風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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八章

八話 シュウカイドウ -未熟- その五

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「伊藤、犯人は本当に来るのか?」
「来ますね! よくいうじゃないですか、犯人は現場に戻ってくるって」
「いつ来るんだ?」
「分からないから張り込んでいるんです!」

 次の日、私と先輩、御堂先輩は靴箱を見張っていた。靴箱は私が掃除して、古見君に説明した。
 始終、滝沢さんは私が犯人だって古見君にいいつけていたのが不快だった。ムカつくけど、ぐっと我慢した。
 だって、古見君が一番の被害者だから。怒るのなら犯人に怒らないと。
 古見君はよくあることだからと言って、滝沢さんをなだめていた。私の事も犯人じゃないって信じてくれた。

 私は改めて誓った。犯人を必ずみつけると。
 滝沢さんは私に、さっさと自首しろと催促さいそくしてくる。
 どうして、ここまで仇敵きゅうてき扱いされないといけないの?
 こうなったら、絶対に滝沢さんの前に犯人を連れてきて、間違いを認めさせてやるんだから!

 あそこまで目の敵にされたのは初めて。なんで私にだけからんでくるのよ!
 腹が立ったので私はお菓子を食べる。マシュマロだけが私に甘くしてくれる。
 本当、不条理なことばっかり!

「伊藤、廊下でお菓子を食べるな」
「だって! 腹が立っておなかすくんだもん!」

 先輩は呆れた顔をしているけど、事実だからどうしようもない。先輩にどうぞとすすめるけど、手を前に出されて断られてしまった。
 先輩は甘いもの、苦手なのかな?
 先輩に断れたことがショックで、悲しい気持ちになる。別にたいしたことではないのに、どうしてなんだろう……。

「子供か、おのれは」
「……なんで御堂先輩がいるんですか?」

 子ども扱いされて、私は頬を膨らませ、御堂先輩を睨みつける。
 あっ! 鼻で笑った! バカにされた! 悔しい!
 私は先輩に靴箱の件を話して、協力を要請ようせいした。
 先輩は快諾かいだくしてくれたのは嬉しいんだけど、なぜか御堂先輩までここにいるのやら。御堂先輩には話していないのに。

「別に……ただ、伊藤と藤堂が何やってるのか気になっただけだ」

 私としては先輩と二人っきりがいいんだけど。
 そう主張することが出来ず、私と御堂先輩はお互い睨みあう。

「……喧嘩ならよそでやれ。俺一人で十分だ」
「そんなの、ダメですよ! 私が疑われているんですよ? それなら、私が解決すべきでしょ!」

 絶対に滝沢さんの鼻を明かしてやるんだから!

「ふっ……」
「あ、御堂先輩! また、鼻で笑った!」
「悪い、バカにしたわけじゃない。その考え、気に入った。私も一役買わせてくれ」
「御堂先輩……」

 御堂先輩って、本当、男気あるよね。私に向けた笑顔がかっこいいもん。御堂先輩もこれを機に同性愛に目覚めたらいいのに。

「何か言ったか?」
「いえ、何も」

 私は視線を下駄箱に戻す。
 私達は靴箱から死角になる位置で見張っていた。先輩がしゃがんでその隣に御堂先輩がよりそっている。私は先輩の後ろで待機している。

 どうでもいいんだけど、本当にいいんだけど、御堂先輩、先輩と距離が近い!
 私は先輩の隣にいる御堂先輩に対抗して、先輩の肩に手を置いて、先輩の頭に顎を乗せるくらいに距離を縮める。
 ううっ、先輩の匂いがして落ち着かない。私はそっと少しだけ先輩から距離をとった。

 は、張り込み頑張らないと! 犯人は絶対にまたやってくる。私には、犯人がまた同じ嫌がらせを古見君にする確信があった。
 古見君はこの嫌がらせをあまり気にしていなかった。過去に何回も受けたことあるせいで、耐性が付いたと思う。それか、あきらめているのかも。
 嫌がらせをしてきた人に対して、古見君の態度はあまりよくない。こんな陰険いんけんなことをする人は、相手の反応を気にする。
 何のリアクションもない場合、もっと過激なことをして相手の気を引こうとするだろう。

