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七章
七話 決戦! 藤堂正道 VS 押水一郎 真実と願い その四
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「押水、お前、一体何がしたいんだ? 誰が好きなんだ? お前のことを愛している人さえ傷つけてどうしたいんだ?」
「違う……違う違う違う! 全部、全部、お前のせいだ! お前がいるからこんなことになったんだ! みなみは僕のものだ! ずっと幼い頃から一緒だったんだ! 守ってきたんだ! みなみだけじゃない、他の女の子だって僕は大切にしてきた! みんなを幸せにしたいんだ! それを横取りしようとするヤツが悪いんだ! 人が大切にしていたものを何の苦労もしていないヤツがかっさらっていくのはおかしいだろ! お前が僕を陥れるから失敗したんだ! 僕に何の恨みがあるんだよ! たとえお前の好きな人を僕が奪ったとしても、それはお前に魅力がないからだ! 僕に当たるな!」
自分勝手な押水の言い分に、俺はキレた。
「何の恨みだと? 人に当たるなだと? 人の気持ちをもてあそんでおいて何を言っている。お前のせいでどれだけの人達が苦しんだと思っている? 周りの人間だけじゃない。お前のことを信じてくれた人を、幼馴染をどれだけ欺いてきた? どれだけお前を慕ってくれた女の子をその気にさせれば気が済むんだ? 付き合う気もないくせに!」
くるみ、ユーノの気持ちを、近藤の想いを押水は何も分かっていない。
くるみは自分に自信が持てなかった。自分の好きな人の周りには、どんなに背伸びをしても適わない魅力的な女性が複数いる。その絶望と悔しさを押水は知らない。
ユーノは人間じゃなかった。人を好きになる気持ちを自覚したからこそ、周りの女の子の為、手を引いた。周りの人の幸せの為に、自分の恋を諦め、押水に恩返しをする理由でそばに居続けた。押水に騙されていることに気づいていても、彼女は押水を想い続けた。
これは左近から聞いた話だ。ユーノが研究室に戻ることになったとき、初めてユーノは我儘を言った。押水の傍にいたいと。
富士山桜は泣きながらユーノを説得していたとのことだ。ユーノはあんなにいい子なのに……押水を愛していたのに。
ユーノの想いを押水は踏みにじった。
近藤はFLCの仲間だけでなく居場所さえも失った。
ヒューズが解散となり、FLCも解散となった。近藤は一人、部室で泣いていた。後ろ姿を見たとき、何も言葉をかけることができなかった。
近藤一人になっても頑張っていたのは、またみんなと活動できることを信じていたからだ。
思い出が詰まった場所も、応援していたスクールアイドルも、仲間も、青春も、全て失ったのだ。
俺は彼らの代弁者にはなれない。それでも、言っておきたいことはある。この件に関わった者として、俺の想いをぶつける。
「お前がはっきりしないせいだ! だから、お前の幸せを願った女の子は不幸になった!」
「そんなの……そんなの決められるわけないだろ! みんな、大事だし、僕が彼女を選んだら、みんなが傷つくだろ! 選べるワケないじゃないか!」
秋庭春美、本庄ゆずきの気持ちを押水は全く理解していない。
友情を壊してでも、三人の居心地のいい世界を失うことになっても、押水に愛されたかった。
だが、押水はどちらも選ばず、二人の想いを受け入れても恋人と認めず、他の女の子と仲良くなっていく。
二人は押水と付き合うことも、愛されることも諦めていた。それでも、一郎を傷つけないでくれと頼んだ。
押水のいい加減な気持ちのせいで、どれだけの人達が傷ついたのだろう。どれだけの悲しみがあふれかえったのだろう。
傷つけたくないのなら、大切だと想うのなら、けじめをつけるべきだ。まやかしや誤魔化しで作り上げた曖昧な世界など必要ないんだ。
俺は心の底から叫んだ。
「ならせめて、本気で人を好きになっているヤツの邪魔をするな! みんなだって恋愛がしたいんだよ! お前だけがしていると思うな! お前のやっていることは恋愛じゃない! ただの独占だ! だからみんな、不幸になるんだ! 人の気持ちが分からないヤツがハーレムを作るだ? 笑わせるな!」
