220 / 544
第四部 愛しいキミの為に私ができること 前編
プロローグ ハナニラ -別れの悲しみ-
しおりを挟む
◎◎◎
「……辛いんだ……この国にいること……アイツのことを思い出してしまうから……」
驚きだった。彼女がそこまで彼のことを愛していたなんて……。
彼女の頬を伝う涙が、彼女がどれだけ彼を愛していたのかを否応無く思い知らされる。愛おしい人を想って流す涙は純粋で、美しいとさえ思った。
でも、その涙は僕のためではなく、他の男を想っての涙。
憎い……。
僕は初めて人を憎んだ。こんな醜い感情が僕の中にあったなんて、知らなかった。
でも、今は彼女の涙を止めたい。ずっと彼女を想ってきた僕こそが……。
「ねえ、僕が代わりになれないかな? 僕なら絶対にキミを悲しませないから……ずっと、そばにいるから……だから……」
「やめてくれ! 誰にも……アイツの……代わりなんてなれないんだ!」
どうして……。
彼女の涙を止められない……。
今も悲しみに打ちひしがれ、ぽろぽろと涙を流す彼女に、僕は何も出来ない。その現実で胸が張り裂けそうになる。
彼女に伸ばした手はそのまま動けずにいた。すぐそばに彼女はいるのに、手を伸ばす勇気が持てなかった。
自分の無力さに、今まで何もしてこなかったことに、僕は自分を呪った。
そして、タイムリミットがやってきた。
アナウンスが流れ、別れの時間がやってくる。それなのに、僕は何も言えずに、ただ黙っていた。
「……さようなら」
その一言を残して、彼女は僕の元から去っていった。僕は何もできずにただゲートの前で立ち尽くしていた。一歩、また一歩、彼女との距離が離れていく。
いかないで……その一言さえ言えないまま、彼女の姿は見えなくなっていった。
これでおしまい。彼女はもうここにはいない。手の届かない場所へと行ってしまった。
「……」
こんなはずではなかった。
遠ざかっていく彼女に僕は何もできなかった。
僕は彼女が好きだ。愛していた。でも、彼女には好きな人がいた。
だから身を引いたんだ。彼女の幸せを願って……なのに、結果がこれか?
僕も彼女も想いは報われず、宙をさまよっている。何が正しかったのか……答えなんかわからない。
だから、ずっと同じ場所に立ち尽くしている。でも、時間は流れていく……僕達を置き去りにしたまま……。
夏の終わりの残暑も今は見る影もなく、季節は冬になろうとしている。
これからも、僕はこの季節になったら思い出すのだろうか? 彼女の笑顔を……彼女の泣いた顔を……。
空港を出て、空を見上げると飛行機が空へと飛び上がってる。あそこに彼女がいる。手が届かない場所へいってしまった。
何も感じなかった。涙も出なかった。心に穴が空いたような虚無感だけがそこにあった。
ただ一人、僕は立ち尽くしていた。
◎◎◎
「……辛いんだ……この国にいること……アイツのことを思い出してしまうから……」
驚きだった。彼女がそこまで彼のことを愛していたなんて……。
彼女の頬を伝う涙が、彼女がどれだけ彼を愛していたのかを否応無く思い知らされる。愛おしい人を想って流す涙は純粋で、美しいとさえ思った。
でも、その涙は僕のためではなく、他の男を想っての涙。
憎い……。
僕は初めて人を憎んだ。こんな醜い感情が僕の中にあったなんて、知らなかった。
でも、今は彼女の涙を止めたい。ずっと彼女を想ってきた僕こそが……。
「ねえ、僕が代わりになれないかな? 僕なら絶対にキミを悲しませないから……ずっと、そばにいるから……だから……」
「やめてくれ! 誰にも……アイツの……代わりなんてなれないんだ!」
どうして……。
彼女の涙を止められない……。
今も悲しみに打ちひしがれ、ぽろぽろと涙を流す彼女に、僕は何も出来ない。その現実で胸が張り裂けそうになる。
彼女に伸ばした手はそのまま動けずにいた。すぐそばに彼女はいるのに、手を伸ばす勇気が持てなかった。
自分の無力さに、今まで何もしてこなかったことに、僕は自分を呪った。
そして、タイムリミットがやってきた。
アナウンスが流れ、別れの時間がやってくる。それなのに、僕は何も言えずに、ただ黙っていた。
「……さようなら」
その一言を残して、彼女は僕の元から去っていった。僕は何もできずにただゲートの前で立ち尽くしていた。一歩、また一歩、彼女との距離が離れていく。
いかないで……その一言さえ言えないまま、彼女の姿は見えなくなっていった。
これでおしまい。彼女はもうここにはいない。手の届かない場所へと行ってしまった。
「……」
こんなはずではなかった。
遠ざかっていく彼女に僕は何もできなかった。
僕は彼女が好きだ。愛していた。でも、彼女には好きな人がいた。
だから身を引いたんだ。彼女の幸せを願って……なのに、結果がこれか?
僕も彼女も想いは報われず、宙をさまよっている。何が正しかったのか……答えなんかわからない。
だから、ずっと同じ場所に立ち尽くしている。でも、時間は流れていく……僕達を置き去りにしたまま……。
夏の終わりの残暑も今は見る影もなく、季節は冬になろうとしている。
これからも、僕はこの季節になったら思い出すのだろうか? 彼女の笑顔を……彼女の泣いた顔を……。
空港を出て、空を見上げると飛行機が空へと飛び上がってる。あそこに彼女がいる。手が届かない場所へいってしまった。
何も感じなかった。涙も出なかった。心に穴が空いたような虚無感だけがそこにあった。
ただ一人、僕は立ち尽くしていた。
◎◎◎
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる