風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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二章

二話 伊藤ほのかの挑戦 M5の逆襲編 その六

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 ジャンプボールは先輩と紫巻君で競い合う。
 先輩は百九十あるけど、紫巻君は二メートルあるよね、あれ! やっぱり、高い!

 ピィイイイイイイー!

 笛の音と同時に、審判がボールを真上に投げる。先輩と紫巻君がタイミングよくジャンプする。
 ボールは紫巻君がタップして、緑巻君に渡る。
 ディフェンスにつこうとコートに戻る先輩、橘先輩、須藤先輩。私と、長尾先輩は足が止まっていた。
 緑巻君ってことは、まさか!

「甘いんだよ」

 シュート!
 センターライン後ろからのシュートは高く、高く上がっていき……あれ? 上がりすぎじゃない?
 ボールは体育館の天井に当たり、そのままボールが落ちてくる。落下地点にリングがあって……。
 うそ!
 ボールはネットに触れることなく、リングに突き刺さった。

「「「なっ!」」」

 これには先輩達だけでなく、私も驚きを隠せない。
 あれってありなの!
 緑巻君がメガネを外し、拳を空高く突き上げる。

天翔流星之閃光あまかけるりゅうせいのせんこう!」

 厨二だ! でも、カッコいいから許しちゃう! そういえば、右手に包帯……いや、テーピング巻いてた! 徹底してる!
 上を見上げると体育館の天上にはバスケットボールがいくつか挟まっていた。
 あれって、緑巻君の仕業だよね? バレーボールよりも多いのが気になる。

 その後も圧倒的あっとうてきな力で私達は攻め込まれていく。
 オフェンスも全く歯が立たない。
 黄巻君と青巻君は全くディフェンスをしない。二人は簡単に抜けるけど、その後の紫巻君によって全てのシュートがブロックされてしまう。

「ねえ、潰すよ?」

 二メートルもある身長からの見下されるのは、マジ怖い。圧倒的な存在感に足の震えが止まらない。
 全く点を取れる気がしない。

 オフェンスについては……。

「おらよ!」

 青巻君の独壇場だった。まず、動きが違う。まるで疾風の如くコートを駆け抜けていき、やりたい放題、点を取る。
 3ポイント内では青牧君が。
 外では……。

 バシュ!

「絶対に外さない」

 緑巻君のスリーポイントシュートが天空からリングを突き抜ける。
 理想のシュート進入角度は45度らしいけど、それを度外視したほぼ真上から落ちる究極のシュートを私達は止める術がない。
 しかも、緑巻君の百九十後半の身長から繰り出す高い打点のシュートは先輩でも届くか分からない、絶対に阻止できないシュート。

 点を入れられて、全てブロックされる。これの繰り返しが続いていた。選手の強さだけじゃない。周りの環境も私達に牙をむけてくる。
 私達の攻撃の時は、

「「「ディフェンス! ディフェンス! ディディディディディフェンス!」」」
「「「ナイスカットナイスカット!」」」

 ペットボトルを手すりに叩きつけ、バスケ部員は赤巻君達を応援している。
 私達が守っていると、

「「「オフェンス一本! オフェンス一本!」」」
「「「オーフェンス! オーフェンス!」」」
「「「ナイシュ! 青巻! もう一本!」」」

 ううっ、アウェイ感がハンパないよ~。じわじわとやる気を奪われていく。

 パシッ。

 また青巻君だ。
 バスケ部のオフェンスは、ずっと青巻君から攻め込んできている。
 ううっ、青巻君は怖いし、男の子だし、密着してディフェンスができない。距離を取るからあっという間に抜かされる。
 楽々点を取ってコートに戻る青巻君が私を見て、にやっと笑う。

 悔しい! 何もできないことが更に重くのしかかってくる。
 ワンゴールできれば勝ちのルールがなければ、とっくに心が折れてる。
 でも、ここまで実力の差をはっきりとみせつけられると、泣きそうになるよ。
 テニスのときはまだ少しは善戦していたけど、バスケは完全にワンサイドゲーム。

「ほら、どうした? こないのか?」

 ムカッ! バカにして!
 青巻君を抜いて、私がシュートしようとしたとき、青巻君がぶつかってきた。ぶつかってきた反動で、押し倒される。
 ッ! 痛い!

 ピィーーーーー!

「チャージング! 白6番!」
「わりいわりい」

 わざとのくせに! 私は涙目で青巻君を睨む。それを見て、先輩が青巻君に近づく。

「青巻」
「赤巻、なんだよ」
「今後、二度と同じようなことはするな。いいな」
「チッ! 分かったよ」
「……」

 先輩は赤巻君達のやり取りを見て、私の方へ向きを変えた。

「大丈夫か、伊藤?」
「はい、すみません」

 私は先輩の手を握って、立ち上がる。
 みんなが心配して集まってくる。

「大丈夫、伊藤氏?」
「大丈夫です、長尾先輩」

 心配してくれてありがとうございます、長尾先輩。

「まだやれそう?」
「はい、須藤先輩」

 まだやれます、須藤先輩。

「ラッキーだね。フリースロー決めたら逆転だ」
「私の心配をしてくださいよ、橘先輩」

 ゲスいですね、橘先輩。
 でも、フリースローが一本でも入ったら勝ち。試合終了。
 絶対に入れてみせるからね!



 審判からボールを渡される。

 一本目。
 スカッ!
 ゴールリングにすらふれずに落ちる。

 二本目。
 ヒュー。
 ゴールを通り越してしまった。

「プッ!」
「よ、よせ。笑ったら失礼だ」

 くっ! 敵に情けをかけられるなんて!

