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番外編 零章
零話 藤堂正道の憂鬱 その三
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「正道、落ち着いて。うろうろされても困るよ」
「……仕方ないだろ。やはり、俺がいくべきだった」
自分の決断のあまさに嫌気がさす。こんなに悩むのであれば、自分でいくべきだった。
昼休み、俺は風紀委員室をうろうろと歩き回っていた。そうしなければ落ち着かないからだ。伊藤から何の連絡もなく、ただ時間が過ぎていく。
「何度も説明したでしょ? 伊藤さんが適任だよ」
「それにしては遅い。何かトラブルがあったかもしれん。いってくる」
「だから、まだ五分しかたってないから。五分でここに戻ってくるなんて、走らなきゃ無理でしょ。風紀委員が廊下を走って、ここまで往復しちゃダメでじゃない」
それはわかっている。だが、落ち着かないのだ。
伊藤は今、寺前と新野をこの部屋に呼び出す為、交渉しにいっている。本来なら俺がいくべきなのだが、伊藤と左近に反対されてしまった。俺がいくと、無駄な圧迫感を相手に与えてしまうからだというのが理由だ。納得いかない。
確かにハーレム騒動で謹慎していた俺が、いきなり下級生のクラスに現れるのは、相手に怖がらせてしまうのは分かる。だが、人任せにするのはどうも落ち着かない。状況が把握できないからだ。
伊藤はあれで真面目だと思うが、まだ風紀委員になったばかりだ。相手にナメられるかもしれないし、面白いものを見つけて道草をしている可能性がある。知らない人についていってしまっているかもしれない。
やはり、俺がいくべきだった。
「正道、後輩に仕事を任せるのも、そっと見守るのも先輩の務めだよ」
「なら、俺が同伴するのが筋だろ?」
「過保護すぎるから。はじめてのおつかいでもさせているつもりなの? 高校生なんだから少しは信頼してあげようよ」
信頼か……。
俺は伊藤の事を信頼しているのだろうか? 答えはNOだろう。
伊藤の人となりは知っているが、それでも、伊藤はまだ新人だ。風紀委員としての注意事項ややり方を俺が教えたわけではない。
何も教えず、いきなり仕事を任せるのは無責任すぎやしないか? 任せるとしても、最初だけでも先輩がついて指導するべきではないのか?
何も疑問を持たず、ただ信じるのは信頼とはいえない。やはり、俺も伊藤についていって、伊藤のやり方を直に見ておくべきだった。
問題ないなら、仕事をしたことを褒める。間違っていたら指導する。それくらいしても、バチは当たらないだろうが。
「正道が何を考えているのかは分かるよ。でもね、熊のように部屋をうろうろされるとホコリがまうからやめてよね」
「左近は心配じゃないのか?」
「心配してないよ。伊藤さんとは二度、一緒に仕事をしたから。信頼しているよ」
二度? 左近と伊藤がコンビを組んだのは、押水にハーレム発言をさせたときに組んでいることは知っている。だが、もう一回はなんだ?
そのことを尋ねようとしたとき、部屋をノックする音が響いた。
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは、伊藤と寺前、新野だった。どうやら俺の取り越し苦労だったみたいだな。
「橘先輩、寺前さんと新野さんをつれてきました」
「お疲れさん。どうも、初めまして。風紀委員長の橘です。少しお話を聞きたいのですが、立ち話もなんですし、そこの椅子に座ってください」
左近は相手の同意を求めるふりをして、椅子に座らせようとする。こっちのペースに持っていくつもりだ。
寺前は緊張しているのか、不安そうに新野の袖を掴み、周りをきょろきょろしている。新野はその逆でポケットに両手を入れたまま、堂々と椅子に座る。肝が据わっているな。
「先輩、ちゃんと任務、こなしてきましたよ」
「よくやったな、伊藤」
俺は伊藤の頭に手をおいて撫でた。相手の呼び出しは一見簡単に見えるが、実際にやってみると難しい。大抵の生徒は風紀委員にはあまりいいイメージがないので、同行を拒否されることが多いからだ。
相手や状況によっては強引につれてくることもあるが、基本的には拒否されたら引き下がるしかない。任意同行が前提だからだ。
伊藤はちゃんとつれてきてくれた。冷静に考えれば、風紀委員に入って間もないのに、その難しいことをやり遂げたことは称賛に値する。相手が大人しくついてきてくれただけかもしれないが、それでも達成したんだ。俺も負けていられないな。
そう思っていたら、視線を感じた。左近と寺前と新野だ。
左近は苦笑していて、寺前は目を輝かせている。新野はにやにやと笑っている。なぜだ?