「う、うわあああああああ!」
押水が雄たけびをあげて、俺を殴りつけてくる。だが、押水の拳は感情に身を任せた単純な軌道だ。
喧嘩慣れしている俺には何の脅威にもならない。最低限の体さばきでよけ、押水の足を引っ掛けて転ばせる。
押水はすぐさま立ち上がり、俺を再び殴ろうとする。それよりも早く、押水の顔面に寸止めしたパンチを出す。押水の体が硬直し、足の力が抜け、尻餅をつく。
俺は拳ではなく、想いを押水に叩きつけた。
「お前が本当に誰か想っているのなら、はっきりとその人に自分の想いを告げるべきだった。お前のくだらない嘘と偽善のせいでみんなが傷ついた。お前にみんなを幸せにする力も資格もない。それを自覚しろ」
押水は確かに女子を救ってきた。押水に救われなければ、今でも悩んでいた女子は沢山いるのかもしれない。
だからといって、独占していい理由にはならない。
人は弱いと思う。一人では何も出来ないのかもしれない。
けど、ずっと弱いままじゃない。傷を背負っても、それでも、前へ進んでいくんだ。いつまでも、助けられていたらソイツはいつまでたっても独立できない。
本当に誰かを助けたいと思うのであれば、きっと別れを言う勇気がある者だけだと俺は思う。
問題は一つじゃない。生きていけばきっと色々な問題にぶち当たるだろう。そのたびに差し伸ばされた手を握ることなんてできないはずだ。それをやろうと思えば、差し伸ばした手を一生掴む必要がある。
差し伸ばした手を握り続ける数はきっと少ない。だから、別れが必要なんだ。本当に大切な人を、そばにいたい人の手を握り続けるためにはきっとそうしなければならないんだ。
こんな考え方は大げさかもしれない。軽い気持ちで恋愛をしたいってこともあるだろう。
だが、俺は人を好きにさせてしまったのであれば、それ相応の責任があると思う。好きでないのなら、想いに応えられないのであれば、別れを言う勇気も必要だと今回の騒動で学んだ。
押水、お前にだってあるだろう? 何があっても離したくない手が。ほら、いるじゃないか。
「やめて! もうやめてください! 一郎ちゃんをいじめないで!」
桜井が押水をかばうように抱きしめる。目に涙を溜めながら、俺を睨みつけてくる。
押水よ、これでもお前はモテないと言い切るのか? 嘘をつくのか? そんなの悲しいだけだろ?
桜井は押水のことを想っている。強い想いだ。だがその想いは、今は桜井の独りよがりだ。
だから、俺が試してやる。押水、おまえが決めろ。おまえの決断で二人の絆が強くなるのか、それとも……。
押水一郎、見せてもらうぞ。お前と桜井の絆を。
「もう一度確認するぞ。俺の案に乗って平穏を取り戻すか、桜井さんと一緒に地獄の学園生活を送るか、二つに一つだ。決めろ」
「そ、そんなのすぐに決めるなんて無理だ。明日まで待ってくれ」
逃がさない。強い絆なんだろう? 迷う必要なんてない。
ミセテミロ。
「十、九、八……」
「ま、待ってよ!」
「七、六、五……」
押水は俺にすがりついてくるが、カウントを止めない。この騒動はお前が起こしたんだ。せめて、自分の決断で幕を閉じろ。それが、お前のとるべき責任だ。
「四、三、二、一……」
「わ、分かった! 分かったから!」
オマエノコタエヲミセテクレ。ホントウノキズナヲオレニミセテクレ。
「どっちだ?」
「それは、その……」
「この話はなかったことにする。じゃあな」
押水を振り払い、屋上の出口へ歩き出す。出口のドアを開けようとしたとき。
「待って! お願い! みなみとさとみと縁を切るから! お願い、助けて!」
押水の答えが耳に届いた。俺はゆっくりと振り向く。
この時の桜井、大島、佐藤、押水姉の顔を俺は一生忘れないだろう。押水はなりふりかまわず助けを求めてきた。
……ソウカ、コレガオマエノコタエナンダナ。
「それでいいんだな?」
押水に確認をとる。
「ああ! お願い! 助けて」
ココマデカ……。
「分かった。明日、全校集会で発表する」
眼を閉じ、一息ついた後、黙って屋上から出ていこうとした。
パシッ!
