111 / 544
七章
七話 ライラック -恋の始まり- その一
しおりを挟む
いらいらが止まらない。
放課後の廊下を、私は大股で歩いていた。
原因は橘先輩の意地悪のせい。
秋の涼しい風が窓から入ってくるけど、怒っているせいで全然涼しくない。むしろ、暑いくらい。
もうもうもう! 信じられない!
まるで私が悪者じゃない!
BLのどこが悪いのよ! 同性愛のどこがいけないの!
橘先輩の発言を掲示板で書いたら、炎上するに決まってる! みんな、同性愛を認めるもん! 支持してますから!
なのに、なのにぃ! 橘先輩は全然分かってない!
「ほのかさん!」
「伊藤さん!」
サッキ―と黒井さん……私の事、追いかけてきてくれたんだ。
嬉しかったけど、つい二人から顔を背けてしまう。
「まだスネてますの? 子供ですわね」
「黒井さん! ダメですよ、そんな言い方」
「事実ですわ」
「……黒井さんの裏切者」
私は恨めがましい視線を黒井さんに送るけど、黒井さんはやれやれと言いたげに肩をすくめられた。
くっ! 私にも先輩のようなメンチビームが出せたらいいのに……。
「裏切者とは心外なお言葉ですわね。わざわざ追いかけてきたのに失礼ではありませんの」
「だって、手を挙げてくれなかったじゃない」
朝乃宮先輩も同罪だ。同性愛に賛成のようなこと言っていたのに、橘先輩の意見に賛成しちゃうなんて、酷いよ。
「当たり前ですわ。伊藤さん、橘風紀委員長の言葉、ちゃんと聞いていまして? 橘先輩は『獅子王先輩の同性愛に賛成の人』っておっしゃっていましたわ。私も朝乃宮先輩も、獅子王先輩の同性愛なんて知ったことではありませんの」
あっ……。
黒井さんに言われてみて、やっと気づけた。
確かに、黒井さんや朝乃宮先輩は獅子王先輩の事を庇う理由はない。それどころか、朝乃宮先輩は獅子王先輩に殴られているので、庇うわけがない。
橘先輩はそのことを知っているから、あえて獅子王先輩の同性愛って言葉を選んだんだ。
ひ、酷い! 詐欺じゃん!
「完全にへそ曲げてますわね」
「まあ、あれだけ言われたらしょうがないよ。私もあれは言い過ぎだって思う」
「だよね! そうだよね!」
私はサッキーの手を両手で握る。
橘先輩、言い過ぎだよ! 絶対!
ああ~、ムカツク! 今すぐ禿げてしまえ!
私は悔しくて、廊下の壁を何度も何度も蹴った。
「そんなにBLが悪いの? 純粋な恋なら、本気の恋なら間違いないでしょ! 大体、獅子王先輩と古見君は、高校生だよ! 年金とか関係ないじゃん! 同性愛者同士でも、養子をもらって育てればいいじゃない! それに不妊症の女性はどうなるの? 子供が産めない女性は結婚するなってことなの? 冗談じゃないわ! 女を子供を産む道具としか考えていない前時代的な男の勝手な言い分じゃない! 宗教で同性愛が禁止されているなら、禁止されていない宗教に変えるか、欧米にでもいけばいいだけでしょ! 大体、日本なら問題ないじゃない! 橘先輩はお役所の人間かっつーの! 偉そうに!」
「それをさっき言えばいいのに……」
「今気づいたの!」
いきなり年金なんて聞き慣れない言葉使われたら、すぐに反応できるわけがない!
橘先輩は本当にずるい! 体の半分は意地悪で出来ているんじゃないの!
壁に八つ当たりしても、全然気が晴れない!
「それで、結局どうしますの? 風紀委員を辞めますの? 橘風紀委員長に謝りますの?」
「誰が謝るもんか! 徹底的に抗戦しますから! 私、絶対に負けない! BLが、獅子王先輩の恋が間違ってないってこと、絶対に認めさせてやるんだから!」
「なんでかな? 伊藤さん、あまり格好良くない」
「私には、伊藤さんがどうしてそこまで熱くなれるのか、分かりませんわ」
サッキーと黒井さんは呆れているけど、関係ないもんね!
フッフッフッ……覚悟してくださいね、橘先輩。私を怒らせるとどうなるか、思い知らせてあげる!
「俺様の恋がどうかしたか?」
「きゃぁああああああああああああああああ!」
声のした方を振り向くと、そこには獅子王先輩が立っていた。
ど、どうして、獅子王先輩がいるの!
私達は急に現れた獅子王先輩に体が硬直してしまう。先輩達がいないときに、どうして出会っちゃうの?
私達の中では黒井さんが一番強いけど、獅子王先輩にはかなわないよね。
獅子王先輩は以前、朝乃宮先輩を殴ったことがあるから、女の子を殴ることに躊躇しない人だ。それに……私のファーストキスを無理やり奪った人でもある。
こ、怖い……足が震えてる。
助けて、先輩……。
「おい、うるさいぞ、女。いきなり叫んだら迷惑だろうが」
「す、すみません」
「まあいい。俺様が許す」
ううっ、何か納得いかない。
大きな声をあげてしまったのは獅子王先輩のせいだし……でも、反論すると何されるか分からない。
ここは我慢よ、ほのか。そう自分に言い聞かせるけど……今日の運勢、最悪だよ。
うううっ、今日は理不尽なことばかり。
「女、ちょっとこい」
何の前置きもなく、獅子王先輩は私の手首を掴む。
「はい? ちょ、ちょっと!」
獅子王先輩が有無を言わせず、私を引っ張っていく。
な、何なの? どこに連れていかれるの?
「上春! 橘風紀委員長に連絡! 私は後を追いますわ!」
「分かりました!」
獅子王先輩に連れてこられた場所は人気のない教室だった。
男の子と二人っきりの薄暗い教室。どうして、こんなところに呼び出されたの?
ま、まさか、私の体目当て! 獅子王先輩にファーストキスを奪われたことを思い出してしまう。
獅子王先輩と距離をとろうとしたけど、すぐ壁に背中がぶつかる。
出口には獅子王先輩が立っていて、逃げられない。
逃げ場がないことは分かっているのに、視線をめぐらせる。
獅子王先輩が近寄ってきた。
先輩……助けて……先輩……。
「わ、私に手を出したら、先輩が黙ってませんよ! そ、それに私には百人くらいの部下がいるんですからね!」
「誰が、お前みたいなちんちくりんに手を出すか。冗談は存在だけにしろ」
カッチーン!
そ、存在全否定されたよ! これって酷くない?
普通の男の子なら説得力がないけど、獅子王先輩は俺様だからね……興味のない子には平気で冷たい態度をとる人だし。
なら、どうして私は呼び出されたの?
その理由を考えていると、教室のドアが勢いよく開いた。
黒井さんだ!
ああ、心の友よ!
「風紀委員ですの! 獅子王先輩! ここでなにをしていますの!」
「ああん? 俺様がここで何をしていようと、お前には関係ないだろ?」
「ありますの。女の子をこんな人気のない教室に連れてきて、何をするおつもり?」
「女の子? どこにいる?」
あっれ~! 私、女として認識すらされていない! 声がマジ!
ショック! ほのか、ショック!
「言い逃れするつもり?」
「言い逃れ? なんで俺様が雑魚相手に逃げなきゃならねえんだ! ざっけんなよ、俺様は嘘が大っ嫌いなんだよ! 俺様がこんなミジンコを相手にすると思ってるのか! ここまで侮辱されたのは初めてだ。お前、人生にピリオド打つ覚悟できてるんだろうな、おい!」
「……」
「く、黒井さん、やめて……私のライフがなくなりそう」
お、おかしいな……なんで、黒井さんが私を助けようとしてくれているたびに、私がダメージを受け続けるのかな?
ミ、ミジンコ? 人ですら否定されたんですけど!
「侮辱したことは謝りますわ」
「謝らないで! 認めちゃイヤ!」
なんで、黒井さんが謝るの! 意味わかんないですけど!
