風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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七章

七話 決戦! 藤堂正道 VS 押水一郎 真実と願い その三

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「桜井みなみさんと大島さとみさん、二人と絶交しろ。せめての情けだ。押水先輩だけは勘弁かんべんしてやる」

 俺の提案に、押水は怒りでヒステリックに叫び、拒絶してくる。

「はあ! な、なんで、絶交しなきゃいけないんだよ!」
「いやいや、横暴すぎるでしょ、それ」
「あんた、本当に何様なにさまなわけ? 風紀委員ってそんなに偉いの!」

 これには押水だけでなく、佐藤と大島も激怒した。桜井は何も言わず、事の成り行きを見守っている。
 押水姉は怒りを抑えて、静かに問いかける。

「藤堂君、説明してもらえるかしら? 流さすがに昔からの幼馴染と絶交しろは暴挙だわ」
「押水の本気を知りたいからです」

 教えてくれ、お前の気持ちを今ここで。俺の答えに押水姉は眉をひそめている。

「本気? どういうこと?」
「おい、押水。ラブレターの件、覚えているな?」

 ラブレターのことを尋ねると、押水は真っ赤な顔から真っ青な顔に変化する。佐藤、大島と押水姉は怪訝けげんそうな顔をしている。絶交とラブレターが一体どんな関係があるのか分からないのだろう。

「ラブレターって友也のラブレターのこと?」

 大島が横目で佐藤を見る。佐藤は耳たぶまで真っ赤になる。

「げっ! なんでさとみが知ってるんだよ!」

 こんな状況でも、恋の話になると茶化したくなるのが大島の性格のようだ。ニヤつきながら、大島はラブレターの事を話す。

「聞いたわよ~。ラブレターなんて、友也にしては古風な手を使うわね」
「あれれ? なんで俺の恥ずかしい過去暴露大会になっちゃってるの? 一郎のことだったじゃん!」

 とんだ飛び火に佐藤が大げさになげいていた。
 こんな状況でも笑い合うのは彼らが友であり、仲がいいからだろう。その光景を見て、胸が痛む。俺がこれからやろうとしているのは、その友情をぶち壊してしまうかもしれないからだ。

「と、友也、落ち着け。そのことは……」

 押水がラブレターの事を誤魔化そうとするが、押水姉は納得いかないのか、戸惑ったように俺に問いただしてくる。

「前にも言ってたよね? それと絶交が何の関係があるの、藤堂君?」
「そ、そうだそうだ! 俺に何の恨みがあってみんなの前で……」

 押水姉と佐藤の質問を無視して、俺は真っ直ぐに押水に問いただす。

「もう一度聞く。押水……」
「や、やめろ! 今は関係ないだろ!」

 押水は俺の質問を遮ろうとするが、真実を問いただす。

「佐藤君が桜井さん宛に書いたラブレターはどうした?」
「「「えっ?」」」
「だから! 何で暴露するかな! フラれたよ! フラれました! 笑いたきゃ笑えよ! ちくしょう!」

 佐藤はヤケになって叫んだ。しかし、周りの反応が何もなくて佐藤は困惑こんわくしている。
 大島、押水姉は絶句している。桜井はうつむいていた。暴露された押水は口をぱくぱくしている。

「な、なんだよ、その反応?」

 佐藤一人だけが状況を飲み込めていない。
 大島が口元を震わせて、佐藤に尋ねる。

「友也、あんた……みなみに告白しようとしたの?」

 間違えであってほしいと大島は思っているのだろう。しかし、佐藤の答えは真実を知らない者達を絶望におとしいれるものだった。

「っ! そうだよ! でも、フラれたんだ! 一郎にお願いしてラブレターをみなみに渡してもらったけど、断られたって言われたよ!」

 静寂が屋上を支配する。
 最初に口を開いたのは押水姉だった。それは押水姉が初めて見せた、押水を非難する態度だった。

「弟君、どういうこと? 自分で渡せって説得したんだよね? 告白の女の子はよく知らないって言ってたよね?」
「そ、それは……」

 押水姉の指摘に、押水は口籠くちごもっている。俺は更に真実を追求する。

「お前は佐藤君から預かったラブレターを渡さずに捨てたんだよな? それで渡したと嘘をついた。断られたと嘘をついた。違うか?」

 事実を告げると、押水姉と大島、佐藤は絶句した。あまりの真実に、裏切りに声が出ないのだろう。

「そ、そんなわけないじゃん」

 押水は俺の推測を認めようとしなかった。予測できた反応だ。それならば、誰が嘘をついているのか、証明するだけだ。
 俺は押水に問いただす。

「じゃあラブレターはどこにある?」
「そ、それは……その……なくしたんだ。だから、つい言いだせなくて……」

 押水の苦しい言い訳に呆れてしまう。そんな言葉を誰が信じるというのか。だが、本当の可能性もある。
 俺は勝負に出た。

「なくしたのはこのラブレターか?」

 ブレザーのポケットから一枚の手紙を取り出す。それを見て、押水は笑い出した。

「あははははっ! ば~か、ばーか! ついに見つけたよ、ハル姉! 動かぬ証拠を!」
「動かぬ証拠?」

 大喜びしている押水に、押水姉は訳がわからず戸惑っている。押水はうれしそうに押水姉に事実を告げる。

「ああ! だってあのラブレター、偽物だもん! そうだよな、友也!」
「そうか? あれ? 言われてみればそうかも……でも、そうじゃないかも……」

 佐藤は首をかしげているが、押水は俺が持っているラブレターが偽物だと確信しているようだ。
 佐藤のはっきりしない態度に、押水は苛立ったように催促さいそくする。

「しっかりしろよ、友也! あれは偽物だよ! 本物はみつかりっこないんだから!」
「なぜ、そんなことが言える? さっき、なくしたと言っただろ? これは俺が拾ったんだ」

 優位ゆういにたてたことが嬉しいのか、押水は上機嫌だ。自信満々に言い放つ。

「拾えるわけがない! だって、燃やしたんだから! あるわけないだろ、ば~か!」
「燃やしたって何を……」
「決まってるだろ! 友也のラブレ……タ……」

 ようやく押水は自分が何を言わされたのか気づいたようだ。
 大島が、押水姉が、佐藤が押水を悲痛な面持おもむちで見つめている。

「ようやくボロが出たな、押水。そうだ、このラブレターは偽物だ。本物は燃やしてしまったのだな」

 これがラブレターの真実。みんなをあざむいてきた押水の秘密だ。

「ど、どういうことだよ、一郎」
「そ、それは」

 佐藤の怒りが。

「なんで? なんでそんなことしたの、一郎?」
「だ、だから」

 大島の悲しみが。

「弟君、何をしたのか分かってるの?」
「ち、違うよ、ハル姉」

 押水姉のいきどおりが、押水を襲う。
 俺は冷たく言い放つ。

「最低だな」
「お前のせいだろうが!」

 俺の発言に押水がブチギレた。

「なんなんだよ! なんで余計なことばかりするんだよ!」
「はっきりさせておきたかったからだ。押水の本命は桜井さんだな?」
「違うって! みなみはただの幼馴染だ!」

 桜井は泣きそうな顔をしているが、余裕よゆうのない押水は気づい
ていない。
 それをもどかしく思いながらも、追求する。

「ならなぜ、ラブレターを燃やした? 好きな人を佐藤に取られたくなかったからだろ?」
「別に! そんなんじゃないよ! みなみが困っていたから燃やしたんだ!」

 桜井の為だと押水は叫ぶ。仕方なかったんだと言いたげに責任転換する押水に、俺は湧き上がるものを抑えつけ、問い続ける。

「なぜ、桜井さんは困ったんだ? 桜井さんには好きな人がいて、その好きな人がお前だったからだろ?」
「勝手なことぬかすな! みなみが僕のことそんなふうに想うわけないだろ!」
「確認してやろうか? 桜井さん、押水はこういっているが、キミは押水のこと、好きなんだろ?」

 黙っていた桜井は、困ったような顔をしながらも言葉をつむぐ。

「違い……ます……私……」

 桜井の沈痛な表情に胸が苦しくなる。桜井を苦しめ、追い詰めているのは間違いなく自分だ。
 桜井が何をした? 誰かを困らせたか? 誰かを傷つけたのか? 何も悪くないのに、俺は彼女を傷つけている。だが、確認しなければならない。
 胸の痛みを我慢し、彼女に問いかける。

「違うなら、なぜ泣いている?」
「えっ……」

 桜井は自分が泣いていることに気づいたようだ。桜井の瞳から大粒の涙が地面に落ちていく。

「あれ? おかしいな。なんで泣いているの? 分からない……分からないよ……こんなハズじゃ……こんなハズじゃあなかったのに……ただ……一郎ちゃんのこと……一郎ちゃんのこと……」

 桜井は声を押し殺して泣いていた。
 押水は桜井に手を伸ばそうとするが、大島が、佐藤が桜井に駆けつける。押水の手は届かず、空をさまよっていた。
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