涙目の押水姉が俺の頬に平手打ちを叩きつける。
「これで満足なの? あなた、最低よ!」
俺は黙って押水姉に頭を下げた。この頬の痛みは一生忘れることはないだろう。いや、忘れてはいけない痛みだ。
「一郎ちゃん、さようなら……」
桜井は頬を伝わる涙をぬぐわずに、それでも笑顔で屋上を後にした。その笑顔はとても綺麗で儚くて、悲しかった。
「一郎……お前はぁあああああああああああああ!」
佐藤が大声で怒鳴り、押水を殴りつける。押水も佐藤を殴り返す。
「仕方ないだろ! もう、限界なんだよ! 友也に僕の気持ちなんて分からないよ!」
「分かるか! てめえの腐った考えなんか! みなみはなぁ、みなみはお前のことを、お前のことを本気で好きだったんだぞ!」
お互いの顔が腫れても、拳が傷ついても殴るのをやめなかった。
「やめて! やめてよ! あんたたち、友達なんでしょ! どうして! ねえ、遥先輩! 二人をとめて!」
大島はすがりつくように押水姉に懇願する。しかし、押水姉の返事は冷たいものだった。
「これは弟君のしでかしたことだわ。もう、私には関係ない」
「そんな……」
絶望しきった顔をしている大島に、押水姉はさらに追い打ちをかける。
「それに大島さんには関係ないじゃない。絶交されたんだから」
押水姉の投げやりな態度、言葉に大島は座り込んでしまった。大島の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
「ううっ……なんで、なんでこんなことになっちゃうの……好きだったけど……みなみに悪いと思ったから……一郎の傍にいられるだけでよかったのに……っあああああああああ!」
大島は赤子のように大声で泣いていた。押水姉はただ立ち尽くし、呆然としている。
屋上には怒声と罵声、泣き声が響いてる。これがハーレム男の結末だった。最後は誰も幸せにならず、全ての愛を手放し、消えていった。
この光景を目に焼き付け、俺は屋上を後にした。
「違う……違う違う違う! 全部、全部、お前のせいだ! お前がいるからこんなことになったんだ! みなみは僕のものだ! ずっと幼い頃から一緒だったんだ! 守ってきたんだ! みなみだけじゃない、他の女の子だって僕は大切にしてきた! みんなを幸せにしたいんだ! それを横取りしようとするヤツが悪いんだ! 人が大切にしていたものを何の苦労もしていないヤツがかっさらっていくのはおかしいだろ! お前が僕を陥れるから失敗したんだ! 僕に何の恨みがあるんだよ! たとえお前の好きな人を僕が奪ったとしても、それはお前に魅力がないからだ! 僕に当たるな!」
自分勝手な押水の言い分に、俺はキレた。
「何の恨みだと? 人に当たるなだと? 人の気持ちをもてあそんでおいて何を言っている。お前のせいでどれだけの人達が苦しんだと思っている? 周りの人間だけじゃない。お前のことを信じてくれた人を、幼馴染をどれだけ欺いてきた? どれだけお前を慕ってくれた女の子をその気にさせれば気が済むんだ? 付き合う気もないくせに!」
くるみ、ユーノの気持ちを、近藤の想いを押水は何も分かっていない。
くるみは自分に自信が持てなかった。自分の好きな人の周りには、どんなに背伸びをしても適わない魅力的な女性が複数いる。その絶望と悔しさを押水は知らない。
ユーノは人間じゃなかった。人を好きになる気持ちを自覚したからこそ、周りの女の子の為、手を引いた。周りの人の幸せの為に、自分の恋を諦め、押水に恩返しをする理由でそばに居続けた。押水に騙されていることに気づいていても、彼女は押水を想い続けた。
これは左近から聞いた話だ。ユーノが研究室に戻ることになったとき、初めてユーノは我儘を言った。押水の傍にいたいと。
富士山桜は泣きながらユーノを説得していたとのことだ。ユーノはあんなにいい子なのに……押水を愛していたのに。
ユーノの想いを押水は踏みにじった。
近藤はFLCの仲間だけでなく居場所さえも失った。
ヒューズが解散となり、FLCも解散となった。近藤は一人、部室で泣いていた。後ろ姿を見たとき、何も言葉をかけることができなかった。
近藤一人になっても頑張っていたのは、またみんなと活動できることを信じていたからだ。
思い出が詰まった場所も、応援していたスクールアイドルも、仲間も、青春も、全て失ったのだ。
俺は彼らの代弁者にはなれない。それでも、言っておきたいことはある。この件に関わった者として、俺の想いをぶつける。
「お前がはっきりしないせいだ! だから、お前の幸せを願った女の子は不幸になった!」
「そんなの……そんなの決められるわけないだろ! みんな、大事だし、僕が彼女を選んだら、みんなが傷つくだろ! 選べるワケないじゃないか!」
秋庭春美、本庄ゆずきの気持ちを押水は全く理解していない。
友情を壊してでも、三人の居心地のいい世界を失うことになっても、押水に愛されたかった。
だが、押水はどちらも選ばず、二人の想いを受け入れても恋人と認めず、他の女の子と仲良くなっていく。
二人は押水と付き合うことも、愛されることも諦めていた。それでも、一郎を傷つけないでくれと頼んだ。
押水のいい加減な気持ちのせいで、どれだけの人達が傷ついたのだろう。どれだけの悲しみがあふれかえったのだろう。
傷つけたくないのなら、大切だと想うのなら、けじめをつけるべきだ。まやかしや誤魔化しで作り上げた曖昧な世界など必要ないんだ。
俺は心の底から叫んだ。
「ならせめて、本気で人を好きになっているヤツの邪魔をするな! みんなだって恋愛がしたいんだよ! お前だけがしていると思うな! お前のやっていることは恋愛じゃない! ただの独占だ! だからみんな、不幸になるんだ! 人の気持ちが分からないヤツがハーレムを作るだ? 笑わせるな!」
「う、うわあああああああ!」
押水が雄たけびをあげて、俺を殴りつけてくる。だが、押水の拳は感情に身を任せた単純な軌道だ。
喧嘩慣れしている俺には何の脅威にもならない。最低限の体さばきでよけ、押水の足を引っ掛けて転ばせる。
押水はすぐさま立ち上がり、俺を再び殴ろうとする。それよりも早く、押水の顔面に寸止めしたパンチを出す。押水の体が硬直し、足の力が抜け、尻餅をつく。
俺は拳ではなく、想いを押水に叩きつけた。
「お前が本当に誰か想っているのなら、はっきりとその人に自分の想いを告げるべきだった。お前のくだらない嘘と偽善のせいでみんなが傷ついた。お前にみんなを幸せにする力も資格もない。それを自覚しろ」
押水は確かに女子を救ってきた。押水に救われなければ、今でも悩んでいた女子は沢山いるのかもしれない。
だからといって、独占していい理由にはならない。
人は弱いと思う。一人では何も出来ないのかもしれない。
けど、ずっと弱いままじゃない。傷を背負っても、それでも、前へ進んでいくんだ。いつまでも、助けられていたらソイツはいつまでたっても独立できない。
本当に誰かを助けたいと思うのであれば、きっと別れを言う勇気がある者だけだと俺は思う。
問題は一つじゃない。生きていけばきっと色々な問題にぶち当たるだろう。そのたびに差し伸ばされた手を握ることなんてできないはずだ。それをやろうと思えば、差し伸ばした手を一生掴む必要がある。
差し伸ばした手を握り続ける数はきっと少ない。だから、別れが必要なんだ。本当に大切な人を、そばにいたい人の手を握り続けるためにはきっとそうしなければならないんだ。
こんな考え方は大げさかもしれない。軽い気持ちで恋愛をしたいってこともあるだろう。
だが、俺は人を好きにさせてしまったのであれば、それ相応の責任があると思う。好きでないのなら、想いに応えられないのであれば、別れを言う勇気も必要だと今回の騒動で学んだ。
押水、お前にだってあるだろう? 何があっても離したくない手が。ほら、いるじゃないか。
「やめて! もうやめてください! 一郎ちゃんをいじめないで!」
桜井が押水をかばうように抱きしめる。目に涙を溜めながら、俺を睨みつけてくる。
押水よ、これでもお前はモテないと言い切るのか? 嘘をつくのか? そんなの悲しいだけだろ?
