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二十二章
二十二話 キブシ -嘘- その一
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「いってきます!」
ご飯をお腹いっぱい食べてよく寝て、元気いっぱい。体調もすこぶる良好。
とりあえず、お見舞いに来てくれた古見君と浪花先輩、電話してくれた明日香とるりか、サッキー、園田先輩にお礼を言わなきゃ。先輩にもお礼を言わなきゃね。
足取りが軽い。不安もあるけど、頑張っていこう。
劇の朝練があるので早い時間帯に家を出た。通学路には誰もいない。校門についたとき、一人の女子生徒が目に入った。
浪花先輩……。
寒さに震えながら、両手に息をふうとはきかけながら立っている。はいた息が白くなって空へと消えていく。
誰かを待っているのかな? もしかして、私? 流石にそれはないか。自意識過剰だよね。
そう思っていたら、浪花先輩と目が合った。
浪花先輩がものすごい勢いで私に近づいてくる。
「ほのかクン!」
「きゃ!」
浪花先輩が私に抱きついてきた。いきなりのことで、棒立ちになってしまう。いつものセクハラ……ではなかった。
声を震わせて、
「よかった……よかった」
と、何度も言ってくれた。心配……してくれたんだ、私の事を。
みんなに迷惑をかけている私なんかを心配してくれることが嬉しくて、不覚にも泣きそうになった。勘弁してほしい。泣かないよう頑張ろうとした矢先なのに。
私はぎゅっと浪花先輩を抱きしめた。
「心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいんだ……いいんだよ、ほのかクン……キミさえ元気ならそれでいいんだ。本当にごめんね。あの夜、ボクはキミを泣かせてしまった。泣かせるつもりなんてなかったんだ」
「はい……私こそ、取り乱してすみませんでした。浪花先輩が私の為にしてくれたこと、感謝しています」
本当に感謝している。ここまで私の事を気遣ってくれて、愛してくれた人がいただろうか。
やっぱり、人から愛されるのは素晴らしいことだと思う。同性であってもそれは変わらない。
「でも、ごめんなさい。私、どうしても先輩の事が好きです。だから、浪花先輩の告白は受け入れられません」
「そっか……なら今回は諦めるよ」
浪花先輩がそっと私から離れる。ぬくもりが消えていくけど、私はそれを惜しまなかった。
以前、三人の男の子から告白されたことがあった。でも、その告白は私の事が好きというわけではなく、体目当ての下心満載の告白だった。
今まで告白なんてされたことがなかったから、頭が真っ白になり、その場で断ることが出来なかった。
その日の夜、私は考えた。どうするべきなのかと。
断るのは少し悪いかもと思ったし、三人の男の子をふって、周りの女の子の反感を買いたくない想いもあり、なかなか返事ができなかった。
だけど、あからさまに私の体に障ってくるし、下ネタばかり言う三人の男の子に私は嫌気がさしていた。
我慢の限界で三人の男の子の告白を断ろうとしたら、機嫌が悪くなって脅してきた。
そのすぐ後、私の返事を訊かずに、付き合っていることにされてしまった。
このとき私が学んだことは、好きでもない男の子から告白されたら即断る事だった。これは相手の為でなく、自分を防衛する為。
私の事を考えてくれないのなら、私だって考える必要はない。そう結論付けた。
でも、今回は違う。浪花先輩に対して誠実な態度をとりたいと思ったから、すぐに断った。あの三人と浪花先輩は違う。誠意には誠意で応えたい。
ははっ、男の子の告白よりも女の子からの告白の方が嬉しかったなんて、私の恋愛事情は変だよね。
それでも、素直に好意を受け入れることができたのは、古見君達を見てきたからだと思う。
「今回はってことはまだあきらめていないってことですか?」
「当たり前じゃない。好きになった人の事をそう簡単に諦められないよ。ボクって少女漫画の主人公みたいでしょ?」
確かに少女漫画の主人公は諦めずに頑張って恋を成就させている。
でもね、浪花先輩。少女漫画の主人公は女の子で、男の子との恋愛を頑張っているんですよ。
同性の恋愛を根性だして成就させる主人公なんて見たことがない。
どこかずれている発言に私は笑ってしまった。
「ほのかクン、このあと暇かい?」
「すみません。お見舞いに来てくれた人やメールしてくれた人にお礼を言いたいんです。浪花先輩は改めてお礼をしたいのですがよろしいですか?」
「期待してるよ。そうだ、ほのかクン。これだけは言わせてほしい。ほのかクンのことはボクが守るから」
「?」
守るってどういうこと? おおげさじゃない?
