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五章
五話 ハーレム男の落日 押水一郎編 その四
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「よし! 準備完了だ!」
いよいよだ。
僕達は放送室に入り、ハーレム発言の準備にとりかかっている。
放送室の中は色々な機材が積まれている。装置のことはよく分からないけど、マイクだけは分かる。
マイクの前にある椅子に僕は座った。右京がマイクのスイッチを入れたら、全生徒に僕の声を届けることができる。
始まるんだ。僕の未来をかけた、熱い戦いが! 始まるんだけど……。
「やっぱり、もう少し待って。心の準備が」
心臓がばくばくして落ち着かない。落ち着け、落ち着けよ、僕!
僕は左胸をドンドンと叩いた。それでも、なかなか落ち着いてくれない。
「もうすぐ昼休みが終わります。早くしてください」
「いや、この一大事に授業なんかどうでもよくない?」
「よくないです。授業中に放送したら先生に大目玉を食らいますよ?」
放送室を無断で使うのはいいのかな? あれ? やっぱりダメのような気がしてきた。やっぱり、やめよっかな……。
「……ちょっと、待って。大事なメールがきたから」
女の子からかな? それなら仕方ないよね。
「どうでした?」
「……勝ったみたいだ」
「やってくれましたね。信じてました」
「何の話?」
「いや、なんでもない。それより、始めようか」
僕はごくりっと息をのむ。引き返すなら今だ。
やっぱり、無理だ! うまくいきっこない!
「ねえ、右京。やっぱり……」
「……分かった。止めようか」
「えっ? ちょっと! いいんですか!」
「無理強いはできないでしょ? 一郎君に覚悟がなければやめておくべきだよ。藤堂君に勝てなかったけど、仕方ない」
藤堂に勝てなかっただと? どういう意味だ?
僕は左近に問いただす。
「僕がアイツに勝てなかったってどういう意味?」
「そのままの意味さ。現状は何も変わらない。それどころか、彼は気づいているよ。キミがユーノに何をしたのかを」
一瞬、息が止まるかと思った。
僕がユーノにしたことがバレている? そんな、まさか……。
「藤堂君はね、ユーノと話をしたんだよ。そのとき、ユーノが漏らしたんだ……『今回も一郎さんの誤解だった』って。その一言が気になって調査したらしい」
アイツ! どこまで僕の邪魔をしたら気が済むんだ!
怒りがフツフツとわいてくる。あんなヤツに……あんなヤツに……。
「でも、僕はアドバイスしただけだ! 僕以外の男の子に近づかない方がいいって! ユーノはアンドロイドだけど、女の子なんだ! けど、ここにいる男共はユーノの体のことばかり話していたんだ! 胸や下半身はどうなってるのかって! だから、僕はユーノを守る為に!」
「だよね。でも、藤堂君は結果のみ見ているんだよ。ユーノも一郎君が独占しているって見なしているんだよ。そこにいたる理由なんてどうでもいい、要はあら探しをして、陥れるつもりなんだ。キミをね」
ゆ、許せない……絶対に許せない! 何も知らない無垢なユーノを利用しようとするなんて! 僕を陥れる為だけに、ユーノを利用するなんて!
「そんなこと……許せない……僕が藤堂からユーノを守ってみせる!」
「できるのかい? キミに? ヘタってハーレム発言すらできないキミに」
「できる! やってやる!」
僕が本気を出せば、あんなヤツに負けるはずがない! 覚悟するのは藤堂の方だ!
許せない許せない許せない許せない許せない許せない! 僕の大事な者を奪う者は排除してやる! 最後に笑うのは僕だ!
「でも、敵は風紀委員だけじゃない。他の男子生徒も敵になるかもしれないんだよ?」
「やってやる! 僕の女の子達に誰も手出しをさせない! この学校にいるヤツらなんかに奪われてたまるか! 全員、敵だ! 右京! 準備して!」
迷っていたのがバカだった! そうだ、僕は変わらなければならない。
メロンちゃんの言う通り、僕が引っ張っていかなければならなかったんだ!
そうだ……僕が頼りなかったせいで、ハル姉に迷惑を掛けていた。これからは、僕がハル姉を護っていくんだ! 藤堂の魔の手から救うんだ!