「なっ! 伊藤さん、腰に抱きつかないでくださいまし! か、顔を押し付けないで!」
「漫才して楽しいか?」
「「漫才じゃない(ですわ)!!」」
息ピッタリだよね、私達。どうでもいいけど。
「では、伊藤さんに何か御用がありますの?」
「当たり前だろ? 用がなけりゃこんなカス、相手にするかよ」
伊藤ほのか、カスで~す。カスはもう帰っていいですか? もう泣きたいよ……。
黒井さんが私の背中をさすってくれて慰めてくれる。でもね、黒井さん。慰められると余計に泣きたくなるのよ。
「おい、お前」
「……さっきからお前お前と、女性に対して失礼では……」
「待って、黒井さん!」
「な、なんですの?」
「いいから、獅子王先輩のいうとおりにして」
ここで定番の「お前じゃない、私には○○って名前があるの!」をいっちゃうと、フラグがたってしまう危険性がある。ここはモブ扱いされてやり過ごすのが一番。獅子王先輩とは関わり合いたくないし。
モブで本当に良かったって思える日が来るなんて、ちょっと複雑。
「話がある。相談にのれ」
「なんでしょう?」
獅子王先輩の俺様な態度に、私はにっこりと笑ってみせた。
我慢よ、ほのか。我慢の子、ほのか、ガンバ!
私は心の中でエールを送り、獅子王先輩の相談に乗ることにした。下手に逆らわず、嵐が通り過ぎるのを待つ。これっきゃない。
「古見に告白したんだが……」
「ぶはっ!」
獅子王先輩の話を聞いて、黒井さんがむせかえる。
「……なんだ、女?」
「し、失礼。なんでもありませんわ」
黒井さんが複雑な表情をしている。
気持ちは分かるけどね。橘先輩と口論になった後に、この話だもん。
「古見に告白したんだが、返事がもらえなくてな。どうしたらいい?」
獅子王先輩らしい真っ直ぐな言い方だ。
ここは何と答えるべきかな? やっぱり、真面目に答えるべきだよね?
だったら……。
「古見君が返事してくれるのを焦らずに待つべきです! 急に告白されて、古見君は戸惑っていると思うんです。相手の為にもここは我慢するときです! 好きな相手を思いやる行為こそ、恋愛がうまくいく秘訣です!」
「ちょっと、伊藤さん?」
「なるほどな。あせらずにか」
獅子王先輩は真剣に私の意見を聞き、考え込んでいる。
黒井さんが肘で私を突っつく。
(いいんですの! あんなアドバイスしてしまって!)
(私は橘先輩の意見に賛成してないもん。それに真剣に悩んでいる人にいい加減なことはいいたくないし。それが礼儀でしょ?)
(それはそうですけど)
黒井さんには悪いけど、やっぱり納得できないことに従うのはイヤ。
真剣な恋が間違いだなんて、そんなの認められない!
放課後の廊下を、私は大股で歩いていた。
原因は橘先輩の意地悪のせい。
秋の涼しい風が窓から入ってくるけど、怒っているせいで全然涼しくない。むしろ、暑いくらい。
もうもうもう! 信じられない!
まるで私が悪者じゃない!
BLのどこが悪いのよ! 同性愛のどこがいけないの!
橘先輩の発言を掲示板で書いたら、炎上するに決まってる! みんな、同性愛を認めるもん! 支持してますから!
なのに、なのにぃ! 橘先輩は全然分かってない!
「ほのかさん!」
「伊藤さん!」
サッキ―と黒井さん……私の事、追いかけてきてくれたんだ。
嬉しかったけど、つい二人から顔を背けてしまう。
「まだスネてますの? 子供ですわね」
「黒井さん! ダメですよ、そんな言い方」
「事実ですわ」
「……黒井さんの裏切者」
私は恨めがましい視線を黒井さんに送るけど、黒井さんはやれやれと言いたげに肩をすくめられた。
くっ! 私にも先輩のようなメンチビームが出せたらいいのに……。
「裏切者とは心外なお言葉ですわね。わざわざ追いかけてきたのに失礼ではありませんの」
「だって、手を挙げてくれなかったじゃない」
朝乃宮先輩も同罪だ。同性愛に賛成のようなこと言っていたのに、橘先輩の意見に賛成しちゃうなんて、酷いよ。
「当たり前ですわ。伊藤さん、橘風紀委員長の言葉、ちゃんと聞いていまして? 橘先輩は『獅子王先輩の同性愛に賛成の人』っておっしゃっていましたわ。私も朝乃宮先輩も、獅子王先輩の同性愛なんて知ったことではありませんの」
あっ……。
黒井さんに言われてみて、やっと気づけた。
確かに、黒井さんや朝乃宮先輩は獅子王先輩の事を庇う理由はない。それどころか、朝乃宮先輩は獅子王先輩に殴られているので、庇うわけがない。
橘先輩はそのことを知っているから、あえて獅子王先輩の同性愛って言葉を選んだんだ。
ひ、酷い! 詐欺じゃん!
