風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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二十七章

二十七話 クロッカス -切望- その二

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 放課後。

 ついにきた。新見先生と決着をつけるときが。
 気のせいかもしれないけど、担任の先生は私に何か言いたげな顔をしていた。結局、何も言わなかったけど、伝えたいことがあったのかな?
 頑張れ? それとも、先生方に迷惑をかけるな?
 まあ、何を言われてもやめる気はないし、絶対に勝つ気だけどね。
 リュックを持ち上げ、いざ、職員室へ!

「ほのか……」

 明日香、るりか、コージ君、シン君が私の元に集まってきた。四人とも私の事を心配してくれていたのか、今日は口数が少ない。何を言っていいのか迷っているみたい。
 私は笑顔で四人を迎えた。

「今日で決着つけてみせるから。四人のライブ、楽しみにしてる」
「おい、ほのか。大丈夫なのかよ」
「俺、腹が痛くなってきた」

 もう、職員室には私がいくんだから、二人とも気にし過ぎ。でも、心配してくれてありがとね。
 私は力こぶを作ってみせ、大丈夫アピールをしてみせた。

「任せて。コージ君達は自分達のライブがうまくいくことだけを考えてなさいな。もしとちったら、ヤジ飛ばしてあげるから」
「余計なお世話だよ!」
「ほのかこそ、しくじるなよ!」

 私達は笑顔でハイタッチを決めた。明日香とるりかはまだ浮かない顔をしている。

「ほのか、本当に大丈夫し?」
「ほのほの、やっぱり橘先輩に任せよ。新見先生、何してくるか分からないよ」
「大丈夫だよ。この日の為にいろいろと作戦たててきたんだから。二人とも心配しないで」

 私の事、心配してくれるのはうれしいけど、あまり心配されるとこっちも心配になっちゃうよ。
 そう思っていたら、コージ君達が何か悪戯を思いついたような顔をして、私の肩をとんとんと叩いた。

「ほのかが大丈夫だって言ってんだ。俺は信じるぜ。それより、ほのか、知ってたか? この二人、ライブをやめようと言い出したんだぜ。ほのかに迷惑を掛けたくないからってよ」
「愛されてるな、おい!」

 えっ、そこまで心配されているの、私? ちょっと嬉しいんだけど、二人は私のママじゃないんだから、心配し過ぎじゃない?
 明日香とるりかが顔を真っ赤にして、コージ君とシン君の頬をつねる。

「言わなくていいことは言うなし」
「ねえ、死にたいの? 言ってくれたら苦しめて死なせてあげたのに」
「痛ったたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
「痛い痛い! 洒落になってねえよ!」

 どこかで見たような光景に私は苦笑してしまった。やっぱり、私はシリアルな流れよりも、コメディが好きみたい。
 さっさと終わらせて、またみんなとバカをやろう。

「明日香、るりか。いってくるね」
「うん……気をつけるし」
「新見先生、何か嫌がらせみたいなことをするかもしれないから気を付けてね」
「分かってる。ねえ、明日香、るりか。私、絶対に明日香達のライブができるようにするから。これで少しは借りを返せたかな?」

 ふふっ、二人とも目を丸くしている。偶然だけど、二人に今までの恩を返すチャンスがめぐってきた。
 受けた恩の十分の一くらいしか返せないけど、これからも二人の為に何かしてあげたい。
 私は覚えているからね、明日香、るりか。二人がどれだけ、私の事を助けてくれたのか。
 感謝しています、明日香、るりか。

「も、問題児のくせに泣かせるなし。ほのかが大人になったし」
「ほのか……今日はお赤飯ね」
「意味が分からないんですけど! あんたら私のママンか!」



 明日香達とじゃれあって見送られた後、私はまっすぐに職員室に向かった。
 この騒動もようやくケリがつく。まだ四日しかたってないけど、いろいろあったよね。
 風紀委員になってから、職員室に来る回数が増えたような気がする。
 明日香の言うとおり、私って問題児になっちゃったのかな? だけど、充実していると思う。先輩達のおかげだよね。

 先輩と出会って、恋が始まってから、様々なイベントが立て続けに起こった。
 全てが楽しいことじゃなかったけど、苦しいこともあったけど、それでも普通に生きていたら体験できなかったことばかり。それに友達のありがたみも実感できた。
 貴重な出来事だったと思う。

 すべての問題が解決して、青島祭が終わったら、次は先輩との恋を真剣に考えよう。クリスマスに大晦日おおみそか初詣はつもうでにバレンタイン……いっぱいいっぱい先輩と遊ぼう。
 先輩との距離は縮まらないけど、ゆっくりでいいよね。今はまだ先輩の抱えている問題を解決する方法は分からないけど、きっとみつけてみせる。

 先輩は私を何度も助けてくれた。私だって先輩を助けたい。その為にも、今日を乗り切って、笑顔で報告にいかなきゃ。

 新見先生に勝ちましたって。

 私だって成長しているから、先輩の力になれるってところをみせてあげるんだ!



 職員室につくと、大勢の生徒が集まっていた。
 園田先輩、八乙女先輩、丸井先輩、獅子王さん、古見君、馬淵先輩、二上先輩、スターフィッシュの男の子達、橘先輩……。

「みなさん、どうしたんですか? 職員室に集まって」
「決まってるじゃない。ほのっちを激励げきれいに来たのよ」

 えっ? 激励? 私を? それにしては多くない? ちょっと恐縮きょうしゅくしちゃうんだけど。
 でも、嬉しい。私なんかの為に集まってもらえるなんて。

「ほのっち。私は何も心配してないから。ほのっちのありのままを先生にぶつけてきなよ」
「はい、園田先輩!」

 私と園田先輩はハイタッチして健闘を称えた。

「伊藤さん。叶愛の事、どうかお願いします」
「伊藤さん、忘れないで。青島祭実行委員一同、あなたを応援しているから」
「任せてください、八乙女先輩。丸井先輩、今までご協力いただき、ありがとうございました。必ず浪花先輩を実行委員長に復帰させますから」

 浪花先輩の事を心配している二人に、私は笑顔で浪花先輩の事を約束する。

「伊藤さん、頑張って。僕も劇を最後までやりとおすから。何が何でも」
「ほのか。負けたら分かってんだろうな。死ぬ気で勝ってこい」
「はい。古見君、獅子王さん。私、絶対に勝ちますから」

 古見君と獅子王さんが私の前に拳を突き出してきた。私は自分の拳を二人の拳に軽くぶつける。

「馬淵先輩、二上先輩。賛同者の件、ありがとうございました」
「お礼を言う必要はないよ。全部、伊藤さんがやり遂げたことだよ」
「そうだな。礼を言われる筋合すじあいはない」
「……島津君や赤巻君から聞きました。馬淵先輩と二上先輩が私に賛同してもらえるよう走り回ってくれたって」

 昨日の昼休み、私が新見先生に追い詰められていたとき、島津君や赤巻君が私を助けに来てくれた。
 あれは奇跡でも偶然でもなくて、馬淵先輩と二上先輩が運動部の人達にってくれたおかげだった。
 馬淵先輩と二上先輩がいてくれなかったら、ここまでくることはできなかった。
 二人こそ、嘆願書に必要な賛同者を集めた功労者であり、MVP。

「確かに僕達は伊藤さんに賛同してもらえるよう声をかけた。だけど、みんなが賛同したのはやっぱり伊藤さんだからだよ。伊藤さんのやってきたことがみんなの心を動かしたんだ」
「そうだな。お前のやってきたことが実を結んだ結果だ。なら、伊藤の手柄だ」

 そんなはずはない。私が新見先生に反抗する理由を先輩からもらった。先輩を孤独にしたくなかった。
 みんなに私の想いを呼び掛けてくれたのは、放送部の伊能先輩と丸井先輩のおかげ。
 あの二人が呼びかけてくれたから、島津君や赤巻君達の気持ちを変えることができたのかもしれない。

 みんながいてくれたから、嘆願書を出すことができた。みんなこそ、自分が功労者だと誇っていいのに。
 でも、みんなが望まないのなら、私が引き受けよう。功績も責任もすべて……。

「……分かりました。二人が望むならそれでいいです。そういえば、出し物に参加する名前、『スターフィッシュ』から『One for all, All for one』に変えたんですね」
「うん。僕一人ではゆずきの為に何もできない。でも、みんなが手伝ってくれたらきっと何かできる。打開できる。みんなで勝利を目指す、そんな意味を込めて名前を変えたんだ。ダメだったかな?」
「運動部らしいですね。素敵だと思います。馬淵先輩、必ず出し物を出来るようにしますから、頑張ってください!」

 私と馬淵先輩はお互い笑いあった。馬淵先輩とはいろいろとあったけど、もうわだかまりはない。
 きっと、私達はいい関係を築ける。でも、その前に私が犯した罪を清算したい。だから、負けられない。

「殿! 俺達、信じてますから!」
「殿ならやれる!」
「もし、不利になったら俺達を呼んでください! すぐに駆けつけますから!」

 あははっ……みんなに格好悪い姿は見せられないよね。殿として、救世主として。これで一つ、負けられない理由が増えた。
 でも、プレッシャーは感じない。それどころか、力が湧いてくる。

「伊藤さん。そろそろいい?」
「はい、橘先輩」

 みんなの激励を受けて、私は職員室のドアの前に立つ。橘先輩が最終確認をしてきた。

「職員室に入ったら、もう伊藤さんは一人だから。僕達が助けに入れば、新見先生は話し合いを終わらせてしまい、無理矢理にでも自分の意見を押し通そうとするから助けにいくことができない。その場合、嘆願書の内容は却下される可能性が高い。だから、伊藤さん一人で勝ち抜かなければならない。厳しい戦いになると思うけど、しっかりね」
「はい。任せてください、橘先輩! 橘先輩の妹分であるこの私が、新見先生の一人や二人、すぐに倒してみせますから!」
「……」

 橘先輩を押しのけて新見先生と対決することを買って出た。だから、風紀委員として、負けられない。
 私の決意に橘先輩は呆けていた。

「橘先輩?」
「……ご、ごめん。伊藤さんが頼もしいことを言うからつい……あの伊藤さんがね……感無量だよ」
「あんたもか!」

 もう! 橘先輩も明日香もるりかも子ども扱いしすぎ! 少しは信頼してよ!
 そうは言っても、今までの事を考えると説得力ないよね。だけど、それも今日まで。これからはNEW伊藤として、役に立ってみせますから!

「では、いってきます」

 私はみんなに見送られ、職員室のドアを開いた。
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