風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/7 その三

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 失敗した! 失態! 大失態!
 人前で、しかも、橘の前で泣くやなんて!
 けど! けど!
 藤堂はんがあんなことを言うから!
 あんな……あんな……。


「笑っていて欲しいんだ……心の底から……朝乃宮としてではなく……千春としてだ」


 あかん! 顔が熱い! なんなん、あの男は!
 初めて言われた……ウチの事、千春として……個人として見ているやなんて……。
 ウチの価値は朝乃宮の血が引いていること。それだけやのに……それだけやのに……。

 それにしても……それにしても……ち、千春って……呼び捨て……いやややぁわあああああああああああああああああああああああああああ!
 初めてちゃう! 名前で呼んでくれたの!
 名前で呼ばれただけやのに……それだけやのに……。

「朝乃宮!」
「……」

 はぁ……なんで追ってくるの……。
 ウチは無駄と分かりつつも、早足で逃げ……。

「朝乃宮! 待ってくれ!」

 ちょ!
 手! 手を掴まれた! 握られてる!

 心臓がどくんと高鳴った。
 いつもの恐怖と……あのおぞましい過去が……フラッシュバックされることもなく、ウチはイライラしていた。

 もう! もう! もう!
 振りほどけへんやん!

 藤堂はんの手、震えてる。振りほどかれるのが怖いんや。
 それなのに、藤堂はんはウチに手を握りしめてる。その理由を知ってるから振りほどけへん!
 恐怖よりも、ウチの事を心配してる事が伝わってくるから……。
 ウチは手をつないだまま、そのまま立ち止まる。

「その……大丈夫か?」
「……そんなことを言いに?」

 それに朝乃宮に戻っとる!

「そんなこと? 大事な事だ。朝乃宮が泣くなんて、よほどのことだろ? だったら、追いかけて当然だろ? 違うか?」

 その張本人が分かってないのがほんま、始末が悪い!
 はぁ! ほんま! 恋心って厄介極まりない! コントロール不可!

「……大丈夫ですから」

 そう言うのが精一杯!

「……そっか。でも、辛かったら……何かあったら、俺でなくてもいい……上春に……」

  ……せやんな……俺に相談しろって言ってくれへんやんな……。
 少しの失望と共に脳がクリアされ、冷静さを取り戻す。
 せや……期待しすぎたら裏切られる。
 そう……それだけのこと……。

「そうしま……」
「違う。そうじゃない」
「えっ?」
「俺にも……話してくれないか? 図々しいのは分かってる。それでも、俺は……朝乃宮の力になりたいんだ」
「……どうして? どうして、そこまでウチの事、気にかけてくれはるん?」

 どくん! どくん!
 それって……ウチと同じく、恋……。

「それは……俺は……」
「……俺は?」

 どくん! どくん!

「朝乃宮の事が!」

 ウチの事が!

 ぴんぽんぱんぽ~ん!

「二年D組、朝乃宮千春さん。二年D組、朝乃宮千春さん。生徒会室までおこしください。二年D組……」
「……」

 もぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 えっ? なにこれ? ラブコメ? ラブコメなん?
 っざけんんなぁあああああああああああああああああああああああああああ!

 狙ってるん! せやんな! 絶対に狙ってるわ! これ!
 これでもう、日和った藤堂はんは何も言わ……。

「朝乃宮の事が!」

 言うんか~~~~~い!
 言うの! ねえ! ほんまに!
 それなら言ってもらおうやないの! さあ! さあ! さあ……。

「ふ、藤堂はん。その……他の生徒が見てますし……あまり大きな声を出すと……」

 あああああああああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~!
 やってもうたぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!

 ウチの馬鹿! 阿呆! ぽんこつ!
 つい、口出ししてもうたぁあああああああああああああああああああああ!
 告白されかけてたのにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
 ウチが日和ってもうたわぁああああああああああああああああああああああああ!

 けど、言い訳させて! だって、邪魔が入ったら、仕切り直しやん!
 それがお約束やん!