「完全にへそ曲げてますわね」
「まあ、あれだけ言われたらしょうがないよ。私もあれは言い過ぎだって思う」
「だよね! そうだよね!」
私はサッキーの手を両手で握る。
橘先輩、言い過ぎだよ! 絶対!
ああ~、ムカツク! 今すぐ禿げてしまえ!
私は悔しくて、廊下の壁を何度も何度も蹴った。
「そんなにBLが悪いの? 純粋な恋なら、本気の恋なら間違いないでしょ! 大体、獅子王先輩と古見君は、高校生だよ! 年金とか関係ないじゃん! 同性愛者同士でも、養子をもらって育てればいいじゃない! それに不妊症の女性はどうなるの? 子供が産めない女性は結婚するなってことなの? 冗談じゃないわ! 女を子供を産む道具としか考えていない前時代的な男の勝手な言い分じゃない! 宗教で同性愛が禁止されているなら、禁止されていない宗教に変えるか、欧米にでもいけばいいだけでしょ! 大体、日本なら問題ないじゃない! 橘先輩はお役所の人間かっつーの! 偉そうに!」
「それをさっき言えばいいのに……」
「今気づいたの!」
いきなり年金なんて聞き慣れない言葉使われたら、すぐに反応できるわけがない!
橘先輩は本当にずるい! 体の半分は意地悪で出来ているんじゃないの!
壁に八つ当たりしても、全然気が晴れない!
「それで、結局どうしますの? 風紀委員を辞めますの? 橘風紀委員長に謝りますの?」
「誰が謝るもんか! 徹底的に抗戦しますから! 私、絶対に負けない! BLが、獅子王先輩の恋が間違ってないってこと、絶対に認めさせてやるんだから!」
「なんでかな? 伊藤さん、あまり格好良くない」
「私には、伊藤さんがどうしてそこまで熱くなれるのか、分かりませんわ」
サッキーと黒井さんは呆れているけど、関係ないもんね!
フッフッフッ……覚悟してくださいね、橘先輩。私を怒らせるとどうなるか、思い知らせてあげる!
「俺様の恋がどうかしたか?」
「きゃぁああああああああああああああああ!」
声のした方を振り向くと、そこには獅子王先輩が立っていた。
ど、どうして、獅子王先輩がいるの!
私達は急に現れた獅子王先輩に体が硬直してしまう。先輩達がいないときに、どうして出会っちゃうの?
私達の中では黒井さんが一番強いけど、獅子王先輩にはかなわないよね。
獅子王先輩は以前、朝乃宮先輩を殴ったことがあるから、女の子を殴ることに躊躇しない人だ。それに……私のファーストキスを無理やり奪った人でもある。
こ、怖い……足が震えてる。
助けて、先輩……。
「おい、うるさいぞ、女。いきなり叫んだら迷惑だろうが」
「す、すみません」
「まあいい。俺様が許す」
ううっ、何か納得いかない。
大きな声をあげてしまったのは獅子王先輩のせいだし……でも、反論すると何されるか分からない。
ここは我慢よ、ほのか。そう自分に言い聞かせるけど……今日の運勢、最悪だよ。
うううっ、今日は理不尽なことばかり。
「女、ちょっとこい」
何の前置きもなく、獅子王先輩は私の手首を掴む。
「はい? ちょ、ちょっと!」
獅子王先輩が有無を言わせず、私を引っ張っていく。
な、何なの? どこに連れていかれるの?
「上春! 橘風紀委員長に連絡! 私は後を追いますわ!」
「分かりました!」
獅子王先輩に連れてこられた場所は人気のない教室だった。
男の子と二人っきりの薄暗い教室。どうして、こんなところに呼び出されたの?
ま、まさか、私の体目当て! 獅子王先輩にファーストキスを奪われたことを思い出してしまう。
獅子王先輩と距離をとろうとしたけど、すぐ壁に背中がぶつかる。
出口には獅子王先輩が立っていて、逃げられない。
逃げ場がないことは分かっているのに、視線をめぐらせる。
獅子王先輩が近寄ってきた。
先輩……助けて……先輩……。
「わ、私に手を出したら、先輩が黙ってませんよ! そ、それに私には百人くらいの部下がいるんですからね!」
「誰が、お前みたいなちんちくりんに手を出すか。冗談は存在だけにしろ」
カッチーン!
そ、存在全否定されたよ! これって酷くない?