「……せ、先輩。みんな、見てますから」
しまった!
俺は慌てて手をどける。気安いよな、女子の頭を撫でるなんて。
「す、すまない、伊藤。悪かった」
「……い、いえ……その……嬉しかったです」
消え入りそうな声と、真っ赤になってうつむいている伊藤を見て、こっちまで気恥ずかしくなる。なんで、ここでしおらしい態度をとるんだ? いつもの伊藤とは違うだろうが。
そんな理不尽な怒りがわいてくるが、この部屋には風紀委員以外の者がいる為、怒れない。俺は咳をして誤魔化す。
「さて、お二人がここに来ていただいた理由ですが、単刀直入にお尋ねします。お二人は同棲していますね?」
左近は二人の目の前に、今日俺が撮ってきた写真を置く。寺村は真っ青になり、新野は相変わらずのポーカーフェイスだ。
「あ……あの……それは……」
「心菜と俺は同棲しているぜ。それが何か問題あるの?」
「レン!」
寺村は真っ赤になって怒っているが、新野は知らんぷりだ。ふてぶてしいというか豪胆というか……その男らしい態度は嫌いではないが、寺村を怒らせてるような態度ばかりとっていて問題ないのだろうか? 仲がいいと見せかけて、実はそこまで仲が良くないのか?
「別に減るもんでもないし、いいだろ?」
「よくないよ! 私、まだ納得してないんだからね!」
「別にいいじゃん、親の許可はとってあるんだし。ココナッツはあきらめが悪いな」
「ココナッツじゃなくて心菜だから! もう! お父さんもお父さんだよ! 勝手に決めつけちゃって! それに私、レンが私の許嫁なんて認めてないからね!」
「俺もイヤだよ。こんなぺちゃぱいと」
「なんですって!」
「なんだよ!」
前言撤回。仲はよさそうだ。テンポのいい会話がその証拠だ。息が合ってないと絶対にできないだろ、あの会話。
二人の話の中で気になることがあった。許嫁……まさか、結婚を前提に付き合っているとかではないだろうな? そうだとしたら、俺達風紀委員の手に余る事態だ。
「二人とも、落ち着いて。訳を話してくれませんか?」
「どうして、赤の他人に話さなきゃならないの?」
「れ、レン! 失礼だよ!」
「いきなり人を呼び出して、プライベートなことを聞く方が失礼だろ?」
「そうだけど……」
新野の言う通りだ。俺達は教師ではない。あくまで任意での聴取だ。断られたら、それで終わりだ。
まあ、俺達もそう言われて、はいそうですかっと言うわけではないのだが。
それにしても、なぜ、寺前は俺をチラチラ見てくるんだ? 目が合った瞬間、さっとそらされてたのだが。
「お~い、心菜さ~ん? 先輩がこっち見てるぜ? 目をそらすなんて失礼だろ」
「だ、ダメよ、レン! あの人、『不良殺し』の異名ですごく有名だってさわが言ってたし! 目を合わせたら、何をされるか分からないんだって!」
「ぷっ!」
おい! 誰が不良殺しだ。そんな二つ名はねえ!
