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最終章
最終話 スカビオサ -私はすべてを失った-
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「ほのかさん……」
「サッキー……こんにちは」
「ほのかさん、大丈夫なんですか?」
風紀委員室で出迎えてくれたサッキーに、私は弱々しく笑う。
古見君達の話し合いから三日が過ぎ、その間、私は先輩にフラれたショックで寝込んでしまった。
話し合いの翌日が週末で本当に良かった。
土日の間はずっと泣いていた。失恋した痛みに必死に耐えていた。本当は何もしたくなかったけど、それは許されないと思ったから。
私の恋愛に古見君達を巻き込んでしまった。その責任はとらないといけない。だから風紀委員室にいる。
私は不安を抱えながらも橘先輩に話し合いの結果を聞き出す。
「橘先輩」
「元気……そうじゃあないみたいだね。休んでいてもいいんだよ」
「お気遣い、感謝します。話し合いはどうなりました?」
聞かなければならない。古見君達の決断を。
きっと、失敗だよね。あの二人を擁護する人はいない。私はもう信じてもらえない。それがすごく悲しい。
邪魔者がいないから、橘先輩はきっと二人を諭したはず。
ごめんね、古見君、獅子王先輩……本当にごめんね……。
「二人は付き合うことになったよ」
「はぃ?」
「だから、お付き合いすることになったってこと」
あははっ、よかった。
肩の荷がとれたような気分。私は何もしてないけど。そう、何もできなかった。
でも、嬉しい。素直にそう思った。
「どう? 楽になれた?」
橘先輩に心の中を見透かされたような気分になり、黙ってしまう。
伊藤さんのせいで二人が別れずに済んでよかったね。
そう言われているような気がして、気分が沈んでいく。
「さて、これで伊藤さんの勝ちだね」
勝ち? 何の事?
何を言われたのか理解できない私に、橘先輩は苦笑している。
「正道との勝負だよ」
……そっか。そうだった。すっかり忘れてた。
先輩の名前が出たとき、胸の奥がまた痛み出す。
ダメ……また涙がこぼれそうになる。私は目に力をこめ、必死に泣かないようにした。
「これで、残りは僕だけだね」
「橘先輩と……ですか?」
「そうだよ。せっかくここまで頑張ったんだから、やる気になってよ」
私はうなずいてみせたけど、全然力がこもっていない。ぽっかりと私の中で何か失った無気力感で体が気怠い。
それでも、やらなくっちゃ。二人の為に。
今度は間違えないようにしなきゃ。
「何で勝負するのですか?」
「僕が決めていいの?」
「いいですよ」
ただでさえ橘先輩は手強いのに、私は勝負の内容を任せている。
もう、どうでもいい。出たとこ勝負。
「それなら、勝負の内容を発表するよ」
どんな勝負内容なんだろう?
でも、いっか。どうせ、勝ち目ないんだし。でも、頑張らなきゃ。
頑張るって何を? 獅子王先輩と古見君に私の醜さを露呈してしまい、もう信用してもらえないのに。
私は二人に酷いことをしてしまった。そんな私が何の役に立つの?
それに……それに……先輩が私の事を好きになってもらえないなら、そもそも、風紀委員に所属する意味なんてないよね……だったら、すべてを投げ出してしまいたい……もう、傷つきたくない……そうするべきだよね? だって……。
センパイトイッショニイラレナイノナラ、ジカンノムダダヨネ……。
私は心の声を必死に聞こえないふりをして、橘先輩の言葉を待った。
「青島祭終了までに二人の関係が続くかどうか。続けば伊藤さんの勝ち。続かなければ僕の勝ち。これでいいよね? ハンデとして、風紀委員は伊藤さんに協力する方向でいくから」
「わ、私にですか?」
「そう。僕は立場上、二人を直接応援するわけにはいかないけど、伊藤さんなら話は別でしょ。今まで通り頑張って。僕達も陰ながら応援するから」
橘先輩の提案に、私はどう反応していいのか、分からなかった。
このとき、私はもっと考えるべきだった。なぜ、古見君と獅子王先輩がこんなにも簡単に付き合うことになったのか。
なぜ、橘先輩は二人の仲を認めたのか。
この時点で気づいていたら、もっと違う未来があったのかもしれない。
でも、先輩に振られた私に、そんなことを考える余裕なんてなかった。
-To be continued-
「サッキー……こんにちは」
「ほのかさん、大丈夫なんですか?」
風紀委員室で出迎えてくれたサッキーに、私は弱々しく笑う。
古見君達の話し合いから三日が過ぎ、その間、私は先輩にフラれたショックで寝込んでしまった。
話し合いの翌日が週末で本当に良かった。
土日の間はずっと泣いていた。失恋した痛みに必死に耐えていた。本当は何もしたくなかったけど、それは許されないと思ったから。
私の恋愛に古見君達を巻き込んでしまった。その責任はとらないといけない。だから風紀委員室にいる。
私は不安を抱えながらも橘先輩に話し合いの結果を聞き出す。
「橘先輩」
「元気……そうじゃあないみたいだね。休んでいてもいいんだよ」
「お気遣い、感謝します。話し合いはどうなりました?」
聞かなければならない。古見君達の決断を。
きっと、失敗だよね。あの二人を擁護する人はいない。私はもう信じてもらえない。それがすごく悲しい。
邪魔者がいないから、橘先輩はきっと二人を諭したはず。
ごめんね、古見君、獅子王先輩……本当にごめんね……。
「二人は付き合うことになったよ」
「はぃ?」
「だから、お付き合いすることになったってこと」
あははっ、よかった。
肩の荷がとれたような気分。私は何もしてないけど。そう、何もできなかった。
でも、嬉しい。素直にそう思った。
「どう? 楽になれた?」
橘先輩に心の中を見透かされたような気分になり、黙ってしまう。
伊藤さんのせいで二人が別れずに済んでよかったね。
そう言われているような気がして、気分が沈んでいく。
「さて、これで伊藤さんの勝ちだね」
勝ち? 何の事?
何を言われたのか理解できない私に、橘先輩は苦笑している。
「正道との勝負だよ」
……そっか。そうだった。すっかり忘れてた。
先輩の名前が出たとき、胸の奥がまた痛み出す。
ダメ……また涙がこぼれそうになる。私は目に力をこめ、必死に泣かないようにした。
「これで、残りは僕だけだね」
「橘先輩と……ですか?」
「そうだよ。せっかくここまで頑張ったんだから、やる気になってよ」
私はうなずいてみせたけど、全然力がこもっていない。ぽっかりと私の中で何か失った無気力感で体が気怠い。
それでも、やらなくっちゃ。二人の為に。
今度は間違えないようにしなきゃ。
「何で勝負するのですか?」
「僕が決めていいの?」
「いいですよ」
ただでさえ橘先輩は手強いのに、私は勝負の内容を任せている。
もう、どうでもいい。出たとこ勝負。
「それなら、勝負の内容を発表するよ」
どんな勝負内容なんだろう?
でも、いっか。どうせ、勝ち目ないんだし。でも、頑張らなきゃ。
頑張るって何を? 獅子王先輩と古見君に私の醜さを露呈してしまい、もう信用してもらえないのに。
私は二人に酷いことをしてしまった。そんな私が何の役に立つの?
それに……それに……先輩が私の事を好きになってもらえないなら、そもそも、風紀委員に所属する意味なんてないよね……だったら、すべてを投げ出してしまいたい……もう、傷つきたくない……そうするべきだよね? だって……。
センパイトイッショニイラレナイノナラ、ジカンノムダダヨネ……。
私は心の声を必死に聞こえないふりをして、橘先輩の言葉を待った。
「青島祭終了までに二人の関係が続くかどうか。続けば伊藤さんの勝ち。続かなければ僕の勝ち。これでいいよね? ハンデとして、風紀委員は伊藤さんに協力する方向でいくから」
「わ、私にですか?」
「そう。僕は立場上、二人を直接応援するわけにはいかないけど、伊藤さんなら話は別でしょ。今まで通り頑張って。僕達も陰ながら応援するから」
橘先輩の提案に、私はどう反応していいのか、分からなかった。
このとき、私はもっと考えるべきだった。なぜ、古見君と獅子王先輩がこんなにも簡単に付き合うことになったのか。
なぜ、橘先輩は二人の仲を認めたのか。
この時点で気づいていたら、もっと違う未来があったのかもしれない。
でも、先輩に振られた私に、そんなことを考える余裕なんてなかった。
-To be continued-
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