風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

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「……」

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!

「……」

 ぴろ~ん♪

『1/2gether 視聴なう』

 ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!
 怒りの鉄拳が机に炸裂し、ガタガタと震えている。
 流石に同じ過ちは繰り返さない。

 ウチは咲の協力の元、市が主催している節分のイベントに参加していた。
 藤堂はんと一緒に作業していた。
 ウチは正道はんと……その……した後、すぐにこの別室に来て、タブレットを起動し、『今夜の献立倶楽部』のメンバーに。

『至急返答お願いします。これはあくまで一般的な現代社会における客観的で常識的な意見として冷静なご意見をいただきたいのですが例の私にいつもついてまわるダメ男が嫉妬していた事を認めました!しかもずっと一緒にいたいとお願いされました!これって私のこと絶対に好きですよね!』

 正座しつつ待つ事十分、JUNEさんからのメッセージが今来たわけなんやけど、休みの日に何見てるねん!
 もう、ここはココさんしかおらん!
 はよはよ……。

 ああ……ドキドキが止まらへん! ほんま、なんなん!
 あれ、天然なん? 絶対にウチの事、好きやろ! 聞いてるこっちが恥ずかしくて悶えそうになったわ!
 男の子に告白された事に嫉妬してたとか! ガッツポーズとるとか! もうもうもう!
 可愛いところあるやん!

 あかん! 頬が緩むの、止まらへん! 
 顔が熱うて熱うてくらくらしそう。
 恥ずかしい! 恥ずかしい!

 これが恋? 恋なん?
 わくわくする! ドキドキする!
 こんな気持ち、初めてや! 楽しい! 楽しい!

 ぴろ~ん♪

 ココさん、キタァアアアアアア!

『警察案件、乙』

「はぁああああああああああああああああああああああああ!!! 」

 なんでやねんんんんんんんんんんんんんん!!!

『なぜそう思うのか、的確で納得いく意見をお願いします』
『いや、ついて回ってるってフツウにストーカーじゃん。男といるところ見て嫉妬したとか言ってるんでしょ? ヤバい。監視されてる。速攻警察に突き出すべき。でないと、血の惨劇が起こる』
「ああん、もう! 分かってない!」

 この女、絶対に恋愛経験がない!

『それとも恋愛自慢? マウント? スノーフレークってそういうこと、しない人だと思ってましたけど』
『違います。ただ、気になったことを聞いてみただけです』
『その人のこと、好きなの?』

 どくん!

『違います』
『告白しないの?』

「こ、告白!」

 ウチが? 藤堂はんに?

「ありえない!」

『無理無理! 告白は男の役目でしょ!』
『いや、その考え古いから。好きならどっちでもいいでしょ』

「分かってない! 分かってない! そんなん、ありえへん! 告白は絶対! 絶対に男からするべきや!」
「応よ!」

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「千春! 俺の愛を受け止めてくれ!」
「……剛はん……いつからそこに……」

 見られた? どこから? どのへんから?

「はぁああああって叫んでたところ。千春。俺のこの熱くたぎったピュアなラブを受け止めてく……げぇ!」

 ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……。

 あかん……これはあかんわ……。
 この子、とんでもない地雷踏んだわ……。
 黙らせな……。

「そういえば、あんさん。ウチのスカートめくってくれやがりましたよね? ほんま、困った子」
「おぉぉぉぉぉぉ……」
「伊藤はんの弟はんやから大目に見てきましたけど、少しおいたが過ぎましたな。少しお仕置きせな」

 チクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへんチクらせへん。
 絶対に藤堂はんにこの気持ち、悟らせへん。
 だから、お逝き。

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ……。



「お待たせしました……咲? 来てたん?」

 全ての用事を終え、ウチは再度藤堂はんと作業していた部屋に戻ると、咲がいた。

「う、うん……ち、千春。その……時間は人それぞれだと思うし……長くても仕方ないよ」
「?」

 時間? 何のこと?

「朝乃宮、用事は終わったのか?」
「は、はい……」
「そっか……」

 て、照れくさい。
 それに変に意識してもうてまともに藤堂はんの顔が見られへん……。
 これってウチだけ? なんかずるい……。

「兄さん、照れてません? 千春の着物姿、綺麗ですもんね~」
「うっさい」

 ふふっ、そうなんや。藤堂はんも照れてるんや……。ふふっ。

「藤堂はん、今日のイベント、成功させましょうね」
「……おう。よろしく頼む、朝乃宮」

 まだ少し照れくさいけど、今度はこそばゆい。笑いかけられただけなのに……。
 でも、悪くない。

「千春は何をするんですか?」
「司会役」

 最初は市の所員がやるみたいやったんやけど、女の子の方が見栄えとウケがいいって言われて無理矢理押しつけられたんやけど……なんで着物まで用意しているねん。
 絶対橘はんの仕業や。

「兄さんは鬼役ですよね? 豆を投げてあげましょうか?」
「お前は兄に豆を投げるのか?」
「節分ですから」

 藤堂はんには可哀想やけど、体格大きいお人は鬼役ぴったりやし、諦めるしかないわ。
 でも、適当なところで助け船出すし、せいぜい子供達のヒーローごっこに付き合ってあげ。
 仏頂面している藤堂はんを見て、ウチもちょっと意地悪言いたくなった。

「それならウチも投げなあかんね、兄様」
「……勝手にしてくれ」

 拗ねた顔をしている藤堂はん。可愛い!
 咲と顔があって、つい笑ってしまう。

 窓の外を見ると、日だまりの中、笑顔の子供達が見えた。その笑顔を見ていると、前までは切望と苛立ちを感じていたけど、今は素直に嬉しいって思う。

 ずっと憂鬱だった。
 朝乃宮家に未来を決められ、希望のない明日に怒りと悲しみ、絶望と諦めで不安だった。それにウチはある秘密を抱えている。
 そのせいで、ウチは朝乃宮家全員を敵に回していた。忌み嫌われていた。
 死にたいとさえ、思っていた。

 けど、今は違う。
 好きな人が出来て、未来が、景色が変わった。
 きっと、楽しいことだけじゃない。
 でも、それにも勝る喜びとときめきと高揚と新鮮さが入り交じった素晴らしい日々が続くと想像するだけで、明日が待ち遠しくて望んでしまう。

 ウチには決められた許嫁がいる。
 朝乃宮家が代々からやってきた政略結婚。その道具になるのが朝乃宮家の女の宿命。
 逃げられない運命。

 けど、それでも、藤堂はんを好きになる気持ちは抑えることが出来なくて、それどころかどんどん好きって気持ちが溢れている。

 ウチの居場所はここにある。
 それを作ってくれた咲と藤堂はんには感謝しかない。
 おおきに、咲。ありがとう、藤堂はん。
 ウチ、このご恩は忘れへんし、必ず報いるから。
 だから、ウチのこと、大事にしてな。

「千春、時間です。行きましょう」
「朝乃宮、行こう」
「……はい!」
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