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第三部 手の届かない愛の為に
プロローグ ミヤコワスレ -しばしの別れ-
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先輩達と獅子王先輩の試合から三日が過ぎた。
獅子王先輩の告白で場が混乱し、試合は中断。
助っ人のマイク・タラソン君は試合をする事もなく、母国へ帰ってしまった。一番の被害者は彼なのかもしれない。
でも、いじめはなかったからよかったよね。
何事もラブアンドピース。これ基本。
以上! めでたし、めでたし。
「全然よくないから。全く……予想外にも程がある」
あははっ、橘先輩が愚痴をこぼしていらっしゃる。でも、いいじゃないですか。これ以上、誰も傷つかないんだから。
「お茶、どうぞ」
「ありがとう、上春さん」
橘先輩は上春さんこと、サッキーからお茶を受け取り、苦々しい顔で一気に飲み込んじゃった。苦労してそう~。
私は将来、橘先輩の髪が禿げるのではと密かに心配しながら、クッキーを口に放り込む。
橘先輩が不機嫌なの、分かるよ~。計画通りいかなかったからだよね。
橘先輩の計画では、獅子王先輩との勝負で長尾先輩に勝ってもらって、風紀委員のイメージ回復を狙っていた。
先輩が獅子王先輩に負けてしまったことで、風紀委員のイメージがダウンしたから。
風紀委員は強くなくてはならない。弱いと思われたら、不良がつけあがるから困るんだって。
だから、風紀委員は誰にも負けないとみんなに思わせる必要があるらしい。それが抑止力になるから。
少し傲慢だって思うけど、喧嘩がなくなるのであれば、私はいいと思っている。
それと獅子王先輩の問題行動を自粛させることも考えていた。
獅子王先輩は気に入らないことがあれば、誰でも殴ってしまう。それは女の子も例外ではない。
そんな危ない人を取り締まるために、橘先輩は獅子王先輩に勝負を挑んだんだけど、獅子王先輩の突然の告白は橘先輩でも予測できなかったみたい。
でも、これは仕方ないと思う。誰も予測できないよ。
この前の試合で一気に問題が解決する予定だったのに、それがつぶされてしまい、今は新たな問題も増え、それを含めて解決の目途が立っていない。
橘先輩としては頭が痛いことだろう。
「さて、どうしよっかな……」
「どうするかって、もうそっとしておいていいんじゃないですか? 馬に蹴られますよ、橘先輩」
橘先輩が私をじっと見つめてきた。
えっ、何? 私の顔に何かついてるの?
「……ねえ、伊藤さん。今の状況、おかしいと思わないの?」
「? どこかおかしいですか?」
おかしいとこ、あったっけ?
首をかしげていると、橘先輩がため息をついて、問題点を指摘してきた。
「いや、おかしいでしょ? 男同士だよ?」
「? いいじゃないですか、純愛って感じで」
何か問題あるのかな? ないよね?
「伊藤さんって男の子同士の恋愛って好きだよね」
橘先輩の指摘に、私は堂々と頷く。
「好きですよ。私、BLはありだって思います。世界で最初のカップルはアダムとボブって信じてますし」
あれ、みんな唖然としているけど、どうかしたのかな?
おばあちゃんに教えてもらったとっておきの知識なのに。気のせいか、みんな、私から距離をとられている気がする。
この委員にいじめはないよね?
「み、みなさんは好きじゃないんですか? 恋愛って? ねえ、サッキー?」
「うえっ? 私ですか? 私は、その……」
サッキーは指をちょんちょんとあわせ、困った顔になっている。
「私は……その……同性愛はちょっと」
顔を真っ赤にしてうつむき、弱々しく否定している。
顔を真っ赤にさせて否定されても、説得力がないよ、サッキー。本当は好きなんでしょ? 女の子は恋バナ、大好きだもんね。
そんなウブなサッキーを、黒井さんが肩を軽く叩く。
「はぁ、上春はお子様ですわね。私ならOKですわ。ねえ、お姉さま?」
「……」
「お姉さま?」
「絶対に……イヤ」
み、御堂先輩がふるえている! リーゼントのお兄さん達に囲まれても平然としていた御堂先輩が歯をならして、ふるえている!