普通の男の子なら説得力がないけど、獅子王先輩は俺様だからね……興味のない子には平気で冷たい態度をとる人だし。
なら、どうして私は呼び出されたの?
その理由を考えていると、教室のドアが勢いよく開いた。
黒井さんだ!
ああ、心の友よ!
「風紀委員ですの! 獅子王先輩! ここでなにをしていますの!」
「ああん? 俺様がここで何をしていようと、お前には関係ないだろ?」
「ありますの。女の子をこんな人気のない教室に連れてきて、何をするおつもり?」
「女の子? どこにいる?」
あっれ~! 私、女として認識すらされていない! 声がマジ!
ショック! ほのか、ショック!
「言い逃れするつもり?」
「言い逃れ? なんで俺様が雑魚相手に逃げなきゃならねえんだ! ざっけんなよ、俺様は嘘が大っ嫌いなんだよ! 俺様がこんなミジンコを相手にすると思ってるのか! ここまで侮辱されたのは初めてだ。お前、人生にピリオド打つ覚悟できてるんだろうな、おい!」
「……」
「く、黒井さん、やめて……私のライフがなくなりそう」
お、おかしいな……なんで、黒井さんが私を助けようとしてくれているたびに、私がダメージを受け続けるのかな?
ミ、ミジンコ? 人ですら否定されたんですけど!
「侮辱したことは謝りますわ」
「謝らないで! 認めちゃイヤ!」
なんで、黒井さんが謝るの! 意味わかんないですけど!
「なっ! 伊藤さん、腰に抱きつかないでくださいまし! か、顔を押し付けないで!」
「漫才して楽しいか?」
「「漫才じゃない(ですわ)!!」」
息ピッタリだよね、私達。どうでもいいけど。
「では、伊藤さんに何か御用がありますの?」
「当たり前だろ? 用がなけりゃこんなカス、相手にするかよ」
伊藤ほのか、カスで~す。カスはもう帰っていいですか? もう泣きたいよ……。
黒井さんが私の背中をさすってくれて慰めてくれる。でもね、黒井さん。慰められると余計に泣きたくなるのよ。
「おい、お前」
「……さっきからお前お前と、女性に対して失礼では……」
「待って、黒井さん!」
「な、なんですの?」
「いいから、獅子王先輩のいうとおりにして」
ここで定番の「お前じゃない、私には○○って名前があるの!」をいっちゃうと、フラグがたってしまう危険性がある。ここはモブ扱いされてやり過ごすのが一番。獅子王先輩とは関わり合いたくないし。
モブで本当に良かったって思える日が来るなんて、ちょっと複雑。
「話がある。相談にのれ」
「なんでしょう?」
獅子王先輩の俺様な態度に、私はにっこりと笑ってみせた。
我慢よ、ほのか。我慢の子、ほのか、ガンバ!
私は心の中でエールを送り、獅子王先輩の相談に乗ることにした。下手に逆らわず、嵐が通り過ぎるのを待つ。これっきゃない。
「古見に告白したんだが……」
「ぶはっ!」
獅子王先輩の話を聞いて、黒井さんがむせかえる。
「……なんだ、女?」
「し、失礼。なんでもありませんわ」
黒井さんが複雑な表情をしている。
気持ちは分かるけどね。橘先輩と口論になった後に、この話だもん。
「古見に告白したんだが、返事がもらえなくてな。どうしたらいい?」
獅子王先輩らしい真っ直ぐな言い方だ。
ここは何と答えるべきかな? やっぱり、真面目に答えるべきだよね?
だったら……。
「古見君が返事してくれるのを焦らずに待つべきです! 急に告白されて、古見君は戸惑っていると思うんです。相手の為にもここは我慢するときです! 好きな相手を思いやる行為こそ、恋愛がうまくいく秘訣です!」
「ちょっと、伊藤さん?」
「なるほどな。あせらずにか」
獅子王先輩は真剣に私の意見を聞き、考え込んでいる。
黒井さんが肘で私を突っつく。
(いいんですの! あんなアドバイスしてしまって!)
(私は橘先輩の意見に賛成してないもん。それに真剣に悩んでいる人にいい加減なことはいいたくないし。それが礼儀でしょ?)
(それはそうですけど)
黒井さんには悪いけど、やっぱり納得できないことに従うのはイヤ。
真剣な恋が間違いだなんて、そんなの認められない!
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる