風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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七章

七話 ライラック -恋の始まり- その四

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「男の子を見ていると、ふいにドキってしたり、恥ずかしくなることがあるんだけど……これっておかしいのかな?」
「おかしくないよ」
「何のためらいもなく言い切ったね、ほのほの。ちょっと、待って。古見君は女の子を見てもドキッとしないの?」
「特には……」
「そう……」

 あ、るりかの目が獲物を見つけた猛禽類もうきんるいの目になってる。
 るりかは古見君に寄り添うように体を預けた。
 で、でたー! 数々の男を籠絡ろうらくした、るりかの色仕掛け!
 体を密着させてからの! 目を少し細めて、うれいのある上目遣うわめづかいで相手の目をロックオン!
 唇はさりげなくキスを求める位置に!
 るりかからただよう、フローラルの甘い香りが、古見君の嗅覚きゅうかくに訴え、相手の脳を麻痺状態バットステータスに!
 胸をさりげなく、適度な感覚で古見君の腕に押し付けるたくみの技!
 左手は流水の如く、古見君の右手をそっと恋人握りする。これ、ポイント!

 ウブな男の子なら絶対に勘違いするシチュ。
 これに対し、古見君はどう切り抜けるのか! 逃げ切れるのか!
 古見君は……特に変化なし。あれ?

「あ、ゴミがついてるよ」
「!」

 ちょ! 今、るりかの胸元にあった糸屑いとくずを何のためらいもなく取った。

「……あ、ありがとう」

 るりかは普通にお礼を言ってるし。古見君の邪念じゃねんのない、ピュアな笑顔が逆に煩悩ぼんのうなるりかにダメージを与えた!
 るりか、古見君からそっと離れちゃったよ。女のプライドを傷つけられ、目を伏せるるりかに、私達は……。

「プッ! クスクス……素でスルーされたし!」
「わ、笑っちゃダメだよ、明日香……クククッ……あはははははっ!」

 つい笑ってしまった。るりかに思いっきり睨まれ、せきをしてごまかす。
 でも、すごいよね、古見君。
 古見君のあまりにもナチュラルな動作だったので、私達、どうしていいのか分からなかったよ。
 私達の視線に気づいたのか、古見君が苦笑している。

「ううん……僕って、中性的な顔だから、子供のころから女の子と遊ぶ機会が多くて……どうしても、女の子を相手していると、友達って感じが抜けないっていうか……」

 プレイボーイの押水君とは正反対だよね。
 何が違うんだろう? 性欲? やっぱり……。

「顔だよね」
「だよね」

 古見君の顔って本当に綺麗。ニキビやシミが一つない、毛穴も目立たないし、ひげもない。張りもある。
 許せないよね。

「ねえ、古見君。お肌の手入れ、どうしてる?」
「どうって、洗顔フォームくらいかな? あっ、あぶらっこいもの嫌いだから、野菜やフルーツがメインだよ。それくらいだけど」

 パチン! パチン! パチン!

「痛ッ! 何するんですか!」
「「「ご、ごめん、つい」」」

 私達の声が見事にハモった。だってイラってきたんだもん。ビンタしちゃうのは仕方ないよね。
 だって、「私、何食べても太らないんです」って言われている気がして無性に腹がたった。
 脂っこいものが嫌い? 弟の剛なんて、げ物、大好きなのに。私も好きだけど、ニキビになるかもしれないし、カロリー高いから我慢しているのに!

「ほのほの。古見君がゲイなのか診断する方法ないの?」
「ないよ。あるとしたら絵をみせて、その絵をどう判断するかで傾向が分かるってことは、ネットで見たことあるけど……私もリアルでゲイを見たことないから。ちなみに、古見君はゲイかどうか悩んでいるの?」
「……中学の時からちょっと」

 それってもうゲイじゃないの? 同性愛者じゃないの?
 なら、問題ないじゃない。私は明日香に同意を求めるけど。

「大有りだし。思春期ししゅんきって、性について意識し始めるときだし。女の子に興味を持てないなら、男の子を性の対象として見てしまっているだけかもしれないし」
「そんなことってあるの?」

 それって、性的要求を同性に向けていることだから、好きとは違うってこと?
 明日香の意見に、るりかがうんうんとうなずいている。

「そういわれると納得できるかも。高校生男子ってマカロニの穴でも興奮する生き物だから」
「それは酷くない?」
「ほのほのだって経験あるでしょ? やたらヤりたがる男の子に言い寄られたこと」

 確かにある。
 やたら自己アピールしてきて、腰に手を回してくる男の子。整体師目指してるのって思うくらい腰を触ってくるよね。
 そのままホテルに連行しそうな勢いなので、腰を触ってくる男の子には注意している。

 ううっ……嫌なこと思い出した。あの三股の件で、一番ボディタッチしてきた男の子。
 自意識過剰じいしきかじょうでプライドの高い、強引な男の子。
 苦手だったな……。

 その男の子はやたら私の体に触ってくるので、やめてって否定したらすごく怒ってきて、すごく怖かった。
 これくらい、いいだろ? みんなやってるぞ……恋人なら当たり前だろうが……そんな言葉を使って触ってくるんだよね。本当に嫌だったな……。
 怒られるのが怖くて否定できないから、それをいいことに何をしてもOKだって勝手に思い込んでいた男の子。ふとももをなでまわすように触られたあの感触、思い出すたびに鳥肌が立つ。
 橘先輩がいなかったらどうなっていたんだろう。ううっ、寒気がしてきた。

「大丈夫ですか、伊藤さん? 顔色が悪いですよ」
「だ、大丈夫だから」

 古見君が私の顔に手をあて、覗き込んでくる。
 私は心配をかけないように笑ってみせた。
 私の頬をいたわるように触っていた古見君の手が、そっと離れる。

 不思議な感覚だった。
 古見君に頬を触られたけど、何にも感じなかった。それどころか安心する。まるでママみたい。
 男の子に触られると、好きな人だとドキッとしたり、嫌な人だと嫌悪感がわく。
 古見君は下心がないんだ。だから、何も感じないみたい。
 でも、これって問題だよね?

 恋愛って、やっぱり下心が重要なんだって思う。だって、好きな人に興味を持ってもらいたいし、特別な人と認識されたいもん。
 私や明日香、るりかにだって下心はある。だから、少しでも異性の気を引くために、可愛く見せる研究や情報交換をして、好きな人の対策をつねっている。

 それだけじゃない。女子力アップの為に体調管理や食事制限、適度な運動、入浴剤にこだわりをもつ等……大変だけど、努力してこそ、自分は可愛いと自覚するし、恋愛に有利になると私は思っている。

 下心がないってことは、古見君は恋ができないんじゃないのかな?
 獅子王先輩と恋人になっても、きっと仲のいい先輩後輩になるだけ。恋人らしいことなんて一つもなし。デートも、きっと遊びにいくだけ。
 倦怠期けんたいきの夫婦みたい。
 恋が始まってすぐ倦怠期って……それって恋なの? 楽しいの?
 あ、あれれ? どうしたらいいの?
 こうなったら、私が古見君と獅子王先輩をサポートしないと。

「ねえ、古見君。ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
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