風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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二十章

二十話 サボテン -燃える心- その四

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「はあ……」

 頬杖をついて出てくるのはため息ばかり……。
 昨日の事を考えていると、もう放課後になってしまった。
 ゴールデン青島賞、浪花先輩の告白の事もあるけど、やっぱり気になるのは馬淵先輩の事。
 馬淵先輩と先輩の関係って? 馬淵先輩の先輩を見る目は、すごく怖くて恐ろしいものだった。

 さぐりを入れてみたけど、馬淵先輩の噂は大体が同じ。成績優秀、容姿端麗、誰にでも優しく、笑顔で爽やかな人。
 先輩も成績優秀、容姿は強面こわもてだけど体格はいい。真面目で融通が利かないから友達が少ない。

 社交的な馬淵先輩と真面目で頑固な先輩。
 そんな対極的な二人の接点がさっぱり分からない。分からない……分からないよ~気になるよ~。

「ほのほの、どうかしたの?」
「……みんな仲良くが一番だって思って」

 るりかの問いに私はため息をつきながら答えた。
 みんなと仲良くする。それは群れてなければ何もできない、一人では何もできない、個性がないと言う人はいるけど、私は群れるのはそんなに悪くはないと思う。
 確かにわずらわしいところはあるけど、どんなことにもメリット、デメリットはある。

 群れることのメリットとしては、いいこと、悪いことを共感できること。
 それに一人ではできないことも二人ならできることもある。逆もあるんだけど、それでも、仲良くは大切だと思う。

 いじめがきっかけでみんなと広く浅く仲良くなったけど、作り笑いを浮かべていたけど、それでも、無駄だったとは思っていない。
 色んな人と知り合えるのは嬉しいし、噂話を共有するのは楽しい。
 それに、獅子王さんの事でいろんな人たちに助けてもらった。だから、人とのつながりはとても大切なんだって痛感している。

 苦しい時にだけ助けてもらおうだなんて、それは友達以前の問題で、普段からのやりとりや小さな助け合いが、きっと大切なんだって思うようになった。
 先輩の事を意識し始めたあの雨の日、先輩に人付き合いについて悩みを告白したけど、今はそこまで苦じゃない。
 むしろ、楽しくなってきた。仲間、ズッ友、どんとこい。
 馬淵先輩と先輩の間に何があるのか分からないけど、争うようなことはしてほしくない。

「何? また風紀委員ともめてるし?」
「違うよ。実はね……」

 私は明日香とるりかに話した。馬淵先輩達と先輩のことは告げずに、私の知り合いがという話で聞いてもらった。
 私の知り合いAさん(獅子王さん)がゴールデン青島賞を狙っていること。
 Aさんを応援したいんだけど、また違う知り合いBさん(馬淵先輩)がゴールデン青島賞を狙っていて、私に協力を求めてきたこと。
 AさんとBさんで板ばさみになっていて困っていること。
 Bさんが私と一番仲のいい人Cさん(先輩)をよく思っていなくて、なぜかを知りたいこと。
 話し終えると、明日香達は同じくため息をついた。

「ほのか、いい加減にするし。古見君達のことがあるんだから、放っておくし。みんな仲良くは無理だし」
「私もそう思う。あまり人様の事情に首を突っ込むのはやめたほうがいいよ。今は古見君達のことだけを考えた方がいい」
「そうだよね」

 私は机にうつぶせになる。獅子王さんの事は相談に乗ってもらっているからバレてるけど、馬淵先輩の事はバレてないよね?
 やっぱり、みんな仲良くは無理だよね。でも、あの馬淵先輩の目、とても気になる。
 あの怨念おんねんと言ってもいいくらいの鋭い目つきが忘れられない。

「でも、獅子王さんも大胆だし。今回はゴールデン青島賞を狙っている部は多いし。部やクラスだって頑張ってるし」
「……なんで?」

 るりかが私の机に座り、説明してくれる。

「運動部系は余所との交流試合を兼ねてるから。本土のヤツらには負けられないって」
「……バカらしい。島人の劣等感じゃない」

 青島は小さな島で、そこに住んでいる人、産まれた人のことを島人と呼ばれている。
 本土はそのままの意味で、島から来た人、日本列島に住んでいる人たちの事。
 青島って田舎だし、本土の人から見たら田舎者って思われていると島人は思い込んでいる。
 そのへんの事情から、本土の人間には負けられないって風潮があるみたい。
 私は島人だけど、そんなふうには思っていない。だから、理解できない。

「文化部は見せ場だからね。それが賞として結果が残せる以上、張り切りもするわよ」
「……それは理解できる」
「それと予算もあるからね」
「……世知辛せじがらいよね」

 結局はお金なの? 全然高校生らしくない! お金よりも大切なことってあるでしょ? もっと、青春しようよ……。
 はあ……やる気が売り切れるよ、まったく。

「たかが十万で、なんでそこまでやるのかな」

 十万は確かに大きいけど、あそこまでやる気を見せられるとドン引きしちゃう。特に家庭科部と文芸部! まあ、他にもありそうだけど。

「あれ? ほのほの、知らないの? 特別予算は十万じゃないわよ」
「えっ? そうだっけ?」

 やっぱり、違うのか……大体、特別予算が十万円なんて高いと思ってたんだよね。せいぜい一、二万くらいだよね。
 子供のお年玉かって言いたい。それなら尚更なおさらあそこまで頑張れるんだろう? マゾなの?

「じゃあ、いくらなの?」
「百万」
「……」

 お、おかしいな……疲れているのかな? 今、幻聴げんちょうが聞こえちゃったよ。
 私はゆっくりと深呼吸をする。
 ふう……落ち着いた。もう、大丈夫。

「ねえ、いくらだって?」
「百万」

 ……なんですと? 私の中で今、一瞬だけど時が止まった。百万……百万……百万!

「百万! 百万って百万円の事! 百万ドンじゃなくて!」
「ドンって何?」
「ベトナムのお金! それより、どういうこと! 桁が一つパワーアップしているじゃない!」
「く、苦しい……」

 私はるりかの襟首をつかみ、左右前後に振り続ける。
 どういうことなの! なんで百万なの! 何かのクイズ番組なの!

「ほのか、落ち着くし。創立三十周年ってことで百万らしいし」
「それなら三十万でしょ!」

 何がどうしたら三十周年が百万になっちゃうの! いや、別にそんなことはどうでもいいんだけど!
 問題は百万。確か、特別予算は使わなかったお金から出るはず。百万はありえない。どんな予算組みしてるの! おかしいでしょ!

「聞いた話だと、宝くじが当たったらしいし」
「た、宝くじ?」

 私はるりかを放り投げ、明日香に詰め寄る。

「そう。特別予算をもらった部が備品を購入したんだけど、そのとき、オマケで宝くじをもらったし。その宝くじが見事、百万を当てたし。その金額をまるまる今年の特別予算枠に入れたって話だし」
「それ、本当なの!」
「間違いないし。でも、百万円がもらえるわけではないし。あくまで賞をとった部かクラスがそのお金を使って備品とかを買うためのお金……って、ほのか?」
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