこの階層をクリアし先に進む資格を手に入れました。こちらで記録を行われた後、先にお進みください。それとも、本日はここまでにしておきますか? 私としては、あと五階でいいので先に進んで欲しいのですが」
記録用の水晶体を出しながら、試験官がそんな事を口にする。最後の一言は紛れもなく本心だろうなぁ。この階で終わりにしたら、守護者さんは明日までこの階層に居座る事になるのだろう。そうなると……うん、試験官さんの胃が心配になるな。人を模した水のような存在なので、実際にあるかどうかは分からないけど。
時計を確認すると……あと十階ぐらいは大丈夫かな。あと十階まで登ったら今日はおしまいにしよう。その方針を守護者さんにも告げると、試験官さんは心の底からほっとした表情を浮かべていた。もうちょっと隠した方が良いんじゃないかな? ほら、守護者さんの目に怒気が混じりだしたし。
「どうしてそこまでほっとしているのかしら?」「心当たりがないなら、教えて差し上げましょうか」
守護者さんの言葉に、すかさずそう返す試験官さん。そして始まるにらみ合い……昭和の不良じゃないんだからさ……なんでそうも至近距離までお互いに近づいてにらみ合ってるんだよ。なので、そうやってるなら今日はここまでにするよと自分が告げると……「そうしてくれると助かるわ、こいつとは一度しっかりとした話し合いが必要らしいから」と言う守護者さんの返答が帰ってくる始末。
(よし、後はもう放置しよう。守護者さんが同行している関係上、一〇階の差なんてあってないようなものだ。むしろ巻き込まれたくないからさっさと退散しよう)
そう判断し、お疲れさまでしたと告げて即座に退散。この後この場がどうなったのかなんて興味を持たない方が良い。ほら、言葉にもあるでしょう? 知らぬが華、と。そして塔の外に出て葵をらを見ながら体をひと伸びさせる。さて、このペースだと九九五階までは遅くても二日ぐらいだろう。ぶっ飛んだペースだけど、全体的に見れば攻略が遅いパーティと同じぐらいのぺーすになるんだよ。七五〇階で時間をそれだけ使わされたと言う事でもある。
(ログアウトまであと二〇分ぐらいの時間はあるけど、やる事も特にないしさっさとログアウトして寝てもいいかな?)
そう考えながら宿屋に向かっていると、妙に人が集まっている所があった。聞こえてくる声からして、問題が発生しているという訳ではなくPvPを行っているのだろう。かなり盛り上がっている事から、かなりの猛者同士がPvPを行っていると予想される。なので、折角だから見ていく事にした。
(どれどれ……観戦制限は無制限になっているから見られるな。一対一のベーシックなPvPで決着のルールは相手のHPを全部削る事ね。さて誰が戦っているのか……ありゃ、あれはオサカゲさんじゃないか。もう一人の男性は着流しの浪人みたいな外見だな。ただ、内側にチェインメイルを着込んでいるようだが……)
オサカゲさんともう一人の戦いは、すでに佳境に入っている様だった。大太刀を振るオサカゲさんに対し、ぼさぼさ髪に無精ひげを生やした着流しの浪人のような外見の男性はかなり刀身が細いロングソードの二刀流で戦っていた。うーん、外見と武器のちぐはぐさが気になるなぁ。と言ってもワンモアでは刀は大太刀しかないからどうしようもなかったのだろう。
オサカゲさんの重い一撃を受け流しつつ、手数で反撃を行っている浪人風の男性。お互いに一進一退であり、残り体力も互いにいい攻撃が一発入ればゼロになって決着がつくというぐらいの残量しかない。二人の間に火花が何度も舞い、激しい打ち合いが行われる。お互い一歩も引く気なしと言う事が誰にでも分かろうという物だ。
「いけー! 押し切れー!」「負けるなよー! 賭けてるんだからなー!」「この二人の戦いはいっつもこうなるからな、見ごたえがあるぜ!」
周囲の感染者からもそんな声が飛んでいる。しかし、金かものかは分からないか賭け事をしている奴はいるんだな……まあ、本人が困らない程度にやるならいいけどね。っと、戦いはそろそろ決着がつくかな? オサカゲさんの大太刀の一撃を受け流そうとした浪人風の男性だが……このタイミングで受け流し損ねたようだ。直撃は避けたが、それでも無理な動きをしたために動きが止まった。それを見逃してくれるようなオサカゲさんではない。
オサカゲさんが振るった返しの一太刀で、浪人風の男性の胸辺りが見事に切り裂かれた。浪人風の男性は、まるで時代劇のようにゆっくりと二、三歩後ろに後ずさった後に崩れ落ちた。これで決着がつき、オサカゲさんにWINの勝利文字が浮かび上がっている。うーん、最初から見たかったな、この戦い。