「押水君! 準備OKです!」
深呼吸し、マイクに近づく。
そして……。
「ねえ、メロン……じゃない、キミ。名前、なんていうの?」
「もう! 私は吉永です!」
「そっか、吉永さんか。吉永さん、僕が幸せにしてあげるからね」
「……」
吉永さんが呆然と僕の顔を見つめている。なんで?
「どうかした?」
「いえ、不意打ちだったのでちょっと……ああ、これか……これがあったんだ……油断してたな」
吉永さんが顔を真っ赤にしてうつむいている姿は可愛いな。そんなに僕のハーレムに加わりたいのか。可愛がってやるぜ、子猫ちゃん。なんちって!
気持ちがリラックスできた。やるなら今しかない!
「よし! いいよ、右京! スイッチを入れて」
「……最後に確認するよ、一郎君。本当にいいんだね? 僕は友達としてキミの意見を尊重したい。けど、一歩間違えれば……」
「大丈夫だよ、右京。僕は負けないから。右京に言われて、目が覚めたよ。ありがとう」
「なら、僕は何も言うことはない。責任はちゃんととってね」
このとき、僕はもっと二人の発言、行動について考えるべきだった。二人の会話に何かひっかかっていたことを。何かおかしいとは思っていたけど、藤堂のことで腹を立てていた僕に、考える暇がなかったんだ。
僕は、運命の選択をする。
「右京! お願い!」
「ポチッとな」
ピンポンパンポーン。
「……二年C組の押水一郎です! 僕はここに宣言する! この学園に僕のハーレムを作ると! みんなを幸せにしてあげる! だから、黙って僕についてこい! I LOVE YOU!」
気が付くと拳を高々と上げていた。
やった……歴史的スピーチをやったぞ! We can change! Yes, we can!
もうすぐ、福音がもたらされるのだ、僕の天使ちゃん達によって! 生きてるってスバラシー! お母さん、ありがとう! 僕を産んでくれてありがとう!
藤堂! お前にやられた分は倍返しでたたきのめしてやる!
押水一郎、漢になります!
***
いよいよだ。
僕達は放送室に入り、ハーレム発言の準備にとりかかっている。
放送室の中は色々な機材が積まれている。装置のことはよく分からないけど、マイクだけは分かる。
マイクの前にある椅子に僕は座った。右京がマイクのスイッチを入れたら、全生徒に僕の声を届けることができる。
始まるんだ。僕の未来をかけた、熱い戦いが! 始まるんだけど……。
「やっぱり、もう少し待って。心の準備が」
心臓がばくばくして落ち着かない。落ち着け、落ち着けよ、僕!
僕は左胸をドンドンと叩いた。それでも、なかなか落ち着いてくれない。
「もうすぐ昼休みが終わります。早くしてください」
「いや、この一大事に授業なんかどうでもよくない?」
「よくないです。授業中に放送したら先生に大目玉を食らいますよ?」
放送室を無断で使うのはいいのかな? あれ? やっぱりダメのような気がしてきた。やっぱり、やめよっかな……。
「……ちょっと、待って。大事なメールがきたから」
女の子からかな? それなら仕方ないよね。
「どうでした?」
「……勝ったみたいだ」
「やってくれましたね。信じてました」
「何の話?」
「いや、なんでもない。それより、始めようか」
僕はごくりっと息をのむ。引き返すなら今だ。
やっぱり、無理だ! うまくいきっこない!
「ねえ、右京。やっぱり……」
「……分かった。止めようか」
「えっ? ちょっと! いいんですか!」
「無理強いはできないでしょ? 一郎君に覚悟がなければやめておくべきだよ。藤堂君に勝てなかったけど、仕方ない」
藤堂に勝てなかっただと? どういう意味だ?
僕は左近に問いただす。
「僕がアイツに勝てなかったってどういう意味?」
「そのままの意味さ。現状は何も変わらない。それどころか、彼は気づいているよ。キミがユーノに何をしたのかを」
一瞬、息が止まるかと思った。
僕がユーノにしたことがバレている? そんな、まさか……。
「藤堂君はね、ユーノと話をしたんだよ。そのとき、ユーノが漏らしたんだ……『今回も一郎さんの誤解だった』って。その一言が気になって調査したらしい」
アイツ! どこまで僕の邪魔をしたら気が済むんだ!
怒りがフツフツとわいてくる。あんなヤツに……あんなヤツに……。
「でも、僕はアドバイスしただけだ! 僕以外の男の子に近づかない方がいいって! ユーノはアンドロイドだけど、女の子なんだ! けど、ここにいる男共はユーノの体のことばかり話していたんだ! 胸や下半身はどうなってるのかって! だから、僕はユーノを守る為に!」
「だよね。でも、藤堂君は結果のみ見ているんだよ。ユーノも一郎君が独占しているって見なしているんだよ。そこにいたる理由なんてどうでもいい、要はあら探しをして、陥れるつもりなんだ。キミをね」
ゆ、許せない……絶対に許せない! 何も知らない無垢なユーノを利用しようとするなんて! 僕を陥れる為だけに、ユーノを利用するなんて!
「そんなこと……許せない……僕が藤堂からユーノを守ってみせる!」
「できるのかい? キミに? ヘタってハーレム発言すらできないキミに」
「できる! やってやる!」
僕が本気を出せば、あんなヤツに負けるはずがない! 覚悟するのは藤堂の方だ!
許せない許せない許せない許せない許せない許せない! 僕の大事な者を奪う者は排除してやる! 最後に笑うのは僕だ!
「でも、敵は風紀委員だけじゃない。他の男子生徒も敵になるかもしれないんだよ?」
「やってやる! 僕の女の子達に誰も手出しをさせない! この学校にいるヤツらなんかに奪われてたまるか! 全員、敵だ! 右京! 準備して!」
迷っていたのがバカだった! そうだ、僕は変わらなければならない。
メロンちゃんの言う通り、僕が引っ張っていかなければならなかったんだ!
そうだ……僕が頼りなかったせいで、ハル姉に迷惑を掛けていた。これからは、僕がハル姉を護っていくんだ! 藤堂の魔の手から救うんだ!
「押水君! 準備OKです!」
深呼吸し、マイクに近づく。
そして……。
「ねえ、メロン……じゃない、キミ。名前、なんていうの?」
「もう! 私は吉永です!」
「そっか、吉永さんか。吉永さん、僕が幸せにしてあげるからね」
「……」
吉永さんが呆然と僕の顔を見つめている。なんで?
「どうかした?」
「いえ、不意打ちだったのでちょっと……ああ、これか……これがあったんだ……油断してたな」
吉永さんが顔を真っ赤にしてうつむいている姿は可愛いな。そんなに僕のハーレムに加わりたいのか。可愛がってやるぜ、子猫ちゃん。なんちって!
気持ちがリラックスできた。やるなら今しかない!
「よし! いいよ、右京! スイッチを入れて」
「……最後に確認するよ、一郎君。本当にいいんだね? 僕は友達としてキミの意見を尊重したい。けど、一歩間違えれば……」
「大丈夫だよ、右京。僕は負けないから。右京に言われて、目が覚めたよ。ありがとう」
「なら、僕は何も言うことはない。責任はちゃんととってね」
このとき、僕はもっと二人の発言、行動について考えるべきだった。二人の会話に何かひっかかっていたことを。何かおかしいとは思っていたけど、藤堂のことで腹を立てていた僕に、考える暇がなかったんだ。
僕は、運命の選択をする。
「右京! お願い!」
「ポチッとな」
ピンポンパンポーン。
「……二年C組の押水一郎です! 僕はここに宣言する! この学園に僕のハーレムを作ると! みんなを幸せにしてあげる! だから、黙って僕についてこい! I LOVE YOU!」
気が付くと拳を高々と上げていた。
やった……歴史的スピーチをやったぞ! We can change! Yes, we can!
もうすぐ、福音がもたらされるのだ、僕の天使ちゃん達によって! 生きてるってスバラシー! お母さん、ありがとう! 僕を産んでくれてありがとう!
藤堂! お前にやられた分は倍返しでたたきのめしてやる!
押水一郎、漢になります!
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