「そ、その、すまない……自分の事ばかり考えてた……朝乃宮の事を考えるべきだったのに……本当にすまない」

 謝るんならウチの事、好きって言えええええええええええええええええええええええええええええええええ!
 言ってぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!

「そ、それでだな……付き合ってくれるってことでいいんだよな?」

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
 つ、付き合う? ウチと藤堂はんが?
 告白通り過ぎてこ、恋人同士とか、ありなん!
 ありえへん! 絶対にありえへん! 少女漫画でもこんな急展開はない! しかもただの成り行き任せやん!
 断固! 断固拒否!

「……はい」

 なぜ、頷いた! ウチ、頷いてもうた! OK出してもうた!
 本音は断固拒否やったけど! けど!

 まあ、OK出しとけば恋人になれるし、とりあえず、既成事実作っとけ、みたいな、ウチの打算が! 朝乃宮の血が! 頷かせてしもうた!
 全て、朝乃宮の業や! ウチは悪くない!

 ぴろろ~~~ん♪

「……」

 ウチは咲からきたLINEを見る。

『この屑めWWW』

 やかましい!
 け、けど! これはこれで!
 フフフフフフッ! フフフフフフフフフフッ!

 ウチの計画とはちゃうけど、修正すればええ話しや!
 それに……それに……ふ、藤堂はんと恋人! それは素直に嬉しい!

 フフフフフフッ! フフフフフフフフフフフフフフフフフフフッ!
 ほ、頬が緩んでまう! ポーかフェイスとか、無理!
 終わりよければ全てよし!
 おいでませ! ウチの冬恋ライフ!

「あ、ありがとな、朝乃宮! 俺、頑張るから! 絶対に今後、暴力は控えるから! 家族のために!」
「……はい?」
「ほんと、悪かったな。勝手に朝乃宮を指名して。けど、家族である朝乃宮に見て欲しかったんだ。本気で変わりたいって思ったのは家族がいたから……朝乃宮に迷惑をかけたくないから……力になりたいからだ」
「……」
「朝乃宮?」

 バン!

「ひでぶ!」

 こ、このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおとととととととととととととここここここここここここここここここここはははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ここで! ここで言うか! このタイミングで言うんかい! 何が冬恋ライフや! 失恋ソングやったわ!
 あかん! 振り回されてる! 落ち着き、ウチ!

 ウチは心を落ち着かせ、藤堂はんの発言について考える。
 さっき、藤堂はんは不良に暴力を振るうことを止めると宣言した。
 秋脇を病院送りにしたことで、家族に迷惑をかけることを反省した藤堂はんは、正当防衛という名の鉄拳制裁を止めると言い出した。
 秋脇を病院送りにしたことは反省してないみたい。ウチらを強姦すると笑っていたゴミカスに同情する気はないわな。

 藤堂はんが鉄拳制裁していたのは、そういった犯罪者達やねんけど、風紀委員にはそんな権限はない。
 けど、藤堂はんは汚れ役を自分から買ってくれていた。橘はんは鉄拳制裁を止めることに大反対したかったんやろうけど、犯罪やし、強く言えなかった。

 ウチとしては、その心意気は買うけど、少し面倒になったことは確か。
 けど、それは今はどうでもええ!
 この、男、ホンマ、最低や!
 なんでかというとな!

「な、なんで叩く! しかも鉄扇で!」
「……蚊がいたもので」
「いるか! 真冬だぞ! いや、いたのか? ???」

 こういうド天然発揮して、真面目に空気読まない男! ほんま、最低や!
 そこまで乙女心、弄びあそびたいんか!

 ぴろろ~~~ん!

