風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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十四章

十四話 ツワブキ -先を見通す能力- その一

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 お昼休み、私達は作戦会議を開こうとしていた。
 メンバーは私、明日香、るりかのいつものメンバーと長尾先輩、黒井さんを加えて五人。

「では、作戦会議を開始したいと思います! イッエーイ!」

 私はテンションを上げて、手を振り上げる。

 パチパチパチ。

「……」

 明日香とるりか、長尾先輩が拍手はくしゅしてくれるけど、黒井さんは無言のまま。
 黒井さんは腕を組み、私に呼ばれた理由について問いかけてくる。

「ねえ、伊藤さん。私が呼ばれたってことは、次の対戦相手はお姉さまってことでよろしいですの?」
「あっ! ダメだよ、黒井さん! 空気読んで! 議長である私が宣言しようと思ってたのに!」
「はいはい、それは申し訳ありませんでしたわ」

 全然謝罪の気持ちがないよ!
 私の文句を黒井さんは肩をすくめ聞き流している。私と黒井さんが睨みあっていると、長尾先輩が間に入る。

「まあまあ黒井氏、落ち着きなよ。次の相手は御堂か。黒井氏も協力できることがあればしてあげようよ」
「……今回だけですわよ」
「……よろしくお願いします」

 本当にごめんね、黒井さん。
 黒井さんにとって、御堂先輩は尊敬すべき先輩でパートナー。
 なのに、御堂先輩を裏切るような行為を黒井さんにお願いするのは、気が引けてしまう。
 でも、御堂先輩の攻略には黒井さんの協力が不可欠ふかけつ。胸の奥にある罪悪感を押し殺し、話を進める。

「それで、お姉さま相手にどうするおつもりですの? 勝てる算段さんだん……を今から相談するのでしたわね」
「いえ。勝てる算段はあります!」

 断言する私に黒井さんが本気で睨みつけてくる。何様ですのって視線で訴えてくる。
 ちょ! 怖い、怖いよ、黒井さん!
 私は長尾先輩の背中にすぐさま隠れる。長尾先輩は苦笑しつつ、黒井さんをなだめてくれる。

「黒井氏、言っちゃなんだけど、御堂に勝つなら学力勝負で楽勝じゃん。保健体育の筆記でも勝てるでしょ」
「それはそうですが……」
「認めちゃうんだ」

 学力勝負では私が勝てることを、黒井さんは肩をすくめて同意する。
 御堂先輩ってやっぱりテストは弱いんだ。

「ほのほの、やったね」
「勝てるし」

 るりかたちは喜んでいるけど、私は学力で勝負する気にはなれなかった。

「……たぶん無理。御堂先輩が学力勝負を受けてくれないと思う。それにこれから先の対決に御堂先輩の力が必要になるから、なるべくお互い納得いくような戦いで勝ちたいの。そこで、お二人の力を借りたいんです! お願いします!」

 私は頭を下げて、あらためて黒井さんと長尾先輩にお願いした。この二人の力を借りれば勝てると信じている。

「なるほど、三人がかりでる気ね!」
「他力本願だし!」

 いやいや、その考えはおかしいから! たぶん、そんなことをしたら、私が真っ先に殺されちゃう!
 RPGでボス戦はHPの一番低いモブが最初に殺される法則、知らないの?

「違いますから! 長尾先輩の件は、私じゃあ本気にさせることができないから獅子王先輩に頼んだだけ! これから先は私が対決するの! 二人にお願いしたいことは、黒井さんには審判を、長尾先輩にはアドバイスをいただきたいんです」

 この意見に黒井さんと長尾先輩が驚いた顔をしている。

「私が審判?」
「アドバイス? 伊藤氏がやるの?」

 私は頷いてみせる。

「そりゃそうですよ。御堂先輩は真っ直ぐなお人ですからね。代理では納得してくれないですよ。私自身の力で勝たないと」

 そう、これは私の勝負。
 私一人では先輩達に勝てない。だけど、みんなの力を借りることさえできれば、勝機は見えてくるはず。
 本当は自分一人の力で勝ちたい。でも、非力な私にはそれができない。
 人の力を借りないと何もできない私だけど、それでも、譲れないものがある。その為に、私はもう逃げない。

「ほのほの……成長したね」
「感動したし!」

 明日香とるりかがハンカチで涙をふくフリをしている。
 ちょっと! 二人は私のママンか! しかも、演技くさい! 涙が出ていない! 目薬お貸ししましょうか!
 長尾先輩もいるんだから恥ずかしい真似まねしないでよ!

「長尾先輩、確認したいことがあるんです」

 私は前から気になっていたことを話してみた。きっと、そのことが御堂先輩に勝てる可能性があるものだと確信している。
 私の話に長尾先輩が目を丸くしている。

「よく知ってたね。御堂と揉めたとき、コレで勝負して決めてるんだけど」
「やっぱり。ねえ、黒井さんは気づいてた?」

 御堂先輩の事をよく知る黒井さんにも確認してみる。

「知ってましたわ。私は使ってませんけど、まさか……」
「そのまさかです。その方法で御堂先輩に勝ちにいきます! 黒井さんには公平な審判をお願いしたいんです!」

 私の案に黒井さんは呆れた顔をしている。

「公平とは聞いて呆れますわね」
「お願い! 相手の弱点を突くのは卑怯ひきょうじゃないでしょ! 基本でしょ!」

 黒井さんは私の策について、考え込んでいたけど、あきらめたようにため息をつく。

「まあ……卑怯ではありませんわね。分かりましたわ。それなら、お受けしますわ」
「ありがとう、黒井さん!」
「暑苦しい……」

 私は嬉しくて黒井さんに抱きつく。黒井さんは迷惑そうに抱きつかれたままになっている。

「長尾先輩。御堂先輩のアレの必勝法ひっしょうほう伝授でんじゅしてもらえませんか?」
「ううん……これって正道と左近と僕で共有している情報資産だしね。僕の一存で決めかねるよ」

 長尾先輩は渋ってうなずいてくれない。でも、これを伝授してもらわないと勝てない。私は必死になって長尾先輩に頼み込む。

「お願いします! なにとぞ伝授を!」
「……御堂にバラさないって誓える?」
「天地神明にかけて! バラしたら、私が持っている秘蔵のBL本、全て燃やします!」
「……分かったよ。伊藤氏には借りもあるしね。ちょっと練習が必要だけど、伊藤氏なら大丈夫だよ」

 私の熱意が伝わったのか、長尾先輩は頷いてくれた。嬉しくて、長尾先輩の手を両手で握る。

「やった! 愛してます! 長尾先輩!」
「抱きついてはくれないの?」
「手を握ることで我慢してください」

 これで準備が整った。私は打倒だとう御堂先輩にむけて、長尾先輩との特訓が始まった。
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