風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/7 その四

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「~~♪ ~~~~♪」
「……朝乃宮君、ご機嫌だね」
「すごくええことがありまして」

 放課後、ウチは生徒会室で三年生の卒業式に関する雑務をしていた。
 気を抜くと、頬が緩んでまう。それくらい、いいことがあった。

 はぁ……ええわ~。
 ウチは頬に手を当てる。

 今日の昼食、咲のおかげで、ウチは藤堂はんに……き、キスしてもらえた!
 頬やけど!

 ふふふふふふっ! ふふふふふふふふふふふふっ!
 あかん! 嬉しすぎてつい鼻歌を歌いたくなる。

 ほっぺにチュウやなんて、アメリカ人ならハンバーガーを食べるくらい日常茶飯事なこと(偏見)で幼稚やと思ってたけど、されてみると、これがなんともまあ!
 ウチ、今幸せやわ~~~~~!
 ほんま、不思議や。相手によってここまで嬉しいモノやなんて。

「そんなに橘を屈服させたことが嬉しかった? それとも、成翔先生を社会的に抹殺出来たこと? 三小と清洲、秋脇を退学させたこと? もしかして、全部かな?」

 ウチは顔を上げ、氷室はんの目を真っ直ぐ見て答える。

「そんな些細なことで喜ぶほど、ウチは暇やありませんから」
「さ、些細なこと?」

 別に驚くことは何もない。
 なぜなら……。

「氷室はん。準備は念入りに。行動は迅速かつシンプルに。これが朝乃宮ですから。行動するときはただ敵を心身とも完膚なきまでに屈服させる。勝って当たり前。負ければ報復。それだけですから」
「……」

 戦は戦う前に終わっている。
 どれだけ相手のウィークポイントをつかみ、掌握出来るか。
 その情報戦を朝乃宮は大金をはたいて惜しむことなくつぎ込む。
 ほんま、いやらしい一族やわ。

「そ、そう。でも、やり過ぎはよくないと思うけどな。手痛いしっぺ返しがくるかも」
「……もしかして、氷室はん。ウチを牽制してます?」

 ウチはジッと氷室はんの目を合わせる。
 何を考えているのか? 探るように……警告するように……。

「そ、そんなつもりは!」
「冗談です。氷室はんの忠告やし、自粛します」

 勿論、そんなつもりは毛ほどもありませんけど。
 けど、生徒会長である氷室はんを立てておかんと、後々面倒になるかも。

 それに一度に教師と生徒を複数人処分するのは目立つ……んやけど、ウチの望む学校生活を送るには、もう少し『処分』する相手がいる。
 まずはその相手をリストアップせな。
 近日中にそのターゲット達は行動する。それを見逃さず、しっかりと顔を覚えんと。

「氷室はん」
「な、なんだい?」
「ウチの今日のお仕事、終わりました」
「はやぁ! えっ? ウソでしょ!」

 ウチは氷室はんから頼まれた雑務の報告書や書類を渡す。

「何か問題でも?」
「……いや、ありがとう」
「今できることはこれくらいやね? 後は先生方と打ち合わせが必要やけど、今、先生方は保護者や教育委員会の対応で忙しそうやし、当分はお暇になるかも」
「……誰のせいだと思ってるの?」

 誰のせい? そんな分かりきった質問をする氷室はんに少しの失望感がうまれる。

「成翔先生のせいでしょ? 現にあの先生は教え子の生徒に手を出していました。それを許せと?」
「……生徒が裁くことじゃないけどね」

 ウチは苦笑し、窓の外を見る。
 そして、ある光景を目にする。

 さっそく網にかかったわ。

 藤堂はんが不良達に絡まれてる……いや、絡んでる。
 きっと、不良達がつまらんことしでかして、藤堂はんが注意しているんやろ。
 ほんま、真面目なお人。

 ウチが藤堂はんを尊敬できるところ。
 それは手を出せなくて、報復が待っているのに、それでも己を貫くこと。
 ウチなら、痛い思いしたくないから、即撤退するんやけど。他人がどうなると関係ないし、校則を破ってもウチにはどうでもええことやし。

「何を見ているんだい? あっ……」

 氷室はんがウチの隣に立って、窓の外を見て、あからさまに顔をしかめる。

「藤堂め……アイツ、何か勘違いしてるんじゃないか? 鉄拳制裁は犯罪だぞ。何様なんだ? 不良同士、潰し合えばいい。学校の屑め!」

 吐き捨てるように藤堂はんを見下す氷室はんに、ウチは殺意を押さえ込む。

「……酷い言われようですな。生徒会は生徒の為の組織やのに」
「不良は別だろ? あんな学校のお荷物、さっさと退学にして消し去ればいいんだ」

 ウチは苦笑しつつも、藤堂はんをジッと見つめる。

「けど、今回は少し違ったモノが見えるかも」
「違ったモノ?」

 藤堂はん、見せてもらいますえ。その覚悟。
 藤堂はんの覚悟が本物なら、ウチは非常に行動しやすくなる。

 堪忍な、藤堂はん。けどな……これは藤堂はんが選んだ道。それなら……ウチは見守るしかない。
 だから、ここは藤堂はんが傷つくのを静観するのがベスト。

 早速、不良達が藤堂はんに殴りかかってる。
 藤堂はんは……。

「……なぜ反撃しない?」
「藤堂はんはむやみに鉄拳制裁をやめた、それだけです。彼も変わろうとしているんです」

 防御に徹してる。
 ウチの教え通り、急所をガードし、うまく拳を外に逃がしてる。
 受け流すのはまだ下手やけど、あれなら軽傷で済むやろ。
 それも計算済み。

 もう少し、様子が見れる。ウチの想像通りの展開になっとる。
 我慢してな……。

「ちょうどいい。そのままくたばってしまえ!」
「……」

 藤堂はんの意思を無視して、傷つく前に行動出来れば……そう何度も思う。
 けど、それは今のウチの立場上、難しい。ウチはもう……藤堂はんの相棒やから……託されたから……。

「あの、副会長」
「……」
「何かもの凄く怒ってます?」
「……瀬名はん、怒ってる人に怒ってるのって聞くの、野暮やと思いますけど? それで? 怒ってますって返事があれば、あんさんのどうでもええ好奇心は満足ですの?」
「ご、ごめんなさい!」

 ほんま、つまらん質問はやめ。腹立つわ。
 時間の無駄。

「どうして、キミが怒ってるんだい? 藤堂なんて、どうでもいいだろ?」

 素手で殴りつけたい衝動をおさえながら、あらかじめ用意した答えを伝える。

「……氷室はん、ウチもな、不良が学校にいるの、我慢できへんのよ」
「そ、そうなの?」

 意外そうな顔で聞いてくる氷室はんに更に不快感を覚えながら、視線をそらすことなく、藤堂はんをジッと見つめる。
 我慢してな……我慢してな……。

「当たり前です。問題ばかり起こす不良に何のメリットがありますの? それなのに野放しになってるの、生徒会の怠慢と思いません?」

 咎める視線を送ると、氷室はんは慌てて弁明する。

「い、いや、不良は風紀委員の管轄でしょ? 生徒会には関係……」
「大ありです。生徒会が生徒のこと、管理できていないのは由々しき問題です」

 ウチは氷室はんを睨み付ける。

「で、でも! 俺が悪いわけじゃない! あの不良共が悪いんだ! それにあの藤堂だって!」
「藤堂はんをこれ以上、不良と同等の扱いするの、やめてもらえません?」

 ウチは不快感をあらわにして、警告する。

「ど、どうして、藤堂を庇うの? ま、まさか……」
「咲の兄ですから」

 想定内のやりとり。それにウチが藤堂はんのこと、どう思うが氷室はんには一ミクロンも関係ない。

「藤堂はんは咲や再婚相手の家族の事を想って、鉄拳制裁を控えるとウチに言ってくれました。咲の為に行動するのであれば、ウチは藤堂はんを護ります。咲が悲しまんようにするために」
「……どこまでも上春君が基準なんだね」
「当然」

 もうええやろ……そろそろ、ウチの我慢が限界や……。
 今だけ……今だけ見逃してあげるわ……あの不良共。
 あんさんらはウチの贄となる存在やから、今だけ許したるわ……。

 藤堂はんを傷つけるモノはタダでは済ません。手を出したこと、一生後悔させる。
 はよう見たいわ。血反吐を吐いて泣き叫んで許しを請う姿を。
 まあ、許すわけないんやけどな。

「今後、生徒会は不良に対する厳しい処置を学校に直談判しますんで」
「は、はあ? なんで生徒会がそんなことを?」
「氷室はん、自分が言っていたこと、もう忘れました? しっかりしてほしいわ」
「……」

 いい加減、ウチをイライラする言動はやめ。殴りたくなる。
 ウチはため息をつき、先ほどの氷室はんの言葉を復唱する。

「『あんな学校のお荷物、さっさと退学にして消し去ればいいんだ』って言いましたね?」
「ま、まさか……」
「今後、不良の不祥事は厳しめに取り締まり、厳罰化するよう校則を改正します。朝乃宮の権力を使って」

 藤堂はんが鉄拳制裁を止めたのなら、何の問題もない。藤堂はんが覚悟してくれたから、出来る荒技。
 一応、学校内にとどめるけど、多少空気はよくなるやろ。

 藤堂はんを傷つけるモノは……ウチが除去する。
 徹底的に。

「じょ、冗談でしょ、朝乃宮君? 不良の反感を買うだけだ。それにあの仙石グループが黙ってない」

 青島高校には複数の不良グループが存在する。
 そのなかで橘はんも手を焼いているグループで、最大の派閥が三年の仙石先輩が率いる、通称『仙石グループ』。
 確かに厄介やけど……。

「結構。誰かが大掃除せなあかんのなら……ウチが引き受けるまでです。けど……」
「け、けど?」
「ウチは橘はんや先生方のように……慈悲深くありませんので」

 容赦せえへん。徹底的にやる。
 誰を敵に回したのか? 一生後悔させたる。その身に嫌というほど教えたる。
 『子』や権力を使うまでもない。
 ウチの実力で全員、思い知らせたる。勿論、仙石グループも例外やない。

 不良の一人が木刀を握りしめ、藤堂はんに近づいていく。
 残り四人が藤堂はんを押さえつけ、動きを止めてる。
 無駄や。藤堂はんはその程度では押さえつけられへん。それを知っているのに……ウチは今すぐ藤堂はんを助けに行きたくてしょうがない。

 我慢……無理……もう……無理!
 ウチは……。

「!」

 不良が藤堂はんめがけて木刀を振り下ろしたとき、御堂はんが助けに入った。
 余計な事を!
 今、藤堂はんを助けたら! 無意味になってまうやろ!
 その覚悟が! 痛みが!
 藤堂はんの決意を踏みにじる気なん! あの女! 

 御堂はんが不良達を倒していく。
 ほんま……あの女……ほんま……ほんまぁああああああああああああああああああああああああああああ!

 結局、御堂はんのせいで藤堂はんの努力も覚悟も水の泡になった。
 ウチが必死になって、耐えたのに、それが無駄になった……。

「……ふふっ……ふふふふふふっ!」

 あかん……怒りすぎて……抑えられへん……笑ってまう……もう……爆発してまう……ウチの怒りがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

「あ、朝乃宮クン?」
「氷室はん」
「は、はい!」
「帰ります」

 ウチは生徒会室を出た。
 ウチ、間違っとったわ。早く処理するべきやった。
 藤堂はんをダメにする元凶を……寄生虫を排除するべきやったわ……。
 もう、我慢できへん。今すぐ……処理する……ウチの手で……。
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