「……」
『告白遮るからWWW』

 ウチの妹が煽ってくる件について、議論したい……。
 はぁ……ほんま、疲れる……。
 けど……それでも……。

「藤堂はん」
「何だ? 謝罪か?」
「ウチが監視する……いえ、フォローする件、別に藤堂はんが謝ることも、感謝する必要もありませんから。ウチがそうしたいと思ったから容認しただけです」
「……誤魔化してないか?」

 空気読め。

「藤堂はん、冗談抜きで分かってます? 藤堂はんが手を出さない事が分かったら、今まで恨みを持っていた不良がここぞと藤堂はんに暴力を振るいます。痛い目に遭うのは藤堂はんです」
「……覚悟の上だ。そもそも、鉄拳制裁が曲がり通っていたことが間違っていたんだ。たとえ、不良相手でもな」

 藤堂はんが鉄拳制裁していたのも、それがまかり通っていたのも、理由の一つに、この青島の風土、悪しき伝統があるから。
 青島には一つの掟がある。

 言葉よりも実力を示せ。

 ある意味、原始的で真理。弱肉強食。
 そのルールに乗っ取り、藤堂はんは力を示してきた。
 言葉など、紙よりも薄っぺらで何の説得力もないから。本気で納得いかないこと、理不尽が許せなかったから憎むべき暴力を行使した。

 相当葛藤はあったと思う。けど、矛盾を抱えながらも、納得いかない理不尽に立ち向かってきた。

 どこまでも藤堂はんがこだわった信念を、ウチ等が変えてもうた。
 その責任をウチはとるつもり。黙って見守るやなんて、ウチには出来そうにないし。

「ただ……」
「ただ?」
「頼む、朝乃宮は黙って見ていてくれないか? 俺は自分の力でやり遂げたいんだ。朝乃宮家の力……いや、朝乃宮千春に俺みたいな汚れ役をやって欲しくないんだ。頼む!」

 藤堂はんは頭を九十度下げてきた。
 はぁ……ほんま、このお人は……周りが……ウチや咲、おじさまとおばさま、澪はんと信吾はん、強はんがどれだけ心配するか、全く理解してへんのが腹立つ。
 藤堂はんが傷ついて欲しくないことを全く分かってくれへん!
 それなら、それでええ。
 けどな!

「努力はします。けど……」
「けど?」
「ウチにも限度があるってこと、覚えてもらえません? もし、その限度を超えたら……」
「超えたら?」
「ウチは何をするか、分かりませんから」

 正直、秋脇の件は生ぬるいと思ってる。もし、藤堂はんを病院送りにしとったら、ウチが秋脇を二度と立てへん体にしてた。
 病院送りにされたから、この程度で済んだだけ。
 藤堂はんの敵はウチの敵。
 それは変わりない。

「……あの、なに笑ってますの? まさか、心配してもらえて嬉しい、とか思ってます?」
「嬉しいんだ……いいものだな、誰かに……いや朝乃宮に心配されるのは。悪い、迷惑をかける」

 はぁ……ほんま、人の気持ち分からへん男やね……しかも、二度目やし。
 イラッとするわ。

「……ほんま、救いようのないお人や。咲や伊藤はんの苦労が身にしみて分かるわ。あまり、心配を……」
「それは俺の台詞でもあるんだけどな」
「?」
「朝乃宮が泣いたとき、どれだけ心配したと思ってる? 分かってないだろ、そこんとこ」
「!」

 こ、この男は! 今、それを持ち出すの!

「……ほんま、いけずなお人や」
「そう思うのなら、泣かないでくれ。さっきも言ったが、俺は朝乃宮に笑っていて欲しいんだ。心からな」

 く、クサい台詞をよくもまあ!
 けど、なんやろ……悪い気がせえへんのは……。
 これが別人なら白けるか、裏に何かあるって警戒するんやけど、藤堂はんなら素直に受け入れられる。

 ほんま、厄介なお人。人の心に土足で正々堂々と踏み込んでくる。初めてや、そんなお人は。
 けど、こそばゆくて、どこか恥ずかしくて、それでも、胸の奥がぽかぽかする。
 この気持ち、誰かに理解されなくてもええ。ただ……ウチは藤堂正道を好きになってよかった。
 そう心の底から思えたんや……。
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