でも、浪花先輩が冗談でこんなことを言う人ではないことは知っている。目を見れば嘘じゃないことが分かる。
真剣なまなざしで、まるで誓いを立てる騎士みたいな凛々しさがある。
私は去っていく浪花先輩の後ろ姿をじっと見つめていた。
私がいつもより早く学園に来たのは、劇の練習に来るみんなを待つため。やっぱり、迷惑をかけたのだから、一番早く来て謝っておかないと。
練習場所には誰もいない。よかった、私が一番で。これで最後だったら合わせる顔がないよ。
ふと、浪花先輩はいつから学園に来ていたのかと今更ながら考えていた。
私は少しそわそわしていた。
誰が最初に来るのかな……って思ったら、あれ、三人とも一緒に来た。なんでだろう、少し疎外感を感じる。
そういえば、私がいつも最後でみんなはすでに来ていた。あれ? 私だけハブなの? みんなはいつも一緒なの? ショックなんですけど!
「アホ面してどうした、ほのか」
「そんな顔してません! おはようございます! 獅子王さん」
「おはよう、ほのっち。もう、体は大丈夫なの?」
「ご迷惑をおかけしました、園田先輩。それとお電話ありがとうございました!」
私は深く頭を下げた。園田先輩は手をふっていいよいいよって言ってくれた。
古見君と目があう。古見君に抱きついて弱音をはいたことを思い出し、急に気恥ずかしくなる。古見君もテレくさそうに目をそらす。
「おやおや~ほのっち、どうしたの? まさか、古見君と浮気? あんなことがあったのにお手が早いですな~」
「違います! 獅子王さんの恋人に手を出すほど命知らずではありませんよ」
「ふっ、わかってるじゃねえか」
獅子王さんが朝練の準備に入る。古見君が近寄ってきて、
「元気になってよかった」
「……うん。ありがとね、古見君」
そっと小声でやりとりをする。それが何か隠し事を共有しているみたいで、不謹慎だけど楽しい気分になっちゃう。
「さっさとやるぞ」
「獅子王先輩、マイペースだね。ほのっちが休んだこと、気にならないの?」
ちょっと、園田先輩!
せっかく何事もなく練習が始まろうとしているのに! 野次馬根性ださないでよ!
ちらっと獅子王先輩を見たけど、まるで興味がない態度をとっている。
「何かあれば話すだろ? だったら俺様から何も言うことはねえ」
「……ちなみに話したらどうしますか?」
「ケツを蹴っ飛ばして気合を入れさせる。それで充分だろう?」
獅子王さんがにやっと笑う。私はどう反応していいのか分からなかった。
獅子王さんらしい回答。本当に蹴られるかもしれないけど、真面目に聞いてくれそう。
園田先輩は肩をすくめ、手をぱんぱんと叩く。練習開始の合図。古見君と獅子王さんの読み合わせが始まった。
私は劇に必要な道具作成、雑務に取り掛かることにした。
一時間目が始まる前に明日香やるりか、サッキーにお詫びと感謝の気持ちを伝えた。三人とも笑顔で気にしないでと言ってくれたのが、とてもうれしかった。
美月さんが私に会いに来てくれて、何度も謝られた。こっちこそごめんと謝り、仲直り。
失恋した者同士、奇妙な友情が芽生え、メアドを交換して別れた。とりあえず、仲良くなれそうな人がいたらメアドを交換する、私の癖。
風紀委員の見回りも済ませ、クラスの出し物の手伝いをした後、馬淵先輩達の待つ多目的室へ向かう。
みんなはどうしているのかな? ちゃんと出し物の準備しているのかな?
これで何もしてなかったら、制裁を与えなければ……。
もう青島祭は近い。なのに、いつもの軽いノリだったら許せない。
ゴールデン青島賞をとるのがどれだけ大変なのか、馬淵先輩に教えてもらったから分かる。
本気でやらないととれないって。だから頑張ってほしい。
馬淵先輩はこの状況をどう思っているの? ゴールデン青島賞をとるのがどれだけ大変かは馬淵先輩が良く知っているはず。
なのに、あのノリをゆるしているのは何か理由があるの? それとも、何かゴールデン青島賞をとれる秘策があるとか?
なんだかんだ考えていたら多目的室についた。もうこの部屋に通うことが日課のようになってしまっていることに、つい苦笑してしまう。
さて、進捗状況はどうなっているのかなっと。
私は部屋のドアを開けた。
「こんにちは!」
「「「と、殿!」」」
あ、あれ? みんなが私の周りに集まってきた。心配そうな顔で私を見ている。心配されるようなことって……まさか!
もしかして、私が泣き寝入りしたことを知っている? どうして?
よくよく考えてみると、おかしい。
どうして私がユーノのことでまいっていたときに、タイミングよく浪花先輩が来てくれたの? それに泣き寝入りした当日に、古見君が訪ねてきたことも疑問を感じる。
明日香やるりかやサッキーは、私が休んだことを心配してくれて電話してくれた。最近の私の態度が気になって、気遣ってくれた。
でも、古見君は違った。失恋ならもっと前にしている。なのに、私が休んだ時、最初っから私に何があったのか、知っているかのように慰めてくれた。園田先輩も知っていたような口ぶりだったし。
誰かが情報を流している? だけど、何で? そんなことをして誰トクなの? それにモブの私の情報なんて必要なの? 意味が分からない。
これ以上考えても答えは出ない。なら、今の状況をどうするか考えないと。
目の前にいるみんなには正直に話すべきか、それとも誤魔化すべきか。
話す必要……なんてない。私と先輩のこと、ハーレム発言の事は彼らには無関係の事。
それよりも、みんなの為になることを考えなきゃ。それは出し物の準備を進めること。これだよね。
私は知らないふりをして接することにした。
「どうしたんですか、みなさん?」
「だって……」
「なあ……」
「昨日と一昨日は休んでしまって、すみませんでした。ちょっと体調不良で寝込んでいました。それよりも、ちゃんと青島祭の準備、進めていますか?」
「……」
部屋の中がシーンとなってしまう。私は絶句してしまう。
黙らないでよ。不安になるじゃない。
ここはひとつ怒ってみせて、真面目に頑張るよう、彼らに伝えるべきかな?
それとなく言っても通じないのは今までの経緯で分かっている。だから、怒って伝えないと彼らも本気で私の意見を聞いてくれないと思う。
彼らに嫌われても、それで出し物が進むのであればかまわない。幸い、私と彼らの関係は内緒になっているので噂にもならないはず。
男の子と仲違いして、周りの女の子から文句を言われることもない。
私が怒ってみせて、どこまで彼らの影響を与えられるかは分からないけど、そろそろ本気を出してもらわないと困る。
曖昧な態度をやめてもらわないと、青島祭まで間に合わなくなる。
出し物の準備が出来ずに無理でしたなんて、今も応援してくれている人達に申し訳ないもんね。
私は軽く息を吸い、怒って……。
「作詞と作曲はできている。一度確認してくれ」
「えっ?」
虚をつかれてしまい、怒るタイミングを失ってしまう。作詞と作曲をした紙を差し出してきたのは意外にも二上先輩だった。
その紙を手に取ってみると、楽譜と歌詞が書かれていた。
「す、すごい……二上先輩は作詞作曲をしたことがあるんですか?」
「ない。身内に詳しい者がいるから見よう見まねでやってみただけだ」
二上先輩がメガネをくいっと持ち上げる。私は顔が引きつるのを感じていた。
見よう見まねって……そんなんでできたら、作詞や作曲している人達は苦労しないと思うんだけど……。
ま、まあ、進んでいるのなら怒らなくてもいいよね。
「流石は二上君!」
「天才!」
「メガネかけていることはある!」
みんな称賛しているけど、メガネ関係ないじゃん。メガネ=頭いいは都市伝説のはず。それに一つ納得いかないことがある。それは……。
ご飯をお腹いっぱい食べてよく寝て、元気いっぱい。体調もすこぶる良好。
とりあえず、お見舞いに来てくれた古見君と浪花先輩、電話してくれた明日香とるりか、サッキー、園田先輩にお礼を言わなきゃ。先輩にもお礼を言わなきゃね。
足取りが軽い。不安もあるけど、頑張っていこう。
劇の朝練があるので早い時間帯に家を出た。通学路には誰もいない。校門についたとき、一人の女子生徒が目に入った。
浪花先輩……。
寒さに震えながら、両手に息をふうとはきかけながら立っている。はいた息が白くなって空へと消えていく。
誰かを待っているのかな? もしかして、私? 流石にそれはないか。自意識過剰だよね。
そう思っていたら、浪花先輩と目が合った。
浪花先輩がものすごい勢いで私に近づいてくる。
「ほのかクン!」
「きゃ!」
浪花先輩が私に抱きついてきた。いきなりのことで、棒立ちになってしまう。いつものセクハラ……ではなかった。
声を震わせて、
「よかった……よかった」
と、何度も言ってくれた。心配……してくれたんだ、私の事を。
みんなに迷惑をかけている私なんかを心配してくれることが嬉しくて、不覚にも泣きそうになった。勘弁してほしい。泣かないよう頑張ろうとした矢先なのに。
私はぎゅっと浪花先輩を抱きしめた。
「心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいんだ……いいんだよ、ほのかクン……キミさえ元気ならそれでいいんだ。本当にごめんね。あの夜、ボクはキミを泣かせてしまった。泣かせるつもりなんてなかったんだ」
「はい……私こそ、取り乱してすみませんでした。浪花先輩が私の為にしてくれたこと、感謝しています」
本当に感謝している。ここまで私の事を気遣ってくれて、愛してくれた人がいただろうか。
やっぱり、人から愛されるのは素晴らしいことだと思う。同性であってもそれは変わらない。
「でも、ごめんなさい。私、どうしても先輩の事が好きです。だから、浪花先輩の告白は受け入れられません」
「そっか……なら今回は諦めるよ」
浪花先輩がそっと私から離れる。ぬくもりが消えていくけど、私はそれを惜しまなかった。
以前、三人の男の子から告白されたことがあった。でも、その告白は私の事が好きというわけではなく、体目当ての下心満載の告白だった。
今まで告白なんてされたことがなかったから、頭が真っ白になり、その場で断ることが出来なかった。
その日の夜、私は考えた。どうするべきなのかと。
断るのは少し悪いかもと思ったし、三人の男の子をふって、周りの女の子の反感を買いたくない想いもあり、なかなか返事ができなかった。
だけど、あからさまに私の体に障ってくるし、下ネタばかり言う三人の男の子に私は嫌気がさしていた。
我慢の限界で三人の男の子の告白を断ろうとしたら、機嫌が悪くなって脅してきた。
そのすぐ後、私の返事を訊かずに、付き合っていることにされてしまった。
このとき私が学んだことは、好きでもない男の子から告白されたら即断る事だった。これは相手の為でなく、自分を防衛する為。
私の事を考えてくれないのなら、私だって考える必要はない。そう結論付けた。
でも、今回は違う。浪花先輩に対して誠実な態度をとりたいと思ったから、すぐに断った。あの三人と浪花先輩は違う。誠意には誠意で応えたい。
ははっ、男の子の告白よりも女の子からの告白の方が嬉しかったなんて、私の恋愛事情は変だよね。
それでも、素直に好意を受け入れることができたのは、古見君達を見てきたからだと思う。
「今回はってことはまだあきらめていないってことですか?」
「当たり前じゃない。好きになった人の事をそう簡単に諦められないよ。ボクって少女漫画の主人公みたいでしょ?」
確かに少女漫画の主人公は諦めずに頑張って恋を成就させている。
でもね、浪花先輩。少女漫画の主人公は女の子で、男の子との恋愛を頑張っているんですよ。
同性の恋愛を根性だして成就させる主人公なんて見たことがない。
どこかずれている発言に私は笑ってしまった。
「ほのかクン、このあと暇かい?」
「すみません。お見舞いに来てくれた人やメールしてくれた人にお礼を言いたいんです。浪花先輩は改めてお礼をしたいのですがよろしいですか?」
「期待してるよ。そうだ、ほのかクン。これだけは言わせてほしい。ほのかクンのことはボクが守るから」
「?」
守るってどういうこと? おおげさじゃない?
でも、浪花先輩が冗談でこんなことを言う人ではないことは知っている。目を見れば嘘じゃないことが分かる。
真剣なまなざしで、まるで誓いを立てる騎士みたいな凛々しさがある。
私は去っていく浪花先輩の後ろ姿をじっと見つめていた。
私がいつもより早く学園に来たのは、劇の練習に来るみんなを待つため。やっぱり、迷惑をかけたのだから、一番早く来て謝っておかないと。
練習場所には誰もいない。よかった、私が一番で。これで最後だったら合わせる顔がないよ。
ふと、浪花先輩はいつから学園に来ていたのかと今更ながら考えていた。
私は少しそわそわしていた。
誰が最初に来るのかな……って思ったら、あれ、三人とも一緒に来た。なんでだろう、少し疎外感を感じる。
そういえば、私がいつも最後でみんなはすでに来ていた。あれ? 私だけハブなの? みんなはいつも一緒なの? ショックなんですけど!
「アホ面してどうした、ほのか」
「そんな顔してません! おはようございます! 獅子王さん」
「おはよう、ほのっち。もう、体は大丈夫なの?」
「ご迷惑をおかけしました、園田先輩。それとお電話ありがとうございました!」
私は深く頭を下げた。園田先輩は手をふっていいよいいよって言ってくれた。
古見君と目があう。古見君に抱きついて弱音をはいたことを思い出し、急に気恥ずかしくなる。古見君もテレくさそうに目をそらす。
「おやおや~ほのっち、どうしたの? まさか、古見君と浮気? あんなことがあったのにお手が早いですな~」
「違います! 獅子王さんの恋人に手を出すほど命知らずではありませんよ」
「ふっ、わかってるじゃねえか」
獅子王さんが朝練の準備に入る。古見君が近寄ってきて、
「元気になってよかった」
「……うん。ありがとね、古見君」
そっと小声でやりとりをする。それが何か隠し事を共有しているみたいで、不謹慎だけど楽しい気分になっちゃう。
「さっさとやるぞ」
「獅子王先輩、マイペースだね。ほのっちが休んだこと、気にならないの?」
ちょっと、園田先輩!
せっかく何事もなく練習が始まろうとしているのに! 野次馬根性ださないでよ!
ちらっと獅子王先輩を見たけど、まるで興味がない態度をとっている。
「何かあれば話すだろ? だったら俺様から何も言うことはねえ」
「……ちなみに話したらどうしますか?」
「ケツを蹴っ飛ばして気合を入れさせる。それで充分だろう?」
獅子王さんがにやっと笑う。私はどう反応していいのか分からなかった。
獅子王さんらしい回答。本当に蹴られるかもしれないけど、真面目に聞いてくれそう。
園田先輩は肩をすくめ、手をぱんぱんと叩く。練習開始の合図。古見君と獅子王さんの読み合わせが始まった。
私は劇に必要な道具作成、雑務に取り掛かることにした。
一時間目が始まる前に明日香やるりか、サッキーにお詫びと感謝の気持ちを伝えた。三人とも笑顔で気にしないでと言ってくれたのが、とてもうれしかった。
美月さんが私に会いに来てくれて、何度も謝られた。こっちこそごめんと謝り、仲直り。
失恋した者同士、奇妙な友情が芽生え、メアドを交換して別れた。とりあえず、仲良くなれそうな人がいたらメアドを交換する、私の癖。
風紀委員の見回りも済ませ、クラスの出し物の手伝いをした後、馬淵先輩達の待つ多目的室へ向かう。
みんなはどうしているのかな? ちゃんと出し物の準備しているのかな?
これで何もしてなかったら、制裁を与えなければ……。
もう青島祭は近い。なのに、いつもの軽いノリだったら許せない。
ゴールデン青島賞をとるのがどれだけ大変なのか、馬淵先輩に教えてもらったから分かる。
本気でやらないととれないって。だから頑張ってほしい。
馬淵先輩はこの状況をどう思っているの? ゴールデン青島賞をとるのがどれだけ大変かは馬淵先輩が良く知っているはず。
なのに、あのノリをゆるしているのは何か理由があるの? それとも、何かゴールデン青島賞をとれる秘策があるとか?
なんだかんだ考えていたら多目的室についた。もうこの部屋に通うことが日課のようになってしまっていることに、つい苦笑してしまう。
さて、進捗状況はどうなっているのかなっと。
私は部屋のドアを開けた。
「こんにちは!」
「「「と、殿!」」」
あ、あれ? みんなが私の周りに集まってきた。心配そうな顔で私を見ている。心配されるようなことって……まさか!
もしかして、私が泣き寝入りしたことを知っている? どうして?
よくよく考えてみると、おかしい。
どうして私がユーノのことでまいっていたときに、タイミングよく浪花先輩が来てくれたの? それに泣き寝入りした当日に、古見君が訪ねてきたことも疑問を感じる。
明日香やるりかやサッキーは、私が休んだことを心配してくれて電話してくれた。最近の私の態度が気になって、気遣ってくれた。
でも、古見君は違った。失恋ならもっと前にしている。なのに、私が休んだ時、最初っから私に何があったのか、知っているかのように慰めてくれた。園田先輩も知っていたような口ぶりだったし。
誰かが情報を流している? だけど、何で? そんなことをして誰トクなの? それにモブの私の情報なんて必要なの? 意味が分からない。
これ以上考えても答えは出ない。なら、今の状況をどうするか考えないと。
目の前にいるみんなには正直に話すべきか、それとも誤魔化すべきか。
話す必要……なんてない。私と先輩のこと、ハーレム発言の事は彼らには無関係の事。
それよりも、みんなの為になることを考えなきゃ。それは出し物の準備を進めること。これだよね。
私は知らないふりをして接することにした。
「どうしたんですか、みなさん?」
「だって……」
「なあ……」
「昨日と一昨日は休んでしまって、すみませんでした。ちょっと体調不良で寝込んでいました。それよりも、ちゃんと青島祭の準備、進めていますか?」
「……」
部屋の中がシーンとなってしまう。私は絶句してしまう。
黙らないでよ。不安になるじゃない。
ここはひとつ怒ってみせて、真面目に頑張るよう、彼らに伝えるべきかな?
それとなく言っても通じないのは今までの経緯で分かっている。だから、怒って伝えないと彼らも本気で私の意見を聞いてくれないと思う。
彼らに嫌われても、それで出し物が進むのであればかまわない。幸い、私と彼らの関係は内緒になっているので噂にもならないはず。
男の子と仲違いして、周りの女の子から文句を言われることもない。
私が怒ってみせて、どこまで彼らの影響を与えられるかは分からないけど、そろそろ本気を出してもらわないと困る。
曖昧な態度をやめてもらわないと、青島祭まで間に合わなくなる。
出し物の準備が出来ずに無理でしたなんて、今も応援してくれている人達に申し訳ないもんね。
私は軽く息を吸い、怒って……。
「作詞と作曲はできている。一度確認してくれ」
「えっ?」
虚をつかれてしまい、怒るタイミングを失ってしまう。作詞と作曲をした紙を差し出してきたのは意外にも二上先輩だった。
その紙を手に取ってみると、楽譜と歌詞が書かれていた。
「す、すごい……二上先輩は作詞作曲をしたことがあるんですか?」
「ない。身内に詳しい者がいるから見よう見まねでやってみただけだ」
二上先輩がメガネをくいっと持ち上げる。私は顔が引きつるのを感じていた。
見よう見まねって……そんなんでできたら、作詞や作曲している人達は苦労しないと思うんだけど……。
ま、まあ、進んでいるのなら怒らなくてもいいよね。
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