不良ばかり相手にしてきたから、『不良狩り』などといつの間にか呼ばれてはいるが、俺が認めたわけじゃない。
ちなみに、吹き出したのは新野ではなく、左近だ。身内が俺を笑うなと、俺は思いっきり左近を睨みつける。
「いや、お前なら大丈夫だろ? 熊でも逃げていくよ」
「どういう意味!」
「あ、あの……」
「ひぃ!」
寺前は小さい悲鳴を上げ、涙目で俺を見つめてくる。ちょっと、声をかけようとしただけなのに……。
新野は寺前を庇うように俺達の間に割り込んできた。
はあ……疲れる。だが、誤解はといておきたい。
「違いますから……」
「えっ?」
「私は不良殺しなどと呼ばれていません。素行の悪い者を注意することは多々ありますが、そういった物騒なことは一度もしていませんから」
一般生徒にはな。
誤解が解けるとは思っていないが、少しでも緊張を和らげたかった。でないと、おびえて話が出来ないと思ったからだ。
左近が苦笑しつつ、新野達に説明する。
「まずは誤解させたこと、威圧的なイメージをあたえたことをお詫びさせてください。風紀委員としては、トラブルの元を把握しておきたいのです」
「トラブルの元? 俺達が?」
「気を悪くしたのであれば謝ります。ですが、学生は娯楽に飢えています。毎日、同じような事が繰り返されるなかで、スキャンダルは格好の暇つぶしの材料となるのです。そして、こういったゴシップは尾びれがついて、本人達が思っているよりもややこしい事態になる可能性があります。我々はそういったことにならないよう、事前に調査し、正当な理由で同棲しているのであれば、風紀委員としましては何も言いませんし、もし、トラブルに巻き込まれた場合、フォローさせていただきます」
左近はなるべく二人を刺激しないようゆっくりと語る。
「なんで、縁もゆかりもない俺達にそこまでしてくれるの?」
新野は左近の目を真っ直ぐ見つめている。真意を測ろうとしているのだろう。
左近はその視線を真っ向から受け止め、笑顔で答えた。
「風紀委員だからです。風紀委員は校内の風紀を守るため、存在するのですから」
まさに模範解答だな。
委員会だからと言っておけば一応、筋は通るからな。
何の見返りもなく、いきなりアナタを助けますだなんて、雲散臭いにも程がある。
「ね、ねえ、レン。話してみない? やっぱり、黙っているのはよくないよ……」
「俺はやめておくべきだと思うぞ。あの男、信用できない」
「もう、レン!」
信用できないか……なかなか鋭い洞察力を持っているじゃないか、新野は。俺だって、疑うしな。
それにしても、本人を目の前に信用できないと言い切る胆力、たいしたものだ。
左近は想定内のことなので、怒る気もないのだろう。次の手を用意しているはずだ。
だが、押水のようなことはもう勘弁して欲しいのが俺の本音だ。だから……。
「新野さん、寺前さん、お願いします。ご協力いただけませんか? いきなり、信用しろというのはもっともです。ですが、決して興味本位などでお二人の事情を知りたいわけではありません。もし、トラブルになりそうであれば、私が責任を持って対処します。ですので、どうか、ご協力をお願いします」
俺は二人に頭を下げた。腰を九十度曲げて、お願いする。
俺の頭上で息をのむ音が聞こえる。いきなり二年の先輩が頭を下げたのだ。戸惑うのは当然だ。
これが俺の偽りなき本音だ。恋愛なんて勝手にしろと言いたいところだが、押水のような後味の悪い結果はこりごりだ。
お前が言うなって言われるかもしれないが、だからこそ、今回は早期解決、円満終了といきたいと願っている。
新野は俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「ふうん……」
「ね、ねえ、レン。私が言うのもなんだけど、この人なら信用できそうだし、話そうよ……」
「……ココナッツは人を信用しすぎ。でも、先輩に頭を下げられて、それを無下にするのは後味悪いしいいんじゃねえ?」
ふぅ……なんとか協力いただけたな。
相手は後輩でも、こちらからお願いをしているんだ。頭を下げて当然だと思っている。
同棲について、寺村が事情を話してくれた。
「……仕方ないだろ。やはり、俺がいくべきだった」
自分の決断のあまさに嫌気がさす。こんなに悩むのであれば、自分でいくべきだった。
昼休み、俺は風紀委員室をうろうろと歩き回っていた。そうしなければ落ち着かないからだ。伊藤から何の連絡もなく、ただ時間が過ぎていく。
「何度も説明したでしょ? 伊藤さんが適任だよ」
「それにしては遅い。何かトラブルがあったかもしれん。いってくる」
「だから、まだ五分しかたってないから。五分でここに戻ってくるなんて、走らなきゃ無理でしょ。風紀委員が廊下を走って、ここまで往復しちゃダメでじゃない」
それはわかっている。だが、落ち着かないのだ。
伊藤は今、寺前と新野をこの部屋に呼び出す為、交渉しにいっている。本来なら俺がいくべきなのだが、伊藤と左近に反対されてしまった。俺がいくと、無駄な圧迫感を相手に与えてしまうからだというのが理由だ。納得いかない。
確かにハーレム騒動で謹慎していた俺が、いきなり下級生のクラスに現れるのは、相手に怖がらせてしまうのは分かる。だが、人任せにするのはどうも落ち着かない。状況が把握できないからだ。
伊藤はあれで真面目だと思うが、まだ風紀委員になったばかりだ。相手にナメられるかもしれないし、面白いものを見つけて道草をしている可能性がある。知らない人についていってしまっているかもしれない。
やはり、俺がいくべきだった。
「正道、後輩に仕事を任せるのも、そっと見守るのも先輩の務めだよ」
「なら、俺が同伴するのが筋だろ?」
「過保護すぎるから。はじめてのおつかいでもさせているつもりなの? 高校生なんだから少しは信頼してあげようよ」
信頼か……。
俺は伊藤の事を信頼しているのだろうか? 答えはNOだろう。
伊藤の人となりは知っているが、それでも、伊藤はまだ新人だ。風紀委員としての注意事項ややり方を俺が教えたわけではない。
何も教えず、いきなり仕事を任せるのは無責任すぎやしないか? 任せるとしても、最初だけでも先輩がついて指導するべきではないのか?
何も疑問を持たず、ただ信じるのは信頼とはいえない。やはり、俺も伊藤についていって、伊藤のやり方を直に見ておくべきだった。
問題ないなら、仕事をしたことを褒める。間違っていたら指導する。それくらいしても、バチは当たらないだろうが。
「正道が何を考えているのかは分かるよ。でもね、熊のように部屋をうろうろされるとホコリがまうからやめてよね」
「左近は心配じゃないのか?」
「心配してないよ。伊藤さんとは二度、一緒に仕事をしたから。信頼しているよ」
二度? 左近と伊藤がコンビを組んだのは、押水にハーレム発言をさせたときに組んでいることは知っている。だが、もう一回はなんだ?
そのことを尋ねようとしたとき、部屋をノックする音が響いた。
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは、伊藤と寺前、新野だった。どうやら俺の取り越し苦労だったみたいだな。
「橘先輩、寺前さんと新野さんをつれてきました」
「お疲れさん。どうも、初めまして。風紀委員長の橘です。少しお話を聞きたいのですが、立ち話もなんですし、そこの椅子に座ってください」
左近は相手の同意を求めるふりをして、椅子に座らせようとする。こっちのペースに持っていくつもりだ。
寺前は緊張しているのか、不安そうに新野の袖を掴み、周りをきょろきょろしている。新野はその逆でポケットに両手を入れたまま、堂々と椅子に座る。肝が据わっているな。
「先輩、ちゃんと任務、こなしてきましたよ」
「よくやったな、伊藤」
俺は伊藤の頭に手をおいて撫でた。相手の呼び出しは一見簡単に見えるが、実際にやってみると難しい。大抵の生徒は風紀委員にはあまりいいイメージがないので、同行を拒否されることが多いからだ。
相手や状況によっては強引につれてくることもあるが、基本的には拒否されたら引き下がるしかない。任意同行が前提だからだ。
伊藤はちゃんとつれてきてくれた。冷静に考えれば、風紀委員に入って間もないのに、その難しいことをやり遂げたことは称賛に値する。相手が大人しくついてきてくれただけかもしれないが、それでも達成したんだ。俺も負けていられないな。
そう思っていたら、視線を感じた。左近と寺前と新野だ。
左近は苦笑していて、寺前は目を輝かせている。新野はにやにやと笑っている。なぜだ?
「……せ、先輩。みんな、見てますから」
しまった!
俺は慌てて手をどける。気安いよな、女子の頭を撫でるなんて。
「す、すまない、伊藤。悪かった」
「……い、いえ……その……嬉しかったです」
消え入りそうな声と、真っ赤になってうつむいている伊藤を見て、こっちまで気恥ずかしくなる。なんで、ここでしおらしい態度をとるんだ? いつもの伊藤とは違うだろうが。
そんな理不尽な怒りがわいてくるが、この部屋には風紀委員以外の者がいる為、怒れない。俺は咳をして誤魔化す。
「さて、お二人がここに来ていただいた理由ですが、単刀直入にお尋ねします。お二人は同棲していますね?」
左近は二人の目の前に、今日俺が撮ってきた写真を置く。寺村は真っ青になり、新野は相変わらずのポーカーフェイスだ。
「あ……あの……それは……」
「心菜と俺は同棲しているぜ。それが何か問題あるの?」
「レン!」
寺村は真っ赤になって怒っているが、新野は知らんぷりだ。ふてぶてしいというか豪胆というか……その男らしい態度は嫌いではないが、寺村を怒らせてるような態度ばかりとっていて問題ないのだろうか? 仲がいいと見せかけて、実はそこまで仲が良くないのか?
「別に減るもんでもないし、いいだろ?」
「よくないよ! 私、まだ納得してないんだからね!」
「別にいいじゃん、親の許可はとってあるんだし。ココナッツはあきらめが悪いな」
「ココナッツじゃなくて心菜だから! もう! お父さんもお父さんだよ! 勝手に決めつけちゃって! それに私、レンが私の許嫁なんて認めてないからね!」
「俺もイヤだよ。こんなぺちゃぱいと」
「なんですって!」
「なんだよ!」
前言撤回。仲はよさそうだ。テンポのいい会話がその証拠だ。息が合ってないと絶対にできないだろ、あの会話。
二人の話の中で気になることがあった。許嫁……まさか、結婚を前提に付き合っているとかではないだろうな? そうだとしたら、俺達風紀委員の手に余る事態だ。
「二人とも、落ち着いて。訳を話してくれませんか?」
「どうして、赤の他人に話さなきゃならないの?」
「れ、レン! 失礼だよ!」
「いきなり人を呼び出して、プライベートなことを聞く方が失礼だろ?」
「そうだけど……」
新野の言う通りだ。俺達は教師ではない。あくまで任意での聴取だ。断られたら、それで終わりだ。
まあ、俺達もそう言われて、はいそうですかっと言うわけではないのだが。
それにしても、なぜ、寺前は俺をチラチラ見てくるんだ? 目が合った瞬間、さっとそらされてたのだが。
「お~い、心菜さ~ん? 先輩がこっち見てるぜ? 目をそらすなんて失礼だろ」
「だ、ダメよ、レン! あの人、『不良殺し』の異名ですごく有名だってさわが言ってたし! 目を合わせたら、何をされるか分からないんだって!」
「ぷっ!」
おい! 誰が不良殺しだ。そんな二つ名はねえ!
不良ばかり相手にしてきたから、『不良狩り』などといつの間にか呼ばれてはいるが、俺が認めたわけじゃない。
ちなみに、吹き出したのは新野ではなく、左近だ。身内が俺を笑うなと、俺は思いっきり左近を睨みつける。
「いや、お前なら大丈夫だろ? 熊でも逃げていくよ」
「どういう意味!」
「あ、あの……」
「ひぃ!」
寺前は小さい悲鳴を上げ、涙目で俺を見つめてくる。ちょっと、声をかけようとしただけなのに……。
新野は寺前を庇うように俺達の間に割り込んできた。
はあ……疲れる。だが、誤解はといておきたい。
「違いますから……」
「えっ?」
「私は不良殺しなどと呼ばれていません。素行の悪い者を注意することは多々ありますが、そういった物騒なことは一度もしていませんから」
一般生徒にはな。
誤解が解けるとは思っていないが、少しでも緊張を和らげたかった。でないと、おびえて話が出来ないと思ったからだ。
左近が苦笑しつつ、新野達に説明する。
「まずは誤解させたこと、威圧的なイメージをあたえたことをお詫びさせてください。風紀委員としては、トラブルの元を把握しておきたいのです」
「トラブルの元? 俺達が?」
「気を悪くしたのであれば謝ります。ですが、学生は娯楽に飢えています。毎日、同じような事が繰り返されるなかで、スキャンダルは格好の暇つぶしの材料となるのです。そして、こういったゴシップは尾びれがついて、本人達が思っているよりもややこしい事態になる可能性があります。我々はそういったことにならないよう、事前に調査し、正当な理由で同棲しているのであれば、風紀委員としましては何も言いませんし、もし、トラブルに巻き込まれた場合、フォローさせていただきます」
左近はなるべく二人を刺激しないようゆっくりと語る。
「なんで、縁もゆかりもない俺達にそこまでしてくれるの?」
新野は左近の目を真っ直ぐ見つめている。真意を測ろうとしているのだろう。
左近はその視線を真っ向から受け止め、笑顔で答えた。
「風紀委員だからです。風紀委員は校内の風紀を守るため、存在するのですから」
まさに模範解答だな。
委員会だからと言っておけば一応、筋は通るからな。
何の見返りもなく、いきなりアナタを助けますだなんて、雲散臭いにも程がある。
「ね、ねえ、レン。話してみない? やっぱり、黙っているのはよくないよ……」
「俺はやめておくべきだと思うぞ。あの男、信用できない」
「もう、レン!」
信用できないか……なかなか鋭い洞察力を持っているじゃないか、新野は。俺だって、疑うしな。
それにしても、本人を目の前に信用できないと言い切る胆力、たいしたものだ。
左近は想定内のことなので、怒る気もないのだろう。次の手を用意しているはずだ。
だが、押水のようなことはもう勘弁して欲しいのが俺の本音だ。だから……。
「新野さん、寺前さん、お願いします。ご協力いただけませんか? いきなり、信用しろというのはもっともです。ですが、決して興味本位などでお二人の事情を知りたいわけではありません。もし、トラブルになりそうであれば、私が責任を持って対処します。ですので、どうか、ご協力をお願いします」
俺は二人に頭を下げた。腰を九十度曲げて、お願いする。
俺の頭上で息をのむ音が聞こえる。いきなり二年の先輩が頭を下げたのだ。戸惑うのは当然だ。
これが俺の偽りなき本音だ。恋愛なんて勝手にしろと言いたいところだが、押水のような後味の悪い結果はこりごりだ。
お前が言うなって言われるかもしれないが、だからこそ、今回は早期解決、円満終了といきたいと願っている。
新野は俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「ふうん……」
「ね、ねえ、レン。私が言うのもなんだけど、この人なら信用できそうだし、話そうよ……」
「……ココナッツは人を信用しすぎ。でも、先輩に頭を下げられて、それを無下にするのは後味悪いしいいんじゃねえ?」
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