桜井は押水のことを想っている。強い想いだ。だがその想いは、今は桜井の独りよがりだ。
だから、俺が試してやる。押水、おまえが決めろ。おまえの決断で二人の絆が強くなるのか、それとも……。
押水一郎、見せてもらうぞ。お前と桜井の絆を。
「もう一度確認するぞ。俺の案に乗って平穏を取り戻すか、桜井さんと一緒に地獄の学園生活を送るか、二つに一つだ。決めろ」
「そ、そんなのすぐに決めるなんて無理だ。明日まで待ってくれ」
逃がさない。強い絆なんだろう? 迷う必要なんてない。
ミセテミロ。
「十、九、八……」
「ま、待ってよ!」
「七、六、五……」
押水は俺にすがりついてくるが、カウントを止めない。この騒動はお前が起こしたんだ。せめて、自分の決断で幕を閉じろ。それが、お前のとるべき責任だ。
「四、三、二、一……」
「わ、分かった! 分かったから!」
オマエノコタエヲミセテクレ。ホントウノキズナヲオレニミセテクレ。
「どっちだ?」
「それは、その……」
「この話はなかったことにする。じゃあな」
押水を振り払い、屋上の出口へ歩き出す。出口のドアを開けようとしたとき。
「待って! お願い! みなみとさとみと縁を切るから! お願い、助けて!」
押水の答えが耳に届いた。俺はゆっくりと振り向く。
この時の桜井、大島、佐藤、押水姉の顔を俺は一生忘れないだろう。押水はなりふりかまわず助けを求めてきた。
……ソウカ、コレガオマエノコタエナンダナ。
「それでいいんだな?」
押水に確認をとる。
「ああ! お願い! 助けて」
ココマデカ……。
「分かった。明日、全校集会で発表する」
眼を閉じ、一息ついた後、黙って屋上から出ていこうとした。
パシッ!
涙目の押水姉が俺の頬に平手打ちを叩きつける。
「これで満足なの? あなた、最低よ!」
俺は黙って押水姉に頭を下げた。この頬の痛みは一生忘れることはないだろう。いや、忘れてはいけない痛みだ。
「一郎ちゃん、さようなら……」
桜井は頬を伝わる涙をぬぐわずに、それでも笑顔で屋上を後にした。その笑顔はとても綺麗で儚くて、悲しかった。
「一郎……お前はぁあああああああああああああ!」
佐藤が大声で怒鳴り、押水を殴りつける。押水も佐藤を殴り返す。
「仕方ないだろ! もう、限界なんだよ! 友也に僕の気持ちなんて分からないよ!」
「分かるか! てめえの腐った考えなんか! みなみはなぁ、みなみはお前のことを、お前のことを本気で好きだったんだぞ!」
お互いの顔が腫れても、拳が傷ついても殴るのをやめなかった。
「やめて! やめてよ! あんたたち、友達なんでしょ! どうして! ねえ、遥先輩! 二人をとめて!」
大島はすがりつくように押水姉に懇願する。しかし、押水姉の返事は冷たいものだった。
「これは弟君のしでかしたことだわ。もう、私には関係ない」
「そんな……」
絶望しきった顔をしている大島に、押水姉はさらに追い打ちをかける。
「それに大島さんには関係ないじゃない。絶交されたんだから」
押水姉の投げやりな態度、言葉に大島は座り込んでしまった。大島の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
「ううっ……なんで、なんでこんなことになっちゃうの……好きだったけど……みなみに悪いと思ったから……一郎の傍にいられるだけでよかったのに……っあああああああああ!」
大島は赤子のように大声で泣いていた。押水姉はただ立ち尽くし、呆然としている。
屋上には怒声と罵声、泣き声が響いてる。これがハーレム男の結末だった。最後は誰も幸せにならず、全ての愛を手放し、消えていった。
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