えっ? 何かふるえるような怖いこと、今の話であったっけ?
「私は……普通の……恋がしたい」
御堂先輩の魂の叫びに、思わず声を失ってしまう。
そういえば、黒井さんから聞いた話だけど、御堂先輩はモテるらしい……同性に。しかも、御堂先輩をめぐって血の惨劇があったとか、なかったとか。
苦労しているんですね、御堂先輩。
御堂先輩の悲壮な姿に、朝乃宮先輩はコロコロと笑いだした。
「ふふっ、喧嘩の鬼も恋には形無しどすな。告白してきた後輩の女の子泣かして右往左往して……あのときの御堂はん、かわいかったわ」
「な、なんでそのことを知ってるんだ、朝乃宮!」
御堂先輩が朝乃宮先輩に突っかかる。
本当、朝乃宮先輩って怖いもの知らずだよね。私なら、間違いなく泣く。そして、先輩にチクる。
「ウチがその後輩の女の子をなぐさめたんやもん。知ってて当然です」
「……ごめん」
「ええよ」
朝乃宮先輩って何気に面倒見がいいよね。
ちょっと冷たい感じがするのに、こっちが落ち込んでいるといつの間にか慰めてくれる。みんなのお姉さんって感じがする。
「朝乃宮先輩はどうなんですか? 男女からモテますよね?」
私の問いに、朝乃宮先輩は笑顔を崩さずに答えてくれた。
「ウチは好きになった人を愛します。男でも女でも。でも、ほんまは咲に愛されたいわ~」
「も、もう! 抱きつかないでください、ちーちゃん!」
じゃれあっている朝乃宮先輩とサッキーを見ていると、ほのぼのとしちゃう。
いいよね、愛し愛されるって。
「一応、訊きますけど、長尾先輩はどう思いますか?」
「僕はおんなの……」
「はい、ありがとうございました」
「言わせてくれよ!」
どうせ女の子限定でしょ。時間の無駄無駄。さて、本命の意見を確認しましょうか。
私は先輩に向き直る。
「でっ、先輩はどう思うんですか?」
「俺か? 俺は、やっぱり……」
「ありですね! ありがとうございます!」
先輩は慌てて、私の結論にもの申してきた。
「待て。なんで、賛成だと決めつける?」
「だって、先輩。愛こそ一番強い絆ですよ? 先輩が求めていたものですよね?」
「……ここでそれをだすか」
先輩の苦々しい顔に、ちょっとだけ胸が痛む。でも、私はやっぱり、先輩にも同意してもらいたい。私の味方であってほしい。
先輩を説得するために、私は真実を語った。
「でもでも、見た目にとらわれない、逆に目には見えないものに惹かれあうことこそ、強い絆だと思いませんか? それこそがBL! Q. E. D、OK?」
「……最後の一言がなければいい話なんだがな」
さあさあ、答えてください、先輩! BLこそ至高の愛なのだと。
び~える! び~える! それ、び~える!
「やっぱり愛ですよね~。異性でも同性でも」
「そんなわけないでしょ。同性愛なんて気持ち悪い」
橘先輩の一声で部屋の空気が凍りついた。
甘い空気も優しい想いも消えていく。
「人の恋愛は異性間でするものだから。同性同士なんておかしいでしょ? 子孫も残せないし、不毛だよ」
「べ、別に子孫を残すのが恋愛の目的じゃないでしょ! それに誰かに迷惑かけてないもん!」
私の反論に、橘先輩が呆れたように笑っている。その態度が馬鹿にされたみたいで、私は橘先輩を睨んだけど、全く臆していない。
橘先輩の指摘が炸裂する。
「生物学的に子孫を残すのが恋愛の目的でしょ? 同性愛なんて、周りに迷惑かけまくりでしょ? 見ていて不愉快だよね? それに、親はどうするの? 自分の子供が同性愛者になったら戸惑うだけでしょ? 子供はどうなの? 自分の親が同性愛者になって離婚したらどうするの? 納得できるの? 伊藤さんが好きな人に告白して、その好きな人が伊藤さんより、男が好きって言われたら諦めきれるの? 女として許せるの?」
「そ、それは……」
ちょ、ちょっと待ってよ。質問が多すぎ! 答えられないじゃん!
