190 / 544
十六章
十六話 ホオズキ -偽り- その四
しおりを挟む
「僕は中性的な顔立ちだから、よく女の子に間違えられたり、からかわれたりして……友達がいませんでした。こんな容姿だから仕方ないって思っていました。本当は人付き合いが苦手で、臆病なだけなのに、言い訳ばかりして、自分は悪くないって言い聞かせていました。僕にはもう友達ができないって思いこんでいました。そんな自分がこの世界で一番嫌いでした。獅子王先輩に会うまでは」
女の子顔負けの、綺麗な顔立ちの為に孤立してきた古見君。二人は立場も環境も違うけど、孤独だったことは共通している。
女の子はみんな、綺麗でありたいと思っている。少しでも綺麗に見せたくて努力を続けている。
でも、努力を重ねても、かなわない人が出てくる。同性ならまだあきらめがつくけど、負けた相手が男の子だった場合、納得できるのか?
古見君のような女の子顔負けの綺麗な子に出会ったとき、嫉妬しないと言い切れるのか?
古見君のせいじゃないけど、それでも嫉妬してしまう。男の子からは女の子っぽいとからかわれ、女の子からは嫉妬される。
ただでさえ内気なのに、この環境が更に古見君を孤独に追い込んでしまった。
「僕はずっといじめられていて、ずっと悩んでいました。それを獅子王先輩がすぐに解決してくれました。圧倒的な力で。最初は憧れでした。獅子王先輩の強さをどうしたら手に入れることができるのか、それを知りたくて毎日会いにいきました。それが途中から、僕の事を認めて欲しいと思うようになりました。少しずつ、獅子王先輩が僕の相手をしてくれるようになって……それが嬉しくて……もしかしたら、あのときから、強さよりも獅子王先輩を求めていたのかもしれません。獅子王先輩に告白されたとき、最初に感じたのは嬉しい、そう思いました。でも、冷静に考えると、この気持ちが正しいのか、分かりませんでした」
同性愛の壁。
古見君達と知り合うまで、私はBLが好きだけど、同性愛が好きなわけじゃなかった。
明日香とるりかにはよくしてもらっているし、感謝しているけど、二人から告白されたら断るだろう。
自分の恋愛は男の子としたいって思うし、同性で好きになるのは、ブレーキがかかってしまい、躊躇してしまう。
嫌悪感を感じる人が大半だと思う。
それに自分が同性愛者だったとしても、相手も同性愛者とは限らない。相手に否定されるのが当たり前の反応。
否定されることは辛いことだと思う。好きな人ならなおさら。それゆえに苦しんた結果、二人は別れてしまった。
私はこんな結末、悲しすぎると思う。先輩を好きになって分かったの。好きな人に受け入れてもらえる喜びを、否定される哀しみを。
二人の想いを知ってしまったからには、無視できない。お互い想い合っているのなら、結ばれてほしい。
そう願うことは罪なの? もし、それが罪なら、誰が裁く権利があるの? きっと、誰にもない。
だから、私は古見君達を応援する。きっと、間違いなんかじゃない。
頑張れ、古見君!
「僕は自分が傷つくのが怖くて……同性愛を理由にして、獅子王先輩の告白を断りました。臆病だったんです。弱い僕には無理だって思い込むようになりました。でも、分かったんです。あの廃工場で、伊藤さんが教えてくれました。伊藤さんは格闘技の経験がないのに、それでも、不良達に啖呵を切って、僕の事を擁護してくれました。友達だって言ってくれました。僕は伊藤さんに酷いことを言ってしまったのに、それでも、庇ってくれた。本当の強さはまだ分かりませんけど、僕が憧れた強さを伊藤さんは体現してくれました。勇気を僕にくれました。ありがとう、伊藤さん」
古見君は私に笑いかけてくれた。その純粋な笑顔がこそばゆい。
私でも、誰かの力に、勇気を与えることができた。
それが嬉しいし、そのことに気づかせてくれた古見君に私こそ感謝している。
「伊藤さんがくれた勇気、無駄にしません。今度こそ、自分に言い訳せずに、自分の出した答えを貫き通します。獅子王先輩」
古見君は立ち上がり、獅子王先輩に向かって頭を下げた。
「こんな僕でよかったら付き合ってもらえませんか? 一度、断っておいて虫のいい話だってことは分かっています。それでも……それでも、僕は……僕は、獅子王先輩の事が好きです」
獅子王先輩が立ち上がり、不安げに立ち尽くす古見君に歩み寄ろうとしている。獅子王先輩の表情は、とても穏やか。今までに見たことがない、優しい笑顔。
本当に美しいって思った。これが愛なんだって見せつけられた。
羨ましい……。
獅子王先輩の手が古見君の肩に触れようとしたとき。
「本当にそれでいいのですか?」
先輩が待ったをかける。これはいつもの空気が読めない行動じゃない。
これが一般的な行動。疑問。常識。
先輩は同性愛の現実をたたきつける。
「同性愛はこの学園でも、世間でも認められていません。大半の人は嫌悪感を持つでしょう。そのせいで、どれだけの人が迷惑をこうむるのか、お二人自身も不幸な目にあうことを知っているのではありませんか?」