 私の体験談だけど、きっと間違っていない。この嫌がらせをやめさせるには、犯人を見つけて、周囲にバラすのが一番。
 犯人をさらせば、後は浄化作用(陰口)が活性化されて、大抵の嫌がらせは終わる。私もさらしまくったもんね。
 本当、嫌な体験。嫌がらせって、黙っていても自然に改善されないから……特に女の子の嫌がらせは。本当はこれっきりが一番いいんだけど。
 私達は犯人が来るまで見張っていた。



 授業中。
 誰もいない昇降口に、一人の男の子が靴箱に近づく。誰もいないことを確認すると、ある靴箱を開けた。
 カバンの中から新聞紙にくるんだものを取り出し、それを開けて、靴箱に入れたとき……。



「待ちなさい!」

 犯人が来た!
 犯人が靴箱に何か入れたのを確認して、私はすぐに声をかけた。
 やっぱり、戻ってきた! どうよ、私の名推理!
 私を見て、犯人が逃げようとするが。

「待ちな!」

 御堂先輩が颯爽と駆け抜け、犯人の首根っこを掴む。
 私は犯人に近づき、フードをとった。
 犯人は……獅子王先輩に殴られかけてチビった男の子だった。見覚えがあるはずだ。

「風紀委員です。今、古見君の靴箱に何か入れましたね? 確かめさせていただきます」

 靴箱を見ると、そこには……な、なに! 何かのかたまり? 何の? 黒い物体のような……違う、この匂いは……血?
 その物体を、目を細めてみてみると……耳と尻尾があった。
 まさか……ね……。

「きゃあああああああああああああ!」

 う、嘘でしょ! 信じられない!
 血まみれになっている猫が古見君の靴箱に入っていた。
 動いていない……まさか、死んでいるの? 殺したの? 何で? 嫌がらせの為だけに?
 彼の悪意に吐き気がこみあげてくる。私は慌てて口元を抑えた。
 な、なんてことするの! マジ、ありえない!
 御堂先輩も気付いたようだ。御堂先輩は男の子の襟首を掴み、下駄箱に叩きつける。

「クソ野郎が!」

 御堂先輩に睨みつけられ、男の子は泣きそうな顔をしている。

「どうして……どうしてこんなことするの? 古見君は何も悪くないじゃない」

 古見君の名前が出た途端とたん、大人しかった男の子が叫んだ。

「アイツが悪いんだよ! 古見のせいで、俺は恥をさらしたんだ! 当然の報いだろ!」

 当然の報い? どこが? 今の説明のどこに猫を傷つけていい理由になるの?
 自分勝手すぎる意見に私は激怒していた。握り締めた手が痛い。
 何の罪もない子猫を殺してまですることなの? 古見君のせい? 直接の原因は獅子王先輩でしょ?
 違う、二人のせいじゃない。古見君のことをからかったキミ自身が悪いんじゃない。

「俺は悪くない! 古見が悪いんだ! 大体、ちょっとからかっただけで、なんで俺はあんな目にあわなきゃいけないんだよ! アイツがホモだから悪い……」
「黙れ」

 御堂先輩の睨みに男の子は口を閉ざす。
 御堂先輩、ありがとうございます。これ以上腐った言葉を聞かずにすみました。

「伊藤、コイツ、どうする?」
「先生に突き出しましょう。これ以上、彼と関わりたくないです。私、先生呼んできます」
「そうだな。私が見張っておく」
「ちょ、ちょっと待って! だから、なんで俺が……」
「黙れと言った」

 御堂先輩がもう一度、男の子を掴んだまま靴箱に叩きつけた。そのまま、襟首を掴みあげる。

「甘ったれるな! 獅子王を狙わずに弱い古見を狙う根性も腐ってるが、自分の犯した罪すら分からないなんてクズだな、お前」
「全くです。古見君をからかって、キミだけ獅子王先輩に殴られそうになったことも、自分のせいでしょ? 自分だけ大丈夫だなんて勝手な考えをしているから、罰があたったのに。しかも、古見君に責任転換して、子猫を殺すなんて情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地はありませんから。しっかりと罪をつぐなってください」
「ひぃ!」

 男の子の股が濡れていく。また漏らしたみたい。本当に情けない人。
 なんかな……本気で怒って損した気分。
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