橘先輩の指摘はまだまだ続く。
「大体、年金はどうするの? 同性愛者は子供が作れないから、高齢者を支える若者が減るでしょ? 同性愛者は年金を支払ってくれている人達に負担をかけてるんだよ。これ、大迷惑だよね? 今、働いているみなさんが支払っている年金は、銀行か何かに貯金されていて、年金を受け取る時期がきたらその金額分支給されると思ってないよね? それだけじゃあ、年金が足りなくてやっていけないよね? 今の高齢者を支えられないよね? 何年か前に問題になったよね?」
ええっと、年金って確か、今働いている人が支払っている年金を、今の年金受給者が受け取っているんだよね? 高齢者が増えて子供が減っているから大変だって、テレビで見たことがある。
橘先輩はそのことを指摘しているんだよね。
「僕や伊藤さんも大人になれば年金を払うけど、大人になるまでは親に養ってもらってること理解できてる? 子供はただで成長して大人になるわけじゃない。成人して働くまで、親が面倒をみなければならないし、その為にはお金がいる。産まれてから成人するまで、一人あたり一千万以上はかかってるんだよ? それほどの大金と労力をかけて、年金を支払う人ができるってわけ。それなのに、同性愛者は子供を作ることも、育てる義務も放棄したあげく、自分達が老人になったら自分達よりも若い人達から年金を受け取るだなんて、ずるくない? 働いて、年金を納めて、年金を支えてくれる若者をしっかりと育てた親御さん達に対して失礼じゃない? 同性愛者は何の苦労もなしに人の育てた子供達から年金を採取し続けるんだから」
「……」
そ、そんなこと言われても……なんとも言えないよ。年金のことなんてまだまだ先のことだし。
私は何も言い返すことができなくなった。それでも、橘先輩の同性愛者への非難が止まらない。
「年金一つとってもこれだけ問題あるのに、他にも沢山、同性愛は問題があるんだよ? 宗教でいったらキリスト教は、同性愛行為は自然法に反する罪深いものとされている。イスラム教も同性愛を禁じていて、同性愛者は死刑を含む刑罰を与えているよね? 他にもあるけど、聞きたい?」
「……」
「風紀委員としては、風紀が乱れることは容認できないから。同性愛なんてもってのほかだよ」
何か言いたいのに、反論したいのに何を言えばいいのか分からない。
唇をぎゅっと噛むことしかできない。
「まあ一応、多数決とろっか。獅子王先輩の同性愛に賛成の人、手を上げて」
私は手をゆっくりと弱々しくあげる。
私が手を上げたのは意地だ。橘先輩の言葉を否定する言葉はないけど、納得いかない。その想いだけで手を上げている。
賛同者は……いない。
黒井さん、朝乃宮先輩! さっきまで同意してたじゃない! 手を挙げてよ!
やっぱり、橘先輩の意見に納得しているってこと?
「決まりだね。獅子王先輩の問題行動に関しては同性愛を含めて、対処する。以上」
「ちょっと、待ってください」
私は橘先輩の決断に待ったをかける。
もう、ただの意地だ。
「何? まだ、何かあるの? まだやる? いいよ、とことん付き合ってあげる。だけど、負けたら僕に従ってね。どうしても嫌なら風紀委員、辞めていいから」
……に……よ。
「……か」
「ん? 何?」
「……ば……か」
なに……よ……なんなのよ! なんなのなんなのなんなのよ!
「バカバカバカバカバカバカ! 偏屈! 最低! 藤堂! ありえない! 橘先輩なんて大嫌い!」
私は橘先輩にありったけの文句を叩きつけ、そのまま部屋を飛び出した。
獅子王先輩の告白で場が混乱し、試合は中断。
助っ人のマイク・タラソン君は試合をする事もなく、母国へ帰ってしまった。一番の被害者は彼なのかもしれない。
でも、いじめはなかったからよかったよね。
何事もラブアンドピース。これ基本。
以上! めでたし、めでたし。
「全然よくないから。全く……予想外にも程がある」
あははっ、橘先輩が愚痴をこぼしていらっしゃる。でも、いいじゃないですか。これ以上、誰も傷つかないんだから。
「お茶、どうぞ」
「ありがとう、上春さん」
橘先輩は上春さんこと、サッキーからお茶を受け取り、苦々しい顔で一気に飲み込んじゃった。苦労してそう~。
私は将来、橘先輩の髪が禿げるのではと密かに心配しながら、クッキーを口に放り込む。
橘先輩が不機嫌なの、分かるよ~。計画通りいかなかったからだよね。
橘先輩の計画では、獅子王先輩との勝負で長尾先輩に勝ってもらって、風紀委員のイメージ回復を狙っていた。
先輩が獅子王先輩に負けてしまったことで、風紀委員のイメージがダウンしたから。
風紀委員は強くなくてはならない。弱いと思われたら、不良がつけあがるから困るんだって。
だから、風紀委員は誰にも負けないとみんなに思わせる必要があるらしい。それが抑止力になるから。
少し傲慢だって思うけど、喧嘩がなくなるのであれば、私はいいと思っている。
それと獅子王先輩の問題行動を自粛させることも考えていた。
獅子王先輩は気に入らないことがあれば、誰でも殴ってしまう。それは女の子も例外ではない。
そんな危ない人を取り締まるために、橘先輩は獅子王先輩に勝負を挑んだんだけど、獅子王先輩の突然の告白は橘先輩でも予測できなかったみたい。
でも、これは仕方ないと思う。誰も予測できないよ。
この前の試合で一気に問題が解決する予定だったのに、それがつぶされてしまい、今は新たな問題も増え、それを含めて解決の目途が立っていない。
橘先輩としては頭が痛いことだろう。
「さて、どうしよっかな……」
「どうするかって、もうそっとしておいていいんじゃないですか? 馬に蹴られますよ、橘先輩」
橘先輩が私をじっと見つめてきた。
えっ、何? 私の顔に何かついてるの?
「……ねえ、伊藤さん。今の状況、おかしいと思わないの?」
「? どこかおかしいですか?」
おかしいとこ、あったっけ?
首をかしげていると、橘先輩がため息をついて、問題点を指摘してきた。
「いや、おかしいでしょ? 男同士だよ?」
「? いいじゃないですか、純愛って感じで」
何か問題あるのかな? ないよね?
「伊藤さんって男の子同士の恋愛って好きだよね」
橘先輩の指摘に、私は堂々と頷く。
「好きですよ。私、BLはありだって思います。世界で最初のカップルはアダムとボブって信じてますし」
あれ、みんな唖然としているけど、どうかしたのかな?
おばあちゃんに教えてもらったとっておきの知識なのに。気のせいか、みんな、私から距離をとられている気がする。
この委員にいじめはないよね?
「み、みなさんは好きじゃないんですか? 恋愛って? ねえ、サッキー?」
「うえっ? 私ですか? 私は、その……」
サッキーは指をちょんちょんとあわせ、困った顔になっている。
「私は……その……同性愛はちょっと」
顔を真っ赤にしてうつむき、弱々しく否定している。
顔を真っ赤にさせて否定されても、説得力がないよ、サッキー。本当は好きなんでしょ? 女の子は恋バナ、大好きだもんね。
そんなウブなサッキーを、黒井さんが肩を軽く叩く。
「はぁ、上春はお子様ですわね。私ならOKですわ。ねえ、お姉さま?」
「……」
「お姉さま?」
「絶対に……イヤ」
み、御堂先輩がふるえている! リーゼントのお兄さん達に囲まれても平然としていた御堂先輩が歯をならして、ふるえている!