二人でなくても、私だって知っている。お互いの気持ちに気づくまでに、どれだけ辛い道を二人が歩んできたのか、間近で見てきた。
古見君は同級生に馬鹿にされ、嫌がらせを受けた。ボクシング部の顧問に注意され、神木さんに脅された。幼なじみである滝沢さんに騙された。
獅子王先輩は海外遠征の件で古見君と別れろと迫られた。獅子王財閥の圧力で退学させられそうになっている。
二人だけでなく、古見君の幼なじみである滝沢さんも辛い目にあった。
古見君に想いを寄せていた滝沢さんは、獅子王先輩に嫉妬し、事件を起こした。許されない行為だけど、退学はやり過ぎだと思う。
やり直す機会すら与えられずに問答無用で退学になるなんて、今でも私は学園側の決断は間違っているとしか思えない。
まだ付き合ってもいないのにこれだけの苦難が待ち受けていた。付き合うとなると、もっと過酷なことが待っているのかもしれない。
その先にあるものが必ずハッピーエンドとは限らない。別れてしまう可能性の方が高い。
それならば、二人が付き合うことに意味はあるの? 痛みを伴うのであれば、最初から別れてしまった方が良いのでは?
第三者である私でも、悲鳴を上げたいくらい不安だった。二人はもっと心細いと思う。
先輩はきっと、意地悪で言っているわけではないと思う。二人が最も傷つかない方法をとるように説得したいはず。
「同性愛が正しいのかどうかは、正直俺には分かりかねます。ですが、お二人のお付き合いは周りを巻き込み、不幸にしていくだけです。それでいいのですか?」
先輩の問いに、獅子王先輩は躊躇なく答える。
「誰が不幸になろうが俺様には関係ねえ。そもそも、他のヤツらが不幸にならないかわりに、なんで俺様と古見が不幸にならなきゃいけないんだ? 俺様は顔も知らない誰かの幸せのために生きているんじゃねえ。自分と古見の幸せの為に行動しているんだ。他がどうなろうと知ったことか」
獅子王先輩の発言に、先輩は目を細めて睨みつける。不良達を威嚇するような鋭い目つき。
先輩に睨まれても、獅子王先輩の表情は全く変わらない。
「他というのは伊藤も含まれているのですか? 二人の為に頑張ってきた女の子がどうなろうと知ったことではないと」
「はあ……」
獅子王先輩は面倒くさそうに髪を乱暴にかき、ため息をついた。
女の子顔負けの、綺麗な顔立ちの為に孤立してきた古見君。二人は立場も環境も違うけど、孤独だったことは共通している。
女の子はみんな、綺麗でありたいと思っている。少しでも綺麗に見せたくて努力を続けている。
でも、努力を重ねても、かなわない人が出てくる。同性ならまだあきらめがつくけど、負けた相手が男の子だった場合、納得できるのか?
古見君のような女の子顔負けの綺麗な子に出会ったとき、嫉妬しないと言い切れるのか?
古見君のせいじゃないけど、それでも嫉妬してしまう。男の子からは女の子っぽいとからかわれ、女の子からは嫉妬される。
ただでさえ内気なのに、この環境が更に古見君を孤独に追い込んでしまった。
「僕はずっといじめられていて、ずっと悩んでいました。それを獅子王先輩がすぐに解決してくれました。圧倒的な力で。最初は憧れでした。獅子王先輩の強さをどうしたら手に入れることができるのか、それを知りたくて毎日会いにいきました。それが途中から、僕の事を認めて欲しいと思うようになりました。少しずつ、獅子王先輩が僕の相手をしてくれるようになって……それが嬉しくて……もしかしたら、あのときから、強さよりも獅子王先輩を求めていたのかもしれません。獅子王先輩に告白されたとき、最初に感じたのは嬉しい、そう思いました。でも、冷静に考えると、この気持ちが正しいのか、分かりませんでした」
同性愛の壁。
古見君達と知り合うまで、私はBLが好きだけど、同性愛が好きなわけじゃなかった。
明日香とるりかにはよくしてもらっているし、感謝しているけど、二人から告白されたら断るだろう。
自分の恋愛は男の子としたいって思うし、同性で好きになるのは、ブレーキがかかってしまい、躊躇してしまう。
嫌悪感を感じる人が大半だと思う。
それに自分が同性愛者だったとしても、相手も同性愛者とは限らない。相手に否定されるのが当たり前の反応。
否定されることは辛いことだと思う。好きな人ならなおさら。それゆえに苦しんた結果、二人は別れてしまった。
私はこんな結末、悲しすぎると思う。先輩を好きになって分かったの。好きな人に受け入れてもらえる喜びを、否定される哀しみを。
二人の想いを知ってしまったからには、無視できない。お互い想い合っているのなら、結ばれてほしい。
そう願うことは罪なの? もし、それが罪なら、誰が裁く権利があるの? きっと、誰にもない。
だから、私は古見君達を応援する。きっと、間違いなんかじゃない。
頑張れ、古見君!
「僕は自分が傷つくのが怖くて……同性愛を理由にして、獅子王先輩の告白を断りました。臆病だったんです。弱い僕には無理だって思い込むようになりました。でも、分かったんです。あの廃工場で、伊藤さんが教えてくれました。伊藤さんは格闘技の経験がないのに、それでも、不良達に啖呵を切って、僕の事を擁護してくれました。友達だって言ってくれました。僕は伊藤さんに酷いことを言ってしまったのに、それでも、庇ってくれた。本当の強さはまだ分かりませんけど、僕が憧れた強さを伊藤さんは体現してくれました。勇気を僕にくれました。ありがとう、伊藤さん」
古見君は私に笑いかけてくれた。その純粋な笑顔がこそばゆい。
私でも、誰かの力に、勇気を与えることができた。
それが嬉しいし、そのことに気づかせてくれた古見君に私こそ感謝している。
「伊藤さんがくれた勇気、無駄にしません。今度こそ、自分に言い訳せずに、自分の出した答えを貫き通します。獅子王先輩」
古見君は立ち上がり、獅子王先輩に向かって頭を下げた。
「こんな僕でよかったら付き合ってもらえませんか? 一度、断っておいて虫のいい話だってことは分かっています。それでも……それでも、僕は……僕は、獅子王先輩の事が好きです」
獅子王先輩が立ち上がり、不安げに立ち尽くす古見君に歩み寄ろうとしている。獅子王先輩の表情は、とても穏やか。今までに見たことがない、優しい笑顔。
本当に美しいって思った。これが愛なんだって見せつけられた。
羨ましい……。
獅子王先輩の手が古見君の肩に触れようとしたとき。
「本当にそれでいいのですか?」
先輩が待ったをかける。これはいつもの空気が読めない行動じゃない。
これが一般的な行動。疑問。常識。
先輩は同性愛の現実をたたきつける。
「同性愛はこの学園でも、世間でも認められていません。大半の人は嫌悪感を持つでしょう。そのせいで、どれだけの人が迷惑をこうむるのか、お二人自身も不幸な目にあうことを知っているのではありませんか?」
二人でなくても、私だって知っている。お互いの気持ちに気づくまでに、どれだけ辛い道を二人が歩んできたのか、間近で見てきた。
古見君は同級生に馬鹿にされ、嫌がらせを受けた。ボクシング部の顧問に注意され、神木さんに脅された。幼なじみである滝沢さんに騙された。
獅子王先輩は海外遠征の件で古見君と別れろと迫られた。獅子王財閥の圧力で退学させられそうになっている。
二人だけでなく、古見君の幼なじみである滝沢さんも辛い目にあった。
古見君に想いを寄せていた滝沢さんは、獅子王先輩に嫉妬し、事件を起こした。許されない行為だけど、退学はやり過ぎだと思う。
やり直す機会すら与えられずに問答無用で退学になるなんて、今でも私は学園側の決断は間違っているとしか思えない。
まだ付き合ってもいないのにこれだけの苦難が待ち受けていた。付き合うとなると、もっと過酷なことが待っているのかもしれない。
その先にあるものが必ずハッピーエンドとは限らない。別れてしまう可能性の方が高い。
それならば、二人が付き合うことに意味はあるの? 痛みを伴うのであれば、最初から別れてしまった方が良いのでは?
第三者である私でも、悲鳴を上げたいくらい不安だった。二人はもっと心細いと思う。
先輩はきっと、意地悪で言っているわけではないと思う。二人が最も傷つかない方法をとるように説得したいはず。
「同性愛が正しいのかどうかは、正直俺には分かりかねます。ですが、お二人のお付き合いは周りを巻き込み、不幸にしていくだけです。それでいいのですか?」
先輩の問いに、獅子王先輩は躊躇なく答える。
「誰が不幸になろうが俺様には関係ねえ。そもそも、他のヤツらが不幸にならないかわりに、なんで俺様と古見が不幸にならなきゃいけないんだ? 俺様は顔も知らない誰かの幸せのために生きているんじゃねえ。自分と古見の幸せの為に行動しているんだ。他がどうなろうと知ったことか」
獅子王先輩の発言に、先輩は目を細めて睨みつける。不良達を威嚇するような鋭い目つき。
先輩に睨まれても、獅子王先輩の表情は全く変わらない。
「他というのは伊藤も含まれているのですか? 二人の為に頑張ってきた女の子がどうなろうと知ったことではないと」
「はあ……」
獅子王先輩は面倒くさそうに髪を乱暴にかき、ため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる