猫かぶりの義妹は俺といる時だけナマケモノ並みの駄目人間になる

秋桜空間

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第6話

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1
昼休み。
夜空は誰もいない空き教室で頭を抱えていた。
麗から持ち掛けられた取引について、授業中にも考えて、
答えが出ないままここまで時間が過ぎてしまったのだ。
夜空としては付き合うふりをやめるのは最悪良かった。
けれど、距離を取らなきゃいけないというのがちょっと辛かった。
距離を置くというのが具体的に何をすることを指すのかわからないけど、
今までのように真白の世話はできなくなりそうな気がしたのだ。
そうしたら真白はぶつくさ言ってくるに決まってるし、
夜空だって急に今までの習慣を変えるのは嫌だった。

「何で俺が、こんな悩まなきゃいけないんだ……」

自然と恨み言が口から出てくる。
なんなんだよ。麗さんは。一体何が嫌でこんなことしてくるんだ。
そんなことを考えていると

「お兄ちゃん?」

と声がして、夜空は顔を上げた。
なぜかそこには真白がいた。

「真白!?なんでここに?」

「移動教室の帰りにここを通ったらお兄ちゃんがいたから」

真白が淡々と言う。

「そ、そっか」

なんとなく真白の顔を見て夜空はほっとした。

「お兄ちゃんこそこんなところで何やってるの?」

「……えーっと」

夜空はギクッとする。
事情を説明したいところだが、
そうすることは麗から禁止されている。
何と答えようか迷って、

「ちょっと1人になりたい気分でさ」

と言った。
真白はきょとんとする。

「別に、教室でもお兄ちゃん1人でしょ?」

「……」

なかなか鋭い指摘に夜空は何も言えなくなってしまう。

「い、いやいや、俺だって時々話しかけられることあるぞ?」

「ふーん。それだけのためにわざわざここまで来たの?」

「……まあ、そんなところだな」

真白が訝しげに夜空を見る。そしてぐいっと顔を近づけた。

「お兄ちゃん。なんか嘘ついてない?」

夜空は仰け反るようにして顔をそむける。
これ以上はごまかせないか、と思った夜空は

「いろいろと事情があって、真白には話せないんだよ」

と言った。
その発言に真白の顔がさらに歪む。

「何で私に言えないの?」

「だから、いろいろと事情があるんだって」

「もしかして、麗さんが関係してる?」

「……え?」

何でわかるんだ?と夜空は心の中だけで呟いた。
これが俗にいう、女の勘ってやつなんだろうか?
だとしたらあまりにも鋭すぎる。
夜空が呆気に取られて何も言えずにいると、
真白はそれを肯定と捉えたようで

「……へえー」

と静かに微笑んだ。
心なしか、その背後に激しく燃える炎が見える。
どうやら真白はとても怒っているようだった。

「何があったのかちゃんと話して」

低い声で真白が言う。

「いやでも……」

「いいから話して」

「……はい」

これ以上隠したら真白が何をし始めるかわからないので、
夜空は観念してうなづいた。


2

「なーんだ。そんなことか」

夜空が自分の置かれた状況を洗いざらい話すと、
真白の機嫌はすぐもとに戻った。

「そんなことかって、結構大事じゃないか?
どっちにしろ俺達に良いことないぞ」

「まあ、そうだけど。でもまだマシかな。
私はてっきり、お兄ちゃんが私を裏切ったのかと思ったから」

「なんだそれ。裏切るわけないだろ」

夜空が不機嫌そうに眉を寄せると、

「そうだよね。ごめん」

と真白は素直に謝った。
そして、

「とりあえずこれからどうするか一緒に考えよ」

と言って夜空の手を握った。
その時だった。
プツッと教室のスピーカーの起動する音が聞こえてくる。

『ふん♪ふふん♪ふふーん♪』

『ずいぶんと機嫌がいいな』

『そりゃね。この2週間、特に告白もなくて平和だったから~』

『とりあえず目的は達成か?』

スピーカーから聞き覚えのある音声が流れてきた。
それは紛れもない、今朝の真白と夜空の会話だった。

「なんだこれ?何の音声だ?」

「この声、あれじゃない?真白さんの声じゃない?」

「目的達成って何だ?どういうことだ?」

その音声を聞いて、校内中の生徒がざわめきだす。

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!話が違うんだけど」

真白が夜空のシャツの袖をぐいぐい引っ張る。

「あ、あれ?なんでだ?
今日の放課後まで待つって言ってたのに」

と夜空もあたふたしだす。
けれど、音声は無慈悲に流れ続けた。

『……それってつまり、
卒業するまで付き合ったフリを続けるってこと?』

『お兄ちゃんが嫌じゃなければねー』

『……いいよ』

『やったー。さっすがお兄ちゃん!これからも頼りにしてるね!』

核心部分を流し終えると、
校舎内のざわめきは最高潮に達した。

「こ、これってつまり、真白さんが嘘ついてたってこと?」

「ひどい!僕がどれだけショックを受けたと思ってるんだ!
嘘をつくなんて最低だよ!」

「あの清廉潔白な月野真白が嘘ついて笑ってる……だと?」

「やっぱりね。あの子は裏があると思ってたよ。本当は性悪なんだな」

隣の教室から真白のことを好き勝手悪く言っているのが聞こえてくる。
夜空は恐る恐る真白の方を見て

「ま、真白。大丈夫か?」

と聞いた。

「あの女~。なんてことしてくれてんのよ」

案の定、真白はめちゃくちゃ怒っていた。
真白は夜空の手を掴む。そして、

「もう許さない!お兄ちゃん!放送室行こう!」

と言って駆け出した。


3
放送室を目指して走っている間、
夜空はいろいろなことを考えては悔やんだ。

「真白、ごめんな」

前を走る真白に、夜空は言った。
すると、真白は驚いた顔で立ち止まり夜空の方を見る。

「なんでお兄ちゃんが謝るの?悪いのは麗さんでしょ?」

「でも、俺が真白に話さなかったら
こんなことにならなかった気がするんだよな」

多分、校内放送でさっきの会話を流されたのは
夜空が麗の言いつけを破ったからだ。
それ以外の理由が夜空には思い浮かばなかった。
きっとどこかで麗さんが2人の話を盗み聞きしてたんだろう。
夜空は下を向きそうになる。
けれど、真白が夜空の顔を両手で持ち上げた。
そして

「大丈夫だよ!」

と元気よく言う。

「確かに私の評判が落ちちゃったのはだいぶ痛手だけど、
でもそれよりも、お兄ちゃんに距離を取られることの方が私はずっと怖いもん。
だから、お兄ちゃんは私に話して正解だったんだよ」

真白は夜空の手を握って

「行こう?」

と言った。

「……そうだな」

夜空はその言葉に勇気づけられて、また走り出した。

「あ、それとね」

走り出してすぐに真白は夜空の方を向いた。

「この後、どう対処すればいいか、なんとなくわかってるんだ。
だから、本当に心配しなくて大丈夫だよ」

と真白は自信満々に言った。


4
放送室の前に着くと、そこには人が通れないほどの
大きな人だかりができていた。
みんな、さっきの放送を聞いてここまで駆けつけてきたようである。
真白と夜空は放送室内にいるはずの麗に用があったので、

「すいません。どけてください」

と言って、その人混みの中を入ろうとした。
がしかし、彼らのうちの1人が真白を見つけると、
瞬く間にその人だかりがわーわーと騒ぎ出し、通せんぼした。
おい、月野真白!結局彼氏はいるのか!どうなんだ!
真白さん。嘘ついていたの?さっきの音声は何だったの?
説明しろ。
説明してくれ。
そんな声が聞こえてくる。
どうやらみんな真偽を決めかねて混乱しているようだった。
どうしたものかと夜空が逡巡していると、
真白は覚悟を決めたように

「わかりました。説明します」

と大声で言った。
一体どうするんだろう、と思っていると、
真白は背伸びをして、夜空に顔を近づけた。
そして、そのままキスをした。

「「「えー!!!」」」

100人くらいいる人だかりが一斉に声を出す。
みんな目が飛び出そうなほど驚いていた。
2,3秒してからキスをやめると、
真白は大きく息を吸い込み、

「私は、お兄ちゃんのことが大大大好きだぁぁーーーーーーーーーーー!!!」

と叫んだ。
隣にいた夜空は顔が真っ赤になる。
さっき真白がどう対処すればいいかなんとなくわかると言っていたのは、
多分これのことなのだろう。
つまり、これは真白の演技なのだ。
わかっていても、頭がくらっとした。
皆に信じてもらうためとはいえ、ここまでするのかと夜空は驚愕した。
真白は、これは自分のものですと主張するように夜空を抱きしめて、

「これが真実です!他の情報に惑わされないでください!」

と言った。
すると、その人だかりがまたざわざわし出した。

「ここまでするってことはやっぱり本当なのか?」

「でも、じゃあさっきの音声は?」

「最近は音声も合成できるらしいからなあ」

「はあ。結局、真白ちゃんは他人の物なんだな。
偽情報に踊らされて馬鹿みたいだ……」

皆が思い思いに言葉を吐いて、少しずつ自分の教室に戻っていく。
人だかりが消えていくにつれて、廊下の片隅で泣いている麗が見えた。
どうやら彼女は放送室から出たあと、人だかりに混じって、
夜空と真白のキスシーンを見ていたらしい。
真白はその泣いている姿を見ながら腕を組んだ。
そして

「満足した?麗さん」

と嫌味を言った。

「……」

麗は何も言い返さない。

「悪いけど、こんなことしたって私とお兄ちゃんの関係は壊れませんから。
もうあきらめてくれますか?」

「……絶対にイヤ」

寒々しい声で麗は言った。
そして続けて

「ねえ、真白さん。さっきの演技なんでしょ?」

と聞いてくる。
真白は何も言い返さずに麗から目をそむけた。
麗はふふふ、と悲しげに笑う。

「真白さんはすごいね。演技でキスまでできちゃうなんて。
……きっと、真白さんには心がないんだよ」

麗は涙を拭いつつ歪んだ顔で真白を睨む。

「2人のキスを見せられたって私は痛くも痒くもない!
どんなことをしたってそこに愛がないなら何の意味もないよ!
私は絶対にやめない。
夜空くんを私のものにするまでいつまででも邪魔し続けてやるんだから!!」

……だって私は、真白さんと違ってちゃんと夜空くんのことが好きだもん。
ぼとぼとと大粒の涙をこぼしながらそう言い終えると、
麗はふらふらとどこかへ去っていった。

5
「……」

夜空はしばらくあんぐりと口を開けたまま立ち尽くしていた。

「な、なあ。真白。気のせいだよな?
今麗さんが俺の事好きって言った気がするんだけど」

「いや。確かに言ってたよ。……良かったね。お兄ちゃん」

「ま、マジかぁ……」

動揺する夜空を見て、真白は眉尻を下げる。

「ねえ。お兄ちゃん」

「何?」

「お兄ちゃんは、麗さんと付き合いたい?」

夜空はその問いにどう答えるか考えた。
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