えっ? 何かふるえるような怖いこと、今の話であったっけ?
「私は……普通の……恋がしたい」
御堂先輩の魂の叫びに、思わず声を失ってしまう。
そういえば、黒井さんから聞いた話だけど、御堂先輩はモテるらしい……同性に。しかも、御堂先輩をめぐって血の惨劇があったとか、なかったとか。
苦労しているんですね、御堂先輩。
御堂先輩の悲壮な姿に、朝乃宮先輩はコロコロと笑いだした。
「ふふっ、喧嘩の鬼も恋には形無しどすな。告白してきた後輩の女の子泣かして右往左往して……あのときの御堂はん、かわいかったわ」
「な、なんでそのことを知ってるんだ、朝乃宮!」
御堂先輩が朝乃宮先輩に突っかかる。
本当、朝乃宮先輩って怖いもの知らずだよね。私なら、間違いなく泣く。そして、先輩にチクる。
「ウチがその後輩の女の子をなぐさめたんやもん。知ってて当然です」
「……ごめん」
「ええよ」
朝乃宮先輩って何気に面倒見がいいよね。
ちょっと冷たい感じがするのに、こっちが落ち込んでいるといつの間にか慰めてくれる。みんなのお姉さんって感じがする。
「朝乃宮先輩はどうなんですか? 男女からモテますよね?」
私の問いに、朝乃宮先輩は笑顔を崩さずに答えてくれた。
「ウチは好きになった人を愛します。男でも女でも。でも、ほんまは咲に愛されたいわ~」
「も、もう! 抱きつかないでください、ちーちゃん!」
じゃれあっている朝乃宮先輩とサッキーを見ていると、ほのぼのとしちゃう。
いいよね、愛し愛されるって。
「一応、訊きますけど、長尾先輩はどう思いますか?」
「僕はおんなの……」
「はい、ありがとうございました」
「言わせてくれよ!」
どうせ女の子限定でしょ。時間の無駄無駄。さて、本命の意見を確認しましょうか。
私は先輩に向き直る。
「でっ、先輩はどう思うんですか?」
「俺か? 俺は、やっぱり……」
「ありですね! ありがとうございます!」
先輩は慌てて、私の結論にもの申してきた。
「待て。なんで、賛成だと決めつける?」
「だって、先輩。愛こそ一番強い絆ですよ? 先輩が求めていたものですよね?」
「……ここでそれをだすか」
先輩の苦々しい顔に、ちょっとだけ胸が痛む。でも、私はやっぱり、先輩にも同意してもらいたい。私の味方であってほしい。
先輩を説得するために、私は真実を語った。
「でもでも、見た目にとらわれない、逆に目には見えないものに惹かれあうことこそ、強い絆だと思いませんか? それこそがBL! Q. E. D、OK?」
「……最後の一言がなければいい話なんだがな」
さあさあ、答えてください、先輩! BLこそ至高の愛なのだと。
び~える! び~える! それ、び~える!
「やっぱり愛ですよね~。異性でも同性でも」
「そんなわけないでしょ。同性愛なんて気持ち悪い」
橘先輩の一声で部屋の空気が凍りついた。
甘い空気も優しい想いも消えていく。
「人の恋愛は異性間でするものだから。同性同士なんておかしいでしょ? 子孫も残せないし、不毛だよ」
「べ、別に子孫を残すのが恋愛の目的じゃないでしょ! それに誰かに迷惑かけてないもん!」
私の反論に、橘先輩が呆れたように笑っている。その態度が馬鹿にされたみたいで、私は橘先輩を睨んだけど、全く臆していない。
橘先輩の指摘が炸裂する。
「生物学的に子孫を残すのが恋愛の目的でしょ? 同性愛なんて、周りに迷惑かけまくりでしょ? 見ていて不愉快だよね? それに、親はどうするの? 自分の子供が同性愛者になったら戸惑うだけでしょ? 子供はどうなの? 自分の親が同性愛者になって離婚したらどうするの? 納得できるの? 伊藤さんが好きな人に告白して、その好きな人が伊藤さんより、男が好きって言われたら諦めきれるの? 女として許せるの?」
「そ、それは……」
ちょ、ちょっと待ってよ。質問が多すぎ! 答えられないじゃん!
橘先輩の指摘はまだまだ続く。
「大体、年金はどうするの? 同性愛者は子供が作れないから、高齢者を支える若者が減るでしょ? 同性愛者は年金を支払ってくれている人達に負担をかけてるんだよ。これ、大迷惑だよね? 今、働いているみなさんが支払っている年金は、銀行か何かに貯金されていて、年金を受け取る時期がきたらその金額分支給されると思ってないよね? それだけじゃあ、年金が足りなくてやっていけないよね? 今の高齢者を支えられないよね? 何年か前に問題になったよね?」
ええっと、年金って確か、今働いている人が支払っている年金を、今の年金受給者が受け取っているんだよね? 高齢者が増えて子供が減っているから大変だって、テレビで見たことがある。
橘先輩はそのことを指摘しているんだよね。
「僕や伊藤さんも大人になれば年金を払うけど、大人になるまでは親に養ってもらってること理解できてる? 子供はただで成長して大人になるわけじゃない。成人して働くまで、親が面倒をみなければならないし、その為にはお金がいる。産まれてから成人するまで、一人あたり一千万以上はかかってるんだよ? それほどの大金と労力をかけて、年金を支払う人ができるってわけ。それなのに、同性愛者は子供を作ることも、育てる義務も放棄したあげく、自分達が老人になったら自分達よりも若い人達から年金を受け取るだなんて、ずるくない? 働いて、年金を納めて、年金を支えてくれる若者をしっかりと育てた親御さん達に対して失礼じゃない? 同性愛者は何の苦労もなしに人の育てた子供達から年金を採取し続けるんだから」
「……」
そ、そんなこと言われても……なんとも言えないよ。年金のことなんてまだまだ先のことだし。
私は何も言い返すことができなくなった。それでも、橘先輩の同性愛者への非難が止まらない。
「年金一つとってもこれだけ問題あるのに、他にも沢山、同性愛は問題があるんだよ? 宗教でいったらキリスト教は、同性愛行為は自然法に反する罪深いものとされている。イスラム教も同性愛を禁じていて、同性愛者は死刑を含む刑罰を与えているよね? 他にもあるけど、聞きたい?」
「……」
「風紀委員としては、風紀が乱れることは容認できないから。同性愛なんてもってのほかだよ」
何か言いたいのに、反論したいのに何を言えばいいのか分からない。
唇をぎゅっと噛むことしかできない。
「まあ一応、多数決とろっか。獅子王先輩の同性愛に賛成の人、手を上げて」
私は手をゆっくりと弱々しくあげる。
私が手を上げたのは意地だ。橘先輩の言葉を否定する言葉はないけど、納得いかない。その想いだけで手を上げている。
賛同者は……いない。
黒井さん、朝乃宮先輩! さっきまで同意してたじゃない! 手を挙げてよ!
やっぱり、橘先輩の意見に納得しているってこと?
「決まりだね。獅子王先輩の問題行動に関しては同性愛を含めて、対処する。以上」
「ちょっと、待ってください」
私は橘先輩の決断に待ったをかける。
もう、ただの意地だ。
「何? まだ、何かあるの? まだやる? いいよ、とことん付き合ってあげる。だけど、負けたら僕に従ってね。どうしても嫌なら風紀委員、辞めていいから」
……に……よ。
「……か」
「ん? 何?」
「……ば……か」
なに……よ……なんなのよ! なんなのなんなのなんなのよ!
「バカバカバカバカバカバカ! 偏屈! 最低! 藤堂! ありえない! 橘先輩なんて大嫌い!」
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