風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

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「咲……」
「……ううっ」
「咲……」
「……ぐすっ……ぐす……」

 咲が泣いている。
 藤堂家に帰ってきたときには、咲は大泣きしながらベットに潜っていた。
 ウチは布団をかぶっている咲の背中をそっと撫でる。

 藤堂正道……。

 あのお馬鹿さんは何度女の子を泣かせれば気が済むの?
 怒りがふつふつと湧いてくる。

「咲……悲しいのは分かるけど、ご飯は食べ」
「……食べたくない」
「咲。おばさまが咲の為に作った料理を残すん? おばさま、悲しみますよ」
「……」

 ちなみに藤堂が作ったのなら、絶対にすすめない。

「料理、ここに置いとくさかい、一口でもいいから食べてね」
「……うん」

 咲のことは心配やけど、ここにウチがいたら食べづらいやろうし、部屋を出る。
 咲……ほんまかわいそう……。
 許せへん……絶対に謝罪させる。

「あっ、千春ちゃん!」
「……」

 この男は……。

「……姫、どうかしました?」
「自分の娘が泣いているのに、その馬鹿面、少し気が抜けすぎてません?」
「ば、馬鹿って……」
「何か?」
「……いえ、なんでもありません、姫」

 はぁ……。

 上春信吾。
 上春家の現当主。
 朝乃宮家はいくつかの分家が存在する。
 そのうちの一つが上春家。ウチが高校を卒業するまでの生活のサポート役……という名のお目付役として、この島に送られてきた。

 ウチがこの青島に島送りになったのは、この島が朝乃宮と深い縁があるから。
 朝乃宮家の当主はある時期から、この青島に住む巫女から嫁をとる習わしになっている。
 理由は不明。
 ただ、青島が隕石で一度壊滅し、その後復興したすぐ後にこの習わしがうまれたと伝わっている。

 なぜ、青島中央神社の巫女が選ばれるのか?
 その理由は当主のみ受け継がれ、その秘密を知ろうとする者は二度とお天道様を見ることが出来ない……そう伝えられている。

 そして、青島中央神社を裏から管理、支配しているのが、朝乃宮家直系の三家の一つ、藤堂ふじどう家が赴任している。
 藤堂が『とうどう』ではなく、『ふじどう』と呼ばれているのは、同じ漢字でも読み方が違うのですぐに見分けがつく為。
 ちなみに『ふじどう』は鎌倉時代、京都で使われていた特殊な苗字。

「今すぐ家族会議を。議題は言わなくても分かりますよね?」
「は、はい! 承りました!」
「どっちに味方するか、分かってますよね?」
「はい!」

 信吾はんはペコペコと頭を下げて去って行く。
 さて、会議はスムーズに進むよう、根回しせんと……。

「千春君」
「おじさま」

 藤堂義信。
 保護観察処分を受けた藤堂正道はんの保護観察官。

 藤堂はんは中学三年の時、同級生に暴力を振るい、全員病院送りにした。
 最初は藤堂はんの暴力行為に、全校集会で被害者の家族が学校と藤堂はんに責任問題を追及していたけど、その場にいた一人の生徒の告白で立場は逆転する。

 被害者だと思われていた生徒は全員、悪辣あくらつないじめ行為と暴力行為を何度も何度も繰り返していたこと。
 その日もいじめられていたところを藤堂正道はんが助けたこと。
 彼の涙の告白に、一人、また一人、自分もいじめられていた、暴力を受けていたと生徒達が立ち上がり、事態は混乱を極めた。
 藤堂はんも一年近くいじめにあっていたことも判明し、更に警察の調査で、被害者宅から焼き印が出てきたことから、完全に立場は逆転。

 この時点ではまだニュースにすらなっていなかった。あの忌々しい事件が起こるまでは……。
 複数の生徒による集団暴行殺人事件。いじめの被害者が加害者を集団でリンチした事件。
 どのニュースもワイドショーもこの事件を取り上げるなか、犯人達は藤堂はんの行為に感化され、事件を起こしたと報道。
 そこから藤堂はんは少年Aとして全国にその名がひろまる。

 某検索サイトのアクセスランキングトップにも取り上げられ、警察は藤堂はんの扱いに困っていた。
 十四歳以上の為、刑事責任能力があると判断されるが、世間は藤堂はんを英雄扱いする者や同情する者が多く、殺人事件にも間接的に関わっていることから世間から注目されている為、慎重な対応を余儀なくされる。

 しかし、ある日突然警視庁からの命令で終わりを迎える。
 全国に『藤堂』の名が出そうになった為、朝乃宮が動き、事態を収拾させた。
 藤堂はんの処分は、事件が沈静化するまで日本の外れにある小さな島、青島へ送られ、保護観察官の元、更生となった。

「今から咲の件について家族会議を開始します。おじさま、分かっていますよね?」
「……正道に非があれば反省させる」

 非があれば?

「おじさまのその甘い認識が咲を傷つけていること、認識してます? せやから、藤堂はんはいつまでたっても朴念仁で融通が利かない……」
「千春ちゃん」
「……おばさま」

 藤堂楓。
 青島中央神社のご息女で巫女を務めていた。
 次女ということで朝乃宮家ではなく、藤堂家に嫁いだ。どういう経緯からは分からないけど、藤堂家とは親戚になる。

「あまりお父さんを責めないであげて。咲ちゃんには悪いけど、ただの兄妹喧嘩ですし……」
「咲の頭を叩くのはやり過ぎやだと思いますけど? それにウチが何度も何度も何度も警告したのに、あの人は……」
「確かに女の子の頭を叩くのはやり過ぎですね……お父さん、ここは正道さんにちゃんと注意を……」
「そうか? 澪と古都音の時はバーリトゥードで血の雨が……」

 全く男ってヤツは……。

「お・じ・さ・ま! 藤堂家の非常識と一般家庭の常識を一緒にしないでもらえます?」
「……」
「とにかく、家族会議では藤堂はんのこと、頼みますえ」

 はぁ……おじさまにはもっと自覚を持ってほしいわ……。
 藤堂はんはおじさまを尊敬し、行動を真似ているのだから、おじさまが変わってもらわんと……。

 とにかく、これで根回しは終了。
 澪はんは藤堂はんが嫌ってるし、絶対に反発するから今回はなしで。
 ジョーカーのおじさまとおばさまをこちら側に引き込めれば、藤堂はんも謝罪せざるしかないので問題なし。
 そう思っていた……。



「はぁ……」

 どないしよ……足取りが重い……。
 まさか、あんな伏兵がいるとは……。
 家族会議の結果、ウチの思惑通り……にいかず、まさかの敗北。

 蔵屋敷強。
 とある事情から上春家で預かっている小学五年生の男の子。
 強はんは藤堂はんと同じ境遇のため、二人の仲はとてもいい。本当の兄弟以上に固い絆で結ばれつつある。
 そのせいで、咲がヤキモチをやいてしまったことで今回の騒動を起こしてしまったのだけれど。

「ちーちゃん」
「……」

 こ、怖い……咲、ほんまに怒ってる……。
 部屋に戻ると、咲がベットの上で正座していた。
 ああぁ……このコースは……。

「ちーちゃん、説得は?」
「……」
「説得は?」
「……無理でした、てへぺろ!」

 バンバン!

 咲はベットを叩く。
 ウチは床に正座させられる。

「ちーちゃん……私は悲しいです」
「……いや、ウチ、頑張ったんやで? 根回しもちゃんとしたし……その……イレギュラーがありまして……」
「ちーちゃん……成功しなければ根回しなんて意味がありません。いつもいつもちーちゃんはだらしないせいで詰めが甘いというか……」

 はぁ……説教コースや……。
 ウチは咲の愚痴混じりの説教を受けていた。
 藤堂正道……許すまじ。
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