「今日はオサカゲの勝利か」「ま、ヘイロクの方はやっぱりあの受け流しのミスをやった時点でアウトだったよな」「お互い実力伯仲してるんだけどねぇ……今日はオサカゲに軍配が上がったか」「くっそー、ヘイロクはあそこであんなミスするなよ……七万グローがパーだぜ」
PvPが終わった事で、様々なプレイヤーはあれこれ言いながらこの場を離れていく。が、自分はオサカゲさんとちょっと話をしたかったので、プレイヤー達が散るのを待つ。数分が経過し、自分はオサカゲさんに声をかけた。
「オサカゲさん、最後辺りしか見れませんでしたが素晴らしい一太刀でした」「おお、これはアース殿。ご覧になられていたか」
会釈の後に自分がそう口にすると、オサカゲさんも会釈をした後に返答を返したくれた。一方で浪人風の男性は自分と言う人間がどんな奴なのかを見定めるような目を向けてきていた。
「アース殿はヘイロクとお会いするのは始めてだったかな? この者はヘイロク、現実では別の道場の師範であり、好敵手と言った所か」
ああ、どおりであれだけのアーツに頼らない立ち回りが出来るわけだ。最後の方しか見れなかったが、それでもオサカゲさんの大太刀をアーツに頼らず受け流せる技量は素晴らしいものだったが、それだけの技量を持っている理由が分かった。
「アース殿と言うのか。我はヘイロク、オサカゲの言った通り別の道場にて剣術、柔術を中心とした武術を伝えている。この世界にはオサカゲに誘われてやってきた……そして時々、先ほどのように己の技量だけで戦うのだ。惜しむらくは、刀が無い事だな。ロングソードも悪くはないのだが、やはり手になじむとはいいがたい。この凝った外見にも木に竹を接ぐ様な形になってしまっているからな」
と、ヘイロクさんから自己紹介を受けた。やっぱりその見た目は意図的な物か。それ故に獲物がロングソードってのが悲しい所だ。やっぱりこの外見なら刀が欲しいよね。
「魔剣なる物の中には刀のような外見を持つ者もあると聞いてはいたが、残念ながら巡り合う機会を得られなかったのも悔いが残る。これだけ互いに寸止めではなく全力を持って斬り合える世界にて、獲物が合わぬというのはな……大太刀を始めとした大物もこちらは扱えぬのだ」
ヘイロクさんの道場では、そう言う大物は取り扱っていないから振るえないって事なんだろう。アーツありならまだ分からないが、無しだと技量がもろにでる。そこに不慣れな獲物では流石に仮想の体と言えど命を預ける訳にはいかないって事だろう。ワンモアは斬られればしっかり痛みを感じるから、なおさら不慣れな武器では戦いたくないと考えるのは当然だろう。
「こちらもヘイロクの獲物に関しては協力していたのだがな……どうにもならなかったのが口惜しい所よ。一縷の望みをかけてこの塔に来たが、ヘイロクの獲物にふさわしいものはついに見つからなんだ」
と、オサカゲさんも無念そうに話す。好敵手であればこそ、その実力をいかんなく発揮できる獲物を与えたい。気持ちは理解できるが、魔剣は本当に出会えるかどうかはその人次第だからな……自分も真同化以外の魔剣は他の人が使うのを見るだけだった。そうして話をしていたのだが、オサカゲさんがこんなことを口にした。
「ヘイロクよ、お前もアース殿と一戦交えてみないか? アース殿はこちらの世界の技術なしでもなかなかやるぞ?」「ほう、それは興味深い……」
一瞬で戦闘者の目になる両者。ま、こうなる事も想定内。では、一勝負とまいりましょうか。
あなたにおすすめの小説
『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?
シエル
恋愛
「彼を解放してください!」
友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。
「どなたかしら?」
なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう?
まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ?
どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。
「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが?
※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界
※ ご都合主義です。
※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。