「どんまい……」

 せ、先輩に気をつかわれた!
 ううっ、泣きたい!
 また、青巻君にボールが渡る。
 どうやったら青巻君を止められるの?

「お前じゃあ、俺は止められねえ」

 また抜かされる!

「あきらめるな、伊藤!」

 せ、先輩! それに、長尾先輩に須藤先輩、橘先輩まで!
 五人で青巻君を止めるの?

「ほぉう?」

 青巻君が笑ってる。ディフェンスが五人いるのに、青巻君はパスするつもりはないみたい。これなら止めることができるかも……。
 青巻君が私達を抜きにかかるけど、流石に密集みっしゅうしすぎて動きに制限がかかり、抜けない。
 このままの状態が続けば、確か24秒ルールで私達のボールになるはず。

「!」

 先輩と長尾先輩のわずかな間を青巻君がドリブルして、私の方に来た! 急なことで体が硬直してしまう。その隙をついて、青巻君は私の横を通りぬけ、シュートされた。
 また、私が足を引っ張ってる。



 試合は一方的な展開から、見世物に変わりつつあった。

「おおっ! すげえ!」
「あれ、NSAのプロがやっていた技だろ? 青巻、見せつけてくれるぜ!」

 青牧君のシュートは完全にパフォーマンスに変わっていた。
 背中の後ろからシュートをしたり、フリースローラインから片手でシュートしていた。しかも、全部入っているのだから、凄い。
 極めつけは……。

「おおおっ! 青巻と黄巻のツインダンクだ!」

 すごい……。
 ボールをリング前に上げて、そこから青巻君の右手と黄巻君の左手でボールをリングに叩きつけた。
 あれって息が合ってないと無理なヤツ。本当に凄い。
 アリウープなんかも簡単にこなしちゃうし、これがインターハイ優勝の実力なの? 次元が違う。
 もう、ため息しか出てこなかった。

「諦めるな、伊藤!」

 先輩?
 先輩と橘先輩がゴールへと攻めていく。
 そこに待ち受けるのは紫巻君。
 いくら二人でも、紫巻君の鉄壁なガードは崩せないんじゃあ……。

「ええええっ~~!」

 先輩が片手でバスケットボールを掴み、そのまま飛び上がる。片手でバスケットボールって持てるの? ボールの空気抜いたの? ゴリラなの?
 ボールを持って飛び上がったって事は……ダンク!

 先輩はボールをリングに叩きつけようとするけど、もちろん、紫巻君がそれを許すはずもない。

「無理だから!」

 先輩の紫巻君がボールを挟んで押し合いを始める。
 体格は紫巻君の方が一回り上だけど……勝てるの?
 結果は……。

「くっ!」

 ああっ! 先輩が負けた!
 ボールは横にはじかれ、シュート失敗。やっぱり、先輩でも紫巻君のブロックを崩せなかった!

「……」
「紫巻?」
「……なんでもないから、黄巻」

 力でも勝てない。五人で挑んでも青巻君一人止められない。
 どうしたらいいの?

 ガン!

 ううっ、御堂先輩がキレて、手すりを殴ってる!

 ピピー!

 何もできないまま、前半が終了してしまった。
 ううっ、私、いいとこなし……。



 ×××


「チッ! やぱり、私が出ればよかった。一分で血祭りにあげてやるのに」
「血祭りにあげてどないしはるの。野蛮やぼなお人やね、あいも変わらず」
「ああっ!」

 胸倉をつかもうとした御堂の手を、朝乃宮は逆に御堂の手首を掴む。

「いややわ。御堂はんに掴まれたら、えりが伸びてしまうわ」

 冷たい目つきで御堂を睨む朝乃宮。お互い視線がぶつかり、火花が出そうな勢いだ。

「お姉さま、落ち着いてくださいませ」
「もう、千春。ふざけてる場合じゃないよ!」

 御堂は黒井が、朝乃宮は上春がなだめている。

「黒井、どけ。これは私と朝乃宮の問題だ」
「いいえ、どきません。風紀委員が公衆の面前で風紀を乱すなんて、前代未聞ぜんだいみもんですの。自重じちょうしてくださいませ」
「千春、挑発しないでください!」
「咲……ウチ、悲しいわ~、子供の頃のようにちーちゃんって呼んでほしいわ」
「も、もう! ふざけないでください!」

 御堂の怒りをうまくいなす黒井。
 後ろから掴まれ、上春の頬をつっついて遊んでいる朝乃宮。どこまでも対極たいきょくの二人だった。

「で、でも、このままだと負けちゃいますよ、橘先輩達」

 朝乃宮を振りほどき、上春は不安げに藤堂達を見つめている。

「それはそれで見物やね。橘はんが膝をついて謝るの、見てみたいわ」
「千春!」
「ちーちゃん!」

 御堂の声の方が威圧感いあつかんがあるのに、上春の言葉に朝乃宮は反応する。
 上春は感情が高ぶっていると、朝乃宮のことをちーちゃんと呼ぶ。上春は本気で怒っているのだ。
 朝乃宮は上春に弱かった。

「冗談です。そんな怒らんといてな。ウチ、悲しいわ。それに、あそこまでされて、黙っていられるお人やないでしょ? 何か勝機を見つけると思います」
「……ならさっさとなんとかしろ、藤堂、橘、長尾」

 風紀委員女子達をるりかと明日香は遠巻とおまきに見ていた。

「ほのほのは期待されてないね」
「やればできる子だし。ほのか、頑張るし」

 二人は悔しそうにほのかを見守